細胞分裂と生命 2015・7・16
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一個の細胞が分裂して、60兆の人の細胞になるというのは
ドイツの病理学者 ルドルフ・ウイルヒューの説でそれに
異論を唱える人はあまりいない。
しかし、日本では千島喜久博士がそれに反対し自らの実験
を重ねて “血球(赤血球)は体の組織に変化する” と
唱えた。その実験はとてもシンプルなものだった。
鶏の卵の中の黄身が血球に変化し、次に赤血球から生殖細胞
に変化した様子をつぶさに観察し導き出した自論だった。
その時、博士は九州大学での学位論文研究のための実験を
重ねていたときに顕微鏡の中で赤血球が、タコの足のように
細胞管を伸ばしていくさまを見た。
そして、その細胞管同志が他の赤血球から伸びた足を
探していた。こうして、次々に、仲間と結びついて互いに
溶け合い、集団化していく。
その集団は大きくなり”細胞核”を持つ一種の”単細胞”
となった。
驚いた博士は、其の後も、周到にこの実験をさまざまな
ルートから繰り返し 同様の結果を得て自論を論文に
発表した。
九州大学農学部に1947年9月に正式に論文は、受理された。
受理されたが それからが大変だった。
年月だけたち、この論文がパスし、学位取得までいたらな
かった担当主任教授でさえ、この論文を支持していないよう
だった。というのも、この論文が学位取得に正式にパスされれば、
これまでの遺伝学や生物学の方程式が通用しなくなる可能性が
あること、当時の主流の遺伝子科学者と真っ向から対立する
可能性があったからだといわれている。
担当の教授からは “あの論文を自発的に取り下げて
くれないか?”という打診があったぐらいなのだ。
千鳥氏の担当の教授は丹下博士、遺伝子研究で学位を取った
教授で さらに九州大学には、当時の日本遺伝学の第一人者
田中義磨教授の研究室があり、従来の論理に基づく、研究が
続けられていた。
もはや、千島説を公に受け入れるかどうかということは、
九州大学だけの問題ではなくなっていたようだ。
生物学界が この学位論文の内容を知り、公然と批判した
ために、論文が受諾されてから10年の間 埃をかぶるよう
に研究室の片隅に 検証されることもないまま放置されて
いたという。
バクテリアの自然発生、人の消化した食べ物から赤血球が
できること、それを証明するために、千鳥博士は1958年
蛙の血球を腐敗させ、バクテリアを自然発生させる実験に
成功した。
しかし、すべての科学者が千鳥博士の説に反対していたわけ
ではない。たとえば、赤痢菌発見者として有名な志賀潔博士
はこう述べる。
〝減菌した培養基から細菌は決して発生しない。
これは確信せざる得ない。
しかし、それでもなお、無生物から生物が生ずるということは、
自分の脳裏から離れないでいる。
そしてこの考えは今日にいたるまで捨てたことはない。
また忘れたこともない。
しかし、近年になって、40余年来の空想がどうやら
確からしくなり、徐々に証明されてくるような気運が
見えだしたのは愉快である。“(*1)
世界的に有名な食養の大家、桜沢如一氏は 千鳥学説に
友好的で次のように述べている。・
“パスツールの実験は大自然をツボやビンの中と取り
違えている。そして彼は細菌の自然発生の否定に熱中しすぎて、
その起源について考えることを忘れている。”
科学技術庁顧問≪当時≫だった、斉藤憲三氏は 蒸した米に
木灰をふりかけ、そこからバクテリアの一種の細菌が自然発生
することを発見したという。
この発見を確実なものとするため、工学技術院に実験を依頼
したところ、微生物研究所所長 七宇三郎所長鑑定によって、
バクテリアに似た微生物が自然発生するという事実が証明
された。
1973年に至り、生物学界の重鎮 西綿 司氏も 千鳥学説は
成り立つと思うと述べた。
しかし、2000年初頭に至り、同氏は千鳥学説を批判する立場
に回って、自然発生説とともに発表された千鳥学説のその他の
諸論に対して反対意見を述べている。
このように賛否両論みられる学説であるが、
上に揚げた桜沢氏の意見は興味深い。
現在の細菌学はパスツールの理論に基づいているといわれるが、
そのパスツールの実験そのものを批判してそこから得られた結論
に対し信憑性が低いと論じているからだ。
“パスツールの実験は大自然をツボやビンの中と取り違えている”
というのはどういうことだろう?
続く
*1~甦る千島学説 枠山紀一 2004年 なずなジャパン発行