Takahiko Shirai Blog

記録「白井喬彦」

韓昇助氏の対談と論文について

2005-04-10 01:35:38 | 国際
韓昇助氏の論文が月刊誌『『正論』4月号に載ったことは、2005年3月6日、「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」というメールマガジンで知った。私は『正論』を定期購読していない。近くの書店で『正論』を買い求めてこの論文に目を通した。

あとでインターネットで調べてみると、中央日報の鄭命真記者が 2005年3月4日、「「日本の植民支配は祝福すべきこと」 高麗大教授が寄稿文」という見出しで報道している。この記事はほとんど事実のみを伝えたものだ。もし韓国でこの記事の通りに伝えられたとしなら、韓国の人々はあのように激嵩しなかったのではなかろうか。

中央日報の3月4日付インタビュー記事によれば、韓昇助氏は当初楽観視していたらしく、「寄稿に後悔はないか」との問いに韓氏は、「少しも恥ずべきことはない。 ハングルで送った文が日本語に翻訳されたはずだが、ハングルの全文を読んでほしい。 所信に基づいて書いたものであり、むしろこの問題が公論化されることを望む」と答えていた。

けれども、3月6日付の産経新聞で黒田勝弘記者が、「マスコミ報道の中では親・北朝鮮派の左派系「ハンギョレ新聞」が一面トップなど非難キャンぺーン的に報道していることを含め、期せずして韓氏が主張する「日本支配再評価論」と「親日派断罪の背景に親・北朝鮮派や左派の政治的思惑」の実態がマスコミを通じ韓国世論に広く伝えられた形だ」と韓国での状況を伝えている。つまり、韓国では3月4日頃、韓氏糾弾をアジった記事が一斉に報じられたものとみられる。

だが、韓氏は3月7日には高麗大学の名誉教授職を辞任したし(朝鮮日報 2005年3月4日報道)、氏が共同代表をしていた「自由市民連合(連隊?)」からは若手の突き上げを受けて追放されたらしい(朝鮮日報 2005年3月6日報道)。

中央日報によれば3月8日に、韓国では名高いジャーナリスト趙甲済氏(『月刊朝鮮』発行人)が、韓昇助氏が誹謗されているのを擁護する形で、みずからのウェブサイトに「日本統治期に親日行為をおこなった人々より、現在、親北朝鮮行為をおこなう人々のほうが問題である。彼らは大韓民国と憲法と自由を破壊しようとしている。親北反民族行為者探索法を制定し、親金正日の人々を公職から追放することが急務だ」という主張を公開した。

しかし、毎日新聞によれば、この趙甲済氏も3月末には、月刊朝鮮社の社長を辞任したらしい。毎日新聞は、同氏は「会社経営からは身を引くものの、退職後も月刊朝鮮を中心に執筆活動を続ける予定で、「新たな記者生活が始まる」と語っている」と伝えている。

与党ウリ党の宋永吉議員は国と国民の名誉を傷つけたとして、3月日9日、韓昇助氏を損害賠償請求訴訟を起こすことにしたと発表した(中央日報 2005年3月9日報道)。 また、3月20日になると、ハンナラ党の元喜龍議員が今回の韓昇助事件に類似した事件の再発を防止するため、日帝侵略行為を合理化したり、関連事実を歪曲する行為を処罰する法案(仮称「日帝侵略行為歪曲及び擁護防止法」)の立法化を進めていることを明らかにした(朝鮮日報 2005年3月20日報道)。

このように韓昇助氏の論文は予想の当初予想を大きく超える糾弾を受けたが、実はこの「韓昇助論文」よりも、この論文に先立ち『正論』3月号に掲載された「韓昇助・西岡力対談」のほうがずっと重要であるかもしれない。なぜなら、この対談の中には、次に示すような発言をはじめとする、韓氏の幾つかの重要な発言がちりばめられているからである。

「盧大統領は経済的に恵まれない家庭の出身で、本来なら司法試験の勉強に専念する時間も経済的余裕もありませんでした。だから、誰かにサポートを受けて司法試験の勉強をしていたのです。金日成が側近や幹部に伝えた政策伝言集「秘密教示」には、「南朝鮮(韓国)では高等試験に合格さえすれば行政府、司法府にいくらでももぐり込むことができる。頭がよくてしっかりしている子らはデモに駆り出さず、高試準備をするようにしなさい」(1973年4月)という指示があり、それに従って、北と通じる勢力が(盧武鉉の)生活費の面倒をみて勉強させた可能性もあります。そうなら、盧大統領には北に忠誠を尽くす義務があることになります」

どうして韓国では「韓昇助論文」ばかりを槍玉に挙げて誹謗し、その一方で「韓昇助・西岡力対談」を取り上げないのだろうか。盧武鉉政権を支える左派グループとしては、盧武鉉の過去を舌鋒鋭く暴いていく韓昇助氏のこういった発言は、国民の目に露わにしたくないという思惑があるからではあるまいか。

もちろん、韓国では『正論』3月号の「韓昇助・西岡力対談」など、まだ翻訳されていないであろう。韓昇助氏が運営していたウェブサイト「賢明な少数のためのサイバー討論の場」は現在閉鎖されているが、韓国の人々は「韓昇助論文」をどういう方法で読んでいるのだろうか。

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