玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します。

玉川上水の鳥類調査―2021年3月28日―

2021-03-28 10:43:06 | 調査報告

 

玉川上水の鳥類調査報告―2021年3月28日―

 

大石征夫・大塚惠子・大出水幹男・尾川直子・鈴木浩克

高槻成紀・高橋 健・松井尚子・水口和恵

 

玉川上水の4カ所で植生と鳥類の対応を調べており、目的や方法などは既報と重複するので略す。

調査は2021年3月28日に行い、杉並は大塚、高橋、三鷹は鈴木、小金井は大石、小平は大出水、尾川、高槻、水口、松井が担当した。調査時間は午前7時から開始し、所要時間は45分から1時間半とした。

 

結果

<種数、羽数、多様度>

 種数は小金井が最少の11種、杉並と小平がこれに次ぎ、三鷹が21種と最多であった(図1)。

図1 出現種数の比較

 

 合計羽数は杉並が249羽と非常に多く、小平と三鷹がこれに次ぎ、

小金井はわずか45羽であった(図2)。

 

図2 合計羽数の比較

 

 これらをもとに多様度指数を算出したところ、三鷹が最大で、杉並が目立って小さかった(図3)。

 

図3 多様度指数の比較

 

<代表的な鳥類>

4カ所の合計羽数が11羽以上であった鳥類について、場所の比較をすると、森林にいる鳥類はシジュウカラが小平と三鷹で多く、メジロは三鷹で多く、そのほかも小平が多かったが、小金井では非常に少なかった(図4a)。

 

図4a 代表的な森林生の鳥類の羽数の場所比較

 

 オープンな環境にもいる鳥類では、杉並のヒヨドリが154羽と際立って多かった。これはサクラの花で吸蜜をするために集中していたからである。ヒヨドリは羽数は杉並ほどではないが、小平でも多く、小平ではムクドリ、ハシブトガラス、ドバトなどもある程度の羽数が記録された(図4b)。小金井ではオープンな鳥も少なかった。

 

 

図4b 代表的なオープンな環境にもいる鳥類の羽数の場所比較

 

 ヒヨドリだけを取り上げて比較すると杉並だけが特別に多いことがわかる(図5).

 

図5. ヒヨドリが占める割合

 

<生息地の状態と鳥類>

記録された鳥類を森林にすむ種、オープンな場所にもいる種、水辺にいる種に分けると、杉並では大半がオープンな場所にいる種であり、小金井がこれに次ぎ、小平ではオープンな場所にいる種が41%であり、三鷹ではそれぞれが半々であった(図6)。水鳥は三鷹で少数が記録された。

 

図6 森林にすむ鳥とオープンな場所にもいる鳥の割合

 

 玉川上水の緑地「内側」にいた鳥類の割合(%)をみると、小平で最も大きく、杉並がもっとも小さかった(図7)。3月上旬の場合は小金井が最小であったが、今回は杉並が最小であった。これは、玉川上水の「外側」にサクラが多く、ここで多数のヒヨドリが吸蜜をしていたためだと考えられる。

 

図7  玉川上水「内側」にいた鳥類の割合

 

<考察>

 1月と3月上旬に行った調査では4カ所のうち小金井が種数、羽数、多様度指数、「内部」率がもっとも小さかった。このことから、小金井地区ではサクラだけを残し、他の樹木を伐採したために、鳥類全般が減少したと考えた。このことは、樹木の量と多様性を減少させると、鳥類の数と多様性が減少することを示唆する。

今回も種数と羽数は小金井が少なく、貧弱であったが、多様度と「内部」率は杉並が最小であり、森林にすむ鳥類の割合も杉並が非常に小さかった。これはヒヨドリの羽数が全体の61.8%を占めるほど多く、その66%が「外部」にあったサクラに集中していたためである。ヒヨドリが集中的に見られたのは浅間橋の上流200 mほどのところで、ここにはサクラの老木が20本ほどあり(図8)、付近にヒノキもあって、ヒヨドリはサクラの花を食べてはヒノキに止まる動きを繰り返していた。

 

図8. ヒヨドリが集中していた桜の木(杉並地区、大塚撮影)

 

今回の杉並でヒヨドリが特に多かった結果は、ヒヨドリがサクラの開花に反応したためと考えられる。

サクラは小金井でも多いのに、杉並ほどヒヨドリが多くなかった理由はよく分からない。理由としては、1)玉川上水に隣接して交通量の多い五日市街道があり(図9A)、ヒヨドリにとって好ましくない環境である、2)小金井にはサクラの大樹もあるが、若くて花が少ない若木が多く(図9A)、食物資源としてさほど価値が高くない、3)低木類が除去されたために安心できない(図9B)、また3)小金井公園などにも多数のサクラの大樹があり、ヒヨドリがそちらに行って玉川上水に集中しなかった、などの可能性が考えられる。

 

図9. 調査翌日の小金井地区の景観.

A: 陣屋橋西、B:関野橋東(2021年3月29日、高槻撮影)

 

今回の調査結果を含め、玉川上水の植生の状態が鳥類の生息に影響を与えていることは確かなようである。その内容は大きくは森林の有無という構造上の違いがあり、それに植物の開花というフェノロジー(生物季節)も影響するようである。今後渡り鳥の到来や繁殖行動など、鳥側のフェノロジーも関係して変化する可能性があり、さらに継続して調査したい。

 

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

付図 観察された鳥類。ヒヨドリは嘴に花粉が付いている。ヒヨドリ、アオゲラ、カワラヒワは大塚、カワセミは高槻が撮影。

 


鳥類調査 2021年3月中旬

2021-03-14 23:35:52 | 調査報告

玉川上水の鳥類調査報告―2021年3月中旬―

 

大塚惠子・大出水幹男・尾川直子・黒木由里子・

鈴木浩克・高槻成紀・高橋 健・水口和恵

 

 玉川上水は東京を流れる貴重な緑地だが、植生の管理や元々の樹林の状態などにより、場所によって植生が大きく違う。この調査は玉川上水の、このような植生管理の違いが鳥類に影響を与えているかどうかを明らかにすることを目的とした。

選んだ4カ所は東から、杉並区、三鷹市、小金井市、小平市である。杉並は最も都心寄りであり、上水の緑地の幅は狭いが、状態の良い林も残っている。三鷹には井の頭公園があり野鳥保護の林もあるため、緑地の幅が最も広く、常緑樹林もある。小金井はサクラだけを残す管理をしているため、開けた場所が多い。小平には雑木林のような良い状態の林が残されており、緑地の幅も広い(図1)。

図1 鳥類調査をした玉川上水4カ所の景観

 

 調査は2021年3月14日と15日に行い、杉並は大塚、黒木、高橋、三鷹は大塚、小金井は鈴木、小平は大出水、尾川、高槻、水口が担当した。それぞれの場所で1.6 kmの調査範囲をとってゆっくり歩きながら発見したり、声を確認した鳥類の種類と羽数を記録した。玉川上水とその両側の緑道で植生が連続する部分を「内側」とし、それより外側の家屋や道路などがあって緑地が不連続になる部分の概ね30 mほどに鳥類がいたら「外側」として記録した。調査時間は午前7時から1時間から1時間半とした。

 

結果

<種数、羽数、多様度>

 種数は小金井が最少の12種、杉並と小平がこれに次ぎ、三鷹が21種と最多であった(図2)。

図2 出現種数

 

 合計羽数は三鷹と小平が150前後と非常に多く、小金井はわずか37羽であった(図3)。

 

図3 合計羽数の比較

 

 これらをもとに多様度指数を算出したところ、三鷹が最大で、小金井が最小であった(図4)。

図4 多様度指数の比較

 

<代表的な鳥類>

 4カ所の合計羽数が10羽以上であった鳥類について、場所の比較をすると、森林にいる鳥類はシジュウカラ、ヤマガラなどのカラ類が小平と三鷹で多く、小金井では非常に少なかった(図5a)。メジロ、ウグイスのような藪や常緑樹を好む鳥類は三鷹で多かった・

図5a 代表的な森林生の鳥類の羽数の場所比較

 

 オープンな環境にもいる鳥類では、ヒヨドリ、ハシブトガラス、ハシボソガラスなどは小金井で目立って少なかったが、ムクドリは小金井で多かった。杉並ではヒヨドリ、ハシブトガラスは三鷹、小平よりは少なかったが、ドバトとスズメは他の場所より多かった(図5b)。

図5b 代表的なオープンな環境にもいる鳥類の羽数の場所比較

 

<生息地の状態と鳥類>

 記録された鳥類を森林にすむ種、オープンな場所にもいる種水辺にいる種に分けすると、杉並と小金井ではオープンな場所にいる種が多く、三鷹と小平ではそれぞれが半々であった(図6)。水鳥は多くないが、小平だけがやや多かった。

図6 森林にすむ鳥(林)とオープンにもいる鳥の割合

 

 玉川上水の緑地「内部」にいた鳥類の割合(%)をみると小平で最も大きく、小金井が目立って小さかった(図7)。

図7 玉川上水「内部」にいた鳥類の割合

 

<まとめ>

 1月に行った調査でも基本的に同様の結果が得られたが、4カ所のうち小金井が種数、羽数、多様度指数がもっとも小さかった。また、「内部」にいる鳥の割合も最小であった。このことは小金井地区でサクラだけを残し、他の樹木を伐採するために、森林にすむ鳥類が少なくなったためと考えられる。それだけでなく、オープンな場所を好む鳥類も少なく、これらの鳥類にとってさえ、樹木も下草もない状態は退避場所も乏しい、すみにくいことを示していた。このように小金井におけるサクラを優先し、他の植物を皆伐する植生管理は鳥類の多様性にマイナスであることを示していた。このことを確認するために今後も調査を継続したい。

なお今回の調査で、三鷹ではオオタカ、小平ではカワセミなど生態系の上位種が、また小金井では侵略的外来種のガビチョウが確認された。

 

付図 撮影された鳥類(大塚惠子・豊口信行撮影)

 

付表 4カ所における鳥類記録羽数。F:森林、O:オープン、W:水環境

 

 

 

 

 


アンケート 小金井市議候補へ

2021-03-12 11:16:22 | 最近の動き

2021.3.12       

                

玉川上水と小金井桜に関するアンケート結果報告

                                                                                              

玉川上水みどりといきもの会議では、令和3年3月21日執行の小金井市議会議員選挙に先立ち、2月20日時点で立候補予定を公表されている31名の方に玉川上水と小金井桜に関するアンケートをお願いし、下記28名の方から回答をいただきました。ご協力ありがとうございました。

回答はこちらをごらんください(全て回答の着順)

《回答の着順》    

志垣竜一 (無所属・自由民主党推薦)                                              

百瀬和浩(日本維新の会)                                                                       

高木真人 (無所属)                                                                                

五十嵐京子 (無所属・自由民主党推薦)                                                      

白井とおる(無所属・小金井をおもしろくする会)                                             

水谷たかこ(無所属・小金井をおもしろくする会)                                             

渡辺大三(情報公開こがねい)                                                                  

村山ひでき(無所属・みらいのこがねい)                                                      

鈴木しげお(立憲民主党・みらいのこがねい)                                                

岸田正義(立憲民主党・みらいのこがねい)                                                  

沖浦あつし(無所属・みらいのこがねい)                                                      

永鳥太郎(無所属・小金井をおもしろくする会)                                               

藤田ひろし(無所属)                                                                                

宮下まこと(公明党)                                                                               

小林まさき(公明党)                                                                               

渡辺ふき子(公明党)                                                                              

安田けいこ(こがねい生活者ネットワーク)                                                   

湯沢綾子(自由民主党)                                                                              

吹春保隆(自由民主党)                                                                           

清水がく(自由民主党)                                                                             

遠藤百合子(自由民主党)                                                                        

片山かおる(無所属・市民といっしょにカエル会)                                             

坂井えつ子(無所属 緑・つながる小金井)                                        

森戸よう子(日本共産党)                                                              

水上ひろし(日本共産党)                                                              

たゆ久貴(日本共産党)                                                                          

寺内だい作(日本共産党)                                                                        

篠原ひろし(改革連合)                                                                                


日本自然保護協会との意見交換会の記録(抄)

2021-03-05 18:23:47 | 最近の動き

日本自然保護協会との意見交換会の記録(抄)

* 内容については日本自然保護協会から公表の了解をもらっています。

2021年3月5日13:30より日本自然保護協会において、本会と協会の亀山章理事長と高川氏との意見交換会が行われた。当会の参加者は以下の12名であった。

足達千恵子、大石征夫、大塚惠子、小口治男、加藤嘉六、漢人明子、高槻成紀、田中利秋、橋本承子、松山景二、横須賀雪枝、リー智子

 

 自己紹介の後、高川氏から協会と玉川上水との関係について説明があった。この10年ほどの間、ラムサール条約関係、ユネスコ関係で支援するなど玉川上水を評価する活動をしてきたとのことであった。その後、指名があったので高槻から以下の内容を資料を用いながら伝えた。

「当会が重視しているのは、玉川上水全体の今後がより良いものであってほしいということです。そのためにはNACS-Jが玉川上水を東京都に残された貴重な自然であるとの価値観を共有することが不可欠です。NACS-Jの定款中の目的には<生物多様性の保全に努める」そして「現代及び後代にわたる自然環境の保全に貢献する>と明記されています。このことはまさに我々の目的と軌を一にするものです。この点を確認させてください」

 これに対して理事長から「もちろんそのつもりです」との返答があった。

また、玉川上水の回廊としての連続性、雑木林的な豊かな自然があることなどを説明し、これについては会員からも鳥類(大塚氏、田中氏)、蝶類(リー氏)などの豊富さが説明されたほか、環境教育の場としての利点(松山)も説明された。

また、玉川上水についてシンポジウムを企画したいとの提案についても協力するとの回答を得た。

 

 小金井桜について当会は次のように説明した。

「小金井桜を文化遺産として残すべきという考え方は理解しますが、それを拡大する動きは玉川上水の生物調整保全のために阻止すべきと考えます」として、玉川上水の新旧の写真、小金井市議候補者へのアンケート調査とその結果を紹介し、多様性保全の意見がかなり多かったことを報告した。続けて「しかし、現状では年間1000本もの樹木が伐採されており、このペースで伐採が続けば玉川上水全体の樹木が大幅に減少することが憂慮されます」として水道局の資料をグラフ化し、予算や伐採本数の推移を示した。「小金井地区の問題とは別に、玉川上水全体でのこの強度伐採を阻止するためのアドバイスをいただきたい」と発言した。

 橋本氏から小金井市で伐採が行われたために、生物にとってだけでなく人の住環境としても劣化したこと、大塚氏から小金井市での強い伐採、コブシが切られたことが悲しかったこと、横須賀氏が、今回の強い伐採に小金井市民は衝撃を受け、悲しんでいることが伝えられたら、亀山理事長からは農工大教授として名勝復活に関わってきたが、このような伐採に対する批判的な意見はこれまで聞いたことがないとの返答があった。これに対して橋本氏と加藤氏から玉川上水ネットワークや小金井玉川上水の自然を守る会は10年ほど前からこれまで何度も伐採に対する批判を小金井市に訴え続けてきたと発言があった。

 これらについて亀山理事長からは、小金井市の計画はすでに終わり、小平市よりの部分だけが残っているが、小平市や武蔵野市は積極的ではないと発言があった。

 高川氏からは、文化財保護法は現状維持を基本とし、これまでも変更がないため、桜保存が必要となればそれを変更することはできないという説明があった。

 亀山理事長から準備した資料説明について以下の補足発言があった。「雑木林」という発言があったが、これは小平市にはあるが小金井市にはなく、ケヤキばかりである。ケヤキ林は生茂ると暗くなってニリンソウはなくなるから、適度な伐採が必要である。玉川上水は史跡であり、史跡を守るのであれば、植物が生い茂るに任せると、落葉落枝で玉川上水が潰れてしまうら小金井市ではケヤキを切って玉川上水を残した。そして、委員会では江戸時代の浮世絵に見るような桜の状態に戻すことを目指した、今の伐採跡は殺伐としているが、時間がたてば桜の下に野草も戻ってくる。

 

 高槻は、直接理事長と面談ができて、当方の考えや主張が伝えられ、また協力を得られることが確認できて有意義であったとお礼を言った。

 最後に高川氏から、日本自然保護協会は自然も守るが文化財も守るという発言があり、散会した。

 

まとめ

  • 玉川上水みどりといきもの会議と日本自然保護協会は玉川上水をより良く保全して次世代に引き継ぐために多様性を重視するという共通の見解を持つことを確認した。
  • 近い将来玉川上水についてシンポジウムを開催することに協力いただけることを確認した。
  • 本会は小金井市に典型的に見られる強度伐採が続くことを懸念するが、日本自然保護協会は小金井桜は文化財として保護する必要があると考えると表明された。

 

(文責:高槻成紀)

 

 


子らの未来に残したいものは ー伐採されたコブシの木に寄せてー

2021-03-03 18:13:46 | エッセー

2021.3.3

子らの未来に残したいものは ー伐採されたコブシの木に寄せてー

 

安河内 葉子

 

 2016年に小金井市の玉川上水沿いに引っ越してきました。玉川上水は、都心にほど近いにもかかわらず30kmにも及ぶみどりの回廊です。子どもにそのような環境のすぐ近くで育ってほしいと思い、引っ越しを決めました。当時の小金井市の玉川上水は、小金井公園正面口付近500mほどの間だけ樹木が少なく、それ以外の場所ではケヤキやムク、エノキ、クワなどの大木が残っていました。のちに樹木の少ないその場所は小金井サクラ復活事業のモデル地区であることを知りましたが、その頃は何年か待てばこの辺りも他の場所のようにみどり豊かになるだろうと考えておりました。

 小金井に越してきた翌年、高槻成紀先生が代表を務める玉川上水花マップの植物調査に参加するようになりました。玉川上水で見られる様々な種類の木々や草花、その季節折々の姿、植物を頼りに生きるいきものたち、たくさんのことを勉強させていただきました。調査で学んだことは子どもにも伝えました。はじめは自然に興味を持たなかった子どもも、少しずつ理解できるようになりました。よく実のなるクワの木をみつけ、習い事の帰りに友達と一緒に食べて帰ってきたりもしていました。

 そんな数年間の間に、小金井橋から梶野橋の2kmほどの区間で伐採はだんだんと進みました。そしてついに、昨年度の冬は小金井橋から陣屋橋、今年度の冬は陣屋橋から梶野橋までの区間において、サクラとツツジ以外の木が、わずかなモミジやマユミを残してなくなってしまいました。梶野橋から西を望めば、遠くの山々が見えるほどにひらけています。足元の法面を見れば、切られたばかりの生々しい切り株が並んでいます。

 我が家のすぐそばにあったコブシもまた、切られた木のうちの一本です。毎年春先にたくさんの白い大きな花が咲き誇っていました。

 

 

 今年も枝いっぱいに花芽をつけ、春を待っていました。

 ところが、この木にも伐採予定の赤いテープが巻かれました。伐採の数日前、なんとか伐採を見直してもらえないだろうかと、「この木を切らないでください」と書いた張り紙を取り付けました。張り紙を取り付けた際のコブシの木肌のヒヤリとした感触を、この先忘れることはないでしょう。しかし張り紙は取られ、コブシは切られてしまいました。

 

 私はコブシの切り株を一部もらい受け、年輪を数えてみました。30年から40年は経っているようで、自分と同じほどの時を重ねた木であったことがわかりました。

 

 玉川上水をこの地につくったのは人間です。管理していくのも人間です。そこにサクラを植えるのか、あるいは自然に育った木々を残すのか、どちらが正しく、どちらが正しくないということはありません。ただ、人それぞれに玉川上水に込めた想いがあります。その想いが相反するものであっても、寛容さをもってお互いに認め合ってほしいと願わずにはいられません。未来を担う子どもたちに何を残すのか、私たち大人はしっかりと考えるべきです。