【原則責任を負わない「公務員」に求償請求が認める判例が続出…弁護士が内容を解説 | シェアしたくなる法律相談所 】
上記の論説を解釈する。
「公務員が国民・住民に対して損害を与えたとき、その公務員は原則として責任を負いません。なぜなら、国家賠償法という法律によって、国や公共団体が責任を負うことになっている(国家賠償法1条1項)からです。
ですが例外もあり、公務員個人がわざと又は甚だしい不注意(法的に「重過失」といいます)であった場合は、国又は公共団体は公務員個人に対して国民・住民に支払った分のお金の支払いを求める(法的に「求償」といいます)ことができます(国家賠償法1条2項)。
しかし、従来裁判所は、重過失による求償権をあまり認めてきませんでした。「重過失」を安易に認定すると公務員の活動を必要以上に委縮させてしまうのがその理由でした。
ところが、平成28年12月に、地方公共団体の公務員に「重過失」を認め、公務員個人に対する求償権を認める裁判所の判断が立て続けに出されました。そこで、今回は、これらの裁判所の判断を紹介します。」
此処迄の解説を敢えてすると、「公務員が国民・住民に対して損害を与えたとき、公務員自身或は外の公務員が此の故意や重過失を隠す為に嘘を吐いた場合は、其の嘘を吐いたことが、国民・住民の求償権執行の妨害行為と成ることになる。従って、損失が故意や重過失に拠って発生したものであれば、虚偽業務妨害行為と成るであろう。」
1.東京都国立市が元市長に対して求償請求をした事例
(最高裁平成28年12月13日)
建築基準法に違反しない建築物の建築・販売をしようとした不動産デベロッパーに対し景観利益を重視する国立市の当時の市長が行った妨害行為が、裁判所によって国家賠償法1条1項の「違法」であると判断されたため、国立市は平成20年に不動産デベロッパーに対して約3,120万円の賠償金を支払っていました。
この損害賠償金相当額等の支払を国立市の元市長に対して請求する住民訴訟が提起され、国立市が元市長に対して求償請求したのがこの事例です。
元市長の妨害行為というのは、次のようなものでした。
(1)マンションの建築計画が、不動産業界の噂程度のもので、土地周辺住民や一般市民には知られていなかった段階で、市長として知り得た建築計画という内部情報を住民に提供してマンション建設に反対する住民運動を企図したこと
(2)将来給水拒否等の不利益を受ける可能性があることを示唆して不動産デベロッパーの顧客に影響を与えたこと
(1)は、内部情報の提供行為について、この行為の違法性の認識について元市長は当然に認識していたはずであり、元市長に違法性の認識がなかったとしても、この行為が市長の職務を逸脱したもので、手段として社会に認められることがない違法な行為であることは容易に認識できた、という理由で重過失を認定しています。
また(2)は、給水拒否の示唆については、上下水道を供給しないなどの対応が不動産デベロッパーの顧客に対して不安を与えることは容易に認識でき、これによって不動産デベロッパーにも損害を与えることも容易に認識できたはずであること、また正当な理由なく上下水道の供給をしないことが違法であることは明らかであるから、そのような不安を与える行為の違法性について容易に認識できた、という理由で重過失を認定しています。
2.大分県が元顧問に対し求償権を行使することを認めた事例
(大分地裁平成28年12月22日)
剣道部の練習中に重度の熱中症で倒れ死亡した生徒の親は、国家賠償法に基づく損害賠償請求で大分県に勝訴していました。
しかし、元顧問に対する請求が認められなかったために、住民監査請求を経て住民訴訟を提起し、大分県に対し元顧問に対する求償権行使を求めていた事例です。下記の2つの理由から重過失と認定されています。
(1)事故当時、亡くなった生徒は竹刀を落としたのに、気づかず竹刀を構えるしぐさを取った。熱射病による異常行動と容易に認識できたのに、元顧問は何ら合理的な理由もなく演技をしていると決めつけ、練習を継続させ、適切な措置を取らなかった
(2)元顧問は、元生徒を前蹴りし、倒れた生徒にまたがって10回ほど頬を平手打ちをする、という状態を悪化させるような不適切な行為にまで及んだ。注意義務違反の程度は重大であり、その注意を甚だしく欠いた
地方公共団体が公務員個人に対して求償できることを認めた裁判所の判断は少ないですが、近時の裁判所は、認める傾向にあるといえましょう。今後は公務員個人としての責任ある行動がより一層求められるでしょう。
*著書:弁護士 鈴木謙太郎(1972年の設立以来40年以上の歴史がある、虎ノ門法律経済事務所の池袋支店で支店長を務める。注力分野は遺産相続、不動産取引、交通事故、債権回収、労働問題、債務整理、刑事事件、離婚等。「皆様の人生の一大事を共に解決するパートナーとして、真摯に業務に取り組んでまいります。」)」
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