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意思による楽観のための読書日記

驚きの英国史 コリン・ジョイス ***

イギリスと日本の違いを面白おかしく紹介したコリン・ジョイスの著作を読んだことがあり、面白いのでもう一冊と思い手にとって見た。

英国史について何を知っているだろう?英国人が日本の歴史に登場するのは、幕末の外交官たちミットフォードパークスアーネスト・サトウ、そして英総領事オールコック、明治維新直後の日本を探訪したイザベラ・バードなど。それは日本史であって英国史ではない。それでも当時の英国人たちが極東の異国で初めて出会う日本人に驚いたこと、自国民たちとの違いについて書き記した書物を読むと、逆にそれで英国のことを知ることができた。

紀元前、ケルト人の部族が小集団で暮らしていたブリテン島にローマ人が侵攻したのが紀元前55年、その後5世紀にアングロ・サクソン人がブリテン島に侵攻してローマ人と入れ替わり、キリスト教を主とした社会となる。ゲルマン人やバイキングによる侵攻を経て、9世紀にイングランド王国が成立した。1066年の「ノルマン・クエスト」と呼ばれるフランスのノルマン人によるブリテン島侵攻とノルマン王朝成立は歴史上最大の出来事であった。この時、スコットランド、ウェールズにはゲルマン人は入りこんでいないため、ケルト人部族国家と宗教、文化が継承された。ノルマン・クエストはイギリスにとって最後の外国による本土侵攻となるが、その年はハレー彗星出現の年。イングランド王継承の混乱に乗じてノルウェイのハラールがイングランドに侵攻、一度は打ち破るが、さらにノルマン人が侵攻して200万人のイングランド人は2-3万人のノルマン人にその後数十年支配され、過酷で抑圧された苦痛の時代が続く。この時代に英語にノルマン由来の言葉が入り込み、現在でも同じ意味の二種類の単語が多く存在する。

そしてマグナ・カルタが成立した1215年、過酷な政治を行うジョン王の行いを制限するため、王に反発していた貴族たちの手でロンドンの支配権が奪われ、ジョン王に憲章を認めさせた。人民の自由と権利を定めた世界最初の憲法だと言われる。度量衡の統一、外国商人によるイングランドにおけるビジネスを認め、自由貿易を推進する内容だった。所有権、行動の自由、財産権などの基本的人権、女性未亡人の再婚、裁判の公正化なども定められた寛容で先見性のある内容だった。原本も4部存在し、リンカンとソールズベリーの大聖堂に一部ずつと大英博物館に二部ある。日本で言えば鎌倉幕府の成立後承久の変があって、平安貴族から武家に権力の移行が始まる頃。

13世紀にはウェールズを併合、1707年のスコットランド併合、1801年のアイルランド併合、1921年のアイルランド独立と、複雑な歴史が繰り返され、現在でもスコットランド独立や北アイルランドでの対立がある。宗教的には、15世紀に大陸で始まる宗教改革がブリテン島にも及び、イングランドでは清教徒によるプロテスタント、カルヴァン派による長老派教会色の強いスコットランド、カソリックが残ったアイルランドという色分けが残った。
アイルランド問題は英国の喉元に今でも刺さっている棘。そこにさらに加わったスコットランド独立の機運とBREXITと問題は山積している。

イングランド人の著者から見たスコットランド人やその発明を以下紹介する。スコットランド人は商業、金融業、エンジニアリング分野で大きな役割を果たした。スコットランド出身の首相は過去4人、最近ではトニー・ブレア。詩人ではロビー・バーンズ、作家ではコナン・ドイル、ウォルター・スコット。アダム・スミスもスコットランド出身。マーマレード、自転車、タイヤ、タールマック舗装、蒸気エンジン、銀行、のり付き切手、タバコ、電話、ローストビーフ、テレビ、海軍、ウイスキー、石炭ガス、ペニシリン、麻酔薬。

GODIVA(ゴダイバ)夫人は11世紀コベントリーの領主だったアングロ・サクソン人レオフリクの妻。領主が住民に課していた重税に夫人も心を痛めていた。税を軽くしたいなら裸で馬で町を走り回れ、と言った夫の言葉を実行した夫人。夫は約束を守り税を軽減、住民は夫人に感謝し、今でも残るゴダイバ夫人の銅像が歴史を物語る。裸で街を走る夫人の姿を見ないようにするため、住民は窓を締め切って応援したが、それを覗き見したのが仕立て屋のトム。「ピーピング・トム」は今でも残る英語の表現。夫人はチョコレートになり今でも愛される。

日本人のお名前は地名由来が多いが、イギリス人の名字は圧倒的に職業由来。パン屋のBaker、肉屋のButcher、荷馬車屋のCarter、桶屋のCooper、料理人のCook、大工のCarpenter、建築家Wright、漁師のFisher、矢羽職人のFletcher、粉屋のMiller、石工のMason、門番のPorter、鍛冶屋のSmith、仕立て屋のTalor、屋根ふき職人のThatcher、など。家系、父親の名字をつけるXXsonのバリエーションは多い。Johnson、Thompson、Peters、Charkson、ウェールズに多いJones、Williams、Evans、スコットランドに多いMacやMcが頭につく名字など。名家の生まれでは、両親の家名を残したいので複数姓をつなげることが多い。ノルマン人由来の名前には、フィッツジェラルド、モントゴメリー、ベナブルズなど。

ノルマン由来の英単語も多い。サクソン系ーノルマン系を並べてみる。start-commence,end-finish,look-regard,goods-merchandise,buy-purchase,brotherly-fraternal,illness-malady,ask-enquire,fix-repair,pig-pork,cow-beef,sheep-mutton,deer-venison,calf-veal,odd-strangeなどなどなど・・・。本書内容は以上。

1990年代の10年間ほど、イギリスの会社との取引があり多くのイギリス人と知り合った経験から、私自身英国史には関心が高いが、知らないことがあまりに多い。この本を読んでから英国に行っていれば、と思うが手遅れである。先方のイギリス人たちも、日本人と親しく話をするのは初めてだったらしく、当時流行っていた「タマゴッチ」などの日本のゲームやアニメの話を手がかりに、随分盛り上がったことを思い出す。イギリスで初めて大勢の前でプレゼンする機会があり、「はるばる極東の国から来てくれた・・・」と紹介されたときは面食らった。思わず「極西の国にお呼びいただき光栄です」などと言ってみたが、イギリスの世界地図で見るとそのとおり、地図の右の一番端にある国が日本。その次のプレゼンでは日本中心の世界地図を最初に紹介して、これはなぜか大受けした。皆さん、手を叩いて喜んでいるのでそんなに可笑しいか、と思ったが、「その地図をほしい」とまで言う人がいて、日本を外から見る、という意味を文字通り感じた経験である。驚くことは学びの出発点だというお話。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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