玉川上水みどりといきもの会議

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武蔵野市のくぬぎ橋の樹木調査の報告

2021-09-15 21:33:00 | 調査報告

武蔵野市のくぬぎ橋の樹木調査の報告

 

高槻成紀

 

 2021年9月に武蔵野市の玉川上水のくぬぎ橋からその下流の境橋までの間の多くの樹木に赤テープ(伐採予定)と青テープ(剪定予定)が張られていることがわかった。そこで9月15日に約250メートルの南側(右岸)の範囲を、9月16日に北側(左岸)の樹木を調べた。この範囲では南側(右岸)が武蔵野市、北岸(左岸)が西東京市になる。

 

図1. 調査したくぬぎ橋と境橋の範囲

 

<方法>

 調査地は南側はかつて伐採を受けており、道路近くにサクラが点々と植えられており、歩道があって、その上水側に低い柵があり、柵の内側や斜面で雑草類が生えている。上水近くに一列の樹木の列があり、上水を挟んで北側には樹林帯があり、高さ1メートルあまりの柵があって、歩道を挟んで低い柵があり、五日市街道となる(図2)。

図2. 調査地の南北方向の断面模式図。左側が南。

 

 この調査地に巻尺を張り、樹木の位置、樹種、直径、テープの有無、生育地が法面の肩であるか、斜面、平坦地であるかを記録した。

 また南側の樹林下(図3)と草地(図4)の場所の群落調査をした。それぞれの場所に1 mx1 m四方の長作を5つとり、調査区内に出現した植物の被度(%)と高さ(cm)を測定した。これをもとにバイオマス指数(被度と高さの積)を算出し、植物群ごとに指数の合計値を出した。

図3. 樹林下の景観

図4. 草地の景観

<結果>

 南側で90本の樹木が記録されたが、これは他の場所の4分の1程度であり、非常に少ない。これはすでに伐採を受けたためで、現状では歩道に点々とサクラが植えてあるほかは柵の内側の斜面には樹木はなく、法面の肩部に列状に樹木があるに過ぎない。多かったのはケヤキが18本、ヤマグワが14本であった。これらのうち赤テープ、つまり伐採予定の樹木は41本(45.6%) 、青テープ(剪定)が16本(17.8%)であり、テープなしは33本(36.7%)に過ぎなかった。

表1. 南側の樹木の内訳

 

 それらの平均直径を見ると、15-30 cm程度のものが多かったが、サクラだけは平均33.9 cmで、それらは全てテープなしであった。エゴノキ、オニグルミ、ケヤキ、ヤマグワなどに見られるように、細い木にはテープがついていない傾向があった。これは細い木は「目こぼし」されたものと推察された。

 

表2. 南側の対象樹木の平均直径(cm)

 

 これらの樹木が平坦地または斜面にあったか、それとも法面の「肩」にあったかを見ると、69本(76.7%)は肩にあった。つまりそれ以外の樹木はサクラ以外はすでに伐採を受けたということである。

 

表 3. 南側の対象樹木の生育地

 

 北側ではくぬぎ橋ともみじ橋の間にはテープはなく、もみじ橋と境橋の間に集中していた。その本数を見ると表4のとおりで、ケヤキが多く、53.1%にテープが付いていた。

 

表4. 北側の樹木の内訳

 

 ここでもテープなしの樹木は細いものが多く、例外はサクラ(平均33.0 cm)だけだった(表4)。

表5. 北側の対象樹木の平均直径(cm)

 このうち71.7%は「肩」に生育していたが、サクラとケヤキは平坦地に生育していた。

 

表 6. 北側の対象樹木の生育地

 

 

 群落調査の結果を見ると、樹林下に比べて草地はバイオマス指数が約3倍大きかった(図5)。中でも大型双子葉草本と小型イネ科が多かった。大型双子葉草本で大きい値であったのはカラムシとノカンゾウであり、外来種のヒメジョオンも多かった。小型イネ科ではメヒシバが非常に多かった。また、クズ、センニンソウなどのつる植物も多かった。一方、樹林下ではホウチャクソウ、チジミザサのような林にしか生育しない植物があった。

図5. 樹林下と草地のバイオマス指数の比較

表4. 樹林下と草地での各種のバイオマス指数

 以上の結果から、この場所(右岸)は過去にサクラ以外は伐採を受けたが、その時に法面肩部にあった樹木は刈り残されたことを示唆する。現状では法面斜面はメヒシバ、ノカンゾウなど草原的な植物とヒメジョオンなどの外来植物が多い(図6)。

 

図6. 現在の草原的な右岸(右が南)

 

 樹下にはホウチャクソウ、チジミザサなど林内に生育する植物もあるが、今後伐採されればそれらの植物は消失するであろう。また、現在、かろうじて樹林を形成している肩部の樹木のほとんどに赤テープがついており、これらが伐採されれば右岸は直射日光が当たる草原になるのは確実である。そうなると既に小金井の桜並木で現実に起きているように夏の気温が50度にもなる環境となる。そして現在、緑陰をもたらしている上水(図7)にも直射日光が当たるようになる。

 

図7. 左側(南)に樹林帯があるために緑陰がもたらされているが、

その樹木にも赤テープが巻かれている。

 

 そして対岸の左岸にも直射日光が当たるようになり、現状の下層植物にも変化が生じるであろう。そうなれば、鳥類の生息にもマイナスの影響が想定され、玉川上水の生物多様性の保全という意味で大きな問題が生じることが予想される。

 このような意味で、予定されている伐採は回避されるべきであり、少なくともこの10月にも予定されている伐採計画は一時凍結し、その妥当性を再検討すべきである。

 

この調査には花マップネットワークの加藤嘉六氏、桜井秀雄氏の協力を得ました。ありがとうございました。


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