大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

高級車市場で中国、インドが台頭

2016年01月03日 | 日記

 世界的な好景気は(いま曲がり角に差し掛かっているが)、高級車市場に活況をもたらしている。その大きな恩恵を受けているのが、インドのタタ自動車中国のジーリー自動車(吉利汽車)である。

 インドのタタ自動車は2008年にフォードからJaguarLand Roverを23億ドル(約2500億円:当時の1ドル=105円で計算)で買収。FT紙(2015/12/29)によれば、2つが統合したJaguar Land Rover社は、2014年に26億ユーロ(約3500億円:1ユーロ=130円)の税引き前利益を計上。1年の利益が、買収額を大きく上回った。ちなみにホンダと日産の2014年の純利益はともに約5000億円で、Jaguar Land Rover社の利益はそれに迫っている。FT紙によれば、同社の売上に対する利益率は10%に近く、高級車のもつブランド力、利幅の大きさをよく示している。

 一方、中国のジーリー自動車は2010年にフォードからVolvoを18億ドル(約1500億円:当時の1ドル=90円で計算)で買収。FT紙によれば、Volvoの2014年の営業利益は2.6億ドル(約300億円)、また2015年前半の売上に対する利益率は2.2%となっている。Jaguar Land Rover社にくらべると見劣りする数字となっているが、FT紙は、Jaguar Land Rover社がフォード時代に開発された自動車の販売に依拠できたのに対し、Volvoは買収後に自動車ラインを新開発しなければならなかったという事情の違いを指摘している。

 ところで日本の自動車メーカーに欠けているもののひとつが世界的な高級車ブランドである。アメリカでのレクサスの成功など例外はあるが、欧州市場を含め世界市場でみると日本の高級車の存在感は小さい。高級車ブランドの買収はこの問題を解決する早道だが、日本の自動車メーカーは独自路線にこだわり続けている。

 たしかに欧州の自動車メーカー、とくに高級車ブランドの運営は難しい。十分な利益を出すのが難しいため、BMWは2000年にフォードにLand Roverを売却し、フォードは2008年にJaguarLand Roverを売却している。ドイツのオペルは、たびたび親会社のGMの足を引っ張ってきた。しかし、そのブランド力、利幅の大きさはなお魅力的である。世界的な好景気が支えになっているとはいえ、インドと中国の自動車メーカーは買収により、日系メーカーに先んじて世界的な高級車ブランドの所有、運営に成功した。アジア企業が所有する高級車メーカーの今後に注目していきたい。