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実は日本に基地がある「朝鮮国連軍」が突如活発化の怪
朝鮮半島情勢「激動」の影響?
東京新聞論説兼編集委員。獨協大学非常勤講師 半田 滋
朝鮮戦争の休戦から65年。朝鮮戦争で編制され、北朝鮮軍や中国人民志願軍と戦った「朝鮮国連軍」がいまだに活動を続け、しかも日本にその基地があることを知る人は少ない。
その朝鮮国連軍の航空機・艦艇の来日が昨年、過去5年間で最多の27回に上ったことが外務省への取材で分かった。
■ 艦艇が「1隻」から「14隻」へ
米朝首脳会談をきっかけに朝鮮戦争が終結となれば、朝鮮国連軍はその役割を終え、日本国内の国連軍基地も廃止されることになる。
朝鮮国連軍は、1950年に始まった朝鮮戦争勃発に伴う国連安保理決議に基づき、米国を中心にして編制され、オーストラリア、カナダ、ベルギーなど18カ国が参加した。53年に朝鮮戦争が休戦を迎え、現在に至っている。
国連憲章が規定する「国連軍」は本来、常任理事国の代表らで組織する軍事参謀委員会が指揮する仕組みだが、当時は米ソが対立する冷戦下にあり、正式な国連軍を編制できる環境になかった。経費も国連ではなく各国が負担しており、朝鮮国連軍は実質的には「多国籍軍」に近い。
朝鮮国連軍の司令部は、朝鮮戦争勃発時には米軍占領下の東京に置かれていたが、57年に韓国の首都ソウルに移転。現在の司令官は在韓米軍司令官のブルックス陸軍大将が兼務する。
現在も日本と密接な関わりがあり、在日米軍司令部のある横田基地に「朝鮮国連軍後方司令部」が置かれている。オーストラリア軍のウィリアムス空軍大佐が司令官を務め、カナダ軍の副司令官、米軍出身の下士官ら計4人が専従として勤務する。
横田基地が朝鮮国連軍の基地を兼ねているのは、1954年に日本政府と朝鮮国連軍との間で締結した国連軍地位協定が根拠となっている。
朝鮮国連軍の基地を兼ねる在日米軍基地は、横田基地(東京都)、嘉手納基地、普天間基地、ホワイトビーチ地区(以上、沖縄県)、横須賀基地、キャンプ座間(以上、神奈川県)、佐世保基地(長崎県)の7カ所である。
いずれの基地にも星条旗と並んで国連旗が掲げてあるものの、朝鮮国連軍の専用施設があるわけではない。滑走路、港湾などはいずれも米軍施設を利用する。
これらの基地を利用できるのは、国連軍地位協定締結国の日本、オーストラリア、カナダ、フランス、イタリア、ニュージーランド、フィリピン、南アフリカ、タイ、トルコ、米国の12カ国。しかし実質的には、基地を提供する日本を除く11カ国ということになる。
日本に朝鮮国連軍の基地があることを知る人はどれほどいるだろうか。まして、その役割、任務、活動については、日米地位協定によって「不可侵」とされる米軍基地の内側に置かれているだけに、ごく一部の政府関係者以外、知る人はいない。
2006年3月、当時民主党の白眞勲参院議員が「国連軍地位協定の今日的意味」「国連軍基地が国内に存在する意味」「国連軍の航空機や艦艇が基地を利用する目的」などについて、政府見解を求める質問主意書を参院議長に提出した。
小泉純一郎内閣は同月31日付で「国連軍は抑止力として重要な役割を果たしており、国連軍地位協定は現在も意義がある」「在日米軍基地に国連軍の航空機や艦艇が出入りしていることは承知している」との答弁書を閣議決定しているが、質問にはまともに答えていない。「承知している」では、まるで人ごとである。
外務省に問い合わせたところ、昨年までの直近5年間における、国連軍としての米軍基地の利用実績が明らかになった。以下の通りである。

昨年は艦艇が前年の1隻から14隻に急増している。どういう理由だろうか。外務省日米地位協定室の担当者は「基地の利用目的、いずれの国の航空機や艦艇か、どの基地を利用したのかは運用にかかわることなので答えられない」とゼロ回答だった。
ただ、外務・防衛両省は今年4月28日、北朝鮮が洋上で違法に物資を積み替える「瀬取り」を監視するため、オーストラリア軍とカナダ軍の哨戒機が国連軍地位協定を根拠に嘉手納基地を拠点にして警戒監視活動を行うと発表した。
北朝鮮に対して「圧力一辺倒」で通してきた安倍晋三政権の主張に沿う基地利用であれば、公表するということなのだろう。当初は非公表だった海上自衛隊のP3C哨戒機による「瀬取り」の発見も途中から公表に変わり、これまで5例を発表している。
だが、政府による国民への説明責任は「ご都合主義」でよいはずがない。既に終わった基地利用の実績については、利用目的、国籍などを公表するべきではないだろうか。
■ 朝鮮戦争が終わったらどうなる?
筆者の独自取材によって昨年、在日米軍基地に寄港した朝鮮国連軍の艦艇のうち、2隻の潜水艦が海上自衛隊と共同訓練を実施したことがわかった。
昨年9月12日から同月19日まで、本州南方海域で海上自衛隊の護衛艦や米軍の潜水艦とともに対潜水艦戦の共同訓練を行ったオーストラリア海軍の潜水艦と、昨年11月10日から同月26日まで行われた、海上自衛隊と米海軍による大規模な日米共同演習に参加したカナダ海軍の潜水艦である。
海上幕僚監部広報室は「共同訓練にはそれぞれオーストラリア軍、カナダ軍として参加しており、国連軍としてどのような活動を行ったのか承知していない」という。
取材によって判明したカナダ海軍の潜水艦は、通常動力型の「シクティミ」(水中排水量2400t)で、昨年秋にカナダを出航し、今年3月まで西太平洋で長期間の哨戒任務に就いていた。
国連軍として寄港したのは米軍横須賀基地であることも判明、乗員の休養と燃料などの補給を受けた後に出航し、日米の共同演習に加わった。
今年1月、北朝鮮の核・ミサイル問題に関する20カ国からなる関連外相会合が開かれ、北朝鮮による国連制裁逃れを防ぐため「海上阻止活動」の強化で合意した。それを受けて、「シクティミ」も「海上阻止活動」の任務に就いていた。
さらに取材の結果、国連軍として在日米軍基地を利用するのは、(1)北朝鮮関連の警戒監視や哨戒活動の拠点として、(2)燃料などの補給を受けるため、とほぼ判明した。この程度の内容まで「非公表」とする日本政府の姿勢はどうかしている。
6月12日にシンガポールで行われた米朝首脳会談では、朝鮮戦争の「終戦宣言」は出されなかったものの、トランプ米大統領が会談後の記者会見で、朝鮮戦争について「間もなく終結するとの期待を持っている」と述べた。

朝鮮戦争が終結した場合、国内7カ所の国連軍基地はどうなるのだろうか。国連軍地位協定24条は「すべての国連軍が朝鮮から撤退していなければならない日の後90日以内に日本から撤退しなければならない」と定めている。
そして同25条には国連軍地位協定について「日本から撤退しなければならない期日に終了する」とある。
朝鮮戦争が終結すれば、在日米軍基地は国連軍基地としての役割を終えるというのだ。国連軍そのものが消滅するのだから、それはそうだろう。
■ いっそう際立つ「米国の影」
ただ、世界トップの実力を持つ米海軍と海上自衛隊が揃う日本で、先のオーストラリア軍やカナダ軍のように共同訓練を希望する他国軍もいる。朝鮮国連軍の旗を降ろした後の在日米軍基地は使えないのだろうか。
外務省日米地位協定室は「在日米軍は、日米安保条約とこれに伴う日米地位協定によって日本政府から基地の提供を受けている。米国以外の他国との間に同様の条約や協定はなく、米軍基地の使用は想定していない」と否定する。
すると、米軍以外の他国の航空機や艦艇が日本を訪れる場合、自衛隊基地や民間空港・民間港を利用することになる。実際に、昨年6月にはカナダ海軍のフリゲート艦2隻が京浜港(晴海ふ頭)を利用して訪日した。
東京都港湾局によると、外国艦船の晴海ふ頭の利用は親善目的であれば、岸壁使用料と入港料が都条例によって免除されるという。ただし、全国の民間港がすべてタダというわけではない。海上自衛隊艦艇も他の民間港では岸壁使用料などを支払っている。
さらに民間企業が運営する曳船(タグボート)は、使用料を負担する必要がある。大型艦船であれば、入港時と出航時に船首と船尾を押すのにそれぞれ2隻必要となり、費用は1隻約100万円、出入港の際だけでも合計約400万円かかる計算。これに補給、廃棄物処理などの必要経費が上乗せされれば、1千万円を超えることもあるという。
すると現在、国連軍であれば、すべて無料で使える米軍基地が朝鮮戦争の終結後には使えなくなり、代わりに民間港を使おうとすれば高額の費用負担が必要になる。そうなれば訪日する他国軍は激減するのではないだろうか。
是非はどうあれ、日本の玄関の敷居が高くなる。ただ、米軍だけは別格だ。日米地位協定には「(米軍の艦艇や航空機は)入港料、着陸料を課されないで日本国の港、飛行場に出入りすることができる」とあり、港湾を管理する自治体側が拒否しても入港を強行する場合さえある。
朝鮮国連軍の場合、国連軍地位協定に同様の規定があるものの、日本政府は民間港と民間空港の利用を認めていない。
制約を受ける朝鮮国連軍に対し、無制約の米軍。朝鮮国連軍が消えれば、他国軍の出入国は減る。「日本は事実上、米国の占領下にある」という真相が、いっそう際立つことになる。
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