今日は強風と雨で、電車のダイヤが一日中ぐだぐだでした。用事があったので子連れで出かけていたのですが、帰りは電車がすし詰めの上に徐行運転、JRに至っては運転見送りで全然電車が動きませんでした。
「振替輸送で帰るの、しんどいわ」
子供が満員電車に疲れ果ててぐったりしていた為、JRの電車にしばらく座っていたのですが、まったく運転再開の兆しはなく……。
「のど乾いたけど、お茶全部飲んでしまってん。残しとけばよかったぁ」
結局、子供にジュースを買って奮い立たせ、南海電車の振替輸送で帰ったのでした。
駅から降りて徒歩で帰っていると。
「すみません、交番はどこですか?」
イントネーションの違う日本語で話しかけられました。
可愛い女の子でした。聞けば、ベトナムから留学してきて、大学の2回生になると言います。日本語がとても上手でびっくりしました。
「南海電車に初めて乗ったから、JRの駅までの道が分からなくて。そこでタクシーを拾いたいです」
聞けば、JRに置いている荷物を取りに行ってから高速バスに乗りたいのだが、JRの電車が止まっているのでタクシーで行きたいというのです。
しかし携帯の電源は切れてしまったし、電車のダイヤは無茶苦茶だし、高速バス出発の時間は迫っている。更に「成田空港に集合する時間は決まっているのでどうしよう~」と、半ばパニック状態でした。
JRの駅に自転車を置いていた私は、子供を家に入らせてから、その留学生をJRの駅に連れて行きました。
しかしタクシーは電車運休の影響でフル稼働、JRの電車は復旧したてでいつ来るか分からず、もっと宛になりません。
到底この留学生の言うバスの時間には間に合いません。
留学生は「安い高速バスを諦めて翌朝の新幹線で成田空港に行く」というので、駅窓口の分厚い時刻表で新幹線の時間を調べ、切符の購入を手伝いました(申込用紙にはちゃんと漢字で書いてました! 「港」という漢字が超難しいらしい)。今までは人任せだったみたいです。
「余裕を持ってこの時間やな」
「余裕って、ゆっくりという意味ですか」
「そうそう」
「でもお金が高いなぁ。JRのせいだぁ~っっっ」
彼女は以前、どこぞの寺のお坊さんに「あなたは今年、特に4月が交通難なので注意してください」と言われ、「ここは日本なんだから交通事故とかは大丈夫だって」と思っていたそうです。
ところが4月に入ってたった3日でこの事態。
「本当に当たってしまいました。交通事故ばかり考えていたけど、まさか電車が遅れるなんて…思いもしませんでしたよ」
お坊さん、すごいなぁ。
そんなことを話しながら、新幹線資金を引き出しに近くのコンビニまで行きました。
途中で私は自分の携帯がないことに気づき、一足先に慌ててコンビニから駅に戻りました。携帯を置いたところを探しても見当たらず、めっちゃくちゃ焦りました。
……あの留学生、携帯の電源が切れたとか言ってたけど、まさか騙されて盗られた? あっちの人やし…。
私は一瞬留学生を疑ってしまいました。明らかに偏見のフィルターがかかっていました。
ふと窓口の駅員さんが私の携帯を持っていて「ああ、この携帯あなたのですか。さっきお客さんが持ってきてくれたんですよ」と返してくれました。
……ごめんね、疑って…。
心の綺麗な人だと、話してて分かったはずなのに。
私は心の中で彼女に謝りました。すぐに人を疑ってしまう癖はなかなかとれません(汗)。
その時留学生も駅に戻ってきて、無事に切符を購入、切符の使い方まで詳しく駅員さんに聞いて明日の朝に備えました。
窓口と彼女の間にはさまっていた私は、傍目には通訳に見えたかもしれません(日本語しかしゃべれないですけどね)。
ちなみに、ベトナムは電車がないので新幹線の切符購入手続きや乗車方法なんかには慣れていないそうな。
向こうはバイクが主流。車も少なくて高速道路も少ない。車よりもバイクの方が早く目的地に着けるとか。
「ベトナム人はバイクばっかり。500メートル先でもバイクに乗って行きます」
「へぇ~。大阪人が300メートル先でも自転車に乗って行くのと同じやね」
感心すると大受けしました。
「そう! そんな感覚!!」
ベトナムからやってきた留学生の彼女の目に映る日本人像は「皆忙しい」。
困って尋ねても「知らない」とか「ちょっと…」とかそっけなくされたり、怪しい人が近づいてきたと思われたり。
でも、日本とベトナムの首都は似ているそうで「礼儀正しくて冷たい」とのことでした。
「だから、親切な日本人に会えて嬉しい。私は運がよかった」
大したことはできていませんが、ちょっとでも日本人を見直してもらえてよかったです。
「実は子供と話してるのを聞いて、あなたが優しそうだと思ったから道を尋ねたんです」
留学生はそう打ち明けました。私はお調子者なので持ち上げられて悪い気はしませんが、この留学生は道を尋ねるのに人を選ばなければならないほど、色々と苦労してるみたいです。でも彼女は「日本が好き。だから日本に来ちゃいました」と笑います。
「ありがとう。親切な大阪人!」
ベトナムからの留学生は、満面の笑みで新幹線の切符を握り締め、私に手を振って別れたのでした。
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【余談】
留学生と別れた瞬間に携帯が震えました。
なんというタイミングのよさ。
「もしもし?」
「ママ、まだ帰ってこないん?」
先に家に入らせた子供からの電話でした。
「もう2時間も経ったで。遅すぎるわ」
「いや、1時間も経ってないで。今から帰る、すぐ帰る」
ボケ?にはきっちりツッこむ。
ああ。
生まれは違えど、住んではや十数年。私も立派な大阪人なんだなぁ。
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