意思による楽観のための読書日記

オールコックの江戸 佐野真由子 ***

ラザフォード・オルコックが1859年に総領事として来日、2年の休暇を挟んで1864年まで江戸と横浜に駐在した期間を、彼の書翰や日記、その他の記録からオルコックの視点から描いている。多くの記述は1861年5月に開催されたロンドン万国博に日本からの遣欧使節団をなんとか招きたい、タイミングをあわせて欧州文化を知って欲しい、欧州の人たちにこの極東の地に中国とは全く異なる文化と歴史を持つ国日本がある、ということを認知して欲しい、という彼の活動と心理描写に費やされている。

広東から長崎を経て高輪東禅寺に入るのは1859年、アメリカに遅れて通商条約を日本と英国が締結するタイミングである。長崎が日本の第一印象となったのだが、湾と山の緑の美しさは良い印象を与えたようである。しかしそこでは出島、という小さな地域に外国人が押し込められている実情を見て、いつか居留地区を拡大し、この美しい長崎の山に沿って外国人達も住めるようにしたい、という夢を持つ。横浜に移った後に「神奈川問題」を抱え、幕府と交渉する。幕府は神奈川を海港の地とする、と一度は約束しながら、港は横浜に開港し、外国人居留地区も横浜に新たに開鑿した地域にしたいと申し出てきた問題である。幕府としては東海道沿いであり、大名行列や攘夷の志士たちの通り道に外国人達が住むことを懸念したのだ。諸外国の公使たちは反発したが、港と街まで開発した幕府の意向には抵抗できなかった。

江戸に移ってからは、幕府のメンバーとのコミュニケーションは進むが、理解できていない事柄も多かったようだ
とくに、朝廷と幕府、幕府と諸大名の関係である。国の代表として幕府の老中達と交渉をして条約を締結しているのだが、はたしてそれは日本国と約束をしたことになるのか、これがオルコックの素朴な疑問である。ある時ごく限られた人数で安藤対馬守、酒井雅楽守ら数名の老中と英国公使、そして通訳のみで話をする機会を得て、この疑問を取り上げ、老中達からの解説を得たオルコックは、この疑問の答えを得たのであった。それ以降老中達との信頼関係は深まったという。

そして、ロンドン万国博の知らせがくる、その時点で偶然準備していた遣欧使節団、彼らをなんとか万国博開会日である5月1日に間に合わせたい、これがオルコックが考えたことであった。また、日本人達には英国、フランスの工業、文化、商業、町並み、人々の生活、すべてを見てきて欲しかった。そのための下準備に奔走する。実はこうした期間中の1861年にオルコックは水戸藩の攘夷派の浪士達の襲撃を受けて、けが人を出している。こうした腹立たしい事件を経験しながらも、なんとか日本という国を世界の舞台に引っ張り出したい、という熱い思いを抱いているのだ。言葉の面では1862年に来日したアーネストサトウがオルコック駐在の後半はサポートしたと思われるが、前半は日本人通訳の森山多吉郎に依存していたようである。森山への信頼は篤く、ロンドン遣欧使節団に遅れて下賜休暇を取ったオルコックが随行したのはこの森山である。森山随行の理由は遣欧使節団に加えること、であったが、身分は低かったが能力を買っていた森山へのお礼、だったのかもしれない。

1861年5月のロンドン万博では日本からの出品物もさることながら、遣欧使節団40名に注目が集まったという。衣装とちょんまげ、という見た目、そして見学する熱心さである。1867年のパリ万博に日本と薩摩藩が出展した、という話が有名だが、その前のロンドン万博でもこのような話題があるということ、オルコックの熱意の結果であり、そして功績である。

同時期に英国から来ていたミットフォード、アーネストサトウ、そしてオルコックに関する書籍を読んだが、いずれからも感じるのは、異文化を受け入れ、なんとか自国との通商を始めること、これが通商外交ではあるものの、それを越えた「温かい目」というものを感じるのである。マッカーサーは戦後日本を「12歳」と評したが、このころの日本は英国人の目から見れば幼稚園児だったのかもしれない。それでも日本人の持つ勤勉さや柔軟性、歴史と文化を評価し、国際社会への扉を外から開こうとしたのだろう。アメリカ人初代駐日公使タウンゼントハリスは、こうした日本人達を国際社会、文明社会に引き入れてしまうことに一抹の不安を抱いていた、それは日本人達がとても幸せに見えたからだという。こんな幸せそうな人たちに、西欧文明である物質主義をもたらすことは果たして正しいことなのかと。普天間報道を聞いて、未だに日本人はかくも外交にナイーブなのか、と感じる。
オールコックの江戸―初代英国公使が見た幕末日本 (中公新書)
英国人写真家の見た明治日本 (講談社学術文庫)
明治日本見聞録 (講談社学術文庫)
絵で見る幕末日本 (講談社学術文庫)
続・絵で見る幕末日本 (講談社学術文庫)

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