2月9日
登山5日目。
23時起床。多少だけど眠りに落ちることができた。
この時のために持参した「フリーズドライ しじみ味噌汁(赤だし)」に湯を注ぎ、決起汁とする。これが最後の味噌汁になるかもと。
今日目指すのは2箇所。
まずは5685Mの「ギルマンズポイント」。
ここは山頂ではないけれど、この急な登りの最終地点となる。
ここを目標にする人も少なくない。ハットから約5時間で、日の出をみるには最高の場所。
そしてそこから峰を約2時間歩くと5895M、山頂の「ウフルピーク」に辿り着く。
もちろん僕の目標はより高い方。
下山した日本人は早く着いたせいで日の出を見逃したと教えてくれた。
時間なんてどうでもいい。
今までかなり早いペースで歩いたガイドだから、「とにかくゆっくり歩くぞ。6時くらいにギルマンズに着くように考えてくれ。」と念を押した。
彼は23:30に出発しようと言ったが、早く着きすぎることを思い、敢えて準備を遅らせ結局0時に小屋を出た。
ありったけの服を着た。
本当の防寒着なんて一つもない。
普通の半袖Tシャツを3枚。長袖を1枚。ネルシャツ着てウールセーターを着る。
最後に雨具を羽織り、頭はフリースの帽子。ザンビアで作ったフリースのマフラーで顔を隠し、いざ暗黒の山道へ。
明かりは星と月とヘッドライト。
雲の上から見る星は何も邪魔するものが無いためひたすら綺麗に散っている。
月は半月より少し大きいくらい。
遠くには先に出発した人と思われる弱い明かりが見える。
それ以外は自分の足元しか見えない。
これまで来たペースに比べれば格段にゆっくりで、なるほどここに来て楽を感じさせるためにここまで速く歩いたのかなと少しガイドを見直す。
とはいえ、僕は一人だから10人チームなんかより確実にペースは速い。
どんどん抜く。
体は熱く、たまに吹く風が冷たく心地よい。
自分がどこをどう歩いているのか全くわからない。
登ってるのか蛇行しているのかもわからない。
1時間半歩き休憩するともう半分だと。
おぇ!?そんなもんなの?と拍子抜けする。
夜空を見上げるとちょうどその時、月ほどの大きさの流星が青緑の光を出し燃え落ちた。
ここからが地獄の始まり。
先に出た人々をすべて追い抜き、4人組のチームと共に登っていたが、次第に疲れも出てきて少し遅れをとる。
ゆっくり歩こうとするが、僕のガイドは決して後ろを見ることなく前の4人とどんどん進んでしまう。
やれやれとあまり距離を空けないよう自分のペースを崩しながら付いていく。
高山病もない、体力的にもそんなしんどくないと、自分で「山登りセンス間違いねぇな」と確信する。
一種のランナーズハイのように、登るのが楽しくなる。登りたくて登りたくてしかたない。
いつからだろうか、次第に意識が朦朧としてくる。
息が切れだし、寿司のことしか考えられなくなった。
ダルエスサラームに戻ったらどんな高くても寿司食うぞ。マグロか~イカか~・・ウニとかあんのかな~とか。ホントそれしか考えられなくなる。
それが進むと、何も考えられなくなった。
つらい。
意識とは関係なく足だけが動く。
細かい砂利道のせいで鼻水が止まらず、口でしか息ができない。グローブにタオルを縛りつけ鼻をこすり続けていると鼻が麻痺した。口をあけているせいで喉がいたい。目に入ったらしく右目が曇ってきた。
ガイドも途中で足を止めてはひざに手をつき、ぜぇぜぇしている。
ベテランでもやはりここまでくればつらいものはつらい。
どんだけ歩いたかわからない。
砂利道が岩登りに変わる。
手を使って小さな岩を登っていると上で叫び声が聞こえた。
僕 「Is that Gilman's・・・??」
ガイド「Yes」
とたん体が信じられない程軽くなった。
ひょいっと岩を登り終え、そこに着いた。
ギルマンズポイント 5685M。午前3:30分。
喜びに満ち、ガイドと抱き合う。
やっと坂道が終わった。
辺りは依然真っ暗。風が強く冷たい。
寒くて止まっていられない。
先についていた4人と一緒にすぐさま次を目指し歩き始める。
ここからは平坦な道だけれど、幅がなく、一歩はずすと崖に落ちる。
時に氷の上を歩くこともあり、緊張感は絶えない。
僕は疲れきっていて、4人についていくことは辞めた。
半ば投げやりになってきて、後ろを見ず、先に歩くガイドもどうでもよくなってきた。ただホント何も見えない。
ひたすら進む。何も考えず。
2月9日午前5時10分、僕は一つの看板を前に立っていた。
「UHURU PEAK TANZANIA 5895M. AFRICA'S HIGHEST POINT」
目標達成。
ふぅ。こんな感じ。
感動はない。放心。
懐に入れて暖めてきたデジカメを出し、グローブをとって写真を撮る。
手はあっという間に動かなくなり、1分程でデジカメも寒さのために動かなくなった。
頂上で踊ってデジカメのビデオに収めようなんて考えて、振り付けまで考えてたのにそれどこじゃない。とっとと帰るぞ。
帰り道もガイドは数メートルも僕から離れて歩き、暗闇で道を失った僕は岩に足を取られひねった。
疲れのせいかガイドに腹が立ち、呼び戻し「何度言ったらわかんだよ。ゆっくり歩けって!なんも見えないんだから」としかりつけた。
ガイドは「日の出を見るために急いでんだ」って。
ここまで来たら日の出なんてもうどうでもいい。そもそもゆっくり登ってギルマンズで日の出を見ると言った約束はどうなったんだよ。
次第に辺りは明るくなり、僕がギルマンズに戻った頃に陽は上がってきた。
あれだけ見上げて歩いてきたマウェンジを今は見下ろす。
雲海に上がる太陽。
アフリカに来るまで考えもしなかった、キリマンジャロの日の出。
しっかりと目に焼き付けた。
明るくなり下り始めると唖然とする。
こんな急でごつごつしたところを登ってたとは信じられない。
岩場を過ぎるとあとは砂利道を直滑降。
右目は完全に見えなくなり涙が止まらない。
早く帰りたい、そんな気持ちでいっぱいだった。
キボハットに到着しベッドにつくが体が動かず、服が脱げない。
しばらく電池切れで止まっていた。
ちょっとベッドで横になる。
登りの途中で追い越した日本人の友人は高山病にやられ先に下りてきて横になっていた。
1時間ほど休憩して3700Mのホロンボまで下る。
この道がひどく長く感じた。
そりゃ0時から歩いてりゃ無理も無い。
ホロンボで頭を洗い体を拭く。
既に遠くとなったキボ岳を眺め、登ったんだと実感させる。
登山のためにやめていたタバコ。登山中もガイドを吸う姿をうらやましく見るもぐっとこらえていた。
でもこれだけは譲れない。目標達成後の一服。
ガイドにもらい山頂を眺めながら大きく肺に入れる。
倒れそうになった。久しぶりに加え、高地での一服は相当きく!
でもうまい!
こうして僕の登山は終わった。
Nimefika Uhuru!!
ウフルに着いたぞ!(スワヒリ語)