相続法の改正 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律

2019-08-07 19:31:50 | 法律

 相続法の改正 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について 

 平成30年7月6日,民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)が成立しました(同年7月13日公布)。
 民法のうち相続法の分野については,昭和55年以来,実質的に大きな見直しはされてきませんでしたが,その間にも,社会の高齢化が更に進展し,相続開始時における配偶者の年齢も相対的に高齢化しているため,その保護の必要性が高まっていました。
 今回の相続法の見直しは,このような社会経済情勢の変化に対応するものであり,残された配偶者の生活に配慮する等の観点から,配偶者の居住の権利を保護するための方策等が盛り込まれています。このほかにも,遺言の利用を促進し,相続をめぐる紛争を防止する等の観点から,自筆証書遺言の方式を緩和するなど,多岐にわたる改正項目を盛り込んでおります。
 今回の改正は,一部の規定を除き,2019年(平成31年)7月1日から施行されます

 1 配偶者の居住権を保護するための方策について
  配偶者の居住権保護のための方策は,大別すると,遺産分割が終了するまでの間といった比較的短期間に限りこれを保護する方策(後記⑴)と,配偶者がある程度長期間その居住建物を使用することができるようにするための方策(後記⑵)とに分かれています。

 ⑴ 配偶者短期居住権
  配偶者短期居住権の要点は,以下のとおりです。
(要点)
 ア 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合の規律
 配偶者は,相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合には,遺産分割によりその建物の帰属が確定するまでの間又は相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間,引き続き無償でその建物を使用することができる。
 イ  遺贈などにより配偶者以外の第三者が居住建物の所有権を取得した場合や,配偶者が相続放棄をした場合などア以外の場合
 配偶者は,相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合には,居住建物の所有権を取得した者は,いつでも配偶者に対し配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができるが,配偶者はその申入れを受けた日から6か月を経過するまでの間,引き続き無償でその建物を使用することができる。

 ⑵ 配偶者居住権
 配偶者居住権の要点は,以下のとおりです。
(要点)
 配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の所有建物を対象として,終身又は一定期間,配偶者にその使用又は収益を認めることを内容とする法定の権利を新設し,遺産分割における選択肢の一つとして,配偶者に配偶者居住権を取得させることができることとするほか,被相続人が遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることができることにする。

2 遺産分割に関する見直し等

⑴ 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)
持戻し免除の意思表示の推定規定の要点は,以下のとおりです。
(要点)
 婚姻期間が20年以上である夫婦の一方配偶者が,他方配偶者に対し,その居住用建物又はその敷地(居住用不動産)を遺贈又は贈与した場合については,民法第903条第3項の持戻しの免除の意思表示があったものと推定し,遺産分割においては,原則として当該居住用不動産の持戻し計算を不要とする(当該居住用不動産の価額を特別受益として扱わずに計算をすることができる。)。

⑵ 遺産分割前の払戻し制度の創設等
遺産分割前の払戻し制度の創設等については,大別すると,家庭裁判所の判断を経ないで預貯金の払戻しを認める方策(後記ア)と,家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する方策(後記イ)とに分かれます。 それぞれの方策の要点は,以下のとおりです。
 (要点)
 ア 家庭裁判所の判断を経ないで,預貯金の払戻しを認める方策
 各共同相続人は,遺産に属する預貯金債権のうち,各口座ごとに以下の計算式で求められる額(ただし,同一の金融機関に対する権利行使は,法務省令で定める額(150万円)を限度とする。)までについては,他の共同相続人の同意がなくても単独で払戻しをすることができる。
 計算式
単独で払戻しをすることができる額=(相続開始時の預貯金債権の額)×(3分の1)×(当該払戻しを求める共同相続人の法定相続分)
 イ 家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する方策
  預貯金債権の仮分割の仮処分については,家事事件手続法第200条第2項の要件(事件の関係人の急迫の危険の防止の必要があること)を緩和することとし,家庭裁判所は,遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において,相続財産に属する債務の弁済,相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を行使する必要があると認めるときは,他の共同相続人の利益を害しない限り,申立てにより,遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部を仮に取得させることができることにする。   

 ⑶ 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲
  遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲に関する規律の要点は,以下のとおりです。
 (要点)
 ア 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても,共同相続人全員の同意により,当該処分された財産を遺産分割の対象に含めることができる。
 イ 共同相続人の一人又は数人が遺産の分割前に遺産に属する財産の処分をした場合には,当該処分をした共同相続人については,アの同意を得ることを要しない。

 3 遺言制度に関する見直し

 ⑴ 自筆証書遺言の方式緩和
 自筆証書遺言の方式緩和の要点は,以下のとおりです。
 (要点)
 全文の自書を要求している現行の自筆証書遺言の方式を緩和し,自筆証書遺言に添付する財産目録については自書でなくてもよいものとする。ただし,財産目録の各頁に署名押印することを要する。

 ⑵ 遺言執行者の権限の明確化等
 遺言執行者の権限の明確化等の要点は,以下のとおりです。
 (要点)
 ア 遺言執行者の一般的な権限として,遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は相続人に対し直接にその効力を生ずることを明文化する。
 イ 特定遺贈又は特定財産承継遺言(いわゆる相続させる旨の遺言のうち,遺産分割方法の指定として特定の財産の承継が定められたもの)がされた場合における遺言執行者の権限等を,明確化する。

 4 遺留分制度に関する見直し
 遺留分制度に関する見直しの要点は,以下のとおりです。
 (要点)
 ⑴ 遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生ずるとされている現行法の規律を見直し,遺留分に関する権利の行使によって遺留分侵害額に相当する金銭債権が生ずることにする。
 ⑵ 遺留分権利者から金銭請求を受けた受遺者又は受贈者が,金銭を直ちには準備できない場合には,受遺者等は,裁判所に対し,金銭債務の全部又は一部の支払につき期限の許与を求めることができる。

 5 相続の効力等に関する見直し
 相続の効力等に関する見直しの要点は,以下のとおりです。
(要点)
 特定財産承継遺言等により承継された財産については,登記等の対抗要件なくして第三者に対抗することができるとされている現行法の規律を見直し,法定相続分を超える部分の承継については,登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないことにする。

 6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策の要点は,以下のとおりです。
 (要点)
 相続人以外の被相続人の親族が,無償で被相続人の療養看護等を行った場合には,一定の要件の下で,相続人に対して金銭請求をすることができるようにする。

 
 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の施行期日は,以下のとおりです。
 (要点)
 (1) 自筆証書遺言の方式を緩和する方策 2019年1月13日
 (2) 原則的な施行期日 2019年7月 1日
 (3) 配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等 2020年4月 1日



法務局における遺言書の保管等に関する法律

2019-06-29 17:08:44 | 法律

 法務局における遺言書の保管等に関する法律について

 平成30年7月6日,法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号)が成立しました(同年7月13日公布)。

 法務局における遺言書の保管等に関する法律(以下「遺言書保管法」といいます。)は,高齢化の進展等の社会経済情勢の変化に鑑み,相続をめぐる紛争を防止するという観点から,法務局において自筆証書遺言に係る遺言書を保管する制度を新たに設けるものです。遺言書保管法の施行期日は,施行期日を定める政令において令和2年7月10日(金)と定められました。なお,施行前には,法務局に対して遺言書の保管を申請することはできませんので,ご注意ください。

 法務局における遺言書の保管等に関する法律の概要

 遺言書の保管の申請 • 保管の申請の対象となるのは,民法第968条の自筆証書によってした遺言(自筆証書遺言)に係る遺言書のみです(第1条)。
 また,遺言書は,封のされていない法務省令で定める様式(別途定める予定です。)に従って作成されたものでなければなりません(第4条第2項)。
 遺言書の保管に関する事務は,法務局のうち法務大臣の指定する法務局(遺言書保管所)において,遺言書保管官として指定された法務事務官が取り扱います(第2条,第3条)。
 遺言書の保管の申請は,遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所の遺言書保管官に対してすることができます(第4条第3項)。
 遺言書の保管の申請は,遺言者が遺言書保管所に自ら出頭して行わなければなりません。その際,遺言書保管官は,申請人が本人であるかどうかの確認をします(第4条第6項,第5条)。

 遺言書保管官による遺言書の保管及び情報の管理  保管の申請がされた遺言書については,遺言書保管官が,遺言書保管所の施設内において原本を保管するとともに,その画像情報等の遺言書に係る情報を管理することとなります(第6条第1項,第7条第1項)。

 遺言者による遺言書の閲覧,保管の申請の撤回  遺言者は,保管されている遺言書について,その閲覧を請求することができ,また,遺言書の保管の申請を撤回することができます(第6条,第8条)。保管の申請が撤回されると,遺言書保管官は,遺言者に遺言書を返還するとともに遺言書に係る情報を消去します(第8条第4項)。
 遺言者の生存中は,遺言者以外の方は,遺言書の閲覧等を行うことはできません。

 遺言書の保管の有無の照会及び相続人等による証明書の請求等  特定の死亡している者について,自己(請求者)が相続人,受遺者等となっている遺言書(関係遺言書)が遺言書保管所に保管されているかどうかを証明した書面(遺言書保管事実証明書)の交付を請求することができます(第10条)。
 遺言者の相続人,受遺者等は,遺言者の死亡後,遺言書の画像情報等を用いた証明書(遺言書情報証明書)の交付請求及び遺言書原本の閲覧請求をすることができます(第9条)。
 遺言書保管官は,遺言書情報証明書を交付し又は相続人等に遺言書の閲覧をさせたときは,速やかに,当該遺言書を保管している旨を遺言者の相続人,受遺者及び遺言執行者に通知します(第9条第5項)。

 遺言書の検認の適用除外  遺言書保管所に保管されている遺言書については, 遺言書の検認(民法第1004条第1項)の規定は,適用されません(第11条)。

 手数料  遺言書の保管の申請,遺言書の閲覧請求,遺言書情報証明書又は遺言書保管事実証明書の交付の請求をするには,手数料を納める必要があります(第12条)。

成年年齢関係について 民法改正

2019-06-08 14:51:59 | 法律

 成年年齢関係について

 平成30年6月13日,民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げること等を内容とする民法の一部を改正する法律が成立しました。
 民法の定める成年年齢は,単独で契約を締結することができる年齢という意味と,親権に服することがなくなる年齢という意味を持つものですが,この年齢は,明治29年(1896年)に民法が制定されて以来,20歳と定められてきました。これは,明治9年の太政官布告を引き継いだものといわれています。
 成年年齢の見直しは,明治9年の太政官布告以来,約140年ぶりであり,18歳,19歳の若者が自らの判断によって人生を選択することができる環境を整備するとともに,その積極的な社会参加を促し,社会を活力あるものにする意義を有するものと考えられます。
 また,女性の婚姻開始年齢は16歳と定められており,18歳とされる男性の婚姻開始年齢と異なっていましたが,今回の改正では,女性の婚姻年齢を18歳に引き上げ,男女の婚姻開始年齢を統一することとしています。このほか,年齢要件を定める他の法令についても,必要に応じて18歳に引き下げるなどの改正を行っています。

 2022年4月1日から施行されます。

1. 2022年4月1日の時点で,18歳以上20歳未満の方(2002年4月2日生まれから2004年4月1日生まれまでの方)は,その日に成年に達することになります。2004年4月2日生まれ以降の方は,18歳の誕生日に成年に達することになります。

2. 民法の成年年齢には,一人で有効な契約をすることができる年齢という意味と,父母の親権に服さなくなる年齢という意味があります。
 成年年齢の引下げによって,18歳,19歳の方は,親の同意を得ずに,様々な契約をすることができるようになります。例えば,携帯電話を購入する,一人暮らしのためのアパートを借りる,クレジットカードを作成する(支払能力の審査の結果,クレジットカードの作成ができないことがあります。),ローンを組んで自動車を購入する(返済能力を超えるローン契約と認められる場合,契約できないこともあります。),といったことができるようになります。
 なお,2022年4月1日より前に18歳,19歳の方が親の同意を得ずに締結した契約は,施行後も引き続き,取り消すことができます。
 また,親権に服することがなくなる結果,自分の住む場所(居所)を自分の意思で決めたり,進学や就職などの進路決定についても,自分の意思で決めることができるようになります。もっとも,進路決定について,親や学校の先生の理解を得ることが大切なことに変わりはありません。  そのほか,10年有効パスポートの取得や,公認会計士や司法書士などの国家資格に基づく職業に就くこと(資格試験への合格等が必要です。),性別の取扱いの変更審判を受けることなどについても,18歳でできるようになります。

3. 民法の成年年齢が18歳に引き下げられても,お酒やたばこに関する年齢制限については,20歳のまま維持されます。また,公営競技(競馬,競輪,オートレース,モーターボート競走)の年齢制限についても,20歳のまま維持されます。これらは,健康被害への懸念や,ギャンブル依存症対策などの観点から,従来の年齢を維持することとされています。

公証人と公証役場

2019-06-08 14:30:23 | 法律

 公証人と公証役場

 公証制度とは,国民の私的な法律紛争を未然に防ぎ,私的法律関係の明確化,安定化を図ることを目的として,証書の作成等の方法により一定の事項を公証人に証明させる制度です。公証人は,国家公務員法上の公務員ではありませんが,公証人法の規定により,判事,検事,法務事務官などを長く務めた法律実務の経験豊かな者の中から法務大臣が任免し,国の公務をつかさどるものであり,実質的意義における公務員に当たる(刑法の文書偽造罪等や国家賠償法の規定にいう「公務員」に当たる)と解されています。

 公証人は,取り扱った事件について守秘義務を負っているほか,法務大臣の監督を受けることとされ,職務上の義務に違反した場合には懲戒処分を受けることがあります。公証人は,法務省の地方支分部局である法務局又は地方法務局に所属し,法務大臣が指定する所属法務局の管轄区域内に公証役場を設置して事務を行います。公証役場とは,公証人が執務する事務所のことです。公証人は,全国に約500名おり,公証役場は約300箇所あります。

 公証人は,職務の執行につき,嘱託人又は請求をする者より,手数料,送達に要する料金,登記手数料,日当及び旅費を受けることとされており,その額は,公証人手数料令の定めるところによっています。公証人は,これ以外の報酬は,名目の如何を問わず,受け取ってはならないとされています。このように,公証人は国から給与や補助金など一切の金銭的給付を受けず,国が定めた手数料収入によって事務を運営しており,弁護士,司法書士,税理士などと同様に独立の事業者であることから,手数料制の公務員とも言われています。

親族関係 民法

2019-04-24 17:09:33 | 法律

 親族関係

 1 血族と姻族
 血族とは、本来、血縁のある者相互の間柄をいいます。しかし、養子縁組又は特別養子縁組によって成立する養子と、養親及びその血族との間においても血縁者間におけるのと同一の親族関係が生じます。前者を自然血族、後者を法定血族。
 姻族とは、婚姻によって成立した親族関係をいい、配偶者の一方と他方の血族との相互の間柄です。夫からみて、妻の父母や兄弟姉妹は姻族です。自己とその兄弟姉妹の配偶者の間柄も同様。

 2 直系と傍系
 親と子、祖父母とその孫のように、2人のうちの一方が他方の子孫である場合を直系。傍系とは、兄弟姉妹、伯叔父母、甥姪、従兄弟・従姉妹のように、2人が共同の始祖の子孫である場合です。

 3 尊属と卑属
 尊属とは、父母と同世代以上の者をいい、卑属とは、子と同世代以下の者をいいます。本人からみて、その祖父母は直系尊属、甥姪は傍系卑属です。
 自己と同世代の兄弟姉妹や従兄弟・従姉妹は、尊属でも卑属でもありません。

 4 親等
 親等は、親族間の近さをあらわすもので、親族間の世代数を数えて何親等かを定めます。
 直系血族間では、その間の世代数がそのまま親等になりますから、親と子は一親等、祖父母とその孫は二親等になります。しかし、傍系血族間では、その1人から共同の始祖にさかのぼり、かつ、その始祖から他の1人に下るまでの世代数を数えることになります、兄弟は、兄から父母(共同の始祖)までが一親等、父母から弟までが一親等で、合わせて、二親等になりますし、伯父と姪は三親等になります。

 民法

(親族の範囲)
 第七百二十五条  次に掲げる者は、親族とする。
 一  六親等内の血族
 二  配偶者
 三  三親等内の姻族
(親等の計算)
 第七百二十六条  親等は、親族間の世代数を数えて、これを定める。
 2  傍系親族の親等を定めるには、その一人又はその配偶者から同一の祖先にさかのぼり、その祖先から他の一人に下るまでの世代数による。
 (縁組による親族関係の発生)
 第七百二十七条 養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけると同一の親族関係を生じる。
(離婚等による姻族関係の終了)
 第七百二十八条  姻族関係は、離婚によって終了する。
 2 夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。