チリチリリン

風にゆれる風鈴のように
こころ休まる音を届けたい

老々介護

2019年10月20日 | ふうりんの音

家の前の道を白髪の老婦人が歩いて行く。自転車を押しながらだが、どうにも自転車を制御しているように見えない。よろよろ少し下っている道の端に寄って行って、他家のブロック塀にぶつかったりしている。どこまで行くのだろう、大丈夫だろうかと遠目に眺めているうちに先の角を曲がっていった。

しばらくすると先ほどの老婦人が角から現れた。自転車にすがっているような、でも自転車を持て余しているような、おぼつかない足取りだ。先のコンビニで買い物をして戻ってきたらしい。

一台の車が私の横を通って老婦人の方向へ走っていく。老婦人は車を避けて道の端に寄ることはできないようで、真ん中で立ち往生している。車の主も老夫人の前で止まっている。端へ行こうと試みたのだろうか、突然足をもたつかせて転んでしまった、前に転び顔を打ったように見える。車の主は車から降りて老婦人の元に寄る。私もその場に走り寄った。

老婦人は鼻を打ったらしく鼻血を出していて、車の女性がティッシュの箱を出してきて顔や手を拭ってあげた。「すみません、大丈夫です。」と細い声で言うが、足にも手にも力が入らず立ち上がれない様子。私も立たせてあげたいが、足が萎えていて立たせられないし、立たせても立ち続けていられないだろう。

「自転車を預かってください。歩いて帰ります。」いやいやいや、おばあちゃん、歩けないでしょ!

道の真ん中に転がった老婦人と立ち往生した車、近所の人が数人集まってきた。顔を打って鼻血が出ているし、手足も萎えていて立ち上がれないし、救急車を呼ぼうと言うと、救急車は呼ばないでくれと懇願する。

それなら家まで行って家族を連れてくるからと言うと、ご主人が昨日病院から一時退院してきて今日の夕方に帰るのだから誰も来れないと話してくれた。

全員、絶句!

病院から一時帰宅して今日また帰るご主人、転んで立ち上がることもできない奥さん、日本の老老介護の現状を見せつけられた。自転車のカゴにはパンが入っている。ご主人の昼ご飯なのだろう。

しばらくして老婦人がなんとか立ち上がった。歩いて帰る老婦人を近所の人が両側から支え、もう一人が自転車を押してついて行った。

その場に居合わせた人たちも、見送った私もやるせ無い気持ちになった。「明日は我が身」みんな感じたに違いない。

 

 


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