MarvellがThunderX3の汎用SKUをキャンセル
Impact of Marvell ThunderX3 General Purpose SKUs Canceled - ServeTheHome
Marvell Transitions ThunderX3 to Custom Chip Platform - HPC Wire
Marvell ThunderX3関連の記事がここ数週間で幾つか出てきたが、興味深いのは汎用(general purpose)のSKUを止めるということだろう。これはAWS・Microsoft Azure・Google Cloudといったクラウド事業者を対象にカスタマイズ・受注生産のみとするということのようだが、そもそもクラウド事業者以外だと恐らく受注もなかったろうから合理的に思える。
ArmサーバーCPUは注目度こそ高いがクラウド以外のマーケットでは浸透していないわけだからクラウドに注力するというのは理解しやすい。
この場合、Ampereとマーケットが競合することになるがMarvellに分があるように思われる。Marvellのアドバンテージは膨大なIPポートフォリオを持っている点で、DSPや正規表現アクセラレーターのアクセラレーター、モデム/ベースバンドプロセッサー・L2スイッチ・パケットプロセッサー・Ethernet NIC・Wi-Fiといったネットワークコントローラー、Serial ATA・NVMeといったストレージコントローラーがあり、これらを組み合わせて統合できる可能性がある。
個人的に気になるのは、カスタマイズしたSoCの構成方法やインターフェースだ。もしSoCをカスタム設計するのだとすれば高コストになるが、チップレット構成で実現するのではないかと想像する。実際、Marvell自身は2015年にMoChi(Modular-Chip)と呼ばれるマルチチップ技術を披露している。ThunderXファミリーはMarvellが2018年に買収したCaviumの製品なのでThunderXファミリーのチップレット化の話は聞いたことがないが、類似の技術を使う可能性はあろう。
クラウド事業者だと、傘下にAnnapurna LabsをもつAWSはともかく、Microsoft AzureやGoogle CloudなどがThunderX3を採用される可能性はありそうに思われる。
ServeTheHomeの記事では先日のHotChipsで他社から発表のあったSoCを引き合いに出しているが、これらの例が妥当かどうかはよく分からない。上述の通りチップ間インターフェースによるが、SoCではデータ帯域の確保や遅延の低減のためにSoC化している場合もあり、Marvellに限らずMCM化に適さない場合もあろう。それよりも一般的でMarvellのポートフォリオが活きるケースは幾つも考えられる。
そもそも、ARM CPUのIntel CPUに対する利点が省電力・省コストにあるのだとすれば、演算用のサーバーよりもネットワークアプライアンスなどへの適用が適しているというのは当然のように思える。
例えばHDDの統計で知られるBackBlazeはストレージサーバー(通称Pod)の部品リストを公開しており、4chのSATAコントローラー 3基に5ポートマルチプライヤー 3基を組み合わせることでSATA HDD 60台構成を実現しているが、このPCIe SATAコントローラーはMarvell 88SE9235・SATAマルチプライヤーはMarvell 88SM9715である。恐らくAWS S3やGoogle DriveやDropboxなども似たような構成をとっているはずで(※注:例えばGigabyteもARM SoCを使ってストレージポッドを製品化しているように、BackBlazeに限った話ではない)、そこで、MarvellがThunderX3にSATAコントローラーを組み合わせたSoCを作れば省電力でチップ点数が少ないシステムを作ることも可能だろう。
あるいは、例えばGoogle JupiterやMicrosoft Azure SONiCなど、クラウド事業者はカスタマイズしたベアメタルスイッチをベースにカスタムネットワークOSを載せてネットワークを構築する場合が多いようだが、それらの機器はIntel CPUにBroadcom・Mellanox・Barefootのスイッチといったような汎用シリコンを組み合わせる場合が多い。このマーケットでMarvellの存在感は大きくないが、旧CaviumのThunderX CPU・Octeonネットワークプロセッサー・LiquidIO SmartNICやPrestera DXデータセンタースイッチを持っているので、これらを1社で賄えることはMarvellの強みになる可能性がある。
今回の件で気になるのはHP / Crayの扱いである。旧Crayは旧Cavium ThunderXファミリーをXC50で採用したが、HPEによるCray買収で製品の統廃合が行われており、HPEサイトにはThunderX3搭載のHPC製品は見当たらない。今回のMarvellの決定を鵜吞みにするならばHPE/Cray向けには製品を用意しない可能性がある。
そしてもしMarvellが将来のThunderXファミリーでHPC市場を狙わないのであればSVEがサポートされない可能性もある。上記の例のようなネットワークアプライアンス用途では256-bit以上のSIMDどころかFPU/SMID自体ほとんど出番がなくArmv8-A標準のVFPv4/NEONで十分な可能性もある。2019年のWikiChipの記事ではThunderX3かThunderX4でSVEをサポートする可能性が報じられたが、果たしてLoad/Storeに大幅な拡張を加えてまでSVE=~2048-bit SIMDをサポートするかは怪しそうに見える。
Microsoft Xbox Series XのAMD製カスタムSoC
Microsoft Xbox Series X's AMD Architecture Deep Dive at Hot Chips 2020 - Tom's Hardware
少し古い記事になるが、Tom's HardwareがMicrosoft Xbox Series XのAMD製カスタムSoCのダイ写真を発表したそうだ。
Xbox Series XのスペックではGPUは52 CUとなっているが、Tom's Hardwareも指摘する通り写真を見ると56 CUはありそうに見える(56CU 4CUがリザーブとすると93%が有効)。AMD RadeonのNavi 10の場合、搭載されている全40 CUが有効なのはRadeon RX 5700 XTのみで、Radeon RX 5700/5600 XTでは36 CU(90%が有効)・Radeon RX 5600 32 CU(80%が有効)でいいので、それに比べるとXboxカスタムSoCの歩留まりが低いというのも頷ける話である。
個人的にはRyzen/Epycのようなチップレット構成を密かに期待していたのであるが今回判明したのはモノリシックなSoCということだ。言い換えれば、類似の構成を採るであろうPlayStation 5用SoCもチップレットではなくモノリシックなSoCとなる可能性が高そうだ。
チップレットによるMCM構成はコストが高いが、チップレットがモノリシックなダイよりも大幅に低コスト(高い歩留まり・大量生産可能)である場合には総合的にMCM構成の方が安価になる場合がある。ところが、よりMCM化のコスト的な恩恵が大きそうなXbox用SoCですらモノリシック構成ということは、おそらくPS5用SoCもモノリシック構成だろう(※AMDのRyzen APUがモノリシック構成である理由はダイサイズが156mm2とコストが低く、またモバイル用に低消費電力を実現するためであろう。その点、Xbox用SoCは360mm2と巨大なうえモバイルを考慮する必要は無いから、理屈上はMCM構成の可能性は無くはなかった)。