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阪神間で暮らす-2

テレビを持たず、ラジオを聞きながら新聞を読んでます

与野党はグルなのか 悪辣政権が“逃げ切り濃厚”の茶番国会

2018-06-01 | いろいろ

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与野党はグルなのか 悪辣政権が“逃げ切り濃厚”の茶番国会


 問題の深刻さを全く理解していない。29日の衆院財務金融委。立憲民主党の川内博史議員が森友問題の決裁文書改ざんを取り上げ、今も「書き換え」と表現している財務省を批判すると、答弁に立った麻生太郎財務相はこうまくし立てた。

 「バツをマルにしたとか、白を黒にしたとかいうような改ざんといった悪質なものではない」「国会答弁に合わせて書き換えたというのが全体の流れ。従って書き換えという言葉を使っている」

 改ざんとは「悪用するために勝手に直す」ことだ。今回の財務省の行為は明らかに「証拠の隠滅」が目的だ。確信犯的な悪意をもって国権の最高機関である国会にウソの資料を提出し、それがバレないように佐川宣寿前理財局長は43回も「虚偽答弁」を続けたのだ。組織ぐるみで立法府を騙し、愚弄し、民主主義に対する裏切り行為を働いたのだ。改ざんは明らかなのに、ひん曲がった口で何をトンチンカンなことを言っているのか。

 〈国の機関が作成し、又は取得した公文書等は、組織の活動の記録であるだけでなく、国民にとっても貴重な記録であり、我が国の歴史を後世に伝えるとともに、将来の国民への説明責任を果たすための資料として不可欠〉

 国立公文書館が指摘している通り、公文書は将来の国民への説明責任を果たすための貴重な「歴史資料」であり、手を加えること自体が歴史の捏造と同じだ。「答弁に合わせて後から書き換えたけどOK」がまかり通るはずがない。そんなデタラメが許されるのであれば、後世で何も検証できなくなるし、そもそも国会質疑の意味がなくなってしまう。

■ 「伝聞答弁」を繰り返した総理が伝聞を否定する愚

 こんな低レベルの認識のヒョットコ男が、日本の大事な国庫を預かる財務相兼副総理なんて恥ずかしい限りだが、親分である総理大臣の安倍はもっと酷い。28日の参院予算委で、野党議員が森友問題で「私や妻が関係していたら総理大臣も国会議員も辞める」との安倍の過去の発言を問いただすと、シレッとした様子で「贈収賄は全くない、という文脈の中において一切関わっていないと申し上げた」と軌道修正したからだ。

 財務省が新たに国会に提出した森友との交渉記録には、妻の昭恵氏の名前がバンバン出てくる。総理夫人付職員だった谷査恵子氏が〈安倍総理夫人の知り合いの方から、優遇を受けられないかと総理夫人に照会があり、当方からお問い合わせさせていただいた〉との記載もある。誰がどう見ても昭恵氏の関与は一目瞭然で、要するにもう言い逃れできなくなったものだから「贈収賄という文脈の中において」なんて言葉を後付けしたのである。秘境というか卑劣というか、インチキにもホドがある。

 学校法人「加計学園」の加計孝太郎理事長と2015年2月25日に面会した――とする愛媛県の公文書に対する反論もメチャクチャだ。安倍は「伝聞の伝聞」と気色ばんで信憑性に疑問を呈していたが、森友問題で昭恵氏の国会説明を求める野党議員に対し「私が妻に確認したが知らないと言っていた、記憶にないと言っていた」と“伝聞答弁”で逃げていたのは他ならぬ安倍自身ではないか。

 伝聞を理由に愛媛県の公文書を全否定するのであれば、昭恵を国会に呼ばなければ理屈が合わない。そんな国会答弁を総理大臣が平然と続けて居直っているのだから、おぞましい限りだが、この国の野党は攻めきれない。国民は歯がゆいばかりだし、「何やってんだ!」と言いたくなる。

 「誰が見ても安倍首相の大罪は歴然なのに、総理にも財務相にもそういう自覚、反省がないのは、理解力がないからなのでしょうか。いずれにしても、かられがやっているのは極論すれば、国家的犯罪行為です。こんな政治状況が続けば国民生活は不幸になるだけ。国民も『牢屋にぶちこめ』ぐらいの怒りの声を上げた方がいいと思います」(政治評論家・本澤二郎氏)


腐臭を放つ総理、副総理と国民を騙すことしか頭にない官僚

 28日の衆参両院予算委では、森友問題をめぐる財務、国交両省の新たな疑惑も発覚した。会計検査院が森友の報告書を国会に提出する前の昨年9月7日、財務省の太田充理財局長と国交省の蝦名邦晴航空局長らが国会対応をめぐって密談していたのである。共産党は、会計検査院が報告書の原案を検査対象の財務省に事前に漏らしていたのではないか――と指摘した。

 明らかになった密談の協議文書によると、太田局長が「政権との関係でデメリットも考えながら対応する必要がある」「(報告書のごみ撤去費は)金額よりもトン数の方がマシ」なんて発言したらしいが、事実であれば、今の霞が関官僚のアタマの中は国会と国民を騙し続けることしかないということだ。上から下まで、これほど腐った政権は見たことがない。

 国会で1年以上続くモリカケ問題で明らかになったのは、詐欺師同然政権のゴマカシのテクニックの悪辣さだ。新たな疑惑が浮上しても「知らない」とトボケ、公文書などの動かぬ証拠を突き付けられると「確認する」と時間稼ぎし、揚げ句、アレコレと後付けの理由で正当化するのだ。出してくる国会資料も周到に計算された“改ざん資料”を小出しにしたもの。タイミングと言い、中身と言い、国会日程を睨んで「これなら大丈夫」と出しているのは明らかだ。

 それなのに野党はお人よしというのか、バカ正直というか、そんな資料をもとにわめいているだけ。だから与党は余裕しゃくしゃくで、野党に花を持たせているようにも見える。与野党はグルじゃないのか、と疑いたくなるほどだ。

■ 野党は加計学園に乗り込んで理事長を引っ張り出せ

 過労死促進法である「働き方改革関連法案」でも、29日の衆院本会議の採決は辛うじて見送られたものの、31日にズレ込んだだけだ。30日、衆院厚労委で質疑するというが、政府、与党の「きちんと審議時間を確保しました」というアリバイづくりに利用されるだけだ。

 なぜ、徹底的に審議拒否して安倍政権を追い込もうとしないのか。国民民主なんて、支持率が1%だから、選挙が怖いのか。それとも、疑惑まみれの安倍を続投させて来年参院選勝負などと思っているのか。だとすれば、永遠に安倍政権は倒せない。

政治評論家の森田実氏がこう言う。

 「野党が完全に舐められているのですよ。理由は政権を総辞職や解散に追い込む努力をしていないからです。例えば、加計問題では、なぜ、国会議員が加計学園に乗り込んで行って理事長に『出てこい』と言わないのか。国会議員が出向けばメディアも取り上げるし、新たなネタが出てくるかもしれないでしょう。東京で国会招致を訴えているだけでは事態は何も動きませんよ。国民は安倍政権に辟易しているのに野党共闘の動きも鈍い。要するに政権交代のための本気度が足りないから、政府、与党にいいようにやられているのです」

 そんな悪辣政権が米朝首脳会談前にトランプ大統領と日本人拉致問題について話し合う、というから、何を見返りに求められるのか。北朝鮮をひたすら敵視するだけで何の外交ルートもを持たないうえに、疑惑まみれで、「いつまでもつか」とみられている政権が、無様な野党のせいで、生きながらえ、外交で点数稼ぎを目論んでいるのだから、ぞっとする。こんな政権が続けば、国益にならないのは言うまでもない。
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国民はもう唖然ボー然「総辞職」すべき政権が「強行採決」

2018-05-31 | いろいろ

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国民はもう唖然ボー然「総辞職」すべき政権が「強行採決」


 いったい、サラリーマンの命をなんだと思っているのか。

 25日の衆院厚生労働委員会。「質疑は終わっていない!」――と野党が委員長席に詰め寄るのを無視して、安倍自民党は審議を一方的に打ち切り、数の力で「働き方改革法案」を強行採決してみせた。来週29日、本会議で衆院を通過させて参院に送り、なにがなんでも6月20日の国会会期内に法案を成立させるつもりだ。

 「働き方改革」の柱は、専門家が「これは過労死促進法だ」と危惧する「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)の新設である。「高プロ」は、悪名高い「裁量労働制」の親玉みたいなものだ。法案が成立したら、過労死したり、過労自殺するサラリーマンが続出するのは間違いない。なにしろ、休憩や深夜労働まで含め、労働時間規制がすべて外れるトンデモナイ制度である。いまでも日本のサラリーマンは働き過ぎなのに「高プロ」を適用されたら、ヘトヘトになるまで長時間労働を強いられるのはハッキリしている。

 「裁量労働制」は、労働時間と関係なくあらかじめ“労使”で決めた業務を完遂するというものだ。適用されているサラリーマンの多くが、休みなく働かないと終わらない業務量を課されている。

 つい最近も「裁量労働制」を適用されていた28歳の男性サラリーマンが、くも膜下出血で死亡し、今年4月、労災認定されていたことが明らかになった。本人も過労を自覚していたのだろう。SNSに<身体の疲れ方が尋常じゃない><ねむい。13時から翌日の18時までってなんなん><仕事終わるまであと22時間>と吐露していた。

 よくも、安倍自民党は、これほどヒドイ制度を強行採決できたものだ。

「いくらなんでも強行採決はムチャクチャです。まだ、本格審議から2週間しか経っていない。しかも、法案の根拠となったデータから次々に“異常値”が見つかっている。きのうも新たなミスが見つかった。世論調査でも、60%が『この国会で成立させる必要はない』と答えています。なぜ、欠陥法案を強行成立させようとしているのか。どうかしています」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)

「高プロ」は、年収1075万円以上の一部専門職に適用するとしているが、いずれ適用範囲が拡大されるのは目に見えている。



汚れた政権がサラリーマンを過労死させるデタラメ

 いまごろ、国民は唖然としているのではないか。

 薄汚れた政権が、サラリーマンの「働き方」を決めようとしているからだ。本来、疑惑にまみれた安倍内閣は、とっくに「総辞職」しているのが当たり前である。

 森友事件も、加計事件も、疑惑はなにひとつ晴れていない。むしろ、疑惑は深まる一方だ。

 森友事件は、やっぱり安倍夫妻が深く関わっていたことが明らかになっている。

 財務省が提出した交渉記録には、昭恵夫人付職員だった谷査恵子氏からの照会として、「(学園側から)優遇を受けられないかと総理夫人に照会があり、当方からお問い合わせさせていただいた」との発言が記されていた。

 そもそも、安倍夫妻を守るために「公文書」が改ざんされただけでも、責任をとって退陣するのが当たり前である。改ざんを強制されたノンキャリアは自殺までしているのだ。

 なのに「総辞職」どころか、サラリーマンを苦しめる法案を「強行採決」しているのだから、ふざけるにも程がある。

 「安倍政権は、モリカケ事件を“幕引き”にするつもりです。昭恵夫人や加計理事長の証人喚問はもちろん、愛媛県知事の参考人招致も認めない。麻生財務大臣も辞めさせない。強気で突っぱねれば、モリカケ事件は終わると思っている。実際、このままモリカケ事件は終息してしまいかねません。国会会期末まで、ほとんど時間が残っていないからです。国会が閉じてしまえば、野党は追及するチャンスを失ってしまう。野党の追及がなくなれば、国民の関心も薄れてしまうでしょう。安倍政権が『働き方改革法案』を強行採決したのも、国会を延長しないためです」(政治評論家・本澤二郎氏)

 しかし、とっくに退陣していなければならない政権が、国民の反対を押し切り、過労死を招く法案を強行採決するなんて、どう考えても許されない。

 「高プロ」が導入されたら、過労死しても労災認定されない可能性がある。「全国過労死を考える家族の会」に参加している遺族は、「夫が亡くなった日、会社からは『裁量労働制だから過労死じゃない』と言われた」そうだ。「高プロ」として働いて過労死しても「高プロだから関係ない」と、会社から冷たく捨てられるに違いない。

 いったい、安倍首相は誰のために政治をやっているのか。


朝鮮半島外交では完全に蚊帳の外の主体性ゼロ

 この通常国会を「働き方改革国会」と名づけた安倍は、ふざけたことに、法案成立を実績としてアピールし、秋の自民党総裁選で3選を果たすつもりだ。

 サラリーマンは過酷な労働を強いられるのに、「70年ぶりの大改革だ」と自賛しているのだから、信じられない。逆に言えば、法案が不成立に終わったら「看板政策で失敗した」と批判されるので、どんなに国民の反対が強い悪法でも数の力で成立させるということだ。

 しかし、安倍が3選となったら、世界のリーダーは仰天するのではないか。国際社会ではレームダックと見られ、主体性ゼロとバカにされているからだ。

 実際、朝鮮半島外交は、やりようによっては、いくらでも活躍の場があったのに、完全に蚊帳の外に置かれている。米、中、韓、ロ、北朝鮮のどこの国からも、本気で相手にされていない。情報も入ってこない。

 それも、そのはずだ。米朝会談が中止になっても、相変わらず「トランプ大統領を支持する」としかコメントしないのだから話にならない。世界のリーダーが、なんとか米朝会談を実現させようと知恵を絞り、アクションを起こしているのに、この男は、なにがあっても「トランプ大統領を支持する」だから、どうしようもない。

 どこが「外交の安倍」なのか。これでは、この5年間、拉致問題も、北方領土問題も、1ミリも動かなかったのは当たり前である。

 「外交の安倍などと称していますが、安倍首相はトランプ大統領にも、プーチン大統領にも、さらに習近平主席にも面と向かって強くモノが言えないのが実態です。そのくせ、国内では数にモノを言わせて強行採決をくり返している。いったい、どういう精神構造をしているのか疑いますよ。働き方改革も、財界を喜ばせるためにやっているだけでしょう。“高プロ”を導入して労働規制から外せば、企業は深夜労働と休日労働の割増賃金を払わなくて済む。労働者を安くこき使える。いずれ“高プロ”の適用対象の年収を1075万円以上から、400万円程度に下げるつもりでしょう。それにしても、なぜ大新聞テレビが強行採決を強く批判しないのか不思議です」(本澤二郎氏=前出)

 いい加減、国民も声を上げないといけない。黙っていたら、いいようにやられるだけだ。
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フィリピンは中国に接近する

2018-05-31 | いろいろ

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フィリピンは中国に接近する

第11回
2018/05/29


猿田佐世 (新外交イニシアティブ事務局長)

 2018年3月 12日から5日間、フィリピンを訪問した。米軍基地撤退後の状況調査のためであったが、アメリカや周辺国との関係について調査を進めていくと、現在のフィリピンの外交政策について日本の私たちがもっと知っておいて良いと思われる発見がいくつもあった。

 「アジアのトランプ」などと言われて注目を浴びるロドリゴ・ドゥテルテ大統領が当選してから18年5月で2年である。7割超といった高い支持率に支えられてきたドゥテルテ大統領であるが、日本では「変わり者の大統領」としてだけに注目が集まり、外交政策全体についての報道は少ない。麻薬犯罪容疑者の超法規的殺害などを行い、国際的な批判を浴び続ける大統領ではあるが、しかし、その支持率の高さは、麻薬撲滅政策を含め彼の政策を強く推し進める後ろ盾となってきた。

フィリピンとアメリカ・中国の関係

 ドゥテルテ政権の外交政策について、日本の私たちが何よりも注目すべき点は、中国及びアメリカとのバランスの取り方である。

 フィリピンは、アジアの中でどの国よりもアメリカの影響を強く受けてきた国であると言える。フィリピンは、1571年よりスペインに占領され、1898年の米西戦争以降アメリカの統治下に置かれ、第二次世界大戦中の日本による占領を経て、1946年に独立した。

 社会システムも政治システムもその多くがアメリカの影響を受けて作られており、教育が全て英語で行われていることは広く知られている。

 独立後にもフィリピンには、米軍の最大規模の海外基地であったクラーク空軍基地など広大な米軍基地が置かれ、多い時には2万を超える米軍が駐留し、引き続きフィリピンはアメリカの強い影響を受けてきた。ところが1991年、コラソン・アキノ大統領の時に、議会上院が米軍基地を閉鎖するという決定をして米軍は撤退した。フィリピンの人々にとって、米軍基地は、植民地の名残であり、悪政を極めたマルコス政権を支えたアメリカの象徴であった。その基地の撤退はナショナリズムの勝利であったといわれている。

 米軍基地撤退があまりに有名であるため、日本では、フィリピンは「米軍基地を追い出した国」、というイメージが強い。しかし、基地閉鎖後も親米政権は続き、アメリカなくしてフィリピンの外交政策なし、といった状態は現在まで続いてきた。アジアの中でも代表的な「対米従属」国家であると言えよう。愛国心の強い人々の中には「フィリピンは心までもアメリカに占領されてしまった」と嘆く人もいるほど、様々な面でアメリカへのフィリピンの依存度は高い。

 他方、フィリピン人の中国嫌いは日本人のそれと負けないくらい強いとも言われる。1995年に中国がスプラトリー諸島(南沙諸島)のミスチーフ礁を占拠し、その後現在に至るまで、南シナ海における領土問題は続いており、その感情は更に悪化する一方であった。

ドゥテルテ大統領による中国接近政策

 このように圧倒的にアメリカ寄りであったフィリピンにおいて、ドゥテルテ大統領はアメリカ批判を強め、中国への接近政策を取った。ドゥテルテ大統領が行う「麻薬撲滅戦争」についてアメリカのバラク・オバマ大統領(当時)が懸念を示すと、ドゥテルテ大統領はオバマ大統領に「ろくでなし」と言い放ち、ラオスで予定されていたオバマ大統領との会談は中止となった。2016年10月には北京を訪問し、習近平国家主席と会談を行った際には、中国との南シナ海の領土問題を棚上げし、「軍事でも経済でもアメリカとは決別する」と発言している。更に同月、来日した際に行った講演では「2年以内に外国部隊は出ていってほしい」とも述べるなど、一時訪問の形を取りながら事実上再駐留を始めていた米軍を追い出すかのような発言も行った。

 その後、アメリカがトランプ政権となってからは、ドゥテルテ大統領は一転して過激な発言は控えており、実際に米軍を追い出すといったことは起きていない。もっとも、中国への接近もそのまま継続されている。

 これらの中国接近政策の中で領土問題については中国側からも譲歩がなされ、現在、中国側がフィリピン船舶を排除していたエリアでのフィリピン側の漁業が可能になっているなど、フィリピン側の要望にもある程度沿う形となっている。

強い支持を受ける中国接近政策

 ドゥテルテ大統領の中国接近のニュースは、日本でも一時期大きく取り上げられた。しかし、それはドゥテルテ就任当時の一時期のみで、現在はその話が報道されることは少ない。ドゥテルテ政権が中国寄りの政策を取ったとしても、それは変わり者のドゥテルテ大統領の個人的な方針であって、長期間続くものではないだろうという予測をしている日本人が多いと思われる。もちろん、その可能性は捨てきれないし、私もそのようなこともありうるかもしれない、とは思う。

 しかし、今回の調査で本当に驚いたのは、次の二つの点であった。

 「中国への接近」が国内で当たり前のように支持されているということ。そして、大統領が変わるだけで社会の空気がここまで変わるのかということ、である。

 大統領の個人的な方向性はあるだろう。一代前のベニグノ・アキノ大統領は強い親米論者であった。しかし、このドゥテルテ大統領の中国接近という政策変更は、中国のアジア・太平洋地域での勢いを受けて、今、この国において強く支持される政策になっている。今回の調査では多くの人と面談し、フィリピン外務省や、まさに中国との領土問題の現場を統括してきた海上保安庁の高官、国会議員、市民団体など、様々な立場の人と意見交換したが、中国との距離を縮めるドゥテルテ大統領の政策は多くの人から高く評価されていた。

 一様に、「フィリピンのような小さくて貧しい国にとっては経済発展が一番の国益であって、中国のような大国と戦ったって軍事的にも勝ち目がない、中国と仲良くするほうが良い」という姿勢である。アメリカとの距離を変えるわけではない、しかし、中国にも接近し、バランスを取ることを極めて重要視する立場であるとも言い換えられよう。

 共産党に近く、愛国精神にあふれるフィリピンの「左派」と言われる人々以外には、総じて、中国への接近政策は広く支持されていた。

 ASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国の中でカンボジアやラオスが中国寄りになっていると日本で報道されることもあるが、フィリピンのこの変化はあまり知られていない。

 現地で話をする人の皆がこの姿勢であり、そこには「仕方なく」という雰囲気ではなく「積極的な選択を行っている」という雰囲気すら漂っていた。「中国は嫌い」「中国に近づく国があったとしても圧力に押されて嫌々では」といった雰囲気のある日本で感じる空気との違いに、大変驚いた。

世論の大幅な変化

 更に驚いたのが、フィリピンにおける世論調査の結果である。これは、ある面談でフィリピン政府のアドバイザーでフィリピンを代表する安全保障の学者から紹介されたものだが、中国のイメージについて、平均値で、アキノ政権時代は「ネガティブイメージ 33%」であったところ、ドゥテルテ大統領になって「ポジティブイメージ 9%」にまで改善したというのである。

 その学者は、ドゥテルテ政権の中国接近を説明する中で、「世論の後ろ盾もはっきりとあります」と、政権の方針への信頼を示すべく意気揚々とこの世論調査の結果を示した。

 これまで嫌悪してきた国について、大統領が変わるだけでここまで世論が変わるものだろうか。しかし、繰り返しになるが、その調査結果は肌で感じるものと同じであった。

 日本の文脈に置き換えてみると、支持率の高い総理大臣が現れて、「中国と仲良くしましょう。中国は強い国ですから仲良くやったほうが日本のためになります」と言いだしたからといって、現在中国が嫌いという声が過半数を大きく超える日本の世論調査が、数年後には「中国は好き」が多数という結果に逆転するものだろうか(言論NPOと中国国際出版集団が2017年に行った「日中共同世論調査」では日本人の88.3%が中国に「良くない印象を持っている/どちらかといえば良くない印象を持っている」)。

 なお、フィリピンの人口は日本よりやや少ない約1億人。日本より貧しいけれど、「ピープルズパワー」の国とも言われ、日本より政治に関心が強い人が多い、というお国柄である。

アジアの変化に目を向けねばならない

 日本はいまだアメリカ一辺倒であり、中国脅威論が国内に渦巻いている。政府や自民党、またそこに影響を強く与える保守的な団体やメディアの「中国嫌い」には相当なものがあり、なかなかこの状況は変わらないようにも思う。ところが、フィリピンの例を見ると、もしかすると10年先、20年先は分からない、ということなのか。

 更に踏み込めば、この日本社会の極度の中国嫌いは、政府や政権与党である自民党が直接間接に発するものに由来しているのかもしれない、という推測すら成り立つ。

 いずれにしても、日本の近隣諸国のフィリピンにおける変化から私たちが学ぶことは多そうである。少なくとも、フィリピンのこの状況を、同じく中国とアメリカの板挟みになっている日本の私たちは理解をしておく必要があるだろう。
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加計学園が「安倍首相と加計理事長の面談」を自らの捏造と弁明するも嘘がバレバレ!

2018-05-30 | いろいろ

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加計学園が「安倍首相と加計理事長の面談」を自らの捏造と弁明するも嘘がバレバレ! 面談を物語る証拠がこんなに

 昨日、加計学園が愛媛県の新文書について呆れ果てるようなコメントを発表した。同文書には、加計学園からの報告として、2015年2月25日に加計孝太郎理事長と安倍首相が面談し、安倍首相が「そういう新しい獣医大学はいいね」と発言したことが記載されていたが、今回、加計学園側はそれを自分たちがでっち上げた嘘だったと弁明したのだ。

 加計学園が〈当時の関係者に記憶の範囲で確認出来た事〉として、文書で発表したコメントは以下のとおり。

 〈当時は、獣医学部設置の動きが一時停滞していた時期であり、何らかの打開策を探しておりました。そのような状況の中で、構造改革特区から国家戦略特区を用いた申請にきりかえれば、活路を見いだせるのではないかとの考えから、当時の担当者が実際にはなかった総理と理事長の面会を引き合いに出し、県と市に誤った情報を与えてしまったように思うとの事でした。その結果、当時の担当者の不適切な発言が関係者の皆様に、ご迷惑をお掛けしてしまったことについて、深くお詫び申し上げます。〉

 これがほんとうならば、加計学園のやったことは、愛媛県と今治市に対する「詐欺」行為ではないか。

 なぜなら、「誤った情報」などという表現でごまかしているが、加計学園は自ら「獣医学部設置を実現するため、安倍首相と加計孝太郎理事長の面談を担当者がでっち上げ、愛媛県と今治市を騙して動かした」ことを認めたことになるからだ。しかも、この加計学園の「総理と理事長の面会」でっち上げの結果、愛媛県と今治市が緊密な連携をはかり獣医学部新設に向けて動き、それが国家戦略特区として認められ、愛媛県や今治市から合わせて約186億4000万円もの補助金を出す決定をおこない、今年4月の開学へといたっているのだ。

 これはほとんど犯罪だろう。しかも、安倍首相はその詐欺犯罪に名前を利用されたことになる。安倍首相は森友学園問題では籠池泰典理事長のことを「詐欺をはたらく人物」と批判したが、すぐに「加計学園は詐欺をはたらく学校」として抗議するべきだ。

 だが、安倍首相がそんなことをするはずがない。なぜなら、「安倍首相と加計理事長の面談はつくり話」とする今回の加計学園のコメントじたいが、インチキ、嘘の上塗りでしかないからだ。


 愛媛・今治の柳瀬首相秘書官訪問は、安倍・加計会談を受けてのもの

 今回の加計のコメントがインチキであることは、ほかでもない当時、首相秘書官だった柳瀬唯夫氏の行動が証明している。

 参考人招致でも認めたように、柳瀬氏は加計学園側と官邸で3回も面談をしているのだ。しかも、その1度目は、安倍首相と加計理事長の面談があったとされる2015年2月25日からほぼ1カ月後の3月24日のことだった。

 柳瀬氏はこの面談について、参考人招致で「(加計の担当者から)『今度、上京するのでお会いしたい』とアポイントがあってお会いした」と述べた。この答弁は「具体的な案件もなく、『上京するから』なんて理由で首相秘書官と簡単に会えるものなのか」というツッコミが溢れたように、嘘というのがバレバレだ。首相秘書官が独断で一学校法人の担当者の特区指定の相談に乗るなどという、ほかでは絶対にあり得ないことが実現したのは、柳瀬首相秘書官を動かすなんらかのきっかけがあったからだ。

 愛媛県の新文書には、安倍首相の「獣医大学いいね」発言が記された文書とは別に、同年3月15日に今治市と加計側がおこなった協議の内容を記した文書があるのだが、そこにはこんな記述があった。

 〈柳瀬首相秘書官と加計学園の協議日程について(2/25の学園理事長と総理との面会を受け、同秘書官から資料提出の指示あり)(学園)3/24(火)で最終調整中である〉

 つまり、この文書には、安倍首相と加計理事長の面談がすべての出発点になって、柳瀬首相秘書官が加計学園に資料提出を求め、加計は3月24日に官邸を訪問することになったという経緯が記されているのだ。

 さらに同文書には、「文部科学省の動向について」と題した項目にこんな記述もある。

 〈(学園)文科省から獣医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議委員に対する意見照会を実施している模様。
 2/25に学園理事長と総理との面会時の学園提供資料のうち、「新しい教育戦略」(別紙p.5-6)に記載の目指すべき大学の姿に関する部分を抜粋したアンケート形式の資料を示して、短期間での回答を求めている。アンケート結果は、柳瀬首相秘書官との面会時に、学園に対し、情報提供されるものと推測。
 なお、委員からの評判は概ね良いとの情報を得ている〉

 そう。この報告文書には、「2/25に学園理事長と総理との面会時の学園提供資料」と、面談時に加計理事長が安倍首相に資料を提供していたとする記述まで、当たり前のように出てくるのだ。


 柳瀬首相秘書官は、安倍と加計の会談について否定していなかった

 加計学園担当者の「総理と理事長が面会した」という発言がつくり話ではないことを物語る材料はほかにもある。それは、柳瀬氏と加計学園担当者が官邸で2度目に会うことになった2015年4月2日の会合をめぐるものだ。

 5月10日に行われた柳瀬秘書官の参考人招致でも大きな焦点となったこの会合は、加計学園サイドが柳瀬秘書官に愛媛県、今治市を引き合わせるため、いっしょに官邸を訪問。愛媛県、今治市の複数の職員が同席のもとで会合がおこなわれた。

 この会合が行われたのも、安倍首相と加計理事長の会話がきっかけになっていた。新文書のうち、3月24日の柳瀬首相秘書官と加計関係者の協議について今治市から受けた報告内容をまとめた文書には、こう書かれているのだ。

 〈安倍総理と加計学園理事長が先日会食した際に、獣医師養成系大学の設置について地元の動きが鈍いとの話が出たとのことであり、同学園としては柳瀬首相秘書官に4月2日午後3時から説明したいので、県と今治市にも同行願いたいとの要請があったと今治市から連絡があった〉

 安倍首相と加計理事長が面談し、獣医学部に関して会話していたのが事実であることは、4月2日の会合における柳瀬氏の対応からもうかがえる。加計学園の担当者はこの会合で、柳瀬氏や愛媛県、今治市職員を前に〈先日安倍総理と同学園理事長が会食した際に、下村文科大臣が加計学園は課題への回答もなくけしからんといっているとの発言があった〉などと報告していた。

 もしこれがつくり話であったら、柳瀬氏は当時、総理のスケジュールや行動をすべて把握している首相秘書官であり、すぐにその嘘を見抜けたはずだ。加計学園が安倍首相の名前を使って嘘をついていたのなら、その場で「そんな事実はない」と指摘していなければおかしい。

 しかし、この会合の報告文書のどこをみても、柳瀬氏のそういった発言はない。柳瀬氏はむしろ、安倍首相・加計理事長の面談が前提であるかのように、建設的なアドバイスをおこなっているのだ。


 日大だけでなく、安倍首相の嘘と責任転嫁体質も徹底追及すべきだ!

 いずれにしても、こうした経緯をみれば、安倍首相と加計理事長が面談をおこなったことをいまさら「つくり話」とすることがいかに無理スジかというのがよくわかるだろう。

 にもかかわらず、加計学園はなぜ、自らの詐欺疑惑まで浮上するリスクを冒してまで、こんな嘘をついたのか。

 それはやはり、安倍首相を守るためとしか考えられない。

 周知のように、愛媛県新文書の公表以来、安倍応援団たちはしきりに「愛媛県の文書には信用性がない」「新文書の内容は伝聞の伝聞でしかない」と、愛媛県の担当者の誤認であるかのような攻撃をおこなってきた。

 しかし、愛媛県の新文書公開で、会合の同席者で安倍官邸とべったりのスタンスだったはずの今治市も追い詰められ、菅良二市長が、安倍首相と加計理事長の面談について加計学園側から市に伝えられていたことを明らかにせざるをえなくなった。

 そこで、加計理事長との面談を絶対に認めるわけにいかない安倍官邸は、加計学園サイドに言い含めて、話の出所である加計学園の担当者が嘘をついた、ということにしたのだろう。

 保身のために佐川宣寿・前理財局長や柳瀬氏にバレバレの嘘をつかせ、今度は大学担当者に責任を押し付けはじめた安倍首相。マスコミはいま、日本大学アメフト部の悪質タックル問題で、日大の責任転嫁体質を厳しく批判しているが、安倍首相の責任転嫁と嘘についても徹底追及すべきではないか。こちらは、日本の政治の根本的な問題が問われているのだ。
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古賀茂明「安倍政権の命運決める新潟県知事選 カギを握る小泉親子」

2018-05-29 | いろいろ
古賀茂明「安倍政権の命運決める新潟県知事選 カギを握る小泉親子」
より

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古賀茂明「安倍政権の命運決める新潟県知事選 カギを握る小泉親子」

 新潟県知事選挙が5月24日に告示された。6月10日の投票に向けて既に激しい選挙戦が展開されている。この知事選については、5月14日付の本コラムで取り上げたばかりだが、そこで予想したとおり、この選挙の結果が、国政に重大な影響を与える状況になっている。その最新の状況の舞台裏を中心に紹介しながら、今後の安倍政権の行方を左右する選挙の帰趨を占ってみたい。

 森友、加計、自衛隊日報、さらには財務次官のセクハラと、安倍政権に関するスキャンダルが続々と出てきて、もう終わりだなという雰囲気が漂ったのもつかの間、信じられないことに、安倍政権の支持率も下げ止まり、さらには、回復の兆しさえ見せ始めた。

 ゴールデンウィーク明けに審議復帰に応じた野党側には、柳瀬唯夫元首相秘書官の参考人質疑、加計孝太郎氏と安倍総理が2015年に会談して獣医学部新設について安倍総理が「いいね」と言っていたことを示す愛媛県の新文書の提出、昭恵夫人の関与が濃厚であることを示す森友学園と財務省の膨大な交渉記録の開示など、願ってもない追い風が吹いているにもかかわらずだ。

 テレビ局の反応は鈍く、日大アメフト部の「違法」タックル問題で、これらのニュースはほとんどかき消された。国会審議に応じて安倍政権の不祥事を徹底追及すると言っても、テレビが大きく取り上げてくれなければ、多くの国民には伝わらない。

 25日には、安倍政権最大の目玉である「働き方改革法案」が、議論の基礎とされた厚労省のデータに新たな不備が発見される中で、易々と強行採決され、今国会中の成立の可能性が高まった。ちょうど、その日、籠池泰典夫妻が釈放されたが、籠池氏が面白おかしく話しても、重大な新事実が出てこない限り、「籠池砲」炸裂という状況になることはなさそうである。

 このように、国会では、手も足も出ないという状況の中で、野党への落胆も広がる。政治不信も極限に達していると言って良いだろう。

■自民党県連の二階幹事長色を消す選挙戦

 新潟県知事選が、中央政治での手詰まりを打破する大きなチャンスとなる理由は、野党には安倍政権を倒す力はないが、自民党には安倍総理を引きずり下ろす力があるということにある。どういうことか。

 新潟県知事選は地方選挙だから、その勝敗は、中央政界とは関係ないというのが安倍政権の立場だが、実際は全く違う。ここで与党が負ければ、安倍政権の下では、地方選挙に負ける可能性が高いという証明になるからだ。来春の統一地方選の準備が本格化する中で、安倍では勝てないとなれば、秋の総裁選で、勝てる総裁に代わってほしいという声が地方で高まる。さらに、統一地方選で当選した地方議員は、19年夏に改選を迎える参議院議員、さらにはいつ解散総選挙を迎えるかわからない衆議院議員の選挙を支援する基盤になるので、地方の声は、国会議員票にも大きな影響を与え、地方での支持が高い石破茂氏が総裁選で勝利する可能性が高まる。

 だからこそ、自民党、さらに言えば、安倍総理を支える主流派にとって、新潟県知事選は負けられない戦いになっているのだ。

 しかし、こうした中央の思惑とは異なり、自民党新潟県連は、安倍総理やこの選挙を仕切る二階俊博幹事長とはかなりかけ離れた意識を持っているようだ。

 それは、事実上自民党候補に決まった花角英世氏の選挙戦略に表れる。県連としては、安倍総理の不人気をとにかく遮断したいと考えている。そこで、自民色を消して、「無所属」の「県民党」という立場を前面に押し出し、市民連合側候補の池田千賀子氏と同様の「草の根選挙」をしているように装う作戦を立てた。花角氏と言えば、二階氏が運輸相だった当時の秘書官を務めた官僚で、土建屋利権の象徴のような存在だ。「県民党」とは笑わせると記者たちは鼻で笑っているが、いかに馬鹿にされようとも、自民色、二階色を消そうと必死なのである。

 しかし、党本部、特に、二階幹事長の意識はこれとは全く逆。ここで、石破氏らの反主流派の力がなくても主流派の力で選挙に勝てることを誇示すれば、安倍総裁の3選への道が開けると考えた。そこで、選挙では、石破氏など反主流の応援は受けずに、しかも、自民党本部が前面に出る戦いをしようとしているのだ。

 こうした地方と中央の乖離の妥協の産物が、自民党と公明党による「公認」でもなく、「推薦」でもない、「支持」という一番弱い形式での支援決定だ。その決定の裏には、公明党が創価学会を動かすためには、ただの無所属のままでは難しいという事情も加わったようだ。
 これで、実質は自公丸抱え、二階派の候補が、表向きは無所属で県民党を装い、自公の支持を受けるという形の選挙戦が始まったのである。なんともまあ姑息な話ではないか。

■「脱原発抱き付き作戦」の姑息

 花角陣営の姑息な選挙戦でもう一つ特筆すべきなのが、「脱原発抱き付き作戦」だ。前回と同様、今回の知事選でも、「柏崎刈羽原発の再稼働問題」は大きなテーマだ。新潟県では、保守層にも脱原発支持が多い。したがって、「脱原発」と信じてもらえば有利になる。

 花角氏は、バリバリの原発推進派の安倍自民党の支持を受けるのだから、普通の人は、「この人は原発推進だ」と考える。ところが、花角陣営は、これを「そうではない」と完全否定し、あろうことか、いかにも脱原発派であるかのように装う作戦に出た。少し詳しく見てみよう。

 まず、脱原発で先行したのは、当然のことながら、市民連合が支援する池田千賀子氏だ。そのホームページを見ると、こう書いてある。

 ― 原発事故等に関する3つの検証を厳格に進め、県民の皆さんと結果を共有し、丁寧に議論します。できるだけ早急に原発ゼロへと向かうよう、新潟としての責任を果たすとともに、原発停止後の新潟の産業・社会政策を検討するための新たな会議を設置します。―

 「検証」を「厳格に」進めるとして、簡単には再稼働させないという趣旨を明確に打ち出すとともに、一歩踏み込んで、原発を止めた後の議論を早くも始めることを宣言した。ここまでくれば、明らかな脱原発宣言である。

 池田氏が脱原発候補としての地位を確立すると選挙が苦しくなると考えた花角陣営は、ホームページでこう打ち出した。

― 原発については3つの検証(福島原発事故の原因、健康・生活への影響、避難計画)をしっかり進め、その結果を見極めます。将来的には原発に依存しない社会を目指し、県民の安全・安心を守ります。―

 一見、脱原発派なのかと勘違いする人もいるだろう。しかし、この文章には中央官僚特有の「騙しのレトリック」が満載である。

 まず、「検証」をただ「進め」、「結果を見極めます」として、検証の結果、再稼働を認める余地を明らかに残した。しかも、認めるかどうかについて、全くイーブン、五分五分の書き方である。また、「将来的には」「原発に依存しない社会を目指し」として、原発ゼロにするとは書いていない。「目指していればよい」「結果については約束していない」と逃げ道を作る、霞が関らしい文章だ。もちろん、県の検証委員会の結果が出ないうちに、安倍政権と東電からの再稼働承認要請があれば、検証結果が出たらもう一度考え直すが、それまでは暫定的に再稼働を認めるというような対応を取る恐れが強い。

 要注意なのは、ホームページでの記載は証拠として長く残るが、選挙演説はそうではないことだ。

 例えば、「検証には時間がかかる」と言えば、それまでは動かさないように聞こえる。「再稼働は原則認めません」と言うかもしれないが、「原則」なら例外有りということだ。さらに苦しくなれば、「原発は一切認めません」などと言うかもしれない。しかし、印刷された党の公約さえ信用できないのが安倍政権だ。安倍政権が支持する候補者も同じであると考えるのが正しい姿勢だろう。

■小泉元総理の「応援」でスタートダッシュに成功した野党候補

 自民党が行った情勢調査では、当初3ポイント程度自民候補リードと出た。市民連合側から見れば、無名だった池田氏としては上々の滑り出し、これなら十分逆転できると、楽観ムードが広がった。

 さらに、23日には小泉純一郎元総理が新潟で講演し、事実上の「池田氏の応援をする」というサプライズがあった。小泉氏の講演は1年前からセットされていたのだが、今回の講演では異例なことが起きた。小泉氏は、2014年の東京都知事選で細川護熙元総理の選挙応援をして以来、選挙応援は一切しないという原則を通してきた。米山前知事が当選した際も、裏では米山氏を激励したりしたが、マスコミの前で応援することはなかった。そこで、今回も、裏で激励はしてもマスコミの前では、従来の立場を踏襲するのではないかという見方もあった。

 ところが、小泉氏は、マスコミの前で、池田氏とのツーショットを撮影させ、「選挙には一切かかわらない」と言いながらも、「頑張って」と握手をするなど、最大限のサービスをした。これはテレビでも報道され、池田氏が脱原発の伝道師であり保守層に絶大な人気を誇る小泉氏から「脱原発候補」のお墨付きを得たことが大々的に報じられた。これで、さらに池田陣営は盛り上がった。

 ところが、自民党の2回目の調査では、自民党候補のリードが、逆に6~7ポイントに広がったという情報が流れると、池田陣営には衝撃が走った。本来は、敵陣営に並びかけ、追い抜こうという時に逆の結果が出たのだから、当然のことだ。

 自民党は正式支持を決めたことで、これから大物クラスが新潟入りするだろう。二階氏も中盤以降テコ入れに動くと言われる。

 ただし二階氏と言えば、古くてダーティーな自民党の象徴となる政治家だ。前回の知事選でも、新潟入りして業界団体にはっぱをかけたが、これに対する現場の反発が強く、かなりの票が米山氏に流れたと言われている。また、二階氏の動きがネットなどで拡散し、無党派層にも悪影響を与えたという分析もある。

 一方、二階氏の力は侮れないという声も根強い。ある市民連合側の国会議員は、「今回の自民側の中央からの締め付け、嫌がらせは尋常じゃない。こんなのはじめてだ」と語っている。二階式選挙が吉と出るのか凶と出るのかも重要なポイントだ。

 もう一つ、気になるのが、投票率だ。中央の議員たちは結構関心を持っているのに対して、地元では、「米山氏のスキャンダルの時は非常に関心を集めたのに、選挙があることを知らない人も結構います」という記者の声もある。これは自民側には有利だ。

 その一つの理由に、野党側のテコ入れが今一つだという面がある。20日には枝野幸男・立憲民主党代表らが新潟入りしたが、その後の大物議員の投入は、27日の国対委員長クラスのそろい踏みだけ。と言っても名前が知れているのは辻元清美衆院議員くらいのものだ。最初の土曜日の26日も、大物は入らず、国会中とはいえ、党首クラスのそろい踏みの設定には、「いろんな手順を踏まないといけないので、大変なんです」と地元の選対の声が聞こえてくる。6月2日には実現したいということだが、そんなことに手間取っていては、その他の有名人などの選挙応援の設定も遅れる。大物や有名人が入らないとテレビでの報道が増えず、選挙への関心が高まらない。その結果、低投票率が懸念されるということになるのだ。

 また、前回の米山氏の選挙では、全国の関心が高まり、日本中から、でんわ勝手連などによる新潟県民への投票呼びかけが大きな効果をもたらしたが、このままでは、それも盛り上がらない可能性がある。

■今後のカギを握る4人の男たち

 知事選は長い、まだまだこれから何が起きるかわからない。そんな中で、選挙戦に大きな影響を与えそうな人物が4人いる。

 まず、誰もが思い浮かべるのが、小泉進次郎氏が新潟入りするかどうかだ。小泉氏は前回総裁選で石破氏に投票したと明かしたように石破氏に近い。二階派が仕切ると言われる今回の選挙だが、沖縄の名護市長選で見せた小泉氏の応援の威力は破壊的だった。今回も同氏が入れば、安倍不人気を吹き飛ばす効果があるかもしれない。ここで勝てば安倍氏が総裁選で有利となり、石破氏には不利に働く。これを知ったうえで、小泉氏がどう対応するのか。二階氏と小泉氏の駆け引きは見ものである。

 もう一人、言われてみれば、確かに、と思う人がいる。それは米山隆一前知事だ。スキャンダルで辞任したことによる選挙に関わるのは控えるというのが、米山氏の立場だろうが、同氏が辞任するときは、かなりの数の支持者が辞任反対と叫んでいた。潔い辞め方でかえって同情を集めて、好感度が上がったと見る向きもある。米山氏が、今後の政治活動をどう考えているかはわからないが、再起をかけるとすれば、これまで挑戦してきた新潟5区での衆議院選挙出馬だろう。5区には前回選挙で泉田裕彦元新潟県知事が当選したが、彼はバリバリの「二階派」である。ここで、米山氏が「真の脱原発候補は池田千賀子氏だ」と唱えて、事実上の二階派である花角陣営と戦っておけば、次の衆議院選挙の布石にもなる。もし、彼が動けば、テレビで大きく報じられる可能性は高いし、ネットでも反響を呼ぶだろう。池田陣営にとって、最後の切り札になるかもしれない。

 一方、安倍陣営が期待する第3の男がトランプ大統領だ。6月8日に予定される日米首脳会談やG7サミットなどで、ツーショットを大きく報じてもらい、さらに日本が蚊帳の外だと馬鹿にされている北朝鮮問題での連携を見せられれば、安倍不人気解消に大きく役立ち、知事選最終盤なので、投票行動に影響を与えられるのではないかというのだ。

 しかし、この最後のイベントを潰すサプライズを仕掛けるのではないかと言われている第4の男がいる。中村時広愛媛県知事である。中村氏は、最近、加計学園問題で、安倍政権が潰れるような情報を少しずつ小出しにしている。実は、まだ隠し玉があり、日米首脳会談にぶつけて、新情報を公開し、マスコミの注目をそちらに集める作戦があるという見方がある。私も複数の記者からその見方を聞いた。

 いずれにしても、新潟県知事選は、安倍政権の命運にかかわる重大ニュースだ。読者の皆さんにも、最後まで関心を持って、周囲の人たちにも情報を拡散してほしい。
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AIの進歩と人類の終焉

2018-05-28 | いろいろ

賀茂川耕助氏の「耕助のブログ」より

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AIの進歩と人類の終焉

 今年3月、宇宙物理学者として宇宙の謎を解き明かすことに生涯をささげてきた英国のスティーブン・ホーキング博士が死去した。ホーキング氏はまた、人工知能(AI)の進化は人類の終焉を意味するという警告も発していた。

 AIの進歩はもはやSF世界の話ではない。ロボットが雇用を奪うというリポートが研究機関から発表され、自動化によって多くの職がなくなってきたように、これからはAIが仕事をこなし、労働者はそのAIを使う人と使われる人に分かれていく時代が来るという。

 ホーキング氏は、完全なAIが開発されれば、AIは自分の意志を持って自立し、これまでにないような早さで能力を上げて自分自身を設計し直していくため、進化の遅い人間はAIに取って代わられると警告したのである。

 AIの進歩と人類の終焉を結び付ける前に、まず、現在どれほどコンピューターやスマートデバイスにわれわれは生存を委ねているのかを考えてみるとよい。通信網、電力、金融、株式市場、車やミサイル誘導システム、あらゆるものがネットワークにつながれ、中にはすでにAIが使われている。それらが進化し続けることによって、いずれAI自身が操作をするようになることは十分あり得る。

 しかしAIそのものの脅威の前に、まず懸念すべきは人間による悪用である。米国でAIの研究を行う非営利団体「OpenAI」は、去る2月、AIの悪用に関しての注意点を、例を挙げて説明した論文を発表した。例えば、インターネットのある広告をクリックしたらウイルスに感染、という事例は今日でも起こっているが、AIを使えば個人の好みを分析して特定の個人を狙った攻撃が簡単にできる。自動運転車をハッキングして事故を起こしたり、テロリストがロボットを使って政府要人を暗殺する、というシナリオも想定できるのだ。

 これまでも米国は、北朝鮮やロシアがソフトウエアを使って攻撃してくることを恐れてきた。昨年12月に米国は、イギリスの医療機関が機能停止するなどの被害を出したランサムウエアは北朝鮮が関与していたと発表し、3月にはロシア政府のハッカーが米国の電力系統や水処理施設、航空輸送施設などのインフラを標的にサイバー攻撃を仕掛けていると警告を発した。現代社会で水と電気が完全に遮断されたら、人間は長く生き延びることはできないだろう。

 つまりすでに人類は大量絶滅の危機に直面している。地球46億年の歴史の中で火山の爆発や氷河期、隕石の落下などで大量絶滅を5回経験してきたが、生物学者によれば、現在6回目の大量絶滅が進行中だという。過去5回と異なるのは、絶滅の原因が人間であることだ。

 日本政府は人手不足対策としてAIなどによる生産性向上のためのIT投資が急務だという。物理学者アインシュタインは、亡くなる少し前に、核兵器は人類という生物の種を絶滅させる危機であると警告した。そしてホーキング氏は同じことをAIについて言った。天才的な二人の物理学者の言葉に、われわれは耳を傾けるべきである。
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政治史上空前の悪辣 このまま逃げ切りを許していいのか

2018-05-28 | いろいろ

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政治史上空前の悪辣 このまま逃げ切りを許していいのか

 森友学園への国有地売却をめぐり、財務省が国会に提出した約4000ページのペーパーにはア然ボー然だ。交渉記録、改ざん前決裁文書、本省相談メモの3本立てで、交渉記録だけで957ページ分にも及ぶ。

 1年以上にわたって意図的に廃棄された膨大な公文書に世間が驚き、呆れても後の祭りである。表に出した内容といい、タイミングといい、巧妙に練られたものだからだ。

 財務省が交渉記録の提出を先延ばし、のらりくらりと逃げ回ってきたのは、捜査を進める大阪地検特捜部の動向を見極めるためだった。そうして今月中旬、大手マスコミが一斉に報じたのが関係者の立件見送りだ。虚偽文書作成容疑で告発された前理財局長の佐川宣寿前国税庁長官や、約8億円の値引きで背任容疑に問われた近畿財務局担当者らを不起訴とする方針だとした。

 元検事の落合洋司氏はこう言う。

「財務省は廃棄された交渉記録について職員の手控えのほか、大阪地検特捜部の協力によって発見したと説明しています。

 つまり、今回提出した大量の文書は検察がすでに把握しているもので、その内容によって検察側の判断が覆ることはない。そう踏んで出してきたということでしょう」

 財務省は交渉記録が「残っていない」とした佐川氏の国会答弁に合わせ、理財局の一部の職員が廃棄したと釈明。刑事責任を問われる可能性が消えた佐川氏におっかぶせる算段だ。

■ 外遊で審議細切れ、ゲームオーバー

 一方、安倍首相が完全否定してきた昭恵夫人の関与はますます明確になった。ところが、安倍は「国会答弁との関係で文書を廃棄するということは不適切であり、誠に遺憾」とまるで他人事。24日も「今まで何回も国会などで答弁してきたとおりだ」と昭恵氏の関わりを否定し、疑惑のド真ん中にいる夫婦がそろって日ロ首脳会談に向けてロシアへ飛び立った。

 帰国後の28日に衆参両院の予算委員会で安倍が出席する集中審議が開かれるが、米国のトランプ大統領が史上初の米朝首脳会談の中止を突如発表。ニュースの主役に再び北朝鮮が躍り出て、一体全体どういうめぐりあわせなのか、安倍が散々政権浮揚に利用してきた金正恩朝鮮労働党委員長が目くらましになりそうな気配さえ漂う。来月はカナダ開催のG7首脳会議もある。通常国会会期末まで1カ月を切り、野党の追及も細切れを強いられてゲームオーバー。官邸はこんな絵を描いているのである。

 民主主義の根幹を破壊する公文書改ざんは、行政府が立法府をだましていたという前代未聞の大事件。政治史上空前の犯罪だ。にもかかわらず、巨悪は周到に逃げ切りシナリオを張り巡らし、誰ひとりお縄にされることなく、幕を引こうとしている。そんなデタラメがこれ以上許されるはずがない。「私や妻が関係していたなら、首相も国会議員も辞める」という安倍の国会答弁がすべての始まりではないのか。有権者が抗する術はないのか。

 「改ざん文書、隠蔽、虚偽答弁で国会審議を1年以上妨害してきたことは歴然たる事実だ。(国会に対する)偽計業務妨害罪にも当たりうる重大な案件だ」

 こう指摘していた無所属の会の江田憲司衆院議員に改めて話を聞いた。

 「偽計業務妨害罪での告発については、野党間で数カ月前から問題意識を共有していました。これだけ大きな問題となっているのに、関係者が誰ひとりとして刑事罰に問われないのは、法治国家としてあり得ません。国会でももちろん真相究明を求めていきますが、最終手段として財務省を相手取った告発も検討すべきだと考えています。麻生財務相の監督責任もしかりです」


これが許されるのなら、有罪判決の半数が無罪放免

 偽計業務妨害罪での告発の可否を司法はどう判断するのだろうか。

 前出の落合洋司弁護士はこう言った。

 「ネット上に殺害予告を書き込み、警官を巡回などにあたらせて警察業務を妨害する。あるいは、虚偽の告発で個人や法人の業務を妨げる場合などに適用されるのが偽計業務妨害罪です。今回のような国会審議の妨害は想定されていないので、判断が分かれるところでしょう」

 元特捜部検事の郷原信郎弁護士の見解はこうだ。

 「公文書改ざんに関していえば、憲法が定める国政調査権に基づく国会の要求に対し、財務省は虚偽の公文書を提出した。野党による疑惑追及の妨害を企図した疑いが強く、その点では文書犯罪として筋がいいと言えます」

 元特捜部検事の若狭勝弁護士もこう言う。

 「偽計業務妨害罪はかなりの確率で成立すると見ています。35年間法曹界に携わった経験からいって、これほどの大事件で関係者が逃げ切れるのだとしたら、これまで有罪判決が下された被告人の半数が無罪放免になりますよ。何としても関係者を処罰する必要があります。不問に付すようであれば、わが国の刑事司法は絶望的で、特捜部不要論は高まる一方でしょう。市民がどんどん告発して、特捜部を動かすべきです。

 仮に立件が見送られたとしても、最終判断は一般市民で構成される検察審査会に委ねられます。ごく普通の市民感覚でこの問題を捉えれば、誰ひとり起訴されないという判断は考えられません。適正な結論が導き出されることになるでしょう。もっとも、佐川前理財局長をはじめとする理財局職員らの意図でこれほど大掛かりな改ざんに手を染めたとは思えませんが、官邸サイドが明示的な指示を出したとは考えにくく、対象をどこまで広げられるかは不透明です」

■ 民主主義の到達を決定づける分水嶺

 これだけの文書隠蔽、改ざんが誰の指示によるものなのか。誰を見て実行されたものなのか。国民の目にはハッキリと見えているのに、本丸まで司直の手が伸びないのなら、国民の手で裁くほかない。

 立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言う。

 「ありとあらゆる反民主主義的な手法で目的を達成させてきたのが安倍政権です。この5年半でやってきたことは、ウソとデタラメのオンパレード。トリクルダウンをうたったアベノミクス、中国や北朝鮮の脅威をあおって強行した安保法制、テロ対策と称した共謀罪法しかりです。

 今国会では、データを捏造してまで労働環境をメチャクチャにする働き方改革関連法案をまとめようとしています。ここで安倍政権を終わりにしなければ、安倍首相は自民党総裁3選に向けて居座り続け、暴走を止めることはできなくなってしまうでしょう。戦後70年かけてこの国が培ってきた民主主義が到達点に達するのか、発展途上のままなのか。安倍政権を退陣に追い込めるかどうかが、その分水嶺なのです」

 悪辣な亡国首相に審判を下し、この国の政治をリセットできるのは、世論しかない。
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前川喜平さんロングインタビュー1 「18歳成人」

2018-05-27 | いろいろ

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前川喜平さんロングインタビュー1 「18歳成人」時代の高校教育はどう変わる? 学びの先にある民主主義の未来

 今年(2018年)3月、政府は成人年齢を18歳に引き下げる民法の改正案を閣議決定した。2007年に成立した国民投票法に続いて、2016年に施行された公職選挙法の改正で既に「18歳選挙権」が実現しているが、今回の民法改正案が成立すれば、2022年以降、18歳は名実共に「大人」となり、高校教育は文字通り「大人になるための学び」の最終段階となる。

 そこで気になるのが2020年から導入される予定の新しい学習指導要領だ。18歳成人時代に向けて高校の教育内容はどのように変わるのか、その背景には政府や文部科学省のどのような意図があるのか? 前文部科学省事務次官の前川喜平氏に聞いた。


──2020年に文部科学省(以下、文科省)が導入するという今回の「学習指導要領」の改訂では、特に高校教育の見直しに重点が置かれていると言われていますが……。

前川 学習指導要領というのは学校教育を行う上でのカリキュラムに関する「国が定めた基準」で、およそ10年に一度見直しをすることになっています。平成20年(2008年)頃に行われた前回の学習指導要領改訂のときには、文部科学省も小中学校のほうに一生懸命で、高等学校の指導要領はほとんど見直していないんですね。
 だいたい5年スパン、つまり前回の学習指導要領が実施されて4~5年目から見直しの議論を始めるので、今回の高校学習指導要領の見直しも2013年頃から、いろいろと議論をやっていたことになります。ただ、実はその前に「政治的な議論」や「圧力」があったのも事実です。

──「政治的な議論」や「圧力」ですか?

前川 つまり、日本の保守政党――私はもう最近は「右翼政党」と言ってもいいと思いますけれども――政権を握っている自民党から文科省に対していろいろと注文が飛んでくるわけです。
 具体的に言うと、小中学校に関しては道徳教育、道徳の教科化というのがずいぶん言われていて、これは今年の4月から始まったわけですが、高校に関しては、まず「日本史必修」という話があって、これまで世界史が必修で日本史は選択だったのを「日本人が日本の歴史を学ばないでどうするんだ!」って言う人たちが文科省に圧力をかけていた。
 もう一つは、小中と同じように「高校でも道徳教育が必要だ」という議論。中には「徴兵制を導入して高校生も鍛え直すべきだ」なんてことを真顔で言う人もいるぐらいで、高校生のための道徳教育、あるいは日本人としての自覚を持たせる教育、愛国心教育みたいな内容を高校教育に織り込ませたいという声が、常に自民党の中にあるわけです。

 新しい高校学習指導要領で導入される「公共」という教科などは、まさにそういう議論の中から出てきたものです。実は2006年に教育基本法の改正があって、その中に新たに「公共の精神」という言葉が入れられたのですが、その「公共の精神」を養うための教科が必要だ……と。小学校、中学校では「道徳」があるけれど、高校にはないから、「公共」というものを設けるべきだという、そういう政治的な思惑から始まっているんですね

 ただし、文科省はそうした「政治的な思惑」をそのまま受け止めるのではなく、それを中央教育審議会(以下、中教審)にお任せして、委員の皆さんにご議論いただく……というプロセスを通します。もちろん、中教審の委員にも、例えば右派政治家の立場を代弁する、櫻井よしこさんみたいな人がいたんだけど、彼女も30人いる委員のうちの一人ですから、決して櫻井よしこさんの言う通りになるわけではありません。
 しかも、中教審の下にはいくつかの分科会、部会、専門委員会という組織を設けてあって、そこで日本中の学者や教育関係者の知恵を集めて議論する。その過程で、「右」の人たちからの極めて単細胞的な政治の思惑というのがある程度打ち消され、まっとうな方向に議論を方向転換させていく……というのが文科省の常套手段です。

 新たな高校学習指導要領で現在の「現代社会」に代えて導入される「公共」という科目もこのプロセスを経ていますから、教科の名前という「包装紙」は変えても、実質的には「現代社会」の焼き直しに近い内容に収まっているとも言えます。
 ただ、それでもある程度は「政治」の側の人たちが望む「公共」的な味付けをしないと「政治的にもたない」ので、領土問題に関する記述や、おそらく自衛隊の扱い方などについても相当書き込むことになるでしょう。今の学習指導要領との違いという意味では、そのあたりが大きいのではないかと思います。

──中教審の委員の人選というのは誰に任命権があり、通常、どのような形で行われているのでしょうか?

前川 中教審の委員の任命権は文部科学大臣にあるので、最終的に大臣がうんと言わない人は任命されないわけですが、もともと、いろんな教育に関わる世界の人たちをバランスよく集めようという考え方があるので、小学校の関係者、中学校の関係者、高等学校の関係者、大学の関係者、社会教育の関係者というような教育関係者は一通り揃っていないと中教審にならないよね……という、一種の「相場感」は存在するわけです。
 そういう人たちの存在がある意味、安定性の担保になっている。
 ただし、そこに、いわゆる「政治任用」みたいな人が入ってくるわけです。特に下村博文元大臣は任命権をフル活用しましたから、「この学者はこんなこと言っているから外せ」とか「その代わりこの人を入れろ」とか……。まあ、言ってみれば「思想調査」みたいなことをずいぶんしました。確か、2013年の中教審で櫻井よしこさんが委員になられたのだと思うのですが、あれなんかはまさに政治任用そのものですよね。

──現行の「現代社会」と新科目の「公共」の違いは?

前川 表向きの議論としては、「現代社会」は、ただ現代社会を認識するための教科で、「公共」はより積極的に、この社会の形成者として新しい社会の形成に能動的に関わっていくという、そういう態度を養うんだ――みたいな説明になっているんじゃないかと思います。
 一方、具体的な内容の変化という意味では、先ほどもお話ししたように、ある程度「政治」の側からの声を反映せざるを得ない部分もあって、例えば、領土については政府の見解をそのまま書くべし……というのがあって、これも、本当は問題がありますよね。
「竹島は日本固有の領土だ」って書くのか、「日本政府は竹島が日本固有の領土だと主張している。その理由はこうだ」と書くのでは、当然、大きな違いがあるわけですが、新しい高校の学習指導要領では、「竹島は日本固有の領土だって教科書に書け」と言っている。

 現実問題として、そういう「政治の言うことを聞きましたよ」という部分を見せて、権力を持っている人たちが「うん、わかった。それでいい」というような形に持っていかなきゃいけない部分というのは、残念ながらあるわけです。
 でも、一方で、教育の現場に対して、そういう政治の「単細胞的な議論」をそのまま押し付けたらまずいという気持ちも文部官僚は持っていますし、中教審のまっとうな先生たちだって、大半はそう思っている。だから、中身としては、できるだけまっとうな形に、しかも新しい時代にマッチした「新時代性」みたいなものも追求しながら、教育の現場に下ろしていこうという気持ちはあると思うんですよね。

──とはいえ、今、お話に出た領土問題などは、両者がそれぞれの言い分を持って対立している問題ですから、お互いが一方的に自分たちの立場の正当性を主張し続けている限り、絶対に解決しません。話し合いで解決しようとすれば、当然、相手の言い分も聞かなければならないはずです。
 学校教育の場において「わが国の主張はこうであるけれども、それと異なる主張をしている国もある」と言うのではなく、「わが国の主張が正しいのだ」という形に変えることは「立場の違いを話し合って議論する」という前提を教育が否定することになりませんか?

前川 まったくその通りだと思います。

 これは領土問題に限らず、歴史認識だってそうですね。社会科系の教科にはそういう問題があちこちに出てくるわけですが、そこで政府見解をそのまま教えなさい……なんて、これはもう全体主義国家の始まりです。
 だから「竹島は日本固有の領土だ! はい、おしまい!」っていうような、そういう教え方をしちゃいけないんです。仮に教科書にそう書いてあったとしても「教科書にはこう書いてあるけれども、韓国政府はこう言っている」というように、対立する考え方を提示して批判的に思考するっていう、そういう態度を養うというのが大事なのであって、今、政治の世界で起きている様々な問題を見てもわかる通り、権力者や権威ある人から言われたことを、そのまま鵜呑みにするような、そういう人間ばかりになったら民主主義なんて機能しません。
 そうやって「自分で考える」力を持った人を育てることが、本来のあるべき「主権者教育」なのであって、「これはこうである」っていう一方的な考え方を刷り込むような教育は、僕に言わせれば教育じゃない。

 ところが、領土問題だけじゃなく、歴史認識なんかも「教科書に政府の見解だけを書け」というふうに教科書検定基準を変えてしまったんですね。ただし、文科省が作る「学習指導要領解説」という、現場の先生に向けた「学習指導要領」の解説書があって、そこにちゃんと「一方的な考え方を押し付けてはいけない」とか「考えて議論するということが必要だ」という、文科省のホンネ、あるいは中教審で議論した内容が書いてある。

 ですから、仮に教科書には「政府見解」だけが載っていたとしても、実際の授業では先生が「他の国はこのように主張しています」と紹介しながら、生徒たちが議論できる余地を残してあるんです。まあ、こんな話をして「今後は教科書だけじゃなく、学習指導要領解説もしっかりチェックしなきゃ」って考える政治家が出てくると困るんですけどね(笑)。


──政治が教育の現場に直接手を突っ込んでくる……という意味では、先日、前川さんご自身が愛知県の公立中学で講演をされた際に、自民党の国会議員が文科省に圧力をかけ、名古屋市教育委員会に講演内容などに関して質問し報告を要請したという事件がありましたよね。

前川 政治が教育に手を突っ込むというのは、大抵、こういうやり方なんですね、要するに「騒ぎ立てる」。今回のように国会議員が騒ぎ立てる場合も多いのですが、怖いのは地方議会ですよ。あと、もっと怖いのが地方自治体の首長です。教育委員会に圧力をかけて「右の教科書」を採用しようとしたりしますからね。

 防府市の松浦正人市長が会長を務める「教育再生首長会議」という団体があるのですが、彼らは教育、特に教科書の採択は教育委員会でも、現場の教員でもなく、選挙で選ばれた自分たちが決めるべきだと主張しています。「新しい歴史教科書をつくる会」から分派した団体で、安倍首相直属の諮問機関「教育再生実行会議」の有識者委員でもある八木秀次・麗澤大学教授が理事長を務める「日本教育再生機構」とともに、育鵬社の教科書採択を広める活動を積極的に展開しています。

 また、現場の先生が領土問題や歴史認識について「いや、韓国政府はこういうことを言っているよ」みたいなことを言うと、県議会議員や市議会議員などの地方議員が「これは反日教育だ」と言って騒ぎ立てるというのもよくあります。そうやって、地方政治家が騒ぎ立てたり、あるいはPTAの役員がなんか文句を言ったり……と、「偉い人」が騒ぐと、学校側としては騒がれたくないので、それなりに萎縮効果がありますからね。

 その点、今回の名古屋の中学校の件では、文科省の態度と市教委の態度との違いが際立っていましたね。文科省が一部の右翼的な政治家の圧力に屈して、教育現場への不当な介入とも言える動きをしたのに対し、市教委はそれを学校現場まで及ぼさないよう対応した。名古屋市教委の振る舞いは立派だったですよ。

──ちなみに、そうした「地方自治体の首長」や「地方議会」、あるいは「市民運動」の形で騒ぎ立てて、国政に影響を与えてゆこう……という手法は、保守系の政治団体「日本会議」が改憲運動などで行っている戦略とよく似ている気がします。

前川 似ているというか「そのもの」ですね。実際、国の形を教育から変えていきたいという勢力は、政治の世界でどんどん強まっている。おそらく日本会議に参加しているような人たちなんだけど、近年になって、こうした動きがはっきり出てきた。ただし、これって、元を正せば、これは戦後ずっとくすぶっていた問題でもあると思うんです。

 つまり、日本という国も国民もあの戦争をきちんと清算していない。清算しないまま戦前的なものを残したまま戦後を始めてしまったから、きちんと害虫駆除していないんですよ。「害虫」という表現が強すぎるなら、日本を悲惨な戦火で焼き尽くした、その「火」をきちんと消し切らなかったために、その「残り火」が戦後70年を経て、今また、一気に燃え広がり始めている状態とでも言えばいいのかな。

 例えば学校で「道徳」の時間が始まったのは、「安倍首相のおじいさん」である岸信介内閣のときで、1958年から週1回の「道徳」の時間が始まっていますけれども。あれも松永東(とう)という文部大臣の鶴の一声によって、学習指導要領の後づけで作ったもので、その背景には戦前の「修身」の復活という、右派政治家の執念みたいなものがあったわけですね。それが、この4月から始まった「道徳の教科化」へとつながっている。

その2に続く
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古賀茂明氏 「憲法9条改正で頭がいっぱいの安倍総理が財政健全化を先送りする理由」

2018-05-26 | いろいろ

より

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古賀茂明「憲法9条改正で頭がいっぱいの安倍総理が財政健全化を先送りする理由」

 5月3日、安倍晋三総理は、憲法改正を求める民間団体の集会へのビデオメッセージの中で、「この1年間で憲法改正の議論は大いに活性化し、具体化した」と述べた。

 モリカケ疑惑、自衛隊日報問題などの相次ぐスキャンダルにまみれて、憲法改正どころではないという声が与党内でも囁かれる中で、安倍総理の頭は、悲願の憲法改正に向かって、物事は着々と進展しているという幻想に支配されているようだ。

 一方、憲法記念日前日の5月2日、日本経済新聞は1面トップに、「財政黒字化25年度に 5年先送り 規律維持 綱渡り」という 見出しを掲げた。連休明けからは、その他の全国紙も連日のように財政健全化計画についての報道を大きく展開している。

 これらの報道によれば、政府は2019年度以降の新たな財政健全化計画を検討しているが、国と地方を合わせた基礎的財政収支を黒字化する目標時期を25年度としようとしている。報道のとおりだとすれば、これまでより5年先送りだ。

 基礎的財政収支とは、一言で言うと、借金のことは忘れて、毎年の税収などの国の収入から、毎年必要な政策的な経費(社会保障費、公共事業費、防衛費など)を引き算した差額のことだ。プライマリーバランス(PB)ともいう。これが黒字なら新たな借金はせずにすむが、赤字だと新たな借金をしなければならないことになる。

 日本の財政は火の車で、PBが黒字になったことはない。つまり、毎年PBが赤字で、その分の借金を積み重ねてきた。その結果、02年度に約601兆円だった公債等残高は17年度には約1042兆円に膨らんだ。

 政府はこれまでもPBを黒字化すると言い続けてきたが、その時期を繰り返し先延ばししてきた。06年には「11年度の黒字化」目標を掲げて失敗。09年に「今後10年以内の黒字化」へ先送り。10年には「20年度の黒字化」と微修正したが、これも失敗は確実となった。

 そこで、今回は、「25年度黒字化」と5年も先送りする方針を定めようというのだが、それでもその達成は容易なことではない。そのため、現在の議論でも、既に様々な前提条件をかなり甘く設定するという本末転倒の話になってきている。つまり、5年先送りでも、現実には達成困難というのが実情である。


 このように、計画が決定される前から実現困難と言われるくらいだから、議論の過程で、厳しい歳出抑制がテーマになるのは自然の流れだ。各紙報道によれば、歳出抑制のために、今後3年間の社会保障費について、75歳以上の人口の伸びが鈍化する見通しを反映して、従来以上にその伸びを抑制する方向だという。

 現行の財政健全化計画では、高齢化に伴う社会保障の自然増の分が毎年6000億円以上あると想定している。このため、それを16~18年度の間、毎年1000億円程度抑えて3年で1.5兆円の増加に抑えることにしていた。

 それにならえば、新計画の19~21年度の目安として、社会保障費を1.5兆円の増加にとどめるということになるのだが、財務省は、さらなる切り込みを狙っているという。実は、20~21年度に75歳を迎える人口は、第2次世界大戦の影響で出生数が少なかったことでかなり減少する。これを勘案すると、20~21年度の社会保障費の伸びは、16~18年度の想定より年1000億円程度減る可能性があるというのだ。このため、数値目標は明示しないものの、事実上、その程度の抑制を目指そうということのようである。

 こうした方針は、21日に開く経済財政諮問会議で、民間議員の提言として提示され、6月にまとめる予定の新しい財政健全化計画に反映されることになるという。

 ここで、読者の皆さんは、大きな違和感を抱くのではないだろうか。それは、「社会保障費の見直しを歳出抑制策の中心」とするということばかりが連日大きく報じられるのに対して、公共事業費や防衛費などの他の政策的経費削減の議論がまったく報じられないのはなぜかということだ。

 国の借金返済のための費用などを除いて、政策を実施するために必要な経費である政策的経費のうち、社会保障費は約44%を占めているから、ここに切り込むことは当然のことだ。社会保障費であっても、無駄な経費の支出は許されない。

 しかし、だからと言って防衛費など他の経費が聖域になるというのは理屈が通らない。「どこかおかしい」、そう感じるのは、自然なことではないだろうか。


■安倍総理の憲法9条改正で何が起きるのか
 
 私が、今回のコラムで、憲法改正と財政健全化計画を一緒に取り上げたのにはもちろん理由がある。それは、この二つの問題を結びつけて考えると、今、日本という国の「国の形」を大きく変えようとしている安倍総理の目論見が鮮明に浮かび上がってくると考えるからだ。

 冒頭に紹介した通り、憲法記念日のメッセージで、安倍総理が憲法9条改正に執念を燃やしていることがあらためて明らかとなった。

 安倍総理の決まり文句は、「命がけで日本を守ってくれる自衛隊が違憲だというような憲法学者が多い。これでは、自衛隊員に申し訳ない。違憲の疑いをなくすために、9条の2を新設して、自衛隊保持を憲法に明記するべきだ。9条の1項、2項には手を付けないので、平和主義は不変で、自衛隊の役割にも何も変化はない。自衛隊があるからそれを保持すると書くだけのことだ」というものである。一見、なるほどと思ってしまう人もいるかもしれない。何も大きな変化はないのだとしたら、「国の形が変わる」などと騒ぎ立てるのは、おかしいということになる。
 
 安倍総理の論理には、様々な反論があるが、私が最も懸念しているのは、今自民党が考えている9条の2が創設されると、国防以外の様々な政策のプライオリティが下がり、国民生活よりも防衛費が優先されることになるという点だ。そして、もう一つの懸念は、徴兵制や核武装に道を開くことである。

 これらの点は、5年ほど前から私が指摘してきたことだが、あらためてそれを紹介しておこう。

 現在、政府の解釈では、「自衛隊保持は合憲」とされている。ここで、注意すべきなのは、「合憲」という意味は自衛隊があっても悪くはないという意味に過ぎない。決して、「自衛隊がなければいけない」ということではない。「自衛隊を持たなくても合憲である」という意味を含んでいる。

 そんなことは当たり前だと誰もが思うだろうが、意外とこの点が見過ごされている。

 自民党が現在検討している9条改正案は、「第九条の二」という条項を新たに設けるものだ。その「第九条の二」第1項には、こう書かれている。


 九条の二 (1)前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。

 これだと、自衛隊の保持が「憲法上の義務」となる。つまり、自衛隊を持たなければ憲法違反になってしまうのだ。「自衛のための軍隊なら持っても合憲、持たなくても合憲」という現状の憲法とは、意味がまったく変わってくるのである。

 しかも、自民党の改正草案には、「我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として」という修飾語がついている。このことから、その目的を達成するのにふさわしい自衛隊を持つ必要があるということになる。しかも、それが憲法上の要請となるのだ。

 例えば、中国が軍拡を進めれば、今の装備のままでは日本の国を守るに十分ではない。それでは、憲法の要請にこたえられず、憲法違反となる。したがって、中国に負けないように軍備を増強しなければならない。

 という理屈が成立することになるのだ。

 「国を守るために必要な軍備」というものを考えた時、当然、一定規模の自衛隊員の維持が責務となる。しかし、現在でさえ、自衛隊の高齢化は深刻な問題で、今後、若手隊員不足が深刻化するのは必至だ。若年労働者の不足により、今、日本中の労働市場で若者の争奪戦が起きている。給料もどんどん上がるだろう。そんな中で自衛隊員を新たにリクルートするのは至難の業だ。

 そうなると、徴兵制を採るしか道はないということになる。それが憲法上の義務だという考えになるのだ。石破茂元防衛相は、徴兵制導入の議論に関連して、自衛隊員になることは、憲法18条が禁止する「苦役」に当たるのかという疑問を投げかけたことがある。国を守る仕事は、聖なるお仕事ということだろう。今は徴兵制は憲法違反だというのが政府見解だが、集団的自衛権と同じく、ある日突然その解釈を変えて、9条の2の要請にこたえるためには認められるということになる可能性が十分にある。


 この議論を進めていけば、核武装も例外ではない。核武装も、「国を守るため」には必要という議論が出て来るのは時間の問題になっているのではないだろうか。ちなみに、安倍総理は、以前、小型の核爆弾なら違憲ではないという趣旨の発言をしたことがある。

 前述した通り、9条改正が実現すれば、強力な自衛隊を保持することが憲法上の義務となり、他の政策よりも優先するという解釈を生む。そうなれば、憲法25条の生存権よりも防衛費優先などという議論になってくるだろう。新たな条文として付け加えられたものは、それより前から書いてあることよりも優先だという解釈も主張されることは確実だ。

 25条2項では、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と書いてあるが、自民党案の9条の2が、自衛隊を「保持する」と言い切っているのに対して、25条2項が、単に「努めなければならない」としか書いていないのは、比較上いかにも弱い書き方になっている。

 安倍政権の大盤振る舞いは続き防衛費は青天井に

 来年度(19年度)予算では、19年10月の消費税増税対策と銘打って、莫大なばらまき予算が計上されることが確実だと、連日のように報道されている。もちろん、公共事業も、最も即効性が高い予算として、全国にばらまかれることになるだろう。よほどカネが余っているのかと錯覚しそうな勢いだ。

 防衛費関連では、年末に向けて、新中期防衛力整備計画の策定が進んでいるが、ここでは、これまでの専守防衛を超える様々な装備を追加することが検討されている(「中期防衛力整備計画」という単語を入れてネット検索すれば、驚くほど多種多様な新しい装備品の導入が計画されていることがわかる)。また、トランプ大統領に媚びる安倍総理が、米国のほぼ言い値で武器を買う約束を立て続けにしているのはご承知のとおりだ。防衛費は、まるで青天井で、歯止めが失われてしまった感さえある。

 その中で、削減の議論がされているのが、社会保障費だけ、というのは、前述した通り、「どこかおかしい」という違和感を生む原因となっている。

 一言で言えば、国民から見たとき、いかにも「優先順位がおかしい」のだ。

 憲法9条改正は、単に安全保障政策の問題と言うだけではすまない。今の議論には、国民生活をどこまで犠牲にして防衛費にかけるのかという論点が完全に欠落している。

 戦後70年間、日本は、「軍事より国民生活優先」という戦略的路線を採ってきた。それが、今、百八十度転換して、「国民生活より軍事優先」の路線を採ろうとしている。

 「国の形が変わる」とは、まさにこういう時に使う言葉ではないのか。

 今のままでは、「国があっての国民生活だ!国防優先に決まっているだろう!」という乱暴な議論がまかり通ることになる。そうなる前に、冷静な議論をしておくべきではないのか。国民生活を視野の中心に置けば、安倍総理が考えている抑止力理論など、全く絵に描いた餅に過ぎないことがわかるはずだ。
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目の前にある「日本は三度目の敗戦を迎える」という憂鬱

2018-05-25 | いろいろ

ジャーナリスト田中良紹氏のヤフーニュースのコラムより

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目の前にある「日本は三度目の敗戦を迎える」という憂鬱

 日本時間の23日未明に行われた米国のトランプ大統領と韓国の文在寅大統領の共同会見でトランプ大統領は6月12日にシンガポールで行われる予定の米朝首脳会談を延期するかもしれないと発言した。

 メディアはトランプが硬化したとみて文在寅大統領の「仲介外交のもろさ」を強調したが、私が会見を生中継で見た限りでは、北朝鮮が「会談の中止もありうる」と揺さぶりをかけてきたことに対応し、「中止」ではなく「延期」を言っただけだから、史上初の米朝首脳会談を実現させたがっているのは変わらない。

 前日にホワイトハウスはトランプと金正恩の横顔が向き合うデザインの記念硬貨を発表した。金正恩の肩書は「最高指導者」であり、二人の顔の上部には「平和会談」、下部には「2018年」の文字が記されている。会談は間違いなく行われる。

 それは朝鮮戦争の敵国同士のトップ会談の実現となり、戦争終結に向けた歴史的な意義が否応なく前面に出てくる。ところが日本国内の議論は「非核化」と「拉致問題」だけに比重が置かれ、アジアの冷戦体制の象徴である「朝鮮戦争」が終結する歴史的転換点という意識が希薄である。

 この会談は、第二次世界大戦の終結、ソ連崩壊による東西冷戦の終結と並んで世界の構造変化が現れるエポックと私は捉えており、日本自身も否応なくその変化に対応しなければならなくなる。

 先週14日の衆議院予算委員会で国民民主党の玉木代表が「米朝首脳会談でICBMの廃棄は実現しても中短距離ミサイルの廃棄に至らなかった場合どうするか」と質問したのに麻生財務大臣がヤジを飛ばし、安倍総理の答弁は行われないままになった。玉木氏の問いは極めてありうる話で考えなければならない課題である。

 ここにきて北朝鮮の金正恩委員長が2度も中国を訪れ習近平国家主席と会談したのを見ると、米朝首脳会談は朝鮮戦争の終結だけでなく米中の軍事的対立にも影響する。会見でトランプは中朝接近に懸念を表明したが、私は米国の「欧州の冷戦は終わらせてもアジアの冷戦は終わらせない」という従来の戦略が変わる可能性があると思っている。

 それは日米同盟に依存してきた戦後日本の生き方を変える話になり、これほど重大な変化が訪れる時には、あらゆる可能性を俎上に載せて根本から議論を行うのが国家の仕事である。ところが現状の日本は重要問題を米国任せにし、ただ流れに身を委ねようとしているようにしか見えない。

 それは私に第二次大戦後の重要な節目を自分の問題と捉えず、米国任せにしてきた過去の姿を思い出させる。旧ソ連が崩壊した時に米国の議会やシンクタンク情報を日本の政党、官庁、企業などに販売していた私は、米国が真剣な議論を行っているのに日本では何の議論も起こらないのが不思議だった。

 第二次大戦の敗戦は「無条件降伏」だから敗戦後の日本が戦勝国の決めたままに生きるしかなかったのは理解できる。しかしソ連崩壊時の日本は自らの生き方を決められる経済大国である。ところが日本は何も自分では考えずに米国の言うままになった。それが私には「二度目の敗戦」に思えた。そして今、再び世界の構造変化が起ころうとする時に「三度目の敗戦」を迎える予感がする。

 一度目の敗戦で戦勝国である米国は天皇制を残す代わりに日本を非武装国家にし、丸腰の日本を防衛するため沖縄を米軍の軍事拠点にした。古関彰一、豊下楢彦著『沖縄 憲法なき戦後』(みすず書房)によれば「象徴天皇制」と「戦争放棄」と「沖縄要塞化」は米国の戦後対日政策の三本柱でそれらは互いに密接に関連している。

 しかし朝鮮戦争が勃発して東西冷戦が本格化すると、米国は一転して日本に再軍備を求め、吉田茂はこれを拒否して代わりに米軍の兵站を担うことにした。追放されていた軍需産業経営者が復活し、工業国家としてスタートした日本はベトナム戦争で飛躍的に成長した。

 成長のカギは日本政治が三本柱の一つである「戦争放棄」をうまく利用したことにある。自社なれ合いの「55年体制」は、表で対立しているように見せながら裏では護憲勢力を一定程度に維持することで米国の再軍備要求と軍事負担の増大を抑え、経済に全力を注いで米国経済を圧倒するまでになった。

 東西冷戦はそのからくりに有利に作用した。社会党政権が誕生しては困ると考える米国を「牽制」するのに護憲運動は効果を発揮した。米国は自民党政権に軍事的要求を飲ませるのに苦労する。ところが冷戦が終わるとこのからくりは続けられない。冷戦の終結は否応なく日本に「55年体制」に代わる政治構図を求めていた。

 ソ連崩壊は米国を「唯一の超大国」にし米国は新たな戦略を策定する。ソ連に代わる敵は米国経済を侵食する日本と断定され、軍事負担を抑えて成長した日本経済の力を削ぐため日本経済を米国と同じ土俵に乗せ、軍事的隷属化を押し進めることが必要と考えられた。

 日本に米国製兵器を買わせ、軍事負担を増大させ、自衛隊を米軍の肩代わりに使う。そのため欧州の冷戦は終わらせてもアジアの冷戦を終わらせてはならない。中国と北朝鮮を日本に脅威と思わせ、米国の軍事力にすがらなければ生きられない状況を作り出す。

 一時期クリントン大統領は朝鮮戦争を終わらせ「最後の冷戦体制を終わらせた伝説」を作ろうとした。『ジャパン・アズ・ナンバー・ワン』の著者エズラ・ボーゲルらが構想を練り、東西ドイツ統一を下敷きに必要費用を日本に出費させる案が検討された。

 しかし「アジアの冷戦を終わらせない」戦略をジョセフ・ナイやリチャード・アーミテージらが進言し、クリントンは朝鮮戦争を終わらせるのをやめ、中東和平に力を入れてイスラエルとパレスティナが共存する「オスロ合意」をまとめ自らのレガシー(遺産)とした。

 現在、トランプ大統領が「最後の冷戦体制を終わらせた大統領」になろうとし、一方でエルサレムをイスラエルの首都と認めたことでクリントンがまとめた「オスロ合意」は反故にされた。歴史の無常と言うべきか。

 クリントン外交は冷戦に勝利した米国の価値観を世界に広めることを第一義としたがトランプはそうではない。米国の目の前の利益を最優先に誰とでも取引をするのがトランプ流で、直近の外交はすべて秋の中間選挙と2年後の大統領選挙を睨んだ選挙目的が優先される。冷戦後の米国の戦略は無視である。

 ソ連崩壊時の米国は新時代への対応を真剣に議論した。それは冷戦体制を一から見直す根源的な議論だった。例えば対ソ諜報を担ったCIAはソ連が崩壊したのだから「廃止」が前提となり、冷戦に対応するため海外に展開された軍は全面的な見直しが求められた。また核拡散を巡る議論も集中的に行われ、それらの議論に米国は2~3年の時間をかけた。

 その結果、世界的な米軍再編が実行され、核拡散の危険がある中東や北朝鮮に目が向けられ、また「廃止」が前提のCIAはソ連崩壊で世界の先行きが不透明になることから逆に権限が強化された。

 当時は米国だけでなく世界各国も冷戦後の世界がどうなるかを探り自国の生き方を模索したと思うが、日本には冷戦後の世界を構想し、冷戦後の世界に備えようとする議論が全くなかった。

 宮沢総理は「日本も平和の配当を受けられる」とまるで楽観的な見通しを語り、ソ連を仮想敵として作られた日米安保条約を見直すことも、ソ連軍の侵攻を想定した自衛隊の配備も、ソ連と中国に対抗する戦略上の「要石」とされた沖縄についても何も議論されなかった。

 それだけでなく米国議会が日本経済を分析し弱点を探ろうとした上下両院合同経済委員会の議事録を外務省や通産省に見せても、米国を抜いて世界一の債権国となった慢心のためか、危機感を持って議論する様子はなかった。日本にとって冷戦の崩壊は「対岸の火事」に過ぎないことを痛切に思い知らされた。

 当時はリクルート事件による「政治とカネ」の問題が国民の関心事で、「政治改革」が熱っぽく語られていたが、日本が米国からソ連に代わる敵と見られ、軍事的に隷属化されようとしている現実はほとんど無視されていた。

 私は冷戦構造を利用した日本政治のからくりが有効でなくなった以上「政治改革」には賛成だったが、それが米国の冷戦後の戦略と関連付けて認識されないことに不満だった。そして日本経済は米国主導のプラザ合意とルーブル合意でバブルとなり、それが破裂すると「失われた時代」が到来して、日本は米国の要求に次々に屈するようになる。

 「二度目の敗戦」は世界の構造変化に無自覚だったために生まれた。そして米国の「アジアの冷戦を終わらせない」戦略に乗せられた日本は、ひたすら中国と北朝鮮に対する敵視政策を強め、それが安倍政権の集団的自衛権の行使容認として実を結ぶ。

 ところがトランプ大統領の登場は米国の戦略を一変させた。トランプは「民主主義や基本的人権、法の支配」という「価値観外交」に全く関心がない。外交は米国の利益になるかどうかで判断し誰とでも交渉する。米国の忠実な僕として安倍総理が唱えた「価値観外交」はトランプによって吹き飛ばされた。

 北朝鮮が米国本土を射程に入れた核ミサイルを手にしたことがトランプに北朝鮮との交渉を決断させた。「国際社会の圧力の結果」と言うのは外交上のレトリックに過ぎない。トランプの北朝鮮外交は米国の安全が第一、次にそこからどれだけ経済的利益を引き出せるかに重点が置かれている。

 北朝鮮の豊富な地下資源と勤勉な労働力は投資の対象として魅力的だが、同時にトランプは兵器ビジネスに異常に肩入れする大統領である。北朝鮮の脅威を一定程度は残す方が米国に利益だと考える可能性がある。

 米国民には「完全な非核化」と説明でき、一方で日本と韓国に対する兵器ビジネスに支障にならない程度の脅威は残す。トランプの米国がその方向を向いた時に日本はどうするか。それに備える議論をしておかなければならない。

 冷戦期の日本は冷戦構造を巧妙に利用して経済的利益を吸い上げた。ところが冷戦が終わった時に世界の構造変化に無自覚で、米国主導の「アジアの冷戦を終わらせない側」に立って冷戦中に貯め込んだ金を米国に吸い上げられた。

 その構造が激変しようとしている時、日本国内の議論はトランプ出現以前の米国の戦略に引きずられたままである。米国民がトランプを大統領に押し上げたのは、「民主主義や基本的人権、法の支配」を掲げて世界を支配しようとした負担があまりにも大きいことに国民が気づいたからだ。トランプ現象は一過性ではなくこれからも続く可能性がある。

 ドイツのメルケルはトランプが登場したことで「欧州は米国に頼らずに自立すべき」と説いた。しかし日本の政治はトランプが登場しアジアの冷戦が終わろうとしても、トランプ以前とトランプ以降に関わりなく終始米国依存から脱却しようと考えない。奴隷の思想が蔓延しているのである。

 米国、中国、韓国は北朝鮮を国際経済の中に取り込み、そこから利益を得る目的で「非核化」を進め、そこにアジアの未来を構想しているように見える。ロシアも立ち遅れないよう準備を進めているようだ。それに応えるべく金正恩は「経済強国」をスローガンにした。

 しかし日本にはアジアに「尖閣問題」、「竹島問題」、「拉致問題」、「慰安婦問題」など解決しなければならない問題が多く、それらに足を取られてアジアの未来を構想するところまで至っていないように思う。

 それらの問題を独自に解決する知恵と力を持つことが日本政治に求められるが、米国任せの安倍政権にはその知恵と力がない。その現状を見ると日本が「三度目の敗戦」を迎える予感から抜けられない。27年前のソ連崩壊時を思い出して私の憂鬱は晴れないのである。
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有権者に危機の自覚なし 安倍支持率上昇の異様な世相

2018-05-24 | いろいろ

より

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有権者に危機の自覚なし 安倍支持率上昇の異様な世相

 ルールやモラルも無視し、どんな汚い手を使ってでも、勝ち逃げできればいい――。いつから日本は、こんなハシタナイ国になってしまったのか。

 日大アメフト部の内田正人監督が、悪質タックル問題の発生から2週間でようやく辞任。問題発覚当初は、「選手に指示はしていない」と居直っていた。自らの関与を否定し、“実行犯”に責任を押し付ける構図は、安倍政権とまったく同じだ。

 「これまでの国会審議を通じて、柳瀬元秘書官のみならず、前川前次官も含め、誰一人として私から国家戦略特区における獣医学部新設について、指示を受けた人はいないわけであります」

 加計学園問題に関して、幾度となく耳にしてきた安倍首相の国会答弁フォーマットである。これまでの経緯を見れば、誰もが国家戦略特区を利用した獣医学部新設は「加計ありき」の疑念を抱く。柳瀬元秘書官の参考人招致を経ても、世論調査では大多数の国民が「疑惑は晴れていない」と答えている。安倍が「腹心の友」のために便宜をはかり、行政を歪めた疑念は深まる一方だ。

 それでも、自分が指示をした証拠が出てこなければ問題ないと、シラを切り続けてきたのが安倍なのだ。

 21日、愛媛県が新たな資料を国会に提出した。加計学園の加計孝太郎理事長が、15年2月に安倍と面会して、今治市に設置予定の獣医学部について説明したという記述がある。加計の獣医学部新設を「17年1月20日に初めて知った」という安倍の国会答弁を真っ向から覆す重大資料だ。これでもまだ「記憶にない」と、愛媛県作成の文書を怪文書扱いするのだろうか。

■ 国民がモリカケに飽きるのを待つ

 「安倍政権は1年以上、のらりくらりと問題を長引かせて、国民がモリカケ問題に飽きるのを待ち、『モリカケよりも国会で審議すべき重要な問題がある』と世論を誘導してきた。保身のために北朝鮮の危険もあおる。モリカケでにっちもさっちもいかなくなると、国難と騒いで国政選挙をやり、勝てば自身の疑惑はリセット。選挙に勝てば、やりたい放題することを分かっていながら、こういう姑息な手口を国民が容認してしまっている。これだけ疑惑まみれの政権には有権者も呆れているはずなのに、このところ、内閣支持率が微増しているのが、いい例です」(政治学者の五十嵐仁氏)

 読売新聞が18~20日に実施した世論調査によると、安倍内閣の支持率は前回の4月調査から3ポイント上昇して42%。19、20日の朝日新聞の調査でも、支持率は36%と前回調査から5ポイントもアップした。他社の世論調査でも、同様の傾向が見られる。

 モリカケ、イラク日報、セクハラ、公文書偽造と問題続きで、めぼしい成果もなく、激動の世界情勢からは「蚊帳の外」。内政も外交も完全に行き詰まっているデタラメ政権が、のうのうと生き永らえていられるのは、ひとえに支持率のおかげだ。退陣水域の3割の壁はなかなか破られない。それどころか、また上昇傾向にある。

 この国の有権者は、憲政史上に例を見ない安倍政権の不祥事も不正も許すというのか。政府・与党は「支持率下落は底を打った」と安堵していて、終盤国会は対決法案の強行採決も辞さない強気の構えだ。過労死や過労自殺を助長しかねない「働き方改革関連法案」も、週内に衆院で強行採決する方針を崩していない。


歴史冒涜の文書改ざんでも退場にならない刹那の世相

 「有権者の中には、モリカケにうんざりで“蕎麦は食べ飽きた”という人もいるかもしれない。しかし、安倍政権が財界の要望を受けてゴリ押しする働き方改革は、すべての働く人にとって切実な問題です。労働の価値は毀損され、正当な対価を得られないばかりか、命まで脅かされることになりかねない。安倍政権の働き方改革は、過労死が蔓延する労働環境を改善するようなフリをして、薬の代わりに毒を盛るようなシロモノだからです。

 財界と政権が結託し、目先の利益のために、労働力を非正規化して、過労死するまでコキ使おうとしている。“大企業栄えて民が滅ぶ”ような国に未来はありません。1%の支配層のための政治をしている政権をいまだ支持している30%以上の有権者には、破滅の自覚もないのでしょうか」(五十嵐仁氏=前出)

 いま、国民の目の前で信じられない出来事が起きている。首相が国会で平然と嘘をつく。国権の最高機関である立法府を行政府が謀り、首相に忖度して偽の文書や偽造データを出してくる。国会議員は国民の代表だ。国会が軽んじられるのは、国民主権がないがしろにされていることと同義である。司法も首相の意向をくみ、三権分立は機能不全に陥っている。

 首相夫妻とお仲間を守るために、官僚は嘘をつき、記憶喪失になり、公文書も改ざんされた。公文書は近代国家の基本だ。公文書の積み重ねが国家の歴史と言っていい。それが改ざんされ、自殺者まで出たのだ。それでも民衆は怒り狂うことなく、保身のために歴史を冒涜した政権が退場にならない。それどころか、自分たちの悪事は棚に上げて、働く人の権利を巧妙に奪おうと画策している。こんな政権を漫然と支持しているのでは、奴隷と変わらない。

■ 「惨めな自分の姿としての安倍政権に支持を与えている」

 「永続敗戦論」で注目を浴びた政治学者の白井聡氏が、新著「国体論 菊と星条旗」で、戦前の「国体」の歴史が、戦後に反復するさまを描き出している。「戦後の国体」も、形成期、安定期を経た今、再び「破滅の道を歩んでいる」と指摘する。決定的に日本社会を壊したのは安倍だが、いまの日本社会は戦前の狂乱を彷彿とさせる。白井聡氏は著書でこう書いている。

 <安倍政権は、夜郎自大の右翼イデオロギーと縁故主義による醜態をさらし続けたが、それが長期政権化した事実に鑑みれば、原因を「一部のおかしな人たち」に帰することは到底できない。世論調査によれば、安倍政権支持者の最多の支持理由は「他に適任者が思い当たらないから」というものであるらしいが、言い得て妙である。現在の標準的な日本人は、コンプレックスとレイシズムにまみれた「家畜人ヤプー」(沼正三)という戦後日本人のアイデンティティをもはや維持することができそうにないことをうっすら予感しつつも、それに代わるアイデンティティが「思い当たらない」ために、鏡に映った惨めな自分の姿としての安倍政権に消極的な支持を与えている>

 日本人は、度を越した悪政に対して、考えることすら面倒になっているのか。「カネ儲けできればモラルも無視」を歓迎なのか。思考停止に陥り、政権の悪事は見逃して、他国を蔑むヘイトや芸能人の不倫叩きで留飲を下げ、ネット炎上のカタルシスに酔う異様な世相。トップが腐れば下まで……の論理で、国民は善悪の区別もつかなくなり、変革の意思もなくした奴隷根性だけがはびこっているのか。

 「民衆の無気力が独裁者を支えるというのは古典的なテーマですが、いま、日本は深刻な危機にある。正義が成り立たない政治でいいわけがありません。国家の根幹が揺らいでいるのです。公文書改ざんが断罪されないなんて、日本は先進国でなくなってもいいのか。安倍政権が生き残れば、悪徳の栄えを許すことになる。モリカケ問題をはじめとして、安倍政権の疑惑と不正を解明することの方が、働き方改革などより格段に重要です」(政治評論家・森田実氏)

 その通りだが、強欲資本主義に侵されたこの国では、「今さえよければ」の刹那的な気分が安倍を支えている。21日、平均株価は約3カ月半ぶりに2万3000円台を回復したが、それも支持率回復が安倍3選の追い風になったからだろう。こうやって、国民は自分の未来を国家に委ね、自由も権利も失っていく。自分に何のメリットもないのに安倍政権の悪行を許す一般国民は「肉屋を支持するブタ」そのものなのだ。
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ICAN運営委・川崎哲氏 「今こそ核兵器禁止条約の出番」

2018-05-23 | いろいろ

より

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ICAN運営委・川崎哲氏 「今こそ核兵器禁止条約の出番」

 北朝鮮の完全な非核化は実現できるのか。融和ムードに包まれた南北会談が終わり、来月12日には歴史的な米朝首脳会談が控える。関係諸国の思惑が渦巻く中、蚊帳の外に置かれた日本が本来、非核化で寄与すべきこととは――。

 昨年、核兵器禁止条約の国連採択に貢献し、ノーベル平和賞を受賞した国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の国際運営委員を務める川崎哲氏が、熱っぽく語る。


■ 北の非核化には抑止力の論理を捨てるしかない


  ――まず南北首脳が署名した板門店宣言をどう評価していますか。

 「朝鮮戦争の終結」という文脈の中で「非核化」が位置づけられたことが重要です。日本では北朝鮮という変な国が核を持ち、物騒な動きをするのは意味が分からないという捉え方が一般的ですが、韓国の受け止め方はかなり異なる。

 私は韓国のNGO団体とも頻繁に交流を重ねてきましたが、彼らは朝鮮半島で北朝鮮と共に生きる当事者。変な国が突然、登場したわけではなく、北の核・ミサイル問題は朝鮮戦争が終わっていないことが要因との認識です。戦争終結は南北共通のテーマであり、戦争が終われば核で脅し合う必要性も消え、北が非核化を目指す動機にもなります。


  ――しかし、日本では「非核化の具体性に欠ける」「北にだまされるな」との論調が大勢です。

 それは「核が突然、出てきた」というアタマで見ているからです。北の核は突然、出てきたわけではない。北の視点で見れば、生存が脅かされ、いつ国を潰されるか分からないと怯えている。根底には戦争が終わっていないことへの恐怖があり、その根を絶たなければ、北の核・ミサイル問題は解決できません。核だけ排除しても根っこが残っていれば、また出てくるのです。


■ 朝鮮戦争という「根」を絶て


  ――南北両国が事実上の朝鮮戦争の当事国である米中首脳に会談を呼びかけた直後、トランプ米大統領が在韓米軍縮小を検討と報じられました。

 北が求めるのは自国だけでなく、「朝鮮半島の完全な非核化」です。韓国には現在、核兵器はありませんが、在韓米軍に核が配備される可能性は、いまだゼロではない。今後、北が在韓米軍のあり方に注文を付けるのは容易に想像できます。在韓米軍縮小報道は北の要望に対処する用意はあるとのメッセージ。南北が戦争終結に本気で取り組めば、トランプ大統領も追認せざるを得ないと思います。


  ――それでも北が核を放棄すると言っても「信用できない」が、世界の大勢ではないですか。

 過去の経緯を考えれば、簡単に信用できないのは当然です。しかし、ホンの数カ月前は朝鮮半島で戦争が始まり、核が使用される脅威がリアルに迫っていた。日本が巻き込まれる恐れもあったのです。恐ろしい緊張状態に戻りたくなければ、北は「信用できない」と言い続けても状況は変わらない。信用に足る非核化とは何かについて、知恵を出すべきです。その際、極めて重要なのが「検証」だと思います。


  ――具体的にどのような検証が必要ですか。

 歴史を振り返ると、1989年に東西冷戦が終結。米ソが核で睨み合う論理が失われ、互いに核削減を一気に進めた結果、両国の核兵器は半分以下に減りました。あれから30年。ついに南北朝鮮に残る「冷戦」を終わらせる上でも、米ソ関係を参考にすべきです。

 ソ連崩壊後に核を引き継いだロシアとアメリカは、相互検証措置を設け、互いに査察し、本当に核を削減しているのかを検証し合いました。共に条件を出し、実行すれば信頼度を高め、守らなければ信頼度は下がる。核を減らすには段階的に「信頼のテスト」を実施するしかない。北は豊渓里の核実験場を閉鎖・公開の方針です。これは信頼のテストの良い糸口になる。


  ――信頼は互いにつくり上げていくものだと。


 94年締結の「米朝枠組み合意」が2000年代にウヤムヤになったのも、米朝相互に問題があります。もちろん北も悪いけれど、米側も約束していたエネルギー供給が議会の強硬派の反発で予算を止められたり、非核化に向けた6カ国合意が結ばれた直後に米国は北に金融制裁を科したりしました。双方の約束の不履行によって関係がこじれたのです。


 圧力路線の行き着く先は際限なき軍拡競争


  ――朝鮮半島の非核化を達成するには、地道に信頼を築き上げる長い道のりが必要なのですね。

 そして今こそ核兵器禁止条約の出番です。昨年7月の国連採択に関わった者として、朝鮮半島の非核化のために禁止条約は生かせるものだと自負しています。最上の形は禁止条約の南北同時署名です。

 条約は核保有国の非核化プロセスを包括的に定めています。

 北が加盟すれば

  ▼核保有状況の申告
  ▼国際的査察の受け入れ
  ▼廃棄の検証
  ▼非核化状態の保証などの義務が生じる。そのプロセスは加盟する多国間の監視下に置かれ、信頼度も高い。トランプ大統領と金正恩委員長だけで非核化を進められたら、裏で何を話し合っているのか不安ですからね。


  ――韓国側はどうなりますか。

 北が恐れる領土内の核兵器設置や開発はもちろん、米国の核兵器使用や核を使った威嚇への援助行為も条約で禁じられます。条約の内容は核兵器不拡散条約(NPT)よりも厳しい。例えばドイツやオランダなどは米軍の核兵器を領土内に置いていますが、NPT違反にならない。つまりNPTだと、韓国が米軍の核を置くことは防げませんが、禁止条約なら北から見た脅威が完全に解消できます。私は禁止条約の活用がベストな解決策だと思いますが、残念ながら、米国も中国も韓国も国連で禁止条約を支持していません。


  ――被爆国の日本政府も非常に冷淡です。

 核保有国やその同盟国が必ず言うのは「厳しい安全保障環境の中で、我が国は核兵器の禁止条約には賛成できない」というセリフです。日本政府もそう。どこかで聞いた言い回しだと思ったら、北が核保有を正当化する論理と同じです。核保有国や日本はどのツラ下げて、北に「完全に非核化しろ」と言えるのか。抑止力のために、核保有はやむを得ないという発想から決別しない限り、北に付け入る隙を与えるだけです。


■ 広島・長崎・福島の知見を生かせ


  ――安倍政権は「核の傘」による抑止力を正当化し、強化しているフシがあります。

 「100%共にある」と米国に頼り切りですが、トランプ大統領が自国第一でICBMさえ飛んでこなければいい、と最終的に北の核を容認したら、どうする気なのか。日本は短距離の核ミサイルでも困る。米国とは環境が異なるのに、安倍政権は圧力一辺倒。「ウチが強く出たから、北もなびいた」という態度です。

 制裁は今のように交渉を始めるためなのに、安倍政権の政治手法は威張り散らして、相手をさげすみ、当座の支持を集めているだけ。どうやって交渉の道筋を切り開くつもりなのかはサッパリ見えません。北には完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄を求めながら、自分たちは核の傘で守って欲しいなんて理屈では議論になりません。交渉は平行線をたどり、結局、核の均衡が維持される。行き着く先は、北との際限ない核軍拡競争です。


  ――北の非核化プロセスに本来、日本はどのように寄与すべきですか。

 北朝鮮が核実験場などの査察を受け入れることを前提に、非核化の検証部分で貢献すべきです。公平な国連の下での検証制度の一翼を担い、お金も人も技術も提供する。国際社会で日本だけが活用できるのは、広島、長崎の被爆者援助や福島の除染作業などでの知見です。

 あれだけ核実験を重ねれば、北朝鮮にも被曝者はいるはず。日本でも未解決の問題は多々ありますが、少なくとも被曝者の援護や核廃棄物の処理などで何が困難かは理解しています。被爆国としての経験を生かし、朝鮮半島の平和と安定に貢献すれば、日本は世界に歓迎され、尊敬されると思います。

 被爆国の日本だからこそ「核は絶対にダメだ」と断言できるはず。広島、長崎の年老いた被爆者の方々が必死になって「核はダメだ」と、国際舞台で廃絶を訴えているのに、日本政府が核を容認している状況は非常に残念です。

(聞き手=本紙・今泉恵孝)

 ▽かわさき・あきら 1968年東京都生まれ。東大法学部卒業後、ピースデポ事務局長などを経て2003年からNGOピースボート共同代表。ICANでは10~12年副代表、12~14年共同代表、14年7月以降、国際運営委員で現在に至る。
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『沖縄スパイ戦史』、すごい映画を観た!(鈴木耕)

2018-05-22 | いろいろ

より

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『沖縄スパイ戦史』、すごい映画を観た!(鈴木耕)


 5月14日、映画の試写会へ行ってきた。『沖縄スパイ戦史』(三上智恵・大矢英代 共同監督)という映画だ。
 ものすごく重い映画だった。だが、どうしても目が離せない。30人を超す証言者が画面に現れる。声高に激するわけではない。怒りをあらわにする場面も少ない。ほとんどが、自分の見聞きしたこと、激しい沖縄戦での経験を淡々と語る。それが、観る者の耳について離れないのだ。

 沖縄戦、「護郷隊」と呼ばれる少年兵たちで組織された部隊があった。彼らはほとんどが15、6歳。中にはもっと幼い子どももいたという。彼らは身を賭して、圧倒的な物量を誇る米軍への悲劇的なゲリラ戦に突入した。いや、突入させられたのだ。
 ぼくは大田昌秀元沖縄県知事のお話をよく聞いていた。大田さんが徴兵されたのは「鉄血勤皇隊」という。だから「鉄血勤皇隊」に関しては、若干の知識があったのだが、この「護郷隊」については、ほとんど何も知らなかった。

 この「護郷隊」を組織したのは、陸軍中野学校でスパイ教育を受けた若い将校たちだったという。正規戦が終結した後、山野に隠れ潜み、米軍を奇襲するというゲリラ戦を展開する。そのための少年ゲリラ兵たちを組織する。それが、中野学校出の若き将校たちに与えられた任務だった。
 だが、この「護郷隊」の実態は、これまでほとんど明らかにされてこなかった。それはなぜなのか。三上監督は、研ぎ澄まされたジャーナリストの嗅覚で、「護郷隊」の実態に迫っていく。この過程が凄まじいほどの迫力に満ちているのだ。
 大声も激高もない。多くの経験者たちの証言を、まるで網目模様を編むように小刻みにつなげながら、実相に近づいていく。これまでの三上監督の映画がそうだったように、その手つきは穏やかだけれど、まことに見事だ。これほどの重いテーマなのに、観る者の目を逸らさせず、耳を塞がせず、最後まで引きつけていく。

 今回は、そこに大矢監督の静かな怒りが加味された。
 日本軍の命令による、マラリア地獄への住民強制移住という事実の掘り起こしである。1944年暮れのある日突然、山下虎雄と名乗る若い男が、青年指導員という肩書で波照間国民学校へ赴任してくる。しかし、山下は実は教員などではなく、やはり陸軍中野学校出の工作員だった。島民には慕われていたという山下だが、やがてその正体を現す。彼が行ったことは、波照間島民たちの西表島への「疎開という名の強制移住」だった。
 西表島は今でこそ明るい観光地になってはいるが、当時は「マラリア地獄」と呼ばれるような死病の蔓延する島だった。強制された移住先で何が起こったか。大矢監督の前で、この映画で唯一「あの野郎は殺してやりたい」と怒りを露わにする島民の証言が描かれる。ほんとうに、唯一の怒りの表白である。いったい何人の波照間島民が、熱に震えながら死んでいったことか。浜辺が死体でいっぱいになったという。
 なぜそんな理不尽な移住が、日本軍によって強制されたのか。その理由も次第に明らかにされていく。
 悲惨な映像が重なる。ふつうなら、大きなスクリーンで目のあたりにはしたくない映像だ。けれど、この映画には必然の画像。戦争の実相とは、いったいどんなものか。目を背けてはいけない。それはふたりの監督の決意でもあろう。

 やがて、映画は暗いクライマックスへ進んでいく。この映画のタイトルにもなっている「スパイ」についての証言だ。
 沖縄戦は「日本軍という組織と、それに虐げられた住民」という構図で語られることが多いけれど、ほんとうにそれだけなのか?
 実は、語られたことのない闇が「住民と住民の間」に存在していたというのだ。さまざまな書類や証言から、その語られざる闇を、監督たちは静かに掘り起こしていく。それがこの映画の白眉である。ぼくは試写室の暗がりの中で、椅子の肘掛けを、汗ばむほどに握りしめていた。
 「スパイリスト」なるものが存在した。米軍に内通する者がいれば自分たちも殺される。そうであれば、内通者(スパイ)は殺さなければならない、という論理。そう疑われた者たちの名が載せられたリスト。そのリストによって、何かが起きた…。歪んだ論理が生み出す殺人。一度スパイの嫌疑をかけられた者は、疑惑の蜘蛛の巣の、粘つく網にからめとられて逃げ出せない…。

 その件にかかわったらしい証言者が力説する。スパイを殺さなければ自分たちみんなが米兵によって殺される。あの時は、ああするしかなかった。それが間違っていたとでも言うのか! あんたはそれを否定できるのか!
 戦争は、すべてを敵か味方かに分別する。一度敵だと疑われたら、もはやどんな言い訳も通用しない。それは「過去の戦争の論理」ということではなく、もし「現代の戦争」が起きたなら、多分、同じことが繰り返されるだろう恐ろしさを秘めている。ナレーションはそうは語らないけれど、あの証言者の力説はそれを物語っている。
 試写室の空調の効いた暗がりの中でスクリーンを見つめているぼくに、その論理を否定するだけのもうひとつの論理はあるのか。
 「戦争の悲惨」とは、単に肉体の破壊だけではない。人間同士の関係性の破壊。住民同士の疑心暗鬼。そこから必然的に生み出される、地獄の光景。
 この映画は、事実の積み重ねで、闇の中の事実に光を当てようとする。証言者たちの淡々とした語り口が、よけいに切なく響く。

 ただ、最後の救いの場面が美しい。大宜味村の小さな山に、瑞慶覧良光さん(89歳)が、黙々と寒緋桜を植えていく。その数は69本。死んだ彼の戦友たちの数だという。そして、その1本1本に、良光さんは戦友の名前を付けていくのだ。
 映画の終わり、美しい桜の1本に、ある人の名前が付けられる。その人が、どんな死を迎えたか。
 死んだ少年兵の弟と、良光さんが固く手を握り合う。この映画のもっとも美しい、けれどもっとも切ない場面である。
 試写会では珍しく、上映終了時に拍手が起きた。かなりの観客がいたのだが、それぞれはどんな思いで拍手したのだったろうか?

 本作は、7月28日より、東京・ポレポレ東中野を皮切りに、順次全国で公開していくという。ぼくはもう一度、劇場で観ようと思う。

 なお、この映画をめぐる「トーク・ライブ」が、6月3日(日)12時~16時に、東京・渋谷の「LOFT9 Shibuya」で行われる。三上智恵・大矢英代両監督のほか、井筒高雄さんのお話もある。なぜかぼくも、進行役として参加する。
 この模様は、「マガジン9」と「デモクラシータイムス」でも配信する予定になっている。
 主催:新宿西口反戦意思表示・有志 http://seiko-jiro.net




鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。
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【動画】共産党志位委員長「安倍政権は対北政策の転換を」

2018-05-21 | いろいろ

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【動画】共産党志位委員長「安倍政権は対北政策の転換を」

 5月16日に公開された日本共産党・志位和夫委員長へのインタビュー記事『対話による平和的解決 志位委員長語る米朝会談への期待』の全編動画です。記事では未公開だった部分も収録されています。

 急速に北朝鮮との距離を縮める米国や中国とは対照的に、「対話否定」「圧力一辺倒」を繰り返す日本の安倍政権の姿勢は破綻していると指摘。失敗を認めて、政策を大転換するべきと語っています。


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対話による平和的解決 志位委員長語る米朝会談への期待

2018-05-21 | いろいろ

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対話による平和的解決 志位委員長語る米朝会談への期待

 米朝首脳会談が6月12日、シンガポールで開催される。会談には、中国の習近平国家主席が出席するともいわれ、朝鮮戦争の「休戦協定」に署名した米中朝の3カ国首脳による「終戦宣言」が現実味を帯びてきた。米朝韓中など関係6カ国に平和解決に向けた要請文を送った日本共産党の志位和夫委員長にあらためて米朝会談への期待や、安倍外交に対する見解を聞いた。


 ――南北会談が実現し、史上初の米朝首脳会談の開催も決まりました。どう評価していますか。

 私たちは、関係6カ国への要請文で、「朝鮮半島の非核化」と「北東アジア地域の平和体制の構築」を一体的、段階的に進めてほしいと提起しました。南北首脳会談の「板門店宣言」で、「完全な非核化」と「年内の朝鮮戦争終結」が合意され、米朝首脳会談も日時と場所が決まった。まさに対話による平和的解決の歴史的チャンスが生まれており、北東アジア地域の情勢をがらりと変える世界史的な大変動が起こり得る情勢にきている。このチャンスを絶対に逃してはなりません。


 ――トランプ大統領、金正恩委員長ともに米朝会談の成功に自信をみせています。

 私が注目したのは7~8日に金正恩委員長が中国・大連を訪問して習近平国家主席と会談し、直後に米中首脳の電話会談が行われ、中国側は「段階的な解決」や、「北朝鮮の安全保障上の懸念を考慮」することを米側に求め、米側は「中国の立場を高く重視し、役割を称賛する」と応じたことです。

 その直後の9~10日、ポンペオ米国務長官が訪朝し、金委員長は「満足のいく合意に達した」述べました。そして米朝首脳会談の日時、場所が発表され、トランプ大統領は「大成功を収めるだろう」と。米朝首脳会談が成功を収めることを、かなり期待してもいいところまできているのではないでしょうか。


安倍政権は失敗を認め政策の転換を


 ――米中は急速に北との距離を縮めていますが、対照的なのが日本の安倍政権ですね。

 北朝鮮問題に対する安倍政権の姿勢は一言で言うと「対話否定」「圧力一辺倒」。これが今、大破綻していると思います。トランプ政権は一方で「圧力」を唱えながら、他方で「対話」を選択肢とするという「一定の幅」を持った対応を行い、今回は「対話」にぐっと舵を切った。しかし、安倍政権は「対話否定」「圧力一辺倒」できたために、こうした事態についていけない。ひとり取り残された状態です。

 拉致問題についても、せっかく解決のチャンスが生まれているのに、「対話のための対話では意味がない」「拉致問題の解決が対話の前提だ」といって対話に自らハードルをつくるという態度です。これでは道は開けません。


 ――日中韓の3カ国首脳会談でも、安倍首相は「最大限の圧力」を訴えていました。

 東京で行われた中韓首脳会談では、「北朝鮮に対して一方的に要求するのではなく、北朝鮮が完全な非核化を実行する場合、体制保証と経済開発支援などの明るい未来を保証するうえで、米国を含む国際社会が積極的に参加すべき」という内容で合意しています。「圧力一辺倒」の安倍政権との落差が際立ちました。このままでは歴史的な流れからさらに取り残されることになります。


 ――とはいえ、北の非核化に懐疑的な見方があるのも事実です。どこがポイントになるのでしょうか。

 非核化は最大の目標ですが、その実現のためには北朝鮮に「核がなくても安心だ」と感じさせる環境――南北、米朝、日朝の緊張緩和・関係改善・国交正常化を進めることが必要です。非核化と平和体制構築は一体で進めてこそ両方を実らせることができる。

 その実行方法は、2005年9月の6カ国協議共同声明に明記された「『約束対約束、行動対行動』の原則に従い、段階的に実施する」。双方が合意したことを誠実に実行することによって、相互不信を解消し、信頼醸成を図りながら目標に到達する。これが最も現実的な方法です。非核化には、核兵器や核物質、核関連施設がどこにあるのかを申告させ、それを検証し、次に廃棄し、さらに検証という段階がどうしても必要になると思います。


 ――安倍政権は今後、北に対してどう向き合うべきだと考えますか。

 安倍首相は北朝鮮問題を「国難」と言い募って解散までやった。北朝鮮の脅威を最大限利用し、安保法制(戦争法)や9条改憲などを進める口実にしてきました。しかし情勢の前向きの激変が起こっている。これまでの「対話否定」「圧力一辺倒」の失敗を認め、政策を大転換することを強く求めたいと思います。
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