大学時代、スポーツ選手として活躍していた
一人の青年が、右足骨肉腫の告知を受けて、
半月後に脚の上部から切断してしまいました。
彼の怒りは強烈で、学校をやめ、大酒を飲み、
自滅的な行動へと向かいました。
そんな時、ある老人に出会い、
画用紙に自分の体のイメージを描くことを
勧められました。
青年は乱暴に輪郭だけの花瓶を描き、
中央に深いヒビを描き入れました。
歯軋りをしながら、画用紙が破けるほど
力を入れて、黒いクレヨンで
ヒビの上を何度もなぞって、
目には怒りの涙を浮かべていました。
『う~むっ、心の傷は相当深いようじゃの』
その後、青年は老人の勧めで、
外科病棟に入院中の、彼と同じような問題を
抱えた若者を訊ねて行くようになりました。
21歳で両方の乳房を切除した女性を訊ねた際、
女性は 深い欝状態で目を閉じたまま
ベットに横たわり、彼の方を見ることさえも
拒みました。
青年は、今までの経験と智慧を絞り、
身体の形が変わってしまった者同士でしか
言えないことも言葉にし、冗談を言い、
ついには腹を立ててしまいましたが、
いっこうに反応がありませんでした。
ラジオからは静かなロックミュージックが
流れていました。
彼は立ち上がり、義足をはずすと
それを床にドサッと落としました。
はっとした彼女は、そのとき初めて彼を見ました。
彼は声を出して笑いながら、
音楽にあわせて跳ね回りました。
すると、彼女も笑い出し、
『あなたが踊れるのなら、
私だって歌えるはずよね~』
まもなくして、二人は入院中の患者さんを
一緒に訪ねるようになりました。
ヒビ割れの花瓶の絵を描いて一年後、
再びあの時の老人が現れました。
青年は再びその絵に向き合うと、
手に取って言いました。
「この絵まだ、描き終わっていないんだよ」
そういうと、黄色いクレヨンを選んで、
花瓶のヒビから紙の端まで
放射線状の線を書き込んでいきました。
太~い黄色い線で~ 笑いながら、ヒビに指を当てて
静かに言いました。
『ここから、光が差し込んでくるんだ』