藤沢周平はたまたま本屋で「半生の記」を手にとってから愛読するようになった。
「藤沢周平のすべて」では丸谷才一等の周平フアンの作家達が作品を語っている。井上ひさし氏は、物語の海坂藩の地図を描きながら読んでいると言い、杉本章子氏は周平のデビュー当時から,作品の総て読んでいて作中の人物とは知り合いの人の様に親し気だ。
こんな本を読むのも面白いし、語られている作品をまた読みたくなる。丁度2~3日病気で寝ていたので、これらを再読した。
「三屋清左衛門残日録」は、江戸藩勤めを終え、故郷に帰った清左衛門の物語だが、退職した後は子供の時楽しんだ釣りをしたり、剣術を又始めて道場で子供たちを指南する役にしてもらったり、経書を学びに行ったりする。たびたび飲み屋で昔の友達と飲んだり、地元の素朴で美味しい料理を食べたりする。
これは、退職者にとって、理想的すぎる暮らし方ですね・
”日は一直線に野を照らし、野の向こうに今は克明な姿を現して来た城下の木立や家々の白壁などを照らしていた。野の稲は、いちめんに直立する穂をつけ、白い花がひらくのも間の無いだろうと思われた”「三屋清左衛門残日録」から。
ここには誰もが懐かしい風景が浮世絵のバックのように描かれている。若い時に詩や俳句に親しんだ作者の四季折々の自然描写が、物語を彩っている。
でも、おかしいのは「たそがれ清兵衛」のように、いぜんは剣の名手だった人が今は、市井にうずもれ世間の笑われ者に様になっていても,ひとたび剣を取ると目にも止らぬ妖剣をもって強い相手を倒すのです。日ごろの練習の無しで・・・
故郷に帰った清左衛門は、妻を亡くして、息子夫婦と暮らしている。藩主が彼の退職時に隠居部屋を作って与えた程の役であって、現在も不自由の無い暮らしをしているが、嫁にはなるべく世話にならないように気を遣っている。だが彼の貧しい友は嫁にも余り世話もして貰えないのではないかと案じで居る。
恵まれている彼とは言え、老いの寒々とした寂寥感が、忍び寄って来ている。こんな生活をしている、清左衛門を取り巻く物語を面白く読んだ。
・・・ これに続いて「蝉しぐれ」をよむ。かの謹厳実直な(ような?)渡辺昇一氏が義母の読んでいる「蝉しぐれ」を読んで以来、熱烈なフアンになったと書いている。一寸読み始めると、何度か読んだこの物語を、私もついつい読み終えてしまう。