玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します。

野鳥調査 5月

2021-05-23 22:00:24 | 調査報告

玉川上水の鳥類調査報告―2021年5月23日―

 

大石征夫・大塚惠子・大出水幹男・尾川直子・鈴木浩克

高槻成紀・田中 操・永添景子

 

玉川上水の杉並、三鷹、小金井、小平の4カ所で2021年1月から植生と鳥類の対応を調べている(1月、3月中旬下旬)。目的や方法などは既報と重複するので略すが、植生は三鷹と小平が森林があり、杉並がこれに次ぎ、小金井は林がなくてサクラが間隔を置いて植えられているという違いがある(図1)。今回はその継続として2021年5月23日に行った。今回は緑が濃くなり、カラ類、カラス類の幼鳥が確認された。杉並は大塚、田中、三鷹は鈴木、小金井は大石、小平は大出水、尾川、高槻、永添が担当した。調査時間は午前7時から開始し、所要時間は45分から1時間半とした。

 

図1 調査地の景観。カッコ内は撮影者名。

結果

<種数、羽数、多様度>

 種数は小金井が最少の10種、杉並と小平がこれに次ぎ、三鷹が19種と最多であった(図2)。

図2 出現種数の比較

 

 合計羽数は三鷹と小平がそれぞれ147羽と145羽と多く、杉並が132羽、小金井が最少の100羽であった(図3)。

 

図3 合計羽数の比較

 

 これらをもとに多様度指数を算出したところ、三鷹と小平が3.7と3.5と高く、杉並が3.0で、小金井が2.8と目立って小さかった(図4)。

 

図4 多様度指数の比較

 

<代表的な鳥類>

4カ所の合計羽数が多かった鳥類を森林にいる鳥類とオープンな場所にもいる種に分けて、場所の比較をすると、森林にいる鳥類はシジュウカラが小金井以外で多く、エナガとメジロは三鷹で多く、小金井では非常に少なかった(図5a)。オナガは杉並で多かった。

 

図5a 代表的な森林生の鳥類の羽数の場所比較

 

 オープンな環境にもいる鳥類では場所ごとに違いがあった(図5b)。杉並ではムクドリ、スズメが多かった。三鷹ではムクドリが少なく、ハシブトガラスとヒヨドリが多かった。小金井ではムクドリ、ハシブトガラス、スズメ、ハシボソガラスなどが多かった。小平ではヒヨドリが多かった。このように、森林の鳥類が多い三鷹と小平では内容的に違いがあった。

 

図5b 代表的なオープンな環境にもいる鳥類の羽数の場所比較

 

<生息地の状態と鳥類>

記録された鳥類を森林にすむ種、オープンな場所にもいる種、水辺にいる種に分けると、小金井だけが他の場所と違い小さかった(図6)。水鳥は三鷹で少数が記録された。

 

図6 森林にすむ鳥とオープンな場所にもいる鳥の割合

 

 玉川上水の緑地の「内側」にいた鳥類の割合(%)をみると、小金井だけが目立って小さかった(図7)。

 

図7 玉川上水「内側」にいた鳥類の割合

 

<考察>

 4カ所のうち小金井が種数、羽数、多様度指数、「内部」率がもっとも小さかった。これまでの調査でもほぼ同じ傾向があった(ただし3月下旬は杉並でヒヨドリが多かったために多様度が低かった)。生息地の植生管理との関係を考えると、小金井地区ではサクラだけを残し、他の樹木を伐採したために、鳥類にとってすみにくくなって種数、端数ともに減少したと考えられる。ことに森林性の鳥類の減少が著しかった。このことは、樹木の量と多様性を減少させると、鳥類の数と多様性が減少することを示唆する。

この点は今回も同様であったが、今回はカラ類などの巣立ちシーズンであった(付図1)。カラ類は子育てのために幼虫類を供給する。その回数は1日に200回とも言われる。そのため、幼虫が育つ森林があるかないかは食物供給という意味で重要な意味を持つ。同時に、林床に低木や草本があることも重要であるから、下草が除去されることはマイナスとなるであろう。餌となる小動物は草食性の幼虫に限らず、クモ、多足類、ミミズ類などもあり、落葉樹のリターが供給されて、腐葉土があることも重要である。

育雛期の鳥類にとって食物供給とともに重要なのは危険の回避である。このため樹木の葉が茂っていること、低木類が豊富であることも重要である。今回、小平や三鷹の鳥類の多様度が高かったことは、豊かな森林に裏付けられているためであると考えられる。逆に小金井ではカラ類が極端に少なかった。他の場所では巣立った幼鳥が確認されたが、小金井では繁殖していないか、していても限定的だと思われ、森林の鳥類の繁殖にとってサクラが孤立して植えられ、下生えが乏しい環境は不適切であることを示している。

 今回の調査結果を含め、玉川上水の植生の状態が鳥類の生息に影響を与えていることは確かなようであり、さらに継続して調査したい。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

付図1 観察された幼鳥。エナガの幼鳥はまぶたが赤い(成鳥では黄色い)。シジュウカラ2, 3:丸まった葉から昆虫の卵を取り出して食べる。給餌を受けながらも、自力で餌を発見し捕食する練習をしている。カッコ内は撮影者名

付図2 野鳥の様子など(大塚撮影)

 

 

 


玉川上水は学びの宝庫

2021-05-03 16:25:28 | エッセー

玉川上水は学びの宝庫

岸 國男

 私が小平市のある小学校で授業支援のボランティアをするようになってほぼ11年になります。その間、この小学校では、1年生から6年生までの児童に対して、玉川上水を郷土の誇りとしてさまざまな工夫をして授業に取り込んでいます。子どもたちにとっても玉川上水はかけがえのない大事な有形・無形の学びの場になっています。

 この活動には地域住民からなる12名ほどのボランティアの方が関っています。2019年度には小学校主催で、高槻先生を講師としてお迎えして 6年生「玉川上水の生物多様性」をテーマに授業をし、また保護者・近隣住民向け講座「玉川上水の生きものたちと私たち」を実施しました。

 これまでの授業支援の一部を紹介したいと思います。

1・2年の低学年では、遊びの要素を多く取り入れた玉川上水の自然に親しむ授業を展開しています。私はある時、「玉川上水・新堀用水で遊ぼう」で 「マユミさん」と子供たちに呼びかけました。すると「ハ~イ」と手をあげた子がいました。そこで、「この花の名前は、”マユミ” だよ」と言うと、別の子供が「うちのお母さんもマユミだよ」と嬉しそうにいいました。このような印象付けをしながら観察しています。

 

木の太さを調べよう。一年生

 

ザリガニ探し。二年生

 

 また、高学年の環境に関する授業支援で、雑木林の効用について話をしたことがあります。授業前日に枝にビニール袋をかぶせ密封しておきました。

ビニール袋をかぶせた枝

 

そして、授業当日、そこの場所へ引率し、子どもたちに玉川上水緑道と市街地道路の暑さについて尋ねますと、緑道の方が涼しいとほぼ全員が答えます。そこで私は内側に水滴のついたビニール袋を見せながら、「なぜ内側に水滴ついていると思う?」と尋ねました。このように気化熱について話し合いをしました。高学年では、このように教科を意識した実験的支援を玉川上水の緑の中で行っています。

 昨年度はコロナ禍のもとでほとんどの授業支援はできないまま年度末を迎えようとしていましたが、今年の2月17日に6年生担任から「学習:総合的な学習の時間「SDGs〜自分たちにできることを発信しよう〜」をテーマとした学習支援の依頼が来ました。

 事前に担任の先生から子供たちの狙いをお聴ききし、以下の2テーマに絞り、話し合いました。

1.玉川上水にいる生き物で今、いなくなってしまったもの

玉川上水を3の時代(上水道・空堀・流水復活)に分けて話し合いました。

2.今後守り続けていきたい生き物 など 

ここでは外来種の問題と、小金井桜とかいぼりを例として話し合いました。ここでは、

担任の先生に「玉川上水みどりといきもの会議」のブログにある「コブシついて」(高槻先生)を紹介しました。その際、子どもたちが小金井市民へ対する非難のように理解する懸念があることから、中立的立場から要約して子どもたちに伝えてほしいと付け加えました。また、外来種については、井の頭公園のかいぼりと小平市水と緑と公園課によるツツジ公園池のかいぼり等の実例を紹介しました。

 最後に「こだいら水と緑の会」発行の「小平の用水路」から以下を引用して話し合いを締めくくりました。

 私たちのまわりに鳥や昆虫、魚などのいろいろの種類の生き物がたくさんいることはとても大切なことです。生き物が生きてゆくためには生活しやすい自然環境がなくてはなりません。森や草原や水の流れなどの変化にとんだ自然があって、初めていろいろな生き物たちが生活できます。このように豊かな自然がありそこにはいろいろな生き物が生きていることを「生物多様性」と言います。小平の用水路は、「生物多様性」を学ぶことのできる場所でもあります。


玉川上水の野鳥について 大塚惠子

2021-05-01 16:37:46 | エッセー

大塚惠子

 三鷹市下連雀の萬助橋(井の頭公園)から杉並区久我山の浅間橋までの玉川上水が、私の自然観察や調査のフィールドです。10年以上前からこの玉川上水で自然観察を行っていますが、始めて間もなく玉川上水整備活用計画や放射5号自動車道路の整備計画が進みました。周辺も含め環境の改変が激しく、生息する生物にも多くの影響がありました。

 玉川上水とその周辺の魅力はなんといっても水の流れと畑や草原・林・森が連続し、生き物の通り道(回廊)になっていることです。いきもの会議のロゴマークになっている水と緑と土がそこにはあります。さまざまな植生には、いろいろな鳥類が棲み分け季節移動もみられます。多くの方と共に身近な地域の探鳥を楽しんできました。

 水辺には、水鳥はもちろんのこと、他の小鳥も水飲みや水浴びにもやってきます。玉川上水の両岸の林は、生物多様性の宝庫です。生態系ピラミッドの頂点であるオオタカも生息している豊かな環境です。絶滅危惧種のミゾゴイやブッポウソウなど稀少な野鳥も渡りの途中の中継地として羽根を休めることがあります。自然が育む食べ物と安心できる休息場所があるので、四季を通じて入れ替わり立ち替わりさまざまな野鳥が立ち寄ります。常緑樹の茂みや薮などは、多くの野鳥が羽根を休めたり、捕食者から隠れる場所にもなります。

 玉川上水に生える多種多様な植物が多様な昆虫を育むおかげで、それらを餌とする野鳥が集まります。また、エノキ・ムクノキ・ミズキ・サクラ類・ケヤキ・ナラ類・エゴノキなどの樹木は野鳥が好む実をつけるので、ツグミ類・ハト類・ヤマガラ・ヒヨドリ・ムクドリなど木の実を食べる鳥が集まります。舗装されていない土の道には、地面を掘り返して虫を探すツグミ類や、地面に落ちた種子を食べるアオジ、シメなどが見られます。アオゲラは枯れ木をつついて昆虫を捕らえます。このように、少し気にかけてみると、共に暮らす野鳥の姿や声がそこにあります。

 生息する野鳥の種類や羽数から環境の変化・生物多様性の増減もわかります。かつては畑や藪のある広い環境が上水の周辺にはありました。そうした場所にはモズやジョウビタキがあちこちで見られたものですが、今ではごくわずかになってしまいました。これは、他の鳥でも同様で、玉川上水や道路の整備が行われる以前には、秋から冬にかけての上水沿いでウグイスの「チャッ、チャッ」という地鳴き声が20羽以上も聞かれましたし、シロハラ、アオジ、ルリビタキなど冬鳥の渡去前の囀りは格別で、春が来たことを告げてくれます。春の渡りの時期には、オオルリやキビタキ・センダイムシクイなど渡り途中の夏鳥たちが囀って、まるで山林のコーラスのように聞こえました。しかしながら、このような野鳥たちは最近めっきり少なくなってしまいました。囀りの聞かれる朝をいつまでも楽しみたいと思います。

 

これも以前に比べて減っていますが、シジュウカラやエナガなどの小鳥類は、初夏に巣立ったばかりの若鳥を安全な上水の茂みに連れてきます。家々にはさまれた緑道を歩いて観察していると、若鳥の入った群が間近に寄ってくることがあり楽しいものです。オシドリ夫婦が樹洞のある太い木で営巣場所を探していたこと、雑木林の下でイカルやシメの大群が採餌していたこと、屋敷林の茂みにコルリの囀りが、上水のせせらぎにミソサザイやキセキレイの囀りが響いたこと、こうした数々の出会いの思い出は私の宝物です。昔の玉川上水の状態に完全には戻れませんが、できうる限り自然を再生回復させて、後世の人々が恵みを受けるように、努めていきたいと思います。

 


小金井桜についての東京新聞の記事

2021-05-01 08:42:16 | 資料

「東京新聞」の「名勝小金井桜 復活の光と影」

上 2021.4.30  こちら 

中 2021.5.1  こちら 

下 2021.5.2 こちら 

 

 この一連の記事では、「上」で桜派の主張が、「中」で自然派の考えが紹介され、その最後には亀山氏の見解が書かれました。そして「下」で今後のことに触れ、小平市は桜並木復活に消極的であることが書かれました。

 構造的に言えば、両者の立場を客観的に出して今後のことを考えさせるような作りになっており、その意味では「噂の東京マガジン」と共通していると言えます。

 「中」で書かれた表現は「自然破壊」などやや強い調子で、我々はそれほど強行ではなく、現実を踏まえ、目に余る皆伐は抑制してほしいと言っているのですが、対立図式にするためにはやや強調するものになるのだと思います。

 私自身はこの記事を評価したいと思います。というのはこれまでの新聞記事の多くは(すべてかもしれない)、小金井桜を称賛し、桜あっての玉川上水だと言わんばかりでした。もしかしたら、玉川上水の価値は自然そのものにあると伝えたのはこの記事が最初かもしれません。しかし、普通の人にとって「自然のにぎわい、多様さ」が大切だというのはごく当たり前のことです。むしろ小金井桜こそ玉川上水のあるべき姿だという主張の方が偏っていると言えます。その当たり前のことを記事にしたという意味で価値があると思います。

 おそらく - そして望むらくは - この当たり前の多様性の評価が徐々に取り上げられるようになる時代が確実に来るだろうと思います。 高槻成紀


「噂の!東京マガジン」の感想をどうぞ

2021-05-01 07:41:46 | 最近の動き

2021年4月18日(日)の「噂の!東京マガジン」で玉川上水を取り上げてもらいました。ご覧になった方は感想をお寄せいただければ幸いです。下の「コメント」または以下のサイトにお送りください。

https://forms.gle/cAQA8tt8BQhiZJ3fA

ご意見は当会で集計し、このブログで紹介(無記名)させていただきます。