昨年大みそかのRIZINにおいて、ボクシング無敗の王者、ブロイド・メイウェザー・Jr対那須川天心の国際式ボクシングによるエキシビジョンマッチが行われました。
結果はご存知の通り、メイウェザーが那須川選手を瞬殺するというものでしたが、今回の那須川選手の敗戦について責を負うべきは那須川選手ではなく、この無謀極まるマッチメイク・ルール設定をしたRIZIN主催者であると断言いたします。
当初この試合は「メイウェザーと那須川が対決!」ということだけが11月初旬にプレスリリースされたものの、その時はルールも何も決まっていない状態でした。
これはあくまで推測にすぎませんが、RIZIN主催者は、メイウェザー側に多額のカネ(メイウェザーにとってはハシタ金であろうが、RIZINにとっては大金)の臭いを嗅がせ、「ちょいとご挨拶がてら、エキシビジョンのスパーでも」などと甘言を持ち掛けつつ、最終的には大昔の「猪木・アリ」の試合のように、なし崩し的に異種格闘技のガチ試合に持って行こうという甘い考えがあったと思われます。
そうでなければ、ギャラが不明、対戦ルールも不明というナゾのプレスリリースの意味、そして対戦決定までに幾度か起きた「メイウェザーが対戦拒否」騒動の理由が読み解けないのです。
RIZINが参考にしたとワタクシが勝手に思っている、「猪木・アリ」の場合、試合がなんとなく成立しそうな諸条件がある程度揃っていました。それがこちら↓
・アリがプロレスというもの自体に高い関心を持っていた。
・アリは選手として最晩年にさしかかっており、プロレスへの移籍の道も模索しているところだった。
・上記の過程でアリは自分で世界最強、誰の挑戦でも受けるということを公言しており、猪木の挑戦を避けることが憚られた。
・猪木・アリ陣営双方に顔の効く人物(フレッド・ブラッシー)がおり、難しい交渉を経て形にできる可能性がゼロではなかった。
・最終的にアリにとっては大金を稼げる(アリにとっても大金)ただのお遊びでしかなく、勝とうが負けようが大した問題ではなかった。
(いずれもネタ元は「完本 1976年のアントニオ猪木」(柳澤健・文春文庫)より)
ところがメイウェザー戦に関しては、これらの条件がほとんどない、全くのゼロベースからの交渉であり、猪木アリ戦以上に、マッチメイクの交渉が困難であることは自明の理でした。にもかかわらず、RIZINが自らの立ち位置を「猪木・アリのときの新日と同じ立場」と考えたのであれば、認識が甘すぎるとしか言いようがありません。
また、メイウェザーとその陣営といえば、カネ目当ての有象無象が夏場のウジ虫以上に存在するアメリカン・ボクシングの世界で、ビジネスにおいても勝ち抜いてきた連中です。シビアでタフな交渉ごとは日常茶飯事というメイウェザー陣営が、ジャパンローカル団体RIZINの思惑を察知し、ゆさぶりをかけ、交渉を優位に進めることは、赤子の手をひねるより容易いことであったでしょう。
試合のごく直前に決まった「国際式ボクシングでやる」というルール設定、蹴り技の反則に対する多額の違約金(確か蹴り1発5億以上だったと記憶)などは、いずれも完全に足元を見られ、「赤子の手をひねられた」結果としか言いようがなく、特に那須川選手は、こうした一連の交渉のあおりをモロに食らった、としか言いようがありません。
帝拳ジムで国際式の練習を多少していたとはいえ、国際式ボクシングの試合経験がない那須川選手に、試合まで1か月を切った時点で「国際式の試合をやれ」というのは、プロ野球の選手を引っ張り出してきていきなり「似たよう競技だから、お前明日クリケットやれ」と命じるのと同じこと。
哀れ那須川選手は、満足な準備も練習もできないまま、試合のリングに登らされたのです。
ワタクシが「那須川選手は準備不足のままリングに挙げられた」とする理由ですが、那須川選手がメイウェザーに2回食らったパンチコーディネーション…ちょいと列挙するとこんな感じ↓ですが、
「①L字ガードとジャブで距離を取る→②相手の右ガードの上から左フックを強振(メイウェザーはオーソドックス&リーチが長いため、この一撃がサウスポーの那須川選手のガードを通り越し、見事頭に当たった)→③相手の右ガードが固まったところで顔面に右を強振して左右のガードをくぎ付けにする→④ボディ・顔面とに右の連打」
(なお④については、那須川選手がいずれもボディで倒れたため、連打に至らず)
この攻撃はもう、メイウェザーのコーディネーションでも初歩中の初歩であり、ボクシングにちょっと詳しい人ならすぐにわかるような攻撃。それをなんの防御もできず食らっているというのは、那須川選手がこの試合に備えた国際式ボクシングを練習できていないということと、メイウェザーのコーディネーションを知る人間が周囲にいなかったという何よりの証左です。
この一戦のみならず、RIZINは全くレベルの違う格闘家を、単なるネームバリューだけでムチャなマッチメイクをすることで有名です。
本戦と同じくらいひどかったのは、平成27年末に行われた、故・山本KID郁史選手の甥・アーセン選手と、ヒクソン・グレイシーの嫡子・クロン・グレイシー選手との対戦。
MMAファイターとしても、グラップラーとしても全くレベルが違う(アーセンは何の技も習得していなかった)マッチメイクであるにも関わらず、「最強一族の対決」などというふざけた理由で実現した結果、アーセン選手は序盤こそ、驚異の身体能力のみでクロンの十字逆をかわしたりしたものの、最終的にはあっという間に前三角で瞬殺…という、実にお粗末な内容に終わりました。
大昔の新日本プロレスの遺恨試合じゃあるまいし、今時「最強一族」に「昔々のネームバリューありき」というウリだけで安易に視聴率を稼ごうとする頭の悪さ、そして選手を育てる観点が全くない不遜極まる悪辣な性根には、心底ヘドが出ます。
ワタクシが地上波放送の総合・キックの試合を一切見なくなって久しいですが、今年もまた、「見なくてよかった」と思わせるに十分なものでした。
こうした「視聴率ありき」のくだらない格闘技中継ばかりしていては、視聴者の格闘技離れは進む一方であると断言し、今回は擱筆致します。
結果はご存知の通り、メイウェザーが那須川選手を瞬殺するというものでしたが、今回の那須川選手の敗戦について責を負うべきは那須川選手ではなく、この無謀極まるマッチメイク・ルール設定をしたRIZIN主催者であると断言いたします。
当初この試合は「メイウェザーと那須川が対決!」ということだけが11月初旬にプレスリリースされたものの、その時はルールも何も決まっていない状態でした。
これはあくまで推測にすぎませんが、RIZIN主催者は、メイウェザー側に多額のカネ(メイウェザーにとってはハシタ金であろうが、RIZINにとっては大金)の臭いを嗅がせ、「ちょいとご挨拶がてら、エキシビジョンのスパーでも」などと甘言を持ち掛けつつ、最終的には大昔の「猪木・アリ」の試合のように、なし崩し的に異種格闘技のガチ試合に持って行こうという甘い考えがあったと思われます。
そうでなければ、ギャラが不明、対戦ルールも不明というナゾのプレスリリースの意味、そして対戦決定までに幾度か起きた「メイウェザーが対戦拒否」騒動の理由が読み解けないのです。
RIZINが参考にしたとワタクシが勝手に思っている、「猪木・アリ」の場合、試合がなんとなく成立しそうな諸条件がある程度揃っていました。それがこちら↓
・アリがプロレスというもの自体に高い関心を持っていた。
・アリは選手として最晩年にさしかかっており、プロレスへの移籍の道も模索しているところだった。
・上記の過程でアリは自分で世界最強、誰の挑戦でも受けるということを公言しており、猪木の挑戦を避けることが憚られた。
・猪木・アリ陣営双方に顔の効く人物(フレッド・ブラッシー)がおり、難しい交渉を経て形にできる可能性がゼロではなかった。
・最終的にアリにとっては大金を稼げる(アリにとっても大金)ただのお遊びでしかなく、勝とうが負けようが大した問題ではなかった。
(いずれもネタ元は「完本 1976年のアントニオ猪木」(柳澤健・文春文庫)より)
ところがメイウェザー戦に関しては、これらの条件がほとんどない、全くのゼロベースからの交渉であり、猪木アリ戦以上に、マッチメイクの交渉が困難であることは自明の理でした。にもかかわらず、RIZINが自らの立ち位置を「猪木・アリのときの新日と同じ立場」と考えたのであれば、認識が甘すぎるとしか言いようがありません。
また、メイウェザーとその陣営といえば、カネ目当ての有象無象が夏場のウジ虫以上に存在するアメリカン・ボクシングの世界で、ビジネスにおいても勝ち抜いてきた連中です。シビアでタフな交渉ごとは日常茶飯事というメイウェザー陣営が、ジャパンローカル団体RIZINの思惑を察知し、ゆさぶりをかけ、交渉を優位に進めることは、赤子の手をひねるより容易いことであったでしょう。
試合のごく直前に決まった「国際式ボクシングでやる」というルール設定、蹴り技の反則に対する多額の違約金(確か蹴り1発5億以上だったと記憶)などは、いずれも完全に足元を見られ、「赤子の手をひねられた」結果としか言いようがなく、特に那須川選手は、こうした一連の交渉のあおりをモロに食らった、としか言いようがありません。
帝拳ジムで国際式の練習を多少していたとはいえ、国際式ボクシングの試合経験がない那須川選手に、試合まで1か月を切った時点で「国際式の試合をやれ」というのは、プロ野球の選手を引っ張り出してきていきなり「似たよう競技だから、お前明日クリケットやれ」と命じるのと同じこと。
哀れ那須川選手は、満足な準備も練習もできないまま、試合のリングに登らされたのです。
ワタクシが「那須川選手は準備不足のままリングに挙げられた」とする理由ですが、那須川選手がメイウェザーに2回食らったパンチコーディネーション…ちょいと列挙するとこんな感じ↓ですが、
「①L字ガードとジャブで距離を取る→②相手の右ガードの上から左フックを強振(メイウェザーはオーソドックス&リーチが長いため、この一撃がサウスポーの那須川選手のガードを通り越し、見事頭に当たった)→③相手の右ガードが固まったところで顔面に右を強振して左右のガードをくぎ付けにする→④ボディ・顔面とに右の連打」
(なお④については、那須川選手がいずれもボディで倒れたため、連打に至らず)
この攻撃はもう、メイウェザーのコーディネーションでも初歩中の初歩であり、ボクシングにちょっと詳しい人ならすぐにわかるような攻撃。それをなんの防御もできず食らっているというのは、那須川選手がこの試合に備えた国際式ボクシングを練習できていないということと、メイウェザーのコーディネーションを知る人間が周囲にいなかったという何よりの証左です。
この一戦のみならず、RIZINは全くレベルの違う格闘家を、単なるネームバリューだけでムチャなマッチメイクをすることで有名です。
本戦と同じくらいひどかったのは、平成27年末に行われた、故・山本KID郁史選手の甥・アーセン選手と、ヒクソン・グレイシーの嫡子・クロン・グレイシー選手との対戦。
MMAファイターとしても、グラップラーとしても全くレベルが違う(アーセンは何の技も習得していなかった)マッチメイクであるにも関わらず、「最強一族の対決」などというふざけた理由で実現した結果、アーセン選手は序盤こそ、驚異の身体能力のみでクロンの十字逆をかわしたりしたものの、最終的にはあっという間に前三角で瞬殺…という、実にお粗末な内容に終わりました。
大昔の新日本プロレスの遺恨試合じゃあるまいし、今時「最強一族」に「昔々のネームバリューありき」というウリだけで安易に視聴率を稼ごうとする頭の悪さ、そして選手を育てる観点が全くない不遜極まる悪辣な性根には、心底ヘドが出ます。
ワタクシが地上波放送の総合・キックの試合を一切見なくなって久しいですが、今年もまた、「見なくてよかった」と思わせるに十分なものでした。
こうした「視聴率ありき」のくだらない格闘技中継ばかりしていては、視聴者の格闘技離れは進む一方であると断言し、今回は擱筆致します。
メイウェザーの対戦拒否の怒りのインタビュー(女性アナウンサーに対してカリカリしている姿を早朝の番組で見ました)も交渉のためのパフォーマンスだったのだと思えてきます。
件の試合(エキシ?)、得をするのはメイウェザーのみ…
那須川サイドは試合には敗れるは(戦績にはならないそうですが…)、日本のボクシング関係者からはキックボクシングを冷ややかな目で見られるは(ネットニュースでそんな記事を見ました)…と、散々です。
元プロレスラーが音頭をとっているRIZINの試合はプロレスにも格闘技にも明るくない素人からするとプロレスの一形態と勘違いする人がいそうな気がします。
その元プロレスラー、試合直後に「この試合はするべきではなかった」といったことを生放送中にコメントしていて呆れました。
地上波でプロレス格闘技を放送しているかぎり、日本の格闘技(マイナーな)は健全に育たないと思われます…無念です。
周囲の人間に振り回され、危険な試合に臨んだ今回の那須川選手は本当に気の毒だと思いました。
今後は変な話には乗らず、本業のキックボクシングの試合(相手もキックボクサー)だけをやってほしいと願っています。
老骨武道オヤジさま、ワタクシもほぼ同じような年末年始を迎えておりました(;^ω^)。この手の格闘技は動画サイトで検証するだけで十分であり、放送を見るに値しません。
「今更ながら…」はまさにご指摘のとおりであり、こうした安易かつしょうもない試合は、武道・格闘技を志す人間を幻滅させるだけのものであると思っております。
四十路メタラーさま、詳細な感想をありがとうございます。四十路メタラーさまのご意見につき、ワタクシも全く同じ思いを抱いております。
衆愚の極致である視聴率をすべての根拠とする地上波テレビで、格闘技の理解者を得ようとする試みは、個人的には「オワコン」と認識しております。
可能性のある若い武道家・格闘家の本当のすごさや可能性を、マスゴミの下らないフィルターを通さずに広めることができなければ、今回のような愚かなマッチメイクが永遠に続くと思っています。なんとかならないのかなあ…
またよろしくお願いいたします!