玉川上水の自然に関心を持つ者として最近の樹木伐採は大変気がかりなことです。玉川上水は羽村から杉並までの20キロメートルをつなぐ緑地で、多くの都民が散策やジョギングなどを楽しむとともに、生物多様性の豊かな緑地でもあります。また江戸時代初期に構築された遺跡としての価値も大きなものがあります。この中で小金井市の区画は桜並木としての保存整備が進められ、桜以外の樹木は皆伐されています。このことは生物多様性保存という観点からは大きな問題として見直しが必要だと考えますが、それ以上に問題なのは小金井以外の場所での伐採も強化され、毎年1000本もの樹木が伐採されていることです。そのために1億円もの予算が使われています。
これに対して多くの団体や個人が伐採抑制の要望書を出していますが、ほとんど顧みられない状況です。しかし伐採を担当する水道局が策定した「史跡玉川上水整備活用計画」(H21)には基本的な考え方として1)サクラの保存があるのは当然としても、2)地元自治体や地元団体との協働により実施する、3)樹木が環境や景観に貢献していることなどを考慮し、史跡の保全・ヤマザクラの保護と緑との調和を図る、とされており、2)と3)が遵守されていません。
都市緑地である以上、倒木の危険がある樹木の伐採や、上水ですから法面崩壊となる樹木の伐採が必要であることは理解しますが、現状ではそれ以外の樹木が多数伐採されており、生物多様性の保全はいうまでもなく、緑陰を楽しむ多くの都民にとっても望ましくない景観が拡大されています。
このような状況に対して私たちは科学的な調査に基づき、生物多様性を尊重する植生管理をするよう発信します。またそのためにシンポジウムを開催するなどの活動をします。
この活動を有効なものとするには多くの方の参加が力になりますので、趣意書と会則をご一読の上、参加していただくことを歓迎します。ぜひご検討ください。
玉川上水みどりといきもの会議
代表 高槻成紀
● 関心のある方はどなたでも参加できます。会費は不要です。ぜひ、このブログのコメント欄から申し込んでください。
玉川上水みどりといきもの会議 会則
第一条(名称)
当会は、「玉川上水みどりといきもの会議」と称する。
第二条(目的)
玉川上水は都心につながる貴重な緑地である。当会は現在進められている植生管理を生物多様性の観点から見直し、より良いものにすることを目的とする。
第三条(活動)
当会は第二条の目的を達成するため、玉川上水の動植物の調査、情報収集、情報発信、シンポジウムの開催、行政への働きかけ等を行う。
第四条(会員)
当会は、会の目的に賛同する個人・団体で構成する。会員の参加、脱退には制約を設けない。
第五条(役員)
当会には役員として代表と運営委員を置き、運営委員会を開催する。
第六条(総会)
当会は1年に一度総会を開催し、活動報告、今後の活動を合議する。総会では役員の選出、予算、決算の承認などを多数決により決定する。
第七条(会計)
本会は会計と会計監査を置き、収支を報告する。
第八条(所在地)
当会の所在地は、代表(高槻成紀)の自宅(東京都小平市美園町3-29-2)とする。
第九条(設立年月日)
当会は、2021年1月1日に設立された。
第十条(会則の施行)
本会則は、設立年月日より施行する。
第十一条(会則の変更)
本会則は必要に応じて運営委員会が改定案を作成し、総会に諮り多数決により改定することができる。
2021年1月1日
玉川上水みどりといきもの会議 の設立趣意
玉川上水は東京都を流れる細いながら連続した緑地であり、その貴重さは多くの都民に共有されている。昭和時代の高度成長期に全長43キロメートルのうち、下流の13キロメートルほどは暗渠化されたが、上流の30キロメートルは辛うじて残された。そして戦後75年以上を経過して、樹木が育つ一方、周辺の雑木林や草地が失われる中で、野草などのレヒュージア(避難所)となり、稀少な野草も生育している。玉川上水といっても場所ごとに多様であり、羽村の取水堰から小平市までは豊富な水流があり、下草の管理が行われているが、小平市ではコナラなどの落葉広葉樹が多く、緑陰を形作っている。小金井市は桜並木を尊重した植生管理をし、自然木は抑制されている。井の頭地区では井の頭公園の一部を形成する形で状態の良い林も残されている。
玉川上水は昭和時代の高度成長期には通水を停止して荒廃した時期もあったが、住民の希望を受けて昭和61年(1986年)に清流が復活した。そして東京に残された数少ない緑地としての評価が高まったが、平成20年(2008年)頃からは史跡として水路、法面、小金井桜の保存に力点が置かれるようになった。そして平成23年(2011年)くらいまでは数百本であった樹木伐採が、平成28年(2016年)には4000本に急増し、令和(2019年)に入ると年間1000本程度が伐採されている。
都市緑地の宿命として、住民の安全性が優先される必要があり、危険と判断される樹木が伐採または剪定されることは必要不可欠なことである。しかし同時に玉川上水の樹林が多くの住民に緑陰を提供し、親しまれていることも事実であり、その機能を損なうような樹木の伐採には慎重であるべきであろう。こうした樹林は森林に生育する野草に適した環境を提供し、そこに生息する昆虫、鳥類などの動物にとっても貴重な生息地となっている。そしてそのような生物多様性の豊富な自然が残されていることを住民は高く評価している。過去1、2年ほどで玉川上水の植物を調査している「玉川上水花マップネットワーク」が行ったシンポジウムや「小金井玉川上水の自然を守る会」が主催したシンポジウムに定員を大きく上回る住民が参加したことは、その関心の高さを示している。
現在進められている年間1000本もの樹木伐採が今後も続けられれば、戦後を生き延びた樹林が早晩失われることになるだろう。「史跡玉川上水保存管理計画書」(平成19年、2007年)は、玉川上水の評価として、江戸時代に構築された土木施設・遺構としての価値とともに、地域と共存してきた水と緑の空間としての価値を認めている。そのことからすれば、現行の伐採はその精神が反映されているとは言いがたい。我々はそのことを憂慮するとともに、現行の伐採が何を基準に選定され、その伐採事業に住民の声がいかに反映されているかに多くの疑問を持つに至った。
そのため、玉川上水の自然に関心を持つ個人や団体の意志を結集し、関係組織に住民の声を伝えることにより、玉川上水の今後の植生管理、特に樹木伐採のよりよいあり方に貢献したいと考えている。活動としては住民の意識を反映し、また玉川上水の自然の素晴らしさや価値を共有するためにシンポジウムを開催したり、生物多様性の維持、回復のための要望書を関係組織に提出したりする。必要に応じて、玉川上水の生物多様性に関わる調査を行い、科学的な情報に基づく情報を得ることで、客観的な提言を行う。また状況に応じてマスコミに協力を依頼することも必要であろう。
これまで先人の英断により残されてきた玉川上水は史跡としての価値も、また都市に残された緑地としての価値も大きい。玉川上水に親しみを感じ、今後も良い状態で続いて欲しいと願う住民は多く、そのために活動している個人、団体も少なくない。しかし、現状を鑑みれば、そのような多くの思いを結集し、大きな声にする必要がある。それにより、玉川上水をよい形で次世代に引き継ぎたい。
本会は2021年1月1日に発足しました。その経緯を説明しておきます。
代表の高槻は玉川上水の野草を観察し、「玉川上水花マップ・ネットワーク」として記録してきましたので、玉川上水の樹林伐採については関心を持ってきました。その中で2020年3月に小金井で太いケヤキの伐採痕を見て衝撃を受けました(こちら)。高槻は小平市在住なので、玉川上水に林があることに素晴らしさを感じています。そこが小金井市のように、桜以外の木は全伐するような管理にされては大変だと思い、いくつかの団体の協力も得て、その趣旨の要望書を小平市と東京都に提出しました。ところが、その後、小平市の喜平橋の東側の樹木に大量の赤テープが巻かれ、伐採予定であることがわかりました。これらには樹木が倒れるとか、法面を崩壊させるなどの心配がないものが多数含まれており、その辺りには一本しかないような樹木もあるので、伐採を見直すよう申し入れをし、ほぼ受け入れてもらうことができたということもありました(こちら)。ただし玉川上水全体としては年間1000本もの樹木が伐採されているという現状は変わっていません。
こうした私たちの動きに呼応して、小金井市の「こだまの会」(小金井玉川上水の自然を守る会)と意見交換をすることがありました。こだまの会は名勝小金井桜だけではなく他の樹木も共存できる管理の仕方を求めて行政に働きかけをしてきました。また同じ小金井市の「はけ文」(はけの自然と文化をまもる会)とも接点ができ、講演会をする機会がありました。「はけ」の保護と、都市計画道路の見直しを求めて活動しています。
花マップには杉並や井の頭などをベースに観察するメンバーもおり、以前から玉川上水の樹林伐採に疑問を持っていました。また井の頭自然の会の鈴木浩克さんとも意見交換をするようになりました。
私たちは玉川上水の生物多様性を重視し、玉川上水についての正確な情報を得ること、科学的な調査に基づいた発信をすること、市民の声を行政に反映することなどを重視しています。玉川上水の管理計画も正確に読めば、地元の声の尊重や生物多様性の価値も謳っているのですが、それが軽視されているのが現状です。
こうした動きの中で、各団体が個別に要望書を出すという形よりも、まとまって発信をした方がよいという声が強くなってきました。
そこで会の名前、趣旨、会則、代表などを相談して決定し、発足に至りました。これからは、玉川上水に関心を持つ多くの人に参加してもらい協力し、玉川上水の自然と歴史的価値を共存させ、次の世代に引き継ぎたいと思っています。