こころの・・・

^~^ スナフキンです
今日の貴方の心は~~~  

画家と少女

2017-02-26 12:39:18 | 日記

ベンチにこしかけた少女が、じっと手にした写真を見ている。

まばたきしないで、食い入るように見ている。

その横をひとりの画家がとおりがかった。

それに気づかず、少女は写真から目をはなさない。

「なにを、見ているの?」画家は少女に声をかけた。

「お母さんの顔」少女はつぶやくような小声でいった。

あまりにさびしそうなので、画家は少女の横にこしかけた。

しばらくふたりは、だまってすわっていた。少女のからだから、消毒薬のにおいがした。

ふたりは病院の庭のベンチにいた。この病院は奄美という島にあった。

ハンセン病のひとが入院する病院だ。

かってこの病気は、伝染すると思われていた。

この病気になると家族や友だとから引きはなされた。  

遠い島の病院にむりやり入院させられた。

この少女もみんなからおそれられ、ここに泣く泣く送られてきた。

「さびしいときには、この写真を見なさい。遠くはなれていても、

 おかあさんはいつもおまえのことを思っているよ」入院した日、

おかあさんはそういって少女に一枚の写真をわたした。

笑っているおかあさんの顔がうつっている。

少女はむりして笑顔をつくり、心配そうに帰っていくおかあさんに手をふった。

夕焼けが、病院の裏山の空を赤くそめていた。

少女はポケットにその写真をいれ、いつも身からはなさなかった。

一年がすぎ、二年がすぎ、三年がすぎた。

さびしくなるたびに、少女は写真をとりだして話しかけた。

笑っているおかあさんの顔に、そっと手をふれて話しかけた。

「ほら。もうおかあさんの顔が、よくわからなくなっちゃった」少女は画家に写真を見せた。

たしかに古くなって黄ばみ、顔のあたりは手あかでよごれている。

「ぼくにこの写真を、かしてくれない?」画家はいいことを思いついたように笑った。

「どうして?」ふしぎそうに少女がたずねた。

「この写真を見ながら、おかあさん顔をかいてあげるよ」やさしい目をして画家は少女を見た。

少女の顔がぱっとかがやいた。「でも・・・」すぐに少女はうつむいた。

「なにか、こまるの?」画家が少女の顔をのぞきこんだ。

「わたし、お金がないの。お礼ができない・・・」はずかしそうに少女はいった。

この画家はときどき病院にきて、病人やその家族の顔をかいていた。

みんなわずかだが、お礼にお金をはらっていた。それを少女は知っていた。

「お礼は、ほしいな」画家は明るい声でいった。少女は悲しそうにちらっと画家を見た。

わずかなお金さえ、もっていなかったからだ。

「君が早く元気になること。それがいちばんのお礼だよ」

画家はうなだれている少女の髪の毛を、やさしくなでた。

少女は飛びのくように、立ちあがった。

「わたしにさわると、病気がうつるわ」少女がさけんだ。

「だいじょうぶ。もしそうなら、とっくのむかしに、ぼくも病気になってるよ」画家も立ちあがった。

そして、ひざをおってかがみこんだ。

目の高さが少女とおなじになった。「きっと、なおるよ」  少女の手をにぎって画家はいった。

画家の手は大きくてあたたかかった。

少女は病気になってはじめて、もしかしたらなおるかもしれないと思った。

それから毎日、少女は病院の玄関に立って、画家がくるのを待ちつづけた。

一週間がすぎた。いちども画家はあらわれなかった。

少女はうらぎられたような気がした。たいせつな写真をかしてしまった自分をせめた。

高い熱がでて、少女は眠りつづけた。

「ほら、約束どおりできたよ」耳もとでささやく声がした。少女はぼんやり目をあけた。

画家が画用紙にかいた絵を、少女の目の前にかざした。

「こんなきれいなおかあさん、見たことない」少女は息をのんで、

ベットの横に立っている画家にいった。「ありがとう」少女はお礼をいいながら、絵をじっと見つめた。

きれいな和服をきたおかあさんが笑っている。

少女はその絵を受け取ると、ベッドから抜けだした。  

「見て、見て。これ、わたしのおかあさん」その部屋にいるみんなに、少女は絵を見せてまわった。

「まだ、寝てなきゃダメでしょ」看護婦さんが笑いながら、少女のうでをつかんだ。

「そうだよ。早く元気になる約束だろ」ベッドに横になった少女に、画家がほほえんだ。

彼は帰りかけたが、すぐ少女のところにもどってきた。

「これ、たいせつな写真」画家は少女におかあさんの写真を返した。

少女の目にうれし涙があふれた。 

 

                           南極ペンギン・高倉健著・集英社発行より

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その気になれば

2017-02-07 20:28:18 | 日記

幸せを実感したいのですか

その気になれば

幸せを感じる材料は

身近にいくらでもあります

その気にならないから

見逃してしまうのです

 

心を磨きたいのですか

その気になれば

自分を磨く材料は

身近にいくらでもあります

 

その気にならなければ

目に見えない大切なものを

見逃してしまうのです

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