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 ~ それでも世界は希望の糸を紡ぐ ~

早川太海、人と自然から様々な教えを頂きながら
つまずきつつ・・迷いつつ・・
作曲の道を歩いております。

同じコドンで生きています

2020-07-26 14:20:35 | 自然科学
城山八幡宮では、8月16日まで“ 茅輪神事(ちのわしんじ) ”。

摂社前に設置された〈子供専用〉茅の輪。


明けそうで明けない梅雨空の下、

仄暗きは、気の森の道。

               

不勉強な私は、時に〈DNA〉と〈遺伝子〉を同じもの、
と考えてしまいがちですが、この二つは同じものではないことを、
生物工学の入門書から、あらためて教わりました。

『DNAは、ヌクレオチド(糖、リン酸、核酸塩基が1個ずつ
 結合してできた物質)がたくさん結合した鎖状の物質を指し、
 核酸の一種です。
 遺伝子はDNAの一定の領域、つまり、タンパク質や酵素を
 つくるためのアミノ酸の種類と数を決める情報が記された
 領域を指します。つまりDNAという長い鎖のうえに、
 いろいろな遺伝子が並んでいるのです。』
(日本生物工学会編「ひらく、ひらくバイオの世界」化学同人)

〈DNA〉という鎖の上に並ぶのが〈遺伝子〉、
〈遺伝子〉が並んでいる鎖が〈DNA〉・・・なのでありました。

               

〈DNA〉には、
アデニン(A)・チミン(T)・シトシン(C)・グアニン(G)、
4種類の塩基が、生命体の設計情報として並んでいます。
この並びが〈塩基配列〉と呼ばれる遺伝情報で、
この遺伝情報に基づいて、各種タンパク質が作られるわけですが、
それには、まず〈RNAポリメラーゼ〉という酵素の働きによって、
〈メッセンジャーRNA〉という、その名の通り遺伝情報を伝える、
メッセンジャー役の〈RNA〉(〈DNA〉とよく似た物質で、
〈DNA〉ではチミン(T)だった塩基がウラシル(U)に代わる)に、
〈DNA〉上の遺伝情報が“ 転写 ”されます。

〈メッセンジャーRNA〉は、“ 転写 ”された情報を持って、
〈DNA〉が格納されている、細胞内の〈核〉から外へ出て、
〈リボソーム〉へと移動し、次に〈リボソーム〉は、
〈メッセンジャーRNA〉が運んできた“ 転写 ”情報を解読し、
解読された情報に従ってアミノ酸を繋げ、タンパク質を作ります。

『このリボソームの仕事を“ 翻訳 ”といいます。(中略)
 これは、まさにリボソームが「DNAの言葉(ATCG)」を、
 「タンパク質の言葉(アミノ酸の種類)」に翻訳しているようだ、
 ということです。」(引用元:前掲書)

この段階で、私には既に難解でありますが、
これまでの流れを大まかに振り返りますと、

1〈DNA〉の塩基配列が〈メッセンジャーRNA〉に転写される。
2〈メッセンジャーRNA〉は〈リボソーム〉へ移動する。
3〈リボソーム〉は〈メッセンジャーRNA〉の情報を解読し、
 アミノ酸の種類を決める情報へ翻訳する。

ということになろうかと思います。

さて、〈リボソーム〉は〈メッセンジャーRNA〉の情報を解読し、
そして翻訳するわけですが、この作業工程に用いられるのが、
生物の暗号〈コドン〉なのだそうです。

〈コドン〉は、〈メッセンジャーRNA〉に転写された、
アデニン(A)・ウラシル(U)・シトシン(C)・グアニン(G)、
これら4種類の塩基が“ 3つで1単位 ”として並んだもの。
この“ 3つで1単位 ”例えば AUU / GCA / CUGといった、
塩基の並び方が、それぞれ1個のアミノ酸を指定していて、
この対応関係は〈コドン表〉という暗号表に基づいて、
全て決まっているのだとか。
しかも、

『興味深いことに、
 地球上のすべての生物が同じ暗号表を使っています。
 暗号表は非常に重要な表なので、
 簡単に変更することが出来ません。
 暗号表が同じであるということは、
 すべての生物が同じ生き物から進化した証拠でもあります。』
                    (引用元:前掲書)

以上のことは、10代学生の一般教養なのかも知れません。
しかし冒頭にお断り申し上げましたように、
不勉強な私にとりましては新鮮な学びであり、

『地球上のすべての生物が同じ暗号表』を使い、それは、
『すべての生物が同じ生き物から進化した証拠』である。

という事実が、まばゆい光のように感じられるのであります。
この生物工学的事象が真に意味するところは、おそらく、
途轍もなく壮大かつ深遠なものであろうことは察せられるものの、
『地球上のすべての生物が同じ暗号表』を用いているという、
その事実に打たれるばかりで、その先に考えが及びません。

只、こうジィーッと〈コドン表〉に見入っておりますと、
A・U・C・G、といった塩基の頭文字が〈音名〉と重なり、
その組み合わせや連なりの法則が〈音楽理論〉を想わせて、
「生命譜」とでも申しましょうか、
生体内では、やはり或る種の音楽が奏でられている・・・いや、
“ 生命は音楽である ”との感を強くするものであります。

               

あっ、気ノ池の“ ショウちゃん ”・・・寝てる寝てる。
ネコの“ ショウちゃん ”と、ニンゲンの私、

生物種こそ違えども、同じコドンで生きています。


              









母の“ 疼痛天気予報 ”

2020-07-19 15:03:33 | 自然科学
気ノ池の一角に咲く、蓮の花の動画を撮ろうと向かったものの、
ほとんどが既に花期を終え、かろうじて咲き残っていたのが、

この一輪でありました。
一抹の寂しさに、その場を去りあぐねておりましたところ、

“ ハスもいいけど、こっちもね! ”との声に振り返れば、

これからが盛りの木槿(ムクゲ)が咲っていました。

               

今月初めから停滞し続けた梅雨前線は、
熊本・球磨川の氾濫を始め各地に甚大な被害をもたらしました。
7月15日、気象庁の責任者が会見の席上で語った、

「予想を大きく超えた雨量になったことは重く受け止める。
 大雨警報を超えるような状況は想定しておらず、
 我々の実力不足だった。」

という文言は、
技術革新により気象予報の精度が上がったとされる現代でも、
大雨・台風・地震等々、“ アメツチ ”の動きを予測することが、
いかに難しいか、を思わせます。

               

古来、土砂崩れが起きる前には異臭が漂う、
地震発生の前には、鯰が騒ぐ、怪魚が現れる、奇異な雲がかかる等、
“ 言い伝え ”として、まことしやかに語られてきました。
そうしたものの中に、

「雨が近くなると古傷が痛くなる」

といった、身体上の痛みによる経験的気象予測があります。
母は、20代~30代にかけて三度の開腹手術を受けましたが、
最晩年に至っても尚、天候が崩れる前には、決まって、
「手術痕が痛い・・、明日は降るわねぇ・・・」などと言い、
私の記憶では、その予報の全てが“ 当たり ”でした。

誰しもが経験するこうした事象は、体験智・ナラティブであって、
科学的根拠・エビデンスには欠ける、と思っておりましたところ、
偶々手にした資料の中に、

「気象変化による慢性痛悪化のメカニズム」

という文献を見つけました。文献が書かれたのは2003年で、
当時、名古屋大学/環境医学研究所におられた、
佐藤純先生(現・中部大学/生命健康科学部 教授)の研究論文。

多角的な検証と仮説立て、精密な実験内容が綴られていますが、
ここでは以下、ごく簡略に紹介させて頂きます。

健常なラット(実験動物)と、坐骨神経痛のラットとを、
-27hPa(ヘクトパスカル)という、
低気圧が接近した時の気圧に相当する程度まで減圧した、
人工的環境下に置いたところ、坐骨神経痛ラットの方に、
疼痛が増強した際に現れる特有の反応動作が観察されました。

この坐骨神経痛ラットから、腰部の交感神経を取り除いたところ、
疼痛増強時特有の反応動作が見られなくなったことから、
低気圧が痛みを強めるという事象には、
交感神経系の活動が関わっていることが考えられ、

「気圧変化は交感神経を緊張させ
 副腎髄質ホルモン(アドレナリン)の分泌を亢進する。
 交感神経の興奮とこれらのホルモンによって末梢血管が収縮し
 組織内の虚血、O₂濃度の低下、pHの低下などが発生する。」
 (引用元:佐藤純「気象変化による慢性痛悪化のメカニズム」
  日本生気象学会雑誌/40巻4号/以下の引用元は全て同論文)

それら発生した様々な生体内の変化による交感神経の緊張が、
痛覚神経線維を興奮させることで、痛みが増強する・・・、
というのが一連のメカニズムではないか、と推察されています。

では、そもそも気圧の低下を捉えるセンサーはどこにあるのか。

「ラットの気圧検出センサーは
 内耳前庭部に存在するものと考えている。」

ラットを用いた動物実験から推測されるメカニズムが、
そのまま人間に当て嵌まる、というわけではなさそうですが、

「慢性痛に悩む人々にとって
 気象変化は避けられない疼痛悪化のトリガーである。
 この現象の基礎メカニズムを解明することで、疼痛悪化の予防、
 慢性痛のコントロールが可能になることが期待される。」

と結ばれています。

               

上記の文献は、気象変化であって気象予測はありません。
それでも、若い頃に受けた開腹手術の手術痕が痛む度に、
「明日は降るわねぇ」と呟いてはその通りになった、
母の“ 疼痛天気予報 ”の背景には、
複雑にして深遠な生命生理の世界があったのだなぁ・・・と感じ、

こと気象に限らず、古来“ 言い伝え ”として受け継がれてきた、
〈経験的未来予想〉や、身体感覚を伴う〈予感〉といったものにも、
受け継がれるべくして受け継がれてきた“ 何か ”が潜み、
鼻から退けることの出来ない“ 何か ”が有るように思われます。





              








ネコと腎臓病

2020-02-09 16:10:03 | 自然科学
本日の空は、

普段にも増して青く、


青いが上にも、

なお青く、


さらに青く、

どこまでも青く、


ずっと青いので、

こう眺めております内に〈青酔い〉しました。

               

日本人の死亡原因、その第1位は言わずもがなのこと、
悪性新生物・・・いわゆる〈がん〉でありますが、
ネコの死亡原因の第1位は、これが〈腎臓病〉なのだとか。

なぜネコにおいて腎臓の機能不全いわゆる腎不全が多発するのか?
この長年に亘る謎を、東京大学大学院・医学系研究科 /
疾患生命工学センター分子病態医科学部門教授の、
宮崎徹先生が明らかにされたという記事を読みました。

宮崎先生は、AIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage)という、
血中タンパク質を発見し、その機能解析を通して、
ネコに腎不全が頻発する原因を究明し、
それに対する革新的治療法の開発に取り組んでおられます。

通常、腎臓に何らかの急性的な障害が生じると、
尿細管にゴミ(細胞の死骸)がたまり、
ヒトの場合は、AIMが直接ゴミを除去するのではないものの、

「AIMが発動してゴミが取り除かれ、腎機能が改善する。」
 (“ネコと腎臓病とAIM研究”/ New Medical World Weekly・
  第3357号 / 医学書院発行 / 以下、引用元は全て同記事)

しかしながら、
ネコでは、血中に含まれるAIMの値がヒトより高いにも拘わらず、
AIMが発動しないため尿細管のゴミ詰まりが解消できず、
腎機能が低下してゆくのだそうです。

なぜネコでは、AIMが発動しないのか?
AIMはIgMというタンパク質と結ばれていて、
体内にゴミを感知すると、AIMはIgMを離れてゴミに付着し、
ゴミの存在を知らせる役割を担いますが、ネコにあっては、
AIMとIgMとの結合親和性(結び付きの度合い)が高いために、
AIMはIgMを離れようにも離れられず、
結果的にAIMが発動しない、とのことで、宮崎先生は、

「さらに言えば、ライオン・トラ・チーター・ヒョウも
 最期は慢性腎不全になる。全てネコ科の動物で、
 同じようにAIMの機能に問題があるようです。」

と、ネコ及びネコ科の動物にとっては、
腎不全が遺伝病であることを解き明かされています。

               

今後、生体内の不要物質除去システムの核とも言える、
このAIMの解明を進め、ヒトへの応用研究を加速し
生活習慣病や難治性疾患、また脳内にアミロイドβタンパク等の
不要物質がたまることによって発症するとされる、
アルツハイマー型認知症などにおいても、
AIMを活用した新規治療法の開発が期待される、として、

「つまり、体内では細胞の癌化や死、
 タンパク質の変性などの異常が常に発生しているのでしょう。
 これら“ 病気の芽 ”が蓄積することによって“ 疾患 ”となる。
 AIMが“ 病気の芽 ”の認識とその速やかな除去を促し、
 組織の修復を誘導することによって、
 生体の恒常性が維持されていると考えられます。」

と語られています。

私たちの体は、
損傷と修復が時々刻々に繰り返されている〈場〉、
微細な生成と消滅、小さな生と死が日々に紡がれている〈場〉、
ということであろうかと思いますが、
宮崎先生ご自身が音楽に造詣の深いこともあってか、
〈場〉をオーケストラに例えて次のように述べておられます。

「(疾患というものは)オーケストラでいう
 “ 響きの濁り ”に近いかもしれません。
 個別の楽器奏者(=各臓器)が悪いというよりも、
 全体の響き(=生体の恒常性)が調っていない。
 そこで全体のバランスを調えて美しい響きを組み立てるのが、
 指揮者の重要な役割となります。
 AIMは体内で、オーケストラの指揮者のような役割を
 果たしているのかもしれません。」

生命現象の奥底で繰り広げられる生理の体系と、
オーケストラの響きが生み出される楽理の体系とが、
事象の根源において相似的に照応され得るように感じます。
いや、もしかしたらその逆で、
生命譜とでも申しましょうか、
事象の根源で扱われている楽譜は同じものでありながら、
歌われ方・奏でられ方が違うということかも知れません。

               

ネコの宿命とも言える腎臓病ですが、
AIMタンパク質の人為的投与による腎機能改善に、
大きな期待が寄せられていて、
2020年中にAIM製剤の薬事申請に必要な臨床試験が開始され、
2022年までの商品化が目指される、とのこと。
さて、
ネコを愛する方々にとって、朗報となりますかどうか?


むむっ・・・見てる見てる、

腎臓いたわって元気でニャー!


              








非線形圧縮

2020-02-02 15:47:55 | 自然科学
満開だった山茶花も、その花期を終えようとしています。

寒中にあって、いつも心の暖を取らせて貰いました。


視線を地面に転じますと、

ハート型の花びらが散り敷かれています。


叶わなかった夢のひとひら、届かなかった想いのひとひらも、

やがて大地に還り、大きな時の輪の巡りの中で、
いつかまた命の歌を唄うものと思います。

               

〈音〉という、主に空気を媒質として伝わる疎密波は、
外耳から入り中耳の鼓膜を震わせ、その振動は、
ツチ骨キヌタ骨アブミ骨を経ながら増幅されて蝸牛に達します。
蝸牛(かぎゅう)には感覚上皮帯あり、この感覚上皮帯は、
「帯」という名称から察せられるように蝸牛内をベルト状に伸び、
次々に入ってくる音の周波数を識別しています。
その識別方法ですが、感覚上皮帯は上下に振動する器官で、
入って来る音の周波数に応じて上下動する部位が決まっていて、

「1000Hzに対応する場所は、1秒間に1000回、
 10000Hzに対応する部位は、1秒間に10000回、振動する。」
(太田岳・任書晃・日比野浩「内耳感覚上皮帯のナノ振動」・
 月刊 臨床神経科学37巻12号 / 以下「」内は全て同書より引用)

というシステムなのだそうで、その上下振動が、
内有毛細胞・外有毛細胞という感覚受容細胞を刺激し、

「ヒトでは約4000組の内・外有毛細胞が、
 蝸牛の基底部から頂上部へと整然と分布しており、
 聴覚の繊細な周波数分析を可能にしている。」

とのことで、
かくも精緻を極めた器官が自分自身の内側に存在し、
精妙に作動していることに驚きを覚えると共に、
私自身が、いささか音に関りを持つ身でありながらも、
こうした解剖生理学的仕組みがサッパリ分かっていないことに、
内心忸怩たる思いを抱くものであります。

               

今回読ませて頂いた文献「内耳感覚上皮帯のナノ振動」には、
〈非線形圧縮・非線形増幅〉についての論述がありました。

私たちが受容できる音圧の範囲は、
最小閾値0dB(囁き声のレベル)から、
最大閾値120dB(ジェットエンジンの駆動音)までの広範囲に亘り、
この広大な音圧差(100万倍の差)をそのまま受容していたのでは、
生体にとって大きな負担になるため、
感覚上皮帯において、これを数百倍の差に圧縮し、

「音圧が小さいほど振動の振幅が強く増幅される現象」

として、私たちの〈聴こえ〉を支えているのが、
〈非線形圧縮・非線形増幅〉と呼ばれる仕組みなのだそうです。
非線形というのは、小さな音ほど増幅される現象をグラフ化した際、
グラフ線が直線形にならないということの意。

思えば、小さな音ほど大きく聞こえるというのは、
日常的に経験している音響体験でもありますが、それらの背景に、
こうした〈非線形圧縮・非線形増幅〉の働きがあると考えて、
さほど間違いではないのかも知れません。

               

大変興味深いことに、死後の動物にあっては、
入力された音に対する応答が〈線形〉を示すことから、

「非線形増幅機構には、
 動物が “ 生きているがゆえに ” 発揮される
 生体固有の力学反応が関わることが容易に推察される。」

と述べられています。

生きている間は、小さな音・弱い音を増幅する力が働き、
死ぬと、それらを感知出来なくなる・・・、
『“ 生きているがゆえに ” 発揮される生体固有の力学反応』
という辺りを、〈心身一如〉の概念に投影し、
人間の心・人間の世界・人間の社会に敷衍して考える時、
小さな声・弱々しい声に耳を澄ますことが出来ない人間、
かすかな声・声なき声を拾い上げることの出来ない組織は、
限りなく〈死〉に近い・・・と諭されているようにも感じます。

自分はどうか?
残念ながら「生きている」と胸を張る事が出来ません。