大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

トランプ氏は過激な公約を放棄しない

2016年11月11日 | 日記

 大方の予想をうらぎってトランプ氏が大統領に当選した。

 ところで日本ではトランプ氏は現実主義者だから、当選したらそれまでの「過激」な主張を変えるとする意見が多い。

 私は、以下の4つの理由からトランプ氏はその主張を変えないし公約を着実に実行していくと思う。

 第1に、日本と異なりアメリカの歴代大統領は平均して公約の約7割を実行している。たとえば大統領の公約実行率を調べているPolitical Factというサイトによれば、オバマ大統領の公約実行率は71%となっている(実行が45%、妥協して実行が26%)。上下院で野党が多数を占めていてもなおこの数字である。上下院を与党がおさえるトランプ氏の数字がこれより低くなるとは考えにくい。

 第2に、公約を破れば熱烈な支持者から反発を受け支持基盤を失うことになる。主要な公約を破れば再選は困難になるだろう。公約は選挙のための方便というのは、二大政党が拮抗するアメリカでは通用しない。

 第3に、共和党がトランプ氏の考えに近寄り始めている。日本では、トランプ氏の主張は共和党の主流派の考えと大きく異なるので与党の協力が得られないとする見方がある。

 たとえばトランプ氏は保護貿易を唱えているのに対し、共和党は伝統的に自由貿易支持である。トランプ氏がインフラ投資の拡大を訴えているのに対し、共和党は小さな政府を求めている。トランプ氏がシリアでロシアとの協力を唱えているのに対し、共和党はロシアに対して強硬な立場を取っている。

 しかし、選挙中にトランプ氏をめちゃくちゃに批判していたライアン下院議長がトランプ大統領に全面的に協力すると発言したり、今回の劇的な選挙結果をうけ共和党がトランプ氏の考えを受け入れ始めている

 ウォール・ストリート・ジャーナルは、トランプ氏の主張にそった形で共和党のこれまでの基本的な考え方(支持層)の見直し(たとえば自由貿易主義の見直し)が進む可能性さえあるとしている。

 第4に、トランプ氏の主張には、インフラ投資や保護貿易主義など民主党の一部から支持を得られるものが含まれており、政策によっては民主党議員を取り込みながら公約の実行が進められていくと思われる(日本と異なり基本的に党議拘束がないので、これはトランプ氏にかぎらず広くおこなわれている)。

 メキシコとの国境に「美しい壁」を作るとか、不法移民の迅速な本国送還を始めるとか、NAFTA(北米自由貿易協定)を見直すとか、TPPに入らないとか、金融業や環境にかかわる規制を大幅に撤廃するとかはトランプ氏の公約の根本をなすものである。極端に見えても上で述べたような理由から、こうしたものは妥協を伴いながらも、日本で一般に考えられているよりは着実に進められていくと思われる。

 ただ誤解のないよう付け加えておけば、歴代大統領の公約実行率が約7割ということは、逆に3割は実行されていないということでもある。野党などに妥協して内容がかわるものも3割ほどある。したがって、着実とはいってもトランプ氏の公約が100%そのまま実行されていくという意味ではない。たとえばメキシコとの国境に実際に壁が建設されるとしても、あくまで一部について象徴的におこなわれるだけかもしれない。これはどの大統領であっても変わらない。

 これからの4年ないし8年間、どれだけアメリカが変わるのか、あるいは変わらないのか注意して見ていきたい。