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専門のマシン知能に限らず、身辺で感じたこと、なんでも、なぜ、という観点から
もぐもぐもぐ(深堀り)を試みるブログです.

共進化:サイトメガロウイルスとNK細胞の攻防

2010-03-08 20:29:03 | 日記
今回は、すでにこのブログでもなんどかでてきた
NK(ナチュラルキラー)細胞の興味深い特性を
書いてゆきたいと思います.

NK細胞は、腫瘍細胞やウイルス感染細胞の拒絶に
重要と考えられています.実際、NK細胞活性が弱
まると’がん’になりやすい、という臨床知見か
らこの特性が見出されました.

T細胞にもNK細胞と同様な細胞傷害性機能はある
ものの、NK細胞は抗原提示によりMHCクラス分子II
と感作させなくとも、ウイルスを叩くことが可能
、という点がT細胞のそれとは違います.

そういう意味ではT細胞のような抗原(ウイルス)
に対する認識レベルを高めなくともよい、という
ことですが、かといって抗原であればなんでも
攻撃する、というわけではありません.

これは1986年にKerreにより提唱されたMissing-
Self説です.これは、NK細胞は、MHCクラス分子I
の発現レベルが低いものを攻撃する、というもの
です.

つまり、MHCクラス分子Iは自己マーカーであり、
自己と非自己を見分けるのだから、なんらかの理由
でMHCクラス分子Iが喪失している細胞は、NK細胞
の攻撃対象となりえます.

逆にTリンパ球細胞は、MHCクラス分子Iの発現性
を基に、抗原を叩くので、この発現レベルが
低いとウイルスなどの抗原を叩けません.

要は、NK細胞は、Tリンパ球細胞と組み合わさること
で力を最も発揮する、というわけです.こうした
理由から、免疫系は、以前、紹介したNKT細胞を
作ったのかもしれませね.


しかし、MHCクラス分子Iに反応するNK細胞をくぐり
抜ける巧妙なウイルスもあるのです.

要は、ウイルス自体が、MHCクラス分子Iに似せた
ものをつくり、発現があると思い込ませ、NK細胞
の活動を停止させる機構があるというわけです.

サイトメガロウイルスとは、DNAウイルスであり、
ヘルペスウイルスの一種でHHV5と命名されています.
ゲノムの中でも大きさは、最大級クラスです.

主に、日和見的感染が主ですが、肺炎や髄膜炎を
引き起こします.

因みにDNAウイルスとは、ゲノムとしてDNAをもつ
ウイルスであり、mRNA(メッセンジャーRNA)を利用
して、増殖します.

また、mRNAはDNAから写し取られた遺伝情報に従い、
タンパク質を合成する仕組みがあります.


このように、サイトメガロウイルスは、MHCクラス
分子Iの発現を低下させてキラーT細胞からの認識
を逃れる一方で、MHC分子様を発現することで、
NK細胞からの細胞傷害性も逃れるメカニズムを
もっている、という巧妙さがあります.

これに対し、NK細胞は、自身の抑制化レセプターに
変異を起こし、ウイルスが作り出すMHC分子様を
認識しないようにすることで、抑制化されてしまう
レセプターを活性化させるかたちで進化させて、
サイトメガロに対する抵抗性を獲得しました.

このような共進化メカニズムは、’知能’という
点から考えると大変に興味深いところがあります.

自身の専門エリアでもこのような共進化を計算論
的に捉えようという研究をしている人たちが
います.
→http://www.cs.bham.ac.uk/~pkl/teaching/2009/ec/lecture_notes/l14-coevolution.pdf

実は、この考え方が、囚人のジレンマなどの
ゲーム理論で応用されているのです.

これについては次の機会に、、
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