線路沿いを歩く旅 花輪線 その3
2016年5月30日
平舘駅をあとにして厳しい日差しの中を北を目指して歩く。
田植えが終わった水田の向こうに岩手山の姿が映える。

さて次は北森駅だが、たしかあのあたりに駅があったはずだが、、
記憶では田んぼの中にプラットホームだけの駅があるはずなのだが、その場所には大きな建物が建っている。

「なぜ人家の少ないこの地区に大きな駅を造ったのだろう?」と思いながらよく見ると、駅のある場所に八幡平市の市役所が建っているのだった。
その市役所と駅とがつながっているのである。

公民館や地区の集会所などと駅舎を合体させるのはあちこちで見たが、市役所と駅を合体させるというのもなかなかよいアイデアだと思った。
駅は片面のプラットホームだけで無人駅だが待合室も新しく作られていてとてもきれいだった。


時刻はちょうど12時。

この待合室でおにぎりと自宅から持ってきた水だけの昼食にする。
ここから今日の目的の駅である安比高原駅までは10キロメートル、登り勾配である。
疲れもあるし強い日差しの暑さもこたえるのだが、なんとかあと10キロ歩きとおしたい。
ひとやすみしたら歩き出す。
赤川を渡る。


この川は松尾鉱山からの鉱毒がまじっていたので以前は水の色が赤茶けていた。


その水は北上川にそそいでいたため北上川も赤く濁っていたものだった。
いまは中和施設があるのだがそれでも川の石は赤いままである。


松尾八幡平駅まで来た。

時刻は午後1時。

この駅も最近改築されたようでこぎれいである。


現在はプラットホームは片面だけだが、以前は2面あったのだろう駅舎内の時計の下に「1番線」のプレートが貼ってあった。



写真を撮ったらすぐ歩き出す。
途中にあった土壁の農家。

昔の田舎ではこのような土壁の住宅が普通だった。さびてしまったホーロー看板が哀愁を誘う。
山道にさしかかる。

川の音がするので下をみると澄んだ水が流れていた、実に涼しげな光景だ。
気温は26度、風はほとんどなく暑い。汗でシャツがぐっしょり濡れている。

歩道がないので車が来るたびに脇によけなくてはならない。
さほど急な上り坂ではないがだらだらと長い坂が続くというのもしんどいものだ。
息を切らせながら登っていくと右手に地球儀のようなものが見えてくる。

ここは北緯40度と東経141度の交差する地点なのだ。これはそれを表すモニュメントである。

車では横目に見ながら通り過ぎるだけだが今日は近くで見てみよう。

1990年に建てられたとあるから26年前経っている。そのためだろう地球儀の日本の形がかすれてまっていた。
白樺の林をバックに空を見上げると爽やかな青空と白い雲、まさに高原の風景だ。

わたしはこの風景を見て映画「ドクトル・ジバゴ」の一場面を思い出した。
ロシアのパステルナークの原作を映画化したものだが、ロシアの長い冬が終わり春がやってくるシーンがある。
北国では冬からいきなり春になる。青い空に真っ白な雲、野には花がいっせいに咲き白樺の林は輝きだす。そんなシーンがあったと記憶している。
道路の向こう側に滝のようなものが見えるので行ってみると、

規模は大きくないがきれいな滝であった。

道路は安比スノーシェルターへと入っていく。

だがこのシェルターには歩道は無い。
車がびゅんびゅん飛ばすシェルターの中を歩くのは危険が伴う。
見るとシェルターの脇にも道路があるようだ。

舗装はされていないが歩くには差し支えなさそうである。
雑草が生えている道をシェルターに沿って歩く。
シェルターの反対側まで歩いて振り向くと私の後から自転車であの坂道を登ってきた人がいるのだった。

どうやら外国人のようである。
追い越されるときに「こんにちは」と声をかけたのだが、中年の白人の方だった。テントなどの荷物は持っていないようだがいったいどこまで行くのだろうか。

やっと安比高原スキー場への交差点までたどり着いた。
奥のほうに安比グランドホテルが見えている、あそこが安比スキー場である。

スキーを楽しんでいたころはよく来たものだがもう20年ほどご無沙汰している。
白樺の林を抜けていくと安比高原駅がある。


私のような昔の人間には「龍ケ森駅」言ったほうが馴染みがある。
最近は「○○高原」というような名称にするのが流行りだからなあと独り言。
駅前にバス停があるのだけど「7月下旬から8月下旬以外のバスの運行はありません」と案内にある。

さらに「夜の運行もありません、ホテルに電話して迎えに来てもらいなさい」と親切に書いてあるのだった。
駅舎の中には英語の案内もあって、こちらもホテルに迎えに来てもらいなさいという内容である。

宿泊先も決めずにここまで来る人はいないんだろうな。


時刻は午後3時。今日は約7時間歩いた。

距離はぴったり25キロメートル。

駅にあるキロポストが「25」になっている。


好摩駅までの列車は午後3時26分発。駅のまわりにある白樺林を眺めて過ごす。風の音と鳥の声しか聞こえない静かな高原の駅である。


車がやってきてテニスラケットを抱えた若者が二人降りてきた。どうやらテニス合宿の帰りでペンションの人が送って来たようだ。
「高原とテニス」の組み合わせは定番中の定番だからなあ。
車内で車掌からきっぷを買う、500円だった。

好摩駅に着いてから駅の待合室を見るとここにも石川啄木の歌碑があった。
その脇にある好摩駅の駅名票の上の日付を見て「あれ、今日は5月31日だっけ?」

今日は5月30日である、どうやら駅員さんがフライングで明日の日付を出したものらしい。

