四月五日は中学校入学式。
校舎で満開に咲きこぼれる桜が美しい快晴の元、息子は晴れて中学生になりました。
冬休みに引越して小・中学校校区が変わってしまい、校区外通学で小学校を卒業した息子。
全く新しい校区の中学校に通学する為、残念ながら小学生時の友達は一人もいません。
もちろん、息子の持つ遺伝性の皮膚疾患を理解してくれる先生や生徒もいません。
また、全部一からのスタートです。
同じ保育園に通っていた同級生は何人かいますが、果たして息子やその病気の事を覚えているかどうか……。
「あれ、入学式ですか? うちもなんです」
朝、息子とマンション階下に降りた時。同じエレベーターに乗っていたスーツの似合う長身の女性が、にっこり気さくに話しかけてきました。
「あれ、お子さんはどこにいらっしゃるんですか?」
入学式は保護者同伴なのですが、女性は一人でした。
「先に行くわって言われたんです」
というわけで、私たちは一緒に学校へ。
「野球やってるんですか?」
息子の丸坊主頭に、女性は質問してきました。
返事しようとすると、息子の言葉が横から私を追い抜いて行きました。
「野球はやってへん」
……おい、ため口。
「へぇ。焼けてるから野球やってるのかと思ったわぁ」
「鼓笛はやってるで。お父さんに『この髪型にしなさい』って言われたからこの髪型やねん」
誰に対してもオープンにしゃべる息子は、ここでも本領を発揮。私たちは和やかに中学校に向かい、途中で祖父母と赤ちゃん(年の離れた下の子だそうな)に合流した女性と別れました。
「あーあ。俺、あっちの中学校に通いたかったのに…」
入学式に向かう途中、また息子がぼやきました。
「引きずるね……」
まあ無理もありません。一旦は「あっちの中学校」に進学が決まっていたのですから。
でも引越後の校区は「こっちの中学校」です。学校選択制になったとはいえ公立で他校区に進学する子は少なく、周りの子は皆「こっちの中学校」に通うのです。
おまけに、私たちより先に引越したおばあちゃん宅は「こっちの中学校」から徒歩三分。「あっちの中学校」からだと数十分です。「あっちの中学校」はお父さんの出身校ではありますが、「こっちの中学校」に行った方がおばあちゃん宅に顔を出しやすいし、祖父母も嬉しいかなーって。
……うーん、「あっち」「こっち」書いてて頭がこんがらがってきました。
気を取り直して中学校の門をくぐり、グランドへ。クラス分けの看板が五つ並んでいて、息子は五組に名前がありました。
「ガーン」
クラス分けの看板で自分の名前を見つけた息子は、がっくり肩を落としました。
「どないしたん?」
「入学前の実力テスト、簡単やったし自信あったのに……点数悪かったんかなぁ?」
ああ。
テストの点数順にクラス分けされると思っているわけね。で、一組は頭がよくて五組は頭が悪いと。
「五組が点数よくって、一組が悪いのかもしれへんよ?」
そう言うと、息子は「へへっ」と微笑して立ち直りました。
「まぁ、どのクラスもまんべんなく振り分けてるんじゃない?」
私は付け加えましたが息子は聞いちゃいませんでした。
「あっ、もう集まらなあかん」
気分をよくして、私の隣から消えるようにいなくなってしまいました。
入学式は親バカよろしく息子の写真を撮りまくり、式後のクラス懇談会では教室の後ろから息子の丸坊主頭を眺めていた私。
息子は後ろの席の子ともうしゃべっていました。
さすがは口から生まれた子。「恥ずかしくて話しかけられない」という世界からは無縁なので、この調子なら大丈夫そうかな?
担任は元気そうな保健体育の先生で、担任を持つのは初めてという方。副担任が二人もついていました。一組・二組は二クラスで副担任が一人なんですけどね。
本日は慌ただしいので、息子の魚鱗癬については後日先生に話す事にしました。
息子と教室を出る時、ある若いお母さんに声をかけられました。
「息子さん、野球やってはるんですか?」
「いいえ~。お子さんは野球してはるんですか?」
「そうなんですよ。野球部に入るって言ってます。息子さんはこれから野球するの?」
ここで息子が会話に割り込んできました。
「野球はせえへんで。俺は吹奏楽部かパソコン部がいいなぁ。でも吹奏楽部は男が一人しかおらんかったから、ちょっと嫌やなぁ」
この後は物品販売です。
「うわっ久しぶり」
「久しぶり。えっ、この子があの子~! 大きくなったなぁ」
「その頭、野球してるん?」
「してへんよ」
保育園の同級生親子に久しぶりに会って、母親同士で盛り上がりました。
「懐かしいなぁ」
「三組にTちゃんおるで~」
「そうなんやぁ!」
が、息子は。
「え…誰やったっけ……」
はい、こんな調子でした。
六年間も会わないと、やっぱり分からなくなっちゃうものなんですね。
おしゃべりもそこそこに、息子と私は物品販売の行列に並びました。
「よし。アルトリコーダーは注文したしデザインセットも買った。後は体操服諸々やな」
息子の通っていた小学校では「あっちの中学校」の申込用紙しかもらっていなかったので、「こっちの中学校」の体操服やらシューズやらサブバックやらは今日購入する事にしていました。
他の子は小学校で事前に申込んでいて、本日は引き渡し。
で、うちの場合は本日申込みから。
ところが。
「お引き渡ししかしてないんですわ。注文用紙、小学校でもらってませんか?」
はいい? 引き渡しオンリーですって??
もちろん「こっちの中学校」の申込用紙どころかお知らせ類一切もらっておりません。入学説明会の案内はもらいましたが。
だから中学校に電話して「体操服やサブバックの販売が今日ある」っていうから買いにきたのです。でも引き渡しオンリーだなんて、これっぽっちも聞いておりません。しくしく。
「注文用紙もらってないです。下さい」
「じゃあ、これを持って店に来て下さい。採寸後ネーム入れをしてからお渡しします」
「分かりました」
頷きながら注文用紙の店舗案内図を見ると。
「……ちょっと遠い…」
でもサブバックは翌々日の登校に必要だし、翌日は仕事で動けないので、何が何でも今日お店に行かなくてはっ!
このように、校区外の小学校から進学すると公立は色々不便です。
自分で進学先の中学校に問い合わせたり、同じ中学校に進学するお母さんに聞いたり、制服の採寸等もそれぞれの店に自分で行って注文。
仕事を持つ身としては大変です。
でもファイト!
「じーちゃ~ん、ばーちゃ~ん。中学生になったよ~」
入学式の帰り、中学校から徒歩三分。
真新しい教科書の入った重いバックを引きずって、息子と私はおばあちゃん宅に顔を出しました。
「おめでとう~、ユウ」
「これから頑張らなあかんな!」
暖かい激励の言葉をもらい、息子は照れながらおばあちゃん宅を後にしたのでした。
それにしても、入学式一日で四回は「野球やってるの?」と聞かれました。体操服を買いに行ったスポーツ店でも同様です。
世の中「丸坊主頭=野球」という公式でも成り立っているのかもしれません。
それに対して「皮膚ガサガサだけどどうしたの?」とは一回も尋ねられませんでした。
全身に症状が出ていて見えないはずはないのですが、ほとんどの方が初対面だし、気になるけど質問を遠慮していたのかもしれません。
最も息子本人に尋ねたら、堂々と明るく、マシンガンのように早口で教えてくれるでしょう。
「俺の皮膚? これ尋常性魚鱗癬っていって、全身こんなんやねん。でも移らへんから大丈夫やで。安心してな。秋から冬にかけて黒くなってひび割れてくるけど、夏はつるっつるで普通の皮膚になるねん。だから俺は夏の方が好きかなぁ。ほんでな、富山のばあちゃんにもらったクリーム塗ったらな、塗った所だけ翌日スベスベで普通の皮膚になってんねん。びっくりしたわ。あ、なんていう名前のクリームやったかな。ちょっと忘れたけど」
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【掲載写真解説】
「お母さん。遅刻して門が閉まってたら、この壁超えて入ったらいいんやんな?」
「それマンガのお約束。実際にやったらあかんやろ。てゆうか遅刻したらあかんって」
「俺十メートル級…いや五十メートル級!」
「なんか混じっとるなぁ」
(花壇の隅でしゃがみ、目を輝かせてこちらに走ってくる息子)
「見てみて! 十円玉落ちとった。めっちゃ錆びとる」
「ほんまやねぇ……元の場所に戻しといで」
「ちぇっ」
「ちぇっ、じゃないし」
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