玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します。

玉川上水の野鳥について 大塚惠子

2021-05-01 16:37:46 | エッセー

大塚惠子

 三鷹市下連雀の萬助橋(井の頭公園)から杉並区久我山の浅間橋までの玉川上水が、私の自然観察や調査のフィールドです。10年以上前からこの玉川上水で自然観察を行っていますが、始めて間もなく玉川上水整備活用計画や放射5号自動車道路の整備計画が進みました。周辺も含め環境の改変が激しく、生息する生物にも多くの影響がありました。

 玉川上水とその周辺の魅力はなんといっても水の流れと畑や草原・林・森が連続し、生き物の通り道(回廊)になっていることです。いきもの会議のロゴマークになっている水と緑と土がそこにはあります。さまざまな植生には、いろいろな鳥類が棲み分け季節移動もみられます。多くの方と共に身近な地域の探鳥を楽しんできました。

 水辺には、水鳥はもちろんのこと、他の小鳥も水飲みや水浴びにもやってきます。玉川上水の両岸の林は、生物多様性の宝庫です。生態系ピラミッドの頂点であるオオタカも生息している豊かな環境です。絶滅危惧種のミゾゴイやブッポウソウなど稀少な野鳥も渡りの途中の中継地として羽根を休めることがあります。自然が育む食べ物と安心できる休息場所があるので、四季を通じて入れ替わり立ち替わりさまざまな野鳥が立ち寄ります。常緑樹の茂みや薮などは、多くの野鳥が羽根を休めたり、捕食者から隠れる場所にもなります。

 玉川上水に生える多種多様な植物が多様な昆虫を育むおかげで、それらを餌とする野鳥が集まります。また、エノキ・ムクノキ・ミズキ・サクラ類・ケヤキ・ナラ類・エゴノキなどの樹木は野鳥が好む実をつけるので、ツグミ類・ハト類・ヤマガラ・ヒヨドリ・ムクドリなど木の実を食べる鳥が集まります。舗装されていない土の道には、地面を掘り返して虫を探すツグミ類や、地面に落ちた種子を食べるアオジ、シメなどが見られます。アオゲラは枯れ木をつついて昆虫を捕らえます。このように、少し気にかけてみると、共に暮らす野鳥の姿や声がそこにあります。

 生息する野鳥の種類や羽数から環境の変化・生物多様性の増減もわかります。かつては畑や藪のある広い環境が上水の周辺にはありました。そうした場所にはモズやジョウビタキがあちこちで見られたものですが、今ではごくわずかになってしまいました。これは、他の鳥でも同様で、玉川上水や道路の整備が行われる以前には、秋から冬にかけての上水沿いでウグイスの「チャッ、チャッ」という地鳴き声が20羽以上も聞かれましたし、シロハラ、アオジ、ルリビタキなど冬鳥の渡去前の囀りは格別で、春が来たことを告げてくれます。春の渡りの時期には、オオルリやキビタキ・センダイムシクイなど渡り途中の夏鳥たちが囀って、まるで山林のコーラスのように聞こえました。しかしながら、このような野鳥たちは最近めっきり少なくなってしまいました。囀りの聞かれる朝をいつまでも楽しみたいと思います。

 

これも以前に比べて減っていますが、シジュウカラやエナガなどの小鳥類は、初夏に巣立ったばかりの若鳥を安全な上水の茂みに連れてきます。家々にはさまれた緑道を歩いて観察していると、若鳥の入った群が間近に寄ってくることがあり楽しいものです。オシドリ夫婦が樹洞のある太い木で営巣場所を探していたこと、雑木林の下でイカルやシメの大群が採餌していたこと、屋敷林の茂みにコルリの囀りが、上水のせせらぎにミソサザイやキセキレイの囀りが響いたこと、こうした数々の出会いの思い出は私の宝物です。昔の玉川上水の状態に完全には戻れませんが、できうる限り自然を再生回復させて、後世の人々が恵みを受けるように、努めていきたいと思います。

 


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