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古賀茂明「安倍政権の命運決める新潟県知事選 カギを握る小泉親子」

2018-05-29 | いろいろ
古賀茂明「安倍政権の命運決める新潟県知事選 カギを握る小泉親子」
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古賀茂明「安倍政権の命運決める新潟県知事選 カギを握る小泉親子」

 新潟県知事選挙が5月24日に告示された。6月10日の投票に向けて既に激しい選挙戦が展開されている。この知事選については、5月14日付の本コラムで取り上げたばかりだが、そこで予想したとおり、この選挙の結果が、国政に重大な影響を与える状況になっている。その最新の状況の舞台裏を中心に紹介しながら、今後の安倍政権の行方を左右する選挙の帰趨を占ってみたい。

 森友、加計、自衛隊日報、さらには財務次官のセクハラと、安倍政権に関するスキャンダルが続々と出てきて、もう終わりだなという雰囲気が漂ったのもつかの間、信じられないことに、安倍政権の支持率も下げ止まり、さらには、回復の兆しさえ見せ始めた。

 ゴールデンウィーク明けに審議復帰に応じた野党側には、柳瀬唯夫元首相秘書官の参考人質疑、加計孝太郎氏と安倍総理が2015年に会談して獣医学部新設について安倍総理が「いいね」と言っていたことを示す愛媛県の新文書の提出、昭恵夫人の関与が濃厚であることを示す森友学園と財務省の膨大な交渉記録の開示など、願ってもない追い風が吹いているにもかかわらずだ。

 テレビ局の反応は鈍く、日大アメフト部の「違法」タックル問題で、これらのニュースはほとんどかき消された。国会審議に応じて安倍政権の不祥事を徹底追及すると言っても、テレビが大きく取り上げてくれなければ、多くの国民には伝わらない。

 25日には、安倍政権最大の目玉である「働き方改革法案」が、議論の基礎とされた厚労省のデータに新たな不備が発見される中で、易々と強行採決され、今国会中の成立の可能性が高まった。ちょうど、その日、籠池泰典夫妻が釈放されたが、籠池氏が面白おかしく話しても、重大な新事実が出てこない限り、「籠池砲」炸裂という状況になることはなさそうである。

 このように、国会では、手も足も出ないという状況の中で、野党への落胆も広がる。政治不信も極限に達していると言って良いだろう。

■自民党県連の二階幹事長色を消す選挙戦

 新潟県知事選が、中央政治での手詰まりを打破する大きなチャンスとなる理由は、野党には安倍政権を倒す力はないが、自民党には安倍総理を引きずり下ろす力があるということにある。どういうことか。

 新潟県知事選は地方選挙だから、その勝敗は、中央政界とは関係ないというのが安倍政権の立場だが、実際は全く違う。ここで与党が負ければ、安倍政権の下では、地方選挙に負ける可能性が高いという証明になるからだ。来春の統一地方選の準備が本格化する中で、安倍では勝てないとなれば、秋の総裁選で、勝てる総裁に代わってほしいという声が地方で高まる。さらに、統一地方選で当選した地方議員は、19年夏に改選を迎える参議院議員、さらにはいつ解散総選挙を迎えるかわからない衆議院議員の選挙を支援する基盤になるので、地方の声は、国会議員票にも大きな影響を与え、地方での支持が高い石破茂氏が総裁選で勝利する可能性が高まる。

 だからこそ、自民党、さらに言えば、安倍総理を支える主流派にとって、新潟県知事選は負けられない戦いになっているのだ。

 しかし、こうした中央の思惑とは異なり、自民党新潟県連は、安倍総理やこの選挙を仕切る二階俊博幹事長とはかなりかけ離れた意識を持っているようだ。

 それは、事実上自民党候補に決まった花角英世氏の選挙戦略に表れる。県連としては、安倍総理の不人気をとにかく遮断したいと考えている。そこで、自民色を消して、「無所属」の「県民党」という立場を前面に押し出し、市民連合側候補の池田千賀子氏と同様の「草の根選挙」をしているように装う作戦を立てた。花角氏と言えば、二階氏が運輸相だった当時の秘書官を務めた官僚で、土建屋利権の象徴のような存在だ。「県民党」とは笑わせると記者たちは鼻で笑っているが、いかに馬鹿にされようとも、自民色、二階色を消そうと必死なのである。

 しかし、党本部、特に、二階幹事長の意識はこれとは全く逆。ここで、石破氏らの反主流派の力がなくても主流派の力で選挙に勝てることを誇示すれば、安倍総裁の3選への道が開けると考えた。そこで、選挙では、石破氏など反主流の応援は受けずに、しかも、自民党本部が前面に出る戦いをしようとしているのだ。

 こうした地方と中央の乖離の妥協の産物が、自民党と公明党による「公認」でもなく、「推薦」でもない、「支持」という一番弱い形式での支援決定だ。その決定の裏には、公明党が創価学会を動かすためには、ただの無所属のままでは難しいという事情も加わったようだ。
 これで、実質は自公丸抱え、二階派の候補が、表向きは無所属で県民党を装い、自公の支持を受けるという形の選挙戦が始まったのである。なんともまあ姑息な話ではないか。

■「脱原発抱き付き作戦」の姑息

 花角陣営の姑息な選挙戦でもう一つ特筆すべきなのが、「脱原発抱き付き作戦」だ。前回と同様、今回の知事選でも、「柏崎刈羽原発の再稼働問題」は大きなテーマだ。新潟県では、保守層にも脱原発支持が多い。したがって、「脱原発」と信じてもらえば有利になる。

 花角氏は、バリバリの原発推進派の安倍自民党の支持を受けるのだから、普通の人は、「この人は原発推進だ」と考える。ところが、花角陣営は、これを「そうではない」と完全否定し、あろうことか、いかにも脱原発派であるかのように装う作戦に出た。少し詳しく見てみよう。

 まず、脱原発で先行したのは、当然のことながら、市民連合が支援する池田千賀子氏だ。そのホームページを見ると、こう書いてある。

 ― 原発事故等に関する3つの検証を厳格に進め、県民の皆さんと結果を共有し、丁寧に議論します。できるだけ早急に原発ゼロへと向かうよう、新潟としての責任を果たすとともに、原発停止後の新潟の産業・社会政策を検討するための新たな会議を設置します。―

 「検証」を「厳格に」進めるとして、簡単には再稼働させないという趣旨を明確に打ち出すとともに、一歩踏み込んで、原発を止めた後の議論を早くも始めることを宣言した。ここまでくれば、明らかな脱原発宣言である。

 池田氏が脱原発候補としての地位を確立すると選挙が苦しくなると考えた花角陣営は、ホームページでこう打ち出した。

― 原発については3つの検証(福島原発事故の原因、健康・生活への影響、避難計画)をしっかり進め、その結果を見極めます。将来的には原発に依存しない社会を目指し、県民の安全・安心を守ります。―

 一見、脱原発派なのかと勘違いする人もいるだろう。しかし、この文章には中央官僚特有の「騙しのレトリック」が満載である。

 まず、「検証」をただ「進め」、「結果を見極めます」として、検証の結果、再稼働を認める余地を明らかに残した。しかも、認めるかどうかについて、全くイーブン、五分五分の書き方である。また、「将来的には」「原発に依存しない社会を目指し」として、原発ゼロにするとは書いていない。「目指していればよい」「結果については約束していない」と逃げ道を作る、霞が関らしい文章だ。もちろん、県の検証委員会の結果が出ないうちに、安倍政権と東電からの再稼働承認要請があれば、検証結果が出たらもう一度考え直すが、それまでは暫定的に再稼働を認めるというような対応を取る恐れが強い。

 要注意なのは、ホームページでの記載は証拠として長く残るが、選挙演説はそうではないことだ。

 例えば、「検証には時間がかかる」と言えば、それまでは動かさないように聞こえる。「再稼働は原則認めません」と言うかもしれないが、「原則」なら例外有りということだ。さらに苦しくなれば、「原発は一切認めません」などと言うかもしれない。しかし、印刷された党の公約さえ信用できないのが安倍政権だ。安倍政権が支持する候補者も同じであると考えるのが正しい姿勢だろう。

■小泉元総理の「応援」でスタートダッシュに成功した野党候補

 自民党が行った情勢調査では、当初3ポイント程度自民候補リードと出た。市民連合側から見れば、無名だった池田氏としては上々の滑り出し、これなら十分逆転できると、楽観ムードが広がった。

 さらに、23日には小泉純一郎元総理が新潟で講演し、事実上の「池田氏の応援をする」というサプライズがあった。小泉氏の講演は1年前からセットされていたのだが、今回の講演では異例なことが起きた。小泉氏は、2014年の東京都知事選で細川護熙元総理の選挙応援をして以来、選挙応援は一切しないという原則を通してきた。米山前知事が当選した際も、裏では米山氏を激励したりしたが、マスコミの前で応援することはなかった。そこで、今回も、裏で激励はしてもマスコミの前では、従来の立場を踏襲するのではないかという見方もあった。

 ところが、小泉氏は、マスコミの前で、池田氏とのツーショットを撮影させ、「選挙には一切かかわらない」と言いながらも、「頑張って」と握手をするなど、最大限のサービスをした。これはテレビでも報道され、池田氏が脱原発の伝道師であり保守層に絶大な人気を誇る小泉氏から「脱原発候補」のお墨付きを得たことが大々的に報じられた。これで、さらに池田陣営は盛り上がった。

 ところが、自民党の2回目の調査では、自民党候補のリードが、逆に6~7ポイントに広がったという情報が流れると、池田陣営には衝撃が走った。本来は、敵陣営に並びかけ、追い抜こうという時に逆の結果が出たのだから、当然のことだ。

 自民党は正式支持を決めたことで、これから大物クラスが新潟入りするだろう。二階氏も中盤以降テコ入れに動くと言われる。

 ただし二階氏と言えば、古くてダーティーな自民党の象徴となる政治家だ。前回の知事選でも、新潟入りして業界団体にはっぱをかけたが、これに対する現場の反発が強く、かなりの票が米山氏に流れたと言われている。また、二階氏の動きがネットなどで拡散し、無党派層にも悪影響を与えたという分析もある。

 一方、二階氏の力は侮れないという声も根強い。ある市民連合側の国会議員は、「今回の自民側の中央からの締め付け、嫌がらせは尋常じゃない。こんなのはじめてだ」と語っている。二階式選挙が吉と出るのか凶と出るのかも重要なポイントだ。

 もう一つ、気になるのが、投票率だ。中央の議員たちは結構関心を持っているのに対して、地元では、「米山氏のスキャンダルの時は非常に関心を集めたのに、選挙があることを知らない人も結構います」という記者の声もある。これは自民側には有利だ。

 その一つの理由に、野党側のテコ入れが今一つだという面がある。20日には枝野幸男・立憲民主党代表らが新潟入りしたが、その後の大物議員の投入は、27日の国対委員長クラスのそろい踏みだけ。と言っても名前が知れているのは辻元清美衆院議員くらいのものだ。最初の土曜日の26日も、大物は入らず、国会中とはいえ、党首クラスのそろい踏みの設定には、「いろんな手順を踏まないといけないので、大変なんです」と地元の選対の声が聞こえてくる。6月2日には実現したいということだが、そんなことに手間取っていては、その他の有名人などの選挙応援の設定も遅れる。大物や有名人が入らないとテレビでの報道が増えず、選挙への関心が高まらない。その結果、低投票率が懸念されるということになるのだ。

 また、前回の米山氏の選挙では、全国の関心が高まり、日本中から、でんわ勝手連などによる新潟県民への投票呼びかけが大きな効果をもたらしたが、このままでは、それも盛り上がらない可能性がある。

■今後のカギを握る4人の男たち

 知事選は長い、まだまだこれから何が起きるかわからない。そんな中で、選挙戦に大きな影響を与えそうな人物が4人いる。

 まず、誰もが思い浮かべるのが、小泉進次郎氏が新潟入りするかどうかだ。小泉氏は前回総裁選で石破氏に投票したと明かしたように石破氏に近い。二階派が仕切ると言われる今回の選挙だが、沖縄の名護市長選で見せた小泉氏の応援の威力は破壊的だった。今回も同氏が入れば、安倍不人気を吹き飛ばす効果があるかもしれない。ここで勝てば安倍氏が総裁選で有利となり、石破氏には不利に働く。これを知ったうえで、小泉氏がどう対応するのか。二階氏と小泉氏の駆け引きは見ものである。

 もう一人、言われてみれば、確かに、と思う人がいる。それは米山隆一前知事だ。スキャンダルで辞任したことによる選挙に関わるのは控えるというのが、米山氏の立場だろうが、同氏が辞任するときは、かなりの数の支持者が辞任反対と叫んでいた。潔い辞め方でかえって同情を集めて、好感度が上がったと見る向きもある。米山氏が、今後の政治活動をどう考えているかはわからないが、再起をかけるとすれば、これまで挑戦してきた新潟5区での衆議院選挙出馬だろう。5区には前回選挙で泉田裕彦元新潟県知事が当選したが、彼はバリバリの「二階派」である。ここで、米山氏が「真の脱原発候補は池田千賀子氏だ」と唱えて、事実上の二階派である花角陣営と戦っておけば、次の衆議院選挙の布石にもなる。もし、彼が動けば、テレビで大きく報じられる可能性は高いし、ネットでも反響を呼ぶだろう。池田陣営にとって、最後の切り札になるかもしれない。

 一方、安倍陣営が期待する第3の男がトランプ大統領だ。6月8日に予定される日米首脳会談やG7サミットなどで、ツーショットを大きく報じてもらい、さらに日本が蚊帳の外だと馬鹿にされている北朝鮮問題での連携を見せられれば、安倍不人気解消に大きく役立ち、知事選最終盤なので、投票行動に影響を与えられるのではないかというのだ。

 しかし、この最後のイベントを潰すサプライズを仕掛けるのではないかと言われている第4の男がいる。中村時広愛媛県知事である。中村氏は、最近、加計学園問題で、安倍政権が潰れるような情報を少しずつ小出しにしている。実は、まだ隠し玉があり、日米首脳会談にぶつけて、新情報を公開し、マスコミの注目をそちらに集める作戦があるという見方がある。私も複数の記者からその見方を聞いた。

 いずれにしても、新潟県知事選は、安倍政権の命運にかかわる重大ニュースだ。読者の皆さんにも、最後まで関心を持って、周囲の人たちにも情報を拡散してほしい。
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