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私的コラム&雑記(&メモ)

今週の興味深かった記事(2018年 第20週)

2018-05-19 | 興味深かった話題

Windows Subsystem for Linux

Windowsユーザーに贈るLinux超入門(マイナビ)

 マイナビにてWindows Subsystem for Linux(WSL)の使い方入門が開始された。
 本機能は2016年8月に登場したWindows 10 Version 1607から徐々に強化されてきた機能で、ある意味では過去にWindows Server向けに提供されてきたWindows Services for UNIXとか呼ばれてきたPOSIX互換機能に近い位置づけだが、ユーザースペースとカーネルとがコミュニケーションするSystem Callをエミュレート/トランスレートするという実装方法に違いがある。つまり、Linux用アプリケーションのSystem Callを変換してWindows NT Kernelで実行している。

 …こうなってくると「それはLinuxなのか!?」という疑問が無くもない…「Windows用Linux互換レイヤー」とでも表現するのが適切に思える。
 細かいことに文句を言っても仕方がないのだが、Free Software FoundationによればLinuxディストリビューションはGNU/Linuxと呼ばれるべきである。それはLinux KernelとGNU環境を組み合わせたものだからだといい、実際にRed Hat Enterprise LinuxのようなLinuxディストリビューションはLinux Kernel以外はGNUのコマンドやユーティリティー群に強く依存している。逆説的に言えばカーネルにLinux Kernelを用いることは必須ではなく、DebianのようにカーネルにFreeBSD Kernelを採用したGNU/kFreeBSDやGNI Hurdを採用したGNU/Hurdといったバリエーションも存在する。
 その論調で言えばLinux互換レイヤー+Windows NT KernelでGNU環境を動作させるWSLはGNU/kWindowsNTとでも呼んだ方が適切という気がしなくもない。

 ところで、もしWSLでDockerを動作せられるようになればLinux on LinuxでもLinux on WindowsでもないWSL on WSL on Windows NT Kernelなんてものも実現可能になる日が来るかもしれない。不具合はあるようだがWSL上でchrootすることも可能なようだし…

Intel Cannon Lake

Cannon LakeのCore i3-8121Uがこっそり発表、AVX-512命令対応もGPUは無効か

 Intelによる最初の10nmプロセス世代製品(Tick世代)にして、2016年以来のSkylakeからのアーキテクチャー更新(Tock世代)にして、さらにCoreシリーズにAVX-512を導入するという、実に革新的な製品となるはずだったCannon Lakeだが、実に微妙な位置づけとなってしまった感がある。

 興味深いのは、AVX-512対応でありながらXeon用のSkylake-SP(Skylakeを名乗りつつもAVX-512対応に併せてLoad/Store性能やメモリー階層が変更された別物)の流用ではなくSkylake-S - Kaby Lake-S - Coffee Lake-Sの系統からの拡張と見られる点ではなかろうか。

 こうなってくると興味深いのは「AVX-512で速くなるのか?」という点だろう。
 そもそもSkylake-SPでLoad/Storeとキャッシュ階層が拡張されたのは、従来の32 Byte/cycle(256-bit/cycle)では512-bit幅のSIMDに間に合わないことに起因する。それが、Load/Storeが32 Byte/cycleから強化されなかったということなら、Cannon Lakeでは演算ユニットも物理256-bitを2ハンプで論理512-bitを処理しているのだと推測できる(なにせ、仮にL1キャッシュにデータがあっても1回で半分しかロードできないのだから)。この場合、256-bit幅のAVX-2と比較して劇的には高速化しない可能性がある。

 ところで、Intel Coreプロセッサーの対抗馬として存在感を高めているAMD Ryzenだが、Load/Store性能はCoreの半分(Load 16 Byte/cycle x 2、Store 16 Byte/cycle x 1)に抑えられ、AVX-2も実行こそ可能だが性能は抑えられている。そもそも、一部のワークロードを除けば整数演算が主体だし、256-bitともなるとレジスタファイルや演算ユニットで随分とリソースを食う(言い換えればSIMD演算ユニットやLoad/Storeユニットを簡略して、その分を別のリソースに回したり、あるいはコア数を増やしてリできる)し、広帯域のLoad/Storeユニットは発熱が馬鹿にならずIntelもAVX実行時には動作周波数を落としていたりする。一概にSIMD幅が大きいプロセッサーが速いとは言えない。


今週の興味深かった記事(2018年 第19週)

2018-05-12 | 興味深かった話題

海賊版を潰す唯一の方法

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1805/11/news026.html

 以前の投稿で私も主張しましたが、漫画版Spotifyを作るべきという意見らしい。漫画家(業界人であるがITエキスパートではない)が分ることを経営者や役人が分からないことは問題だと思います。

Google Wifi

https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/inoue/1120558.html

 詳細な(マニアックな)説明は別記事に譲るとして、今週になって802.11sに対応したGoogle Wifiのレビュー記事が多数報じられました。802.11sについては他社からもNetgear Orbi・Linksys Velop・D-Link Lyraなどのほか新顔のeeroやTenda製品が出ていますが、基本的にスマートフォン等でグループを管理する仕組なので、他社製製品との相互接続はできません。

 一部で802.11sでないという説が流布されているようですが、GoogleはBlogで802.11sと言っていますし、そもそも仮にカスタマイズされていて100%互換でなかったとしても、法規制や採用するマイクロプロセッサーなど802.11のインフラ/エコシステムに乗っかるしか無いので、そこは妄想する部分ではないと思います。

 米国では既に2016年から提供中の製品のため、米国・欧州を中心にレビュー記事は既に出尽くしている感じですが、日本は家屋が狭いせいか記事が802.11s等のメッシュWi-Fiの特性からすると的外れな気がします。
 そもそもネットワーク機器メーカー各社がわざわざ新ブランドを打ち立てて参入しているようにコンセプトが既存製品と異なるわけですが、そのあたりの見識がズレているように思います。

 1.5年も前の製品を新市場に持って来るということは、恐らくGoogleはこのビジネスを続ける意向なのだと推測できます。AmazonもGoogleも米国企業だけあり新規製品は、まず米国で展開されますが、その後も拡販したいものは欧州に・そして日本に持ってきます。恐らく2018年末か2019年初頭にでも新製品が出るのだろうと予測します。

 先述の通りアプリで一括管理・多段構成を前提としているなど、ファンシーな言い方をすれば「クラウド化」「IoT対応」していると言えなくもないわけで、まさにクラウドとIoTを主戦場とするGoogleにとってはハブとなる重要な製品なのだと想像できます(もしAmazonが参入しても驚かない)。

 ちなみに、Google WiFiというブランドは既にGoogleがカリフォルニアで提供中の公衆Wi-Fiサービスで使用中のため、ブロードバンドルーター製品の名称としてはGoogle Wifi(fが小文字)が正しいもよう。


今週の興味深かった記事(2018年 第18週)

2018-05-05 | 興味深かった話題

Microsoftは故意に中国人に海賊版Windowsを使わせた(?)

https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/yajiuma/1119595.html

少し長いが引用したい。

中国では長らく海賊版Windowsが問題だったが、(中国科学院計算技術研究所 研究員の)倪氏はこれを「厳格的に言えば これは海賊版ではなく、Microsoftの策略だ」と批判。「海賊版のWindowsはXPの時代から同一のプロダクトIDで、Microsoftはこの使用を黙認してきた。誰が海賊版を使っているのか、Microsoftは把握できたはずだ。それなのに使用を封じずに故意に中国人に使わせたのは、中国が独自OSを開発する機会を阻害する策略があるからだ」とした。

 これを「盗人猛々しい」と断じてしまうのは簡単だが、視点を変えると幾つか興味深いことに気づく。まず、Microsoftか海賊版のプロダクトキーを検出したとしても、できることはプロダクトキーの無効化だけで利益は皆無である。なぜなら、昔からMicrosoftは個人相手に訴訟を起こしたことはない。なぜなら賠償金を期待できないからである。発展途上国で経済規模が小さかったWindows XP当時(2002〜07年頃)の中国であればなおさらであろう。

 次に、Microsoftは海賊版を黙認するという合法的な(つまり道徳的にはともかく、法的には一切間違っていない)手段によって中国市場で一定のシェアの獲得に成功したという事実である。欧米の企業が中国市場に力を入れるのは、マーケットとして巨大だからというだけでなく、中国国産ブランドに成長を許してしまうと、後で痛い目に合うからである。なにせ人口ベースなら世界シェアの20%が中国なのだから。
 自動車を例に取ってみると、2017年度の世界シェア1位はVolks Wagenの1074万台だったが、中国における新車の販売台数は2888万台だった。だから、仮にもし日欧米の自動車会社が中国市場に進出できておらず、もし中国の自動車会社が中国国内のローカルなマーケットシェア33%以上を握るだけでVolks Wagenより巨大な自動車会社が出現していたことになる。同じことはほかの市場でも共通する。

 加えて、先日の投稿でも述べた通り、発展途上国の非正規経済ではMade in Chinaが巨大なシェアを握るので、発展途上国=成長市場を中国メーカーに握られるのは好ましくない。MicrosoftやIntelがディスカウント販売するのは自社製品の販拡を進めつつ米国経済を守る上で悪くない戦略だと思う。

# しかし、それでも「厳格的に言えば海賊版ではない」っていうのは違うよな…

フィンランド財務相、最低生活保障実験に見切り

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30070630S8A500C1000000/?n_cid=DSTPCS001

 個人的には、ベーシックインカムは絶対にうまくいかないと思うけれど、それでも試行錯誤はすべきだと思います。

 理由は簡単で、将来的に避けて通れない可能性があるから。特に日本は高齢者年金などで世代間格差が拡大しており、その原因は加入時期の保険費と受け取る年金の差額にあるわけだから、支払って同年度中に受け取るようにすれば世代間格差は解決できる(もちろん、その代わりに高齢者の受給額は減るだろう)。

 ネットなどの一部で「人工知能が実現できればベーシックインカムは導入可能」とかいう主張をする人がいるが、それは的外れである。要するに「人間が働く必要がないから、人工知能が生産して得た富で食べていける」という趣旨だが、それは人工知能の所有者が誰かという点を無視している。現状のまま人工知能が実現されてしまうと、その所有者はGoogle・Amazon・Apple・Microsoftといった米国の営利企業になる可能性が高く、それらの企業の製品を導入することで「働く必要がなくなる(というか、無能すぎて働けなくなる)」のだとすれば、それは富が外資系企業と従業員に集中するということであって、労働者に還元される保証はまったくない。
 国が富の再配分を意図して税を多く徴収して国民に還元することは理屈上可能だが、消費者が支払った金額の何割かが営利企業の売上となり、その売上の何割かが課税対象となり、そうして徴収された税金が消費者に還元されるとするなら、支払った金額の数パーセントしか還元されないことになる(永久機関が実現不可能なのと同じ)

 補足すれば、人工知能分野で先端を行っているのは米国・中国(あとイスラエルとか)で、日本の企業や研究機関は出遅れている。


今週の興味深かった記事(2018年 第17週)

2018-04-29 | 興味深かった話題

 先週とは打って変わって、イマイチ面白い記事がなかった…ということで興味深かった記事二件

NTTドコモなど3社 漫画やアニメの海賊版サイト遮断へ

 NTTドコモなど3社 漫画やアニメの海賊版サイト遮断へ (Sankei Biz)
 漫画村問題、キーマン官僚が全疑問に答える「緊急対策からNTTサイトブロッキングまで」 (Business Insider Japan)


 インターネットが普及し始めてドットコムバブルなんてものがあってから20年近く経つわけですが、これまでNapsterやWinMXなど著作権にまつわる様々な問題が世界中で起こり、米国の場合は1998年にDigital Millennium著作権法(通称DMC)なんてものも成立しました。日本でもWinny騒動なんてものもありました。そんな20年を経て世界有数の先進国にして自称:技術立国たる日本が出した回答とは………

法的根拠も無しに通信を検閲して遮断することにした!

………もう苦笑するしかない。「問題が起こる→鎖国する」っていう発想はどうにかならないんですかね?

 いろいろとツッコミたいことはあるのだけど、それは脇に置いておいて、これだけ述べれば済むのでは
 欧米ではCrunchyrollやFunimationというNetflixのアニメ版のようなサービスが存在し、月額$5.00/€5.00前後(国による)で利用できる。最新のタイトルが数時間の時差だけでサイマルキャストされるほか、年あたり30本前後(クール毎に8本ぐらい?)がオンデマンドに追加され何時でも視聴できる。Crunchyrollに至ってはタイトルは限定的ながらもマンガも読み放題である。

 何が言いたいかというと、漫画村の問題は著作権違反というだけでなく、日本国内のコンテンツへのアクセスの悪さ(高価・フォーマットが限定的など)を示しているのに、なぜか著作権違反だけクローズアップされている。米国・欧州のアニメ・マンガファンの方がコンテンツに容易にアクセスできている(…と言えるかもしれない…)事実を無視している。アニメ(動画)に関してはNetflix・Hulu・Amazon Prime(いずれも外資)の参入で改善されつつあるとしても、マンガはそうではない。それほどまでに漫画村が問題というのであれば、漫画村にアクセスするユーザーを潜在的な顧客と捉えて代替のサービスを考えるってことができなかったのが不思議でなりません。

Jim Keller氏がIntelに移籍

 Jim Keller Joins Intel to Lead Silicon Engineering

 現在業績が好調なAMDを支えてるRyzenおよびEpycプロセッサーの開発を主導したJim Keller氏は2017年2月より自動運転のハードウェアエンジニアリングのトップとしてTesla Motorに在籍していましたが、このほどIntelに移籍することが発表されました。

 1年やそこいらで成果がでるはずもないので、Intelのオファーが魅力的だったのかTeslaが気に食わなかったのか、あるいはその両方か。

 自動運転にはDeep Learningが関係するため、マイクロプロセッサーベンダーにとっては新興の市場となります。現在はNVIDIA一強状態ですが、Snapdragonをもち自動車半導体に強いNXPを買収したQualcommのほか、Deep Learning用プロセッサーを手掛けるMovidiusを買収したIntelも虎視眈々と狙っています。Teslaが独自プロセッサーを設計するにあたりAMDのプロセッサー部門の元トップを招聘したということで、(PlayStation 4やXBOX Oneのように)AMD製のカスタムプロセッサーの採用も想定できたはずですが…専用マイクロプロセッサーに関する限りTeslaの先行きは怪しそうに見えます。


今週の面白かった記事(2018年 第16週)

2018-04-21 | 興味深かった話題

 今週はインプレスPCWatchの記事が充実していました。

半導体業界のM&A事情

 まず4月17日「福田昭のセミコン業界最前線」連載の「半導体産業で信じられている言説の「虚実」を暴く」。これは著者の福田氏が主張しているのではなくMentor Graphicsの社長兼CEOのWalden C. Rhines氏のプレゼンテーションを紹介・解説したもので、要約すれば「半導体業界はM&Aによって統合化に向かっている、というのは誤りである」「一部の大企業が大型買収を繰り広げており、その成否が年間のM&A総額に影響を与えている。だから業界全体の動向を示しているとは言えない」というもの。

 この本稿を読んだだけで主張を全面的に受け容れること危険だとしても、考え方・数字の見方として興味深いものがあります。

 そもそも欧米の方が日本よりM&Aが活発ですが、新規分野(2018年現在でいうとAIとか自動運転とか仮想通貨)への参入にあたり、その分野に強い新興企業を買収したり、それに近い分野にコネのある企業を買収することで販売チャンネルを築いたり、あるいは古くなった事業を整理したりということが行われます。通信分野で強くとも自動車半導体で弱いQualcommが欧米で自動車半導体に強いNXP(NXP…欧州、NXP傘下の旧Freescale…米国)を買収したりするのはそのためです。なぜか日本企業はイチから自分で作ろうとする企業が多い気がしますが…。

 ちなみにプレゼンを行ったWalden氏のMentor自身、IP業界ではSynopsys・Cadensと並び三強(あるいはARMを入れて四強)に数えられますが、ドイツの複合企業体Siemensに買収されています。

中国というPC市場

 いつもマニアックな記事を書いている劉尭氏の「苦難を乗り越えつつも、3万円で10コアXeon環境をゲットする」は、そういうマーケットが存在することを知っている私にも興味深いものでした。

 近年では中国E-Commerceの巨人Alibaba(阿里巴巴集団)の運営するAliExpressを通じて買い物をしたことがある日本人も少なくないかと思いますが、先進国(日米欧)に住む我々にとって、あのマーケットは独特のものに映ります。メーカー名が無かったり不明だったりする、保証が定かでない、あるいは新品か中古かさえ怪しい…そんな製品がありえない低価格で入手できます。こういうマーケットは中国に限らず発展途上国では身近に存在するもので、5年以上も前ですがRobert Neuwirth氏の「Stealth of Nations」が一部で話題となりました(英語ですがTED Talkも面白い)。

 Stealth of Nationsの内容の要約を述べれば、なぜそういうマーケットを知っておくべきなのか理解できるはず。

  • 発展途上国の非正規/ステルスな経済は10兆ドル規模である。これは米国市場に次ぐ規模である
  • (先進国の)グレードA経済に従事している労働人口は1/3(9億人)に過ぎない

※この非正規な経済は「発展途上国では身近に存在する」のですが、製造元の80%程度は中国だったはず。

 Alibabaをはじめとする中国系オンラインマーケットはインターネットを通じて非正規な経済を垣間見ることができます。マーケットの巨大さや性格ゆえに、そこに進出した先進国企業の対応も我々の地元では見られないもので、例えばPCということでいうと、Intelが2~3年前に$200で販売していたCPUを搭載した新品のPCが$150で買えたりということがよくあります。