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専門のマシン知能に限らず、身辺で感じたこと、なんでも、なぜ、という観点から
もぐもぐもぐ(深堀り)を試みるブログです.

<再考>年をとっても衰えない「知能」とは

2009-07-10 22:36:10 | 日記
前回のブログでは、知能とは、何かを少し深堀して、ロボットなど
のマシンの知能について述べてみました.

今回も、知能とは、についてもう少しこだわってみたいと思います.
知能を知能指数ではなく、「流動性知能」と「結晶性知能」に分け
て考えてみる、という見方が考えられます.

それぞれの解説は:

「流動性知能」
新しいことを学習したり、新しい環境に適応化するための
能力.変化への素早く柔軟な対応を支えるもの.

「結晶性知能」
常識や判断力、理解力などの能力.教育や社会的訓練を
通して、知識や経験の積み重ねによって育まれるもの.

とくに、後者に対しては、高齢者が、社会の中で、経験や専門性を
生かしていけるための能力として注目されています.

従来の脳科学からの知見では、人は、20歳を境に次第に脳機能が
衰えてゆく、というのが定説でした.しかし、高齢であっても
衰えるどころか、ますます冴えてくる、というような現象を身近
でも感ずるたびに、その理由について深堀したくなります.

最新の脳科学では、このような現象を説明する脳機能のメカニズム
が、徐々に解明されてきています.

前頭前野という脳部位がありますが、ここは、主に人の注意や認知、
推論、判断、感情統制といういわば、高次機能に代表されるところ
ですが、この部分の’活性化’が結晶性知能に関係しているらしい
のです.

以前、解剖学的観点から前頭前野の研究で知られるMITのミラー
教授にもお会いして、実験に立ち合わせてもらったのですが、サル
の頭蓋骨を開けてバナナを与えている衝撃シーンもみました.

確かに、サルがバナナをもらえるために何かを注視し行動した結果
をフィードバックすると、前頭前葉ニューロンが活性化されて、
その様子が刻銘に図に表されていきます.

※ 詳細は、http://web.mit.edu/bcs/people/miller.shtml から.

その一方で、国内の前頭前野を研究している人たちにも会ったので
すが、前頭前野ニューロンの微弱な活動が、認知などの高次機能に
は重要かもしれないが、計測して解析する段階で、それが落とされ
る可能性がある、ともききました.

要は、前頭前野の働きを十分に知るためには、まだ、時間がかかか
る、ということです.

また、この前頭前野の働きは年齢依存性が高く、20歳くらいで
ピーク活性に達し、50代以降は、機能がすこぶる下がる、という
定説があります.

しかし、人は年齢を重ねるごと能力の増進もありえるというのは
一体どういうわけでしょうか.ニューロンの数は年齢とともに、
どんどん少なくなってくるのではないでしょうか.

実は、ドーパミンという脳内物質の代謝に関係があるようです.
再配線機構(rewiring)という脳再編のメカニズムがあります.
それは、われわれが生まれる前からすでに、遺伝子の中に刷りこま
れているので、基本的にどの人の脳でも起こります.

人の脳は数百個のニューロンという細胞で構成されています.
また、それぞれニューロンはシナプスという鎖でつながれています.
この鎖は、生まれてまもなく構成されるのですが、二十歳前後を境に
再構成されます.

これは、遺伝子のプログラムとしてある種のたんぱく質が産出する
ことで、脳の中でニューロンとニューロンとの接合が組み替えられる
のです.

つまり、脳の中で、ある程度、使用頻度の高いニューロンとそうで
ないニューロンを分けて、使用頻度の高いニューロンに重み付け
する、というような具合になっています.

重要なのは、このニューロンネットワークの再配線に対し、前頭前野
の関与がある、ということです.

MITのミラーが指摘するように、前頭前野には脳の異なる部位
(小脳、海馬、扁桃体など)いたるところとの結合があり、脳全体を
立ち上げたり、ダウンさせるといったトップダウン処理が存在します.

そして、その前頭前野自体の駆動にはドーパミンが必要なので、
ここで、前出の再配線機構と結びつきます.

また、この再配線の実施時期(臨界期)には、個人さがあるよう
です.始まる時期も異なるし、どのくらい持続するのかも違う
ということです.

老化をしない脳とは、この再配線機構が長期間持続していること
なのかもしれませんね.

自身は、数年前に、再配線機構についての計算論モデルを提唱し、
それを論文にて発表いたしました.

その中でとくに強調したかったところは、脳の基本的な性質には、
興奮と抑制があるのですが、前頭前野がコントロールは、ある
条件下での興奮(脳機能の立ち上げ)と抑制(脳機能のダウン)
の関係を作る、ということでした.

もともと人間の脳は、本能や感情に支配された爬虫類的な特性
をもっています.だから、必ずしも後天的な学習のみの成果では
なく、先天的にあることに卓越した能力を持つことは可能です.

たとえば、イチローが天才であることは紛れもありません.
卓越した動態視、すばやくしなやかな筋肉の動きがあるからこそ
いろいろな球種(攻め)に対してでも柔軟な追従が可能なのです.

これはどちらかというと上記でいう、流動性知能かもしれません.

一方で、中日の落合監督のように、冷静に相手の特徴を分析し、
自分の身体性に見合った独特の打法で、本塁打をかせぐことが
できるのは、過去の失敗や成功、それらの比較による違いの発見、
違いから失敗を成功にもってゆくための戦術や戦略など、むしろ
経験から学ぶ要素が多いと思われます.

こうした知能は、どちらかというと結晶性知能かもしれません.

人生はとかく、失敗から学んで、うまくいくための成功確率を
高めていけるとどうかがポイントになることが多いようです.

たとえば、事業にしてもそうですね.会社が倒産してから、真価
を発揮して資産家になっている人たちもいます.

自身がかつて発表した論文では、このような経験的な学習要素
には、暑い鉄を冷やすような、「ひやり」というした体験が必要
だと考えて、自律神経の関与と、それをうまく生かしたフィード
バック構造が、学習を効率的に動かす秘訣である、という観点
から、モデルが組まれています.

危機意識が、学習を促す、ということでしょうか.

少々話しが専門的になってしましたが、要は、年をとっても
衰えない知能とは、

①あふれるような好奇心が途切れない
②失敗を成功に変えられる
③自律神経系(感情)の働きが活発である
④自己の身体性を考慮し課題に取り組める
⑤前頭前野が活性化されている

など.

こうしてみると、芸術家の脳のようですね.

知能とは、奥が深く、まだ言葉では表現できないものでも
あるように思えます.

今回はこの辺で.































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