いきけんこう!

生き健康、意気兼行、粋健康、意気軒昂
などを当て字にしたいボケ封じ観音様と
元気印シニアとの対話。

千鳥足でつぶやく『映画ばなし』 その7 :神さまも見守った「はやぶさ」のど根性

2012-03-02 16:08:51 | 映画
7年間にも及ぶ宇宙の大冒険に耐え抜いた「はやぶさ」の総航続距離は、60億kmを超えました。
そして、地球から約3億3,000万kmも彼方の宇宙空間で、通信途絶したまま迷子になった「はやぶさ」に与えられた最後の使命は、地球へ帰還することではなく、大気圏へ突入時に生じる摩擦熱で燃え尽きる前に、地球の姿を観ることでした。

大気圏に再突入してから2時間後には焼失してしまう「はやぶさ」。
小惑星のサンプルを地球に持ち帰る「サンプルリターン」の技術を実証する使命を帯びた「工学実験探査機」を制御するために送信した数々の指令に対する反応は、失敗の連続でした。

 「間に合わなかったか・・・」

と、諦めていた「はやぶさ」の運用スタッフが、最後のデータをダウンロードします。
「はやぶさ」がその生涯を閉じる直前に撮影した地球の映像がモニターに映し出されたのです。「はやぶさ」は、最後の使命を成し遂げ、無言のまま焼失した。その写真は、JAXAの相模原キャンパスに展示してありました。



さて、大気の摩擦熱で焼失した「はやぶさ」の模型が、JAXAの相模原キャンパスに展示してあり、元気印は、「はやぶさ」の形見に出遭った思いでした。



「はやぶさ」プロジェクトの成功体験は、さまざまな社会現象を惹起しました。映画もその一端でしょう。先ず、口火を切ったのは、プラネタリュウム用CGプログラム「HAYABUSA BACK TO THE EARTH」。新宿の映画館まで足を運び、はやぶさの偉業を認識した次第です。



はやぶさ映画の嚆矢は、ポスター写真右端の「はやぶさ」(監督:堤 幸彦 脚本:白崎 博史 井上潔 出演:竹内 結子 西田 敏行 他)で、小惑星探査機「はやぶさ」の入門編になっている。







その次が今公開されている「はやぶさ 遥かなる帰還」(原作:山根 一眞・小惑星探査機 はやぶさの大冒険 監督:瀧本 智行 脚本:西岡 琢也 出演:渡辺 謙 江口 洋介 夏川 結衣 山崎努 他)。中央のポスター写真。





「観客の方にエンタテイメントとして楽しんでいただくことは勿論ですが、日本にはこれだけ世界に誇れるものがある、と映画を通して伝えられたら。実際のプロジェクトや、それが継続していくための原動力に映画がなってくれれば嬉しいです」

この映画の主人公・山口 駿一郎(JAXA教授:はやぶさプロジェクトチームのマネージャー)を演じる渡辺 謙が、映画プログラムで述べているメッセージです。

釈迦に説法になりますが、、「サンプルリターン・プロジエクト」を担う「工学実験探査機」とされる「はやぶさ」には、それに課せられた技術実証項目があり、「はやぶさ そうまでして君は」(川口 淳一郎)に記載されています。それを引用・列記します。

 1.イオンエンジンという新しい推進機関による惑星間航行
 2.遠く離れた宇宙空間での自立誘導航法
 3.微小重力の小惑星でサンプル採取
 4.イオンエンジンを使用した地球スウィングバイ
 5.カプセルによる大気圏再突入

これらは、いずれも世界初となる実験項目で、5が達成された現在、1から4の項目も確実に実証されたことになります。

それらの結果が樹立した、平成24年2月時点における世界記録が、映画プログラムに記載されています。

 イ.光学的手法により、自力で史上最も遠い天体への接近・到着・着陸・離陸
 ロ.最も長い期間を航行し、地球に帰還した宇宙機(2,592日間)
 ハ.最も長い距離を航行し、地球に帰還した宇宙機(60億km)
 ニ.最も長い時間、動力飛行をした宇宙機

「はやぶさ」が航行する2,592日間に発生した絶望を伴う危機的なトラブルは、「はやぶさの軌跡」(別冊宝島1739号)に整理してあります。

 A.ABCD4基のイオンエンジンの内、Aは出力不安定のため運転中止(平成15年9月)
 B.姿勢制御用リアクションホイール3基の内、X軸用が故障(平成17年7月31日)
 C.姿勢制御用リアクションホイールY軸用が故障(平成17年10月2日)
 D.1回目のトカワへ着陸は、3回バウンドして不時着(平成17年11月20日)
 E.化学スラスターB系統の燃料がタンクから漏洩し凍結を引き起こす(平成17年11月26日)
 F.燃料漏れが再発した翌日、通信途絶(平成17年12月8日)
 G.パラボラアンテナのズレの大きさが判明(平成18年2月25日)

何はともあれ、この映画で感銘したのは、はやぶさプロジエクト・マネージャー山口JAXA教授の粘り強さ。
通信が途絶した惑星探査機が、再発見された前例がない宇宙工学の世界にあっても、「はやぶさ」の救出を諦めず、救出に残された1年間に尽力を尽くすとの決断を下した山口プロジェクト・マネージャーには、「のぞみ」の苦い失敗体験があったからです。

「はやぶさ、応答せよ! はやぶさ 応答せよ!!」

と、往復30分も要する信号を「はやぶさ」がさまよう虚空に向けて1年間呼びかる技術者のど根性を生み出し、通信途絶から46日目に「はやぶさ」からの応答信号を確認したのです。
はやぶさプロジェクトの存続に知恵を絞り奔走するチームリーダー山口 駿一郎と彼を縁の下で支える各分野の専門技術者たちとの間に、お互いが信頼し合える強力なチームワークを築いて、プロジェクトチームをひとつに纏め上げた成果です。

 「はやぶさは、どんなスピンを起こしても、やがて必ず安定する設計になっている」

これを殺し文句にして「はやぶさ」を救出する運用体制の確保を監督官庁から取り付けた山口プロジェクト・マネージャーは、直ちに「はやぶさ」捜索のための具体的な計画を策定して、バラバラに分解するプロジェクトチームを纏める手段にするのです。
その執念が、「はやぶさ」チームの崩壊危機を克服させ、チーム一丸となって「はやぶさ」救出のドラマを生み出していきます。

映画に描かれた感動するシークエンスがふたつあります。ただし、元気印に限ってのことです。
Fの危機的なトラブルへの取組みに、神様はじいーっと見守っていた筈ですが、絶望的なトラブルEの対策をめぐり、民間会社の協力者・森内 安夫(吉岡 秀隆)とイオンエンジンを担当するJAXA教授の藤中 仁志(江口 洋介)とが激論を戦わすところがその1。

「イオンエンジンが破壊される対策だ」と企業人の価値観を最優先にして主張する森内に対して、藤中は「はやぶさの帰還に一縷の望みを託する。その可能性がる対策を進める」と反論する。
イオンエンジンを研究・開発した同窓の誼が、喧嘩別れした二人の関係を修復させて、森内はトラブルを解決する決断を下します。

このような生々しい二人の激論に、企業人が背負っている重荷を痛感した男性観客も少なからずおられたでしょうが、現役時代の厳しい現実を思い起こす時間でした。企業利益の有無で物事の価値判断をせざるを得ない企業人の苦悩を、吉岡 秀隆は好演しています。

2番目の感動は、Eトラブルの対策に、イオンエンジン燃料のキセノンガスをイオン化せず、中和器から直接噴射させる対策を行い姿勢制御に成功したのですが、緊急作成した回路設計で機能する「キセノン・ジエット」にトラブルが再発しないようにと、山口マネージャーが航空の神様・飛不動へ祈願に詣でた時、(有)東出機械の社長(山崎 努)と出逢い、ふたりがベンチに腰掛けて「かりんとう」を摘むシークエンス。

「はやぶさ」などの試作部品を作っている偏屈な小さな鉄工所社長の苦労を滲ませた山崎 努の清清しい演技と、日本的な発想で物事を考えない人の集団が居心地よいとしながらも、「はやぶさ」のトラブル解決に追い込まれ続け、その苦境と闘っている様子を交えた山口チームリーダーを、何気なく演じる渡辺 謙との絡みには、信念を貫くために降りかかる困難を厭わない大人の味が充満していました。

ちなみに、JAXAの相模原キャンパスには「中和神社」や他神社の御札が展示してありますので、理論を基に物事を進める冷静な科学者も、尽力を尽くした後は、自らの心身を安定させ、癒すために、神社詣でをして大願成就の祈願をしているようです。

川口 淳一郎JAXA教授は、著書の中で、

「やれることはすべてやり尽くした。あとはもう、神仏の力に委ねるしかない。心を落ち着かせ、自分を納得させたい。自分は神頼みしなくてはいけないほど、全力を尽くしたのか」

と自問自答し自己採点する機会にし、「空飛ぶお不動さま」(東京都台東区にある飛不動尊)へ、平成17年の年末にお参りしたと述べています。



東出社長が山口マネージャーの心境を忖度して、山口を励ますセリフは、元気印の胸に滲み込みました。その、東出 博を演じた山崎 努は、「はやぶさ」に出演した動機を語っています。

「はやぶさのように壮大なプロジェクトは、小さな鉄工所のおやじが作ったテスト部品など、職人の手仕事から始まるという感じを持っている。(中略)。娘の真理(夏川 結衣)のことで、親子は似ているところもあるし、反発するところもある。しかし、やはり親は子どもが自立していくことを一番願っている」

このように微妙な親子関係は、映画に充分反映されていますが、

「映画のテーマのひとつに、バトンタッチしていく“順繰り”ということがあると思うんです。我々の世代にできなかったことを次の世代がやってくれると。(中略)。科学というのは諸刃の刃(かたな)ですから、何を次の世代に渡すのか。それも、大きなテーマだと思っている」

この映画のプロジェクト・マネージャーも兼ねている渡辺 謙の狙いは、余すところ無く、元気印に伝わってきました。

今世には古びてしまった諺でしょうが、「人事を尽くして、天命を待つ」心境でしょうか。

「勘所を押さえましたね、元気印さん。技術者としてなすべき努力を尽くしたあとは、人力のいかんともなしえぬものがあります。だから、すべて「天命」に任せるのです。はやぶさチームが、地球帰還までの時間に尽くした努力は、並大抵のものではなかった、と一言で片付けられない。2,592日にも及んだサンプルリターン計画を成功に導いたのは、それぞれの分野における専門家らのプライドでしょう」

本稿の終りに、川口 淳一郎JAXA教授の言葉を、その著書「はやぶさ そうまでして君は」(宝島刊)から引用し紹介します。

『小惑星サンプルリターンに関しては、我々のほうが一歩先に突き抜けました。たった、一つの分野ですが、ここを突破口にすれば、いつか他の分野でも「日本が一番だ」といえる日がくるかもしれません。
 そのためには、今回の成果に「よかった」「がんばった」と浮かれるのではなく、冷静な検証が必要になります。なぜ「はやぶさ」はイトカワにタッチダウンして、地球に帰ってくることができたのか。日本の技術力の高さ。運用チームの経験、知恵、勇気、決断力。それらが重要なファクターでしたが、忘れてはいけないのは、「はやぶさ」が神様に愛されているとしか思えないほど、幸運だったことです』

古稀を過ぎたシニアにとって、明日を生き抜く勇気と希望を与えられる物語であったことは、言うまでもありません。

この映画の感動を倍加している要因に音楽があることを書き忘れていました。
瀧本 智行監督がイメージした、困難、葛藤、達成という3っつのキーワードから、この映画の音楽を作曲した辻井 伸行の旋律には、その時々に「はやぶさ」が背負う宿命を象徴する役割が込められています。
特に、「はやぶさ」が地球に帰還するシークエンスに流れる「達成」を喜ぶ強い旋律には、心を打つものがあります。

付録です。



JAXA相模原キャンパスに展示してあります。








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