哲学者か道化師 -A philosopher / A clown-

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秋田禎信『エンジェル・ハウリング1 獅子序章』

2007-10-02 | ライトノベル
エンジェル・ハウリング〈1〉獅子序章‐from the aspect of MIZU
秋田 禎信
富士見書房

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「わたしはミズー・ビアンカ。これから、あなたたちを皆殺しにするわ」(P227)

 僕が、一番好きなライトノベルは?と聞かれたらおそらく『エンジェル・ハウリング』の特にミズー編を挙げるのではないかと思う。まあ、良くも悪くもライトノベルの範疇を超え、結構硬派なファンタジー小説になり、秋田先生がライトノベルを書かなくなった原因じゃないかという本作だが、僕は大好きである。そんな『エンジェル・ハウリング』を、たまたま引っ張り出してしまった故に読み直すことになってしまった。でも面白いなあ。

 主人公のミズー・ビアンカは最高の女殺し屋。絶対殺人武器という信仰を持つイムァシアという町で育ち、自分で滅ぼしたその町の影に怯えながら暮らしている。彼女はあるとき御遣いと名乗る存在から、自分の双子の姉の契約を受け継いだことを知らされ、その契約とは何かを調べるべく、同じく契約者である退役軍人のベスポルド・シックルドを探すが、その道中に帝都の治安を維持する処刑人の黒衣が現れて。

 やっぱり面白いなあ。ミズーかっこいいなあ。なんというかちゃんと小説してる。逆に言えば、こういうのを書いてしまったから、ライトノベルからは閉め出されてしまった気もするが。すごい展開があったり、謎解きがあったりというわけではないが、とにかく文体がすごいので面白い。なんでこれだけ、つきつめて書けるのかというほど、ぐいぐい書いていく。そして、ミズーが自分自身やアイネスト、アマワなどと交わす対話。これもまたライトノベルと思えないほど深い。
 ジャンル的には中途半端なので人に勧めにくいのではあるが、読んだらいいよと言える小説である。しばらく、ミズー編だけ追って読み直したいと思う。

「人は自分自身さえ信じることができない。だが完全な不信をもつことも出来ない。信頼と疑念。これも二元だ。純粋な両極は、どちらもこの世には存在できない。君の見つけた赤い空だ。この世は全て、限界の分からない混沌だけでできている。それでも」「それでも……人はなにかを信じなければなにもできないし、なにも疑わなければ危険を回避できない。有益なのは、そこにある中間だけ――混沌だけだ。君は、なにを疑い、なにを信じるんだ……?」(P209-210)

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