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古賀茂明「米朝会談立役者の文在寅大統領の邪魔をする安倍総理の思惑」

2018-06-23 | いろいろ

より

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古賀茂明「米朝会談立役者の文在寅大統領の邪魔をする安倍総理の思惑」

米朝首脳会談が終わった。

【写真】韓国の文在寅大統領と握手する安倍晋三首相

 この先、良い方向に向かうのか、それとも戦争への危機が再び訪れるのか、誰にも分らないが、そのカギとなるのが、米朝間の「信頼」醸成ができるかどうかだ。

 両国の不信の関係には長い歴史があり、お互いが、「相手は過去に何回も自分を裏切った」と思い込んでいる。ゲームの理論などを持ち出すまでもなく、素人的な感覚でも、この両者の間に信頼を醸成するのはほとんど無理だという結論になるだろう。ニュースの街頭インタビューを見ていても、北朝鮮は信用できないという市民の声は非常に多い。

 しかし、「特別な環境変化」が原因で、今回は相互に協調行動をとる可能性が生まれるはずだというのが私の見方だ。どういうことか。

 これまでの北朝鮮との交渉では、失敗すれば、仕切り直しで、時間をかけてまた次のディールをするというのが前提だった。しかし、北朝鮮が核とミサイルを開発したことによって、この取引の前提条件が崩れた。今回は失敗すれば核戦争になり、双方が破滅するという、言わば、本物のチキンゲームに変質した。それを理解すれば、これまでの取引の履歴はいったん「リセット」して、もう一度、破局を避けるための協調行動を模索するというステップに入ることができるはずだ。損得勘定で論理的に考えれば、それしか双方が生き残る道はないということがわかる。それを前提にして、このタイミングで米朝交渉が実現したのは、トランプ大統領が、ビジネスマンとしての「直感」で、また、金正恩委員長が独裁者の自己防衛本能で、今がその転換点だということを察知したということだろう。もし、これから始まる交渉の中で、米朝間に最終的に強い信頼関係が醸成されれば、本物の妥協が成立することになる。

■安倍政権は「環境変化」についていけない

 日本では、北朝鮮の歴代トップは悪の権化だという強いイメージが定着している。特に安倍政権は、北朝鮮が核兵器とミサイルを保有するのは、武力で韓国を併合したり、日本に先制攻撃を仕掛けてくるためだと本気で信じ込んでいるようだ。つい2月ごろまでは、今にも北からミサイルが飛んでくるという宣伝を一生懸命行っていた。しかし、この考え方は根本から間違っている。 

 北朝鮮の最大の心配は、アメリカに攻撃され、体制を潰されるということだ。それを防ぐための唯一の手段として選んだのが、核とミサイルである。だから、「核とミサイルを手放せば制裁を解除する」といくら言っても、北朝鮮がアメリカを信じていない以上は、何の意味もない。手放せば、自分が殺されることを容認するのと同じだからだ。

 一方、元々アメリカから身を守るための手段としての核・ミサイルだから、アメリカが、北朝鮮を攻撃したり、裏で動いて体制を崩壊させるようなことを絶対にしないという「確信」が持てれば、核もミサイルも必要なくなる。少なくとも、論理的にはそうなる。

 そして、金正恩委員長は、それを望んでいるはずだと、トランプ大統領は確信したのではないか。これは、トランプ氏が変人だからそう考えたのではなく、金委員長の立場に立って、論理的に考えれば当然の帰結である。

 なぜかと言えば、まず、金氏にとって、自己の体制存続のためには、アメリカから身を守ることは必要条件だが、実は、十分条件ではない。北朝鮮の経済は非常に厳しい状態に置かれていて、韓国はもちろん、最近では中国にも大きく引き離されてしまった。中朝国境を行き来する北朝鮮人民から見れば、その落差は歴然だ。いくら鎖国状態を保っても、少しずつそういう情報は広がる。自国の困窮状態が続けば、いずれは人民蜂起という事態も十分にあり得る。金氏はまだ若い。これから40年くらいは体制を維持していかなければならない。アメリカから攻撃されなくても、その40年を鎖国状態のまま乗り切れることはないということは、スイスで教育を受けた金氏にはよくわかっているはずだ。だから、核・ミサイルと同じかそれ以上に経済復興が優先課題となっている。核とミサイルを捨てれば、確実に体制保証が得られ、経済制裁が解除されるのであれば、金委員長にとっては、一石二鳥である。

 先代の金正日総書記は「先軍政治」を掲げ、軍事最優先主義を貫いた。金正恩氏も当初はそれを引き継いだが、すぐに、これを経済復興と核・ミサイル開発の「並進路線」に転換した。「経済」が自己の命を守るカギだということを知っているからだ。そして、今年1月の新年の辞では、並進路線をも脱して、事実上の「経済集中路線」を宣言している。正式には4月の朝鮮労働党中央委員会総会での決定によるのだが、実は1月には既に宣言されていた。だからこそ、1月から驚くような融和路線への急転換があったのだが、その路線転換を日本の大手メディアは伝えなかったので、日本国民は最近までこれに気づかなかった。もちろん、安倍総理の頭の中は、昔のままであった。

■核・ミサイルの完全廃棄までに不信の連鎖は起きないか?

 上記のように考えると、今回の米朝会談が、真の恒久和平につながる可能性は十分にあると見るべきだ。しかし、論理的にはそうであっても、本当にそれが実現できるかはまた別の話だ。

 なぜなら、核・ミサイル廃棄には時間がかかる。物理的にも1年や2年では無理で10年以上かかるかもしれないということは、ようやく、日米のメディアの間にも理解され始めた。しかし、今も、「時間がかかる」と言うと、「一括ではない」から「段階的」だとして、「後退だ」と決めつけて騒ぐメディアも多い。

 しかし、時間がかかるのには、物理的な理由があるし、また、最終的に核・ミサイルが完全に廃棄されて今後も開発されることはないという判断をするには、結局、北朝鮮が嘘をついていないということを「確信」するという、「主観的要素」が最後まで残る。つまり、信頼が築けなければ、終わりは来ないのである。

 もし、その「確信」に至る長い時間、北朝鮮に、ひたすらアメリカを信じて、一切、何の見返りも期待せず、作業を続けろと言うのは、どう考えてもフェアではないだろう。そんなことをすれば、イスラエルやインド、パキスタンが核兵器を持っていても普通の国として遇されているのに、北朝鮮だけがこんな仕打ちを受けるのは不当だというそもそも論が蒸し返されるのは、むしろ当然のことではないかとさえ思う。

 そこで、北朝鮮が、自分はやはりアメリカに騙されているのではないかと疑心暗鬼になってしまえば、また核戦争の危機に逆戻りである。最後の最後の段階までそのリスクがあると考えるべきだろう。

■文在寅大統領の賢い外交を邪魔をする安倍総理

 今のチキンレースの中で、北朝鮮が一方的に敗北宣言をする可能性は非常に低い。一方、繰り返しになるが、米朝双方とも、冷静に考えれば、相互に協力することで、戦争という甚大な損害を回避し、さらには、新たな経済的利益を双方に呼び込むような取引も可能である。トランプ大統領の米朝首脳会談後の記者会見の前に記者団に見せられたビデオでの、核・ミサイルを放棄した後の北朝鮮の明るい未来絵図は、まさに、この問題を損得で考えようという提案をしたものだ。正義とかメンツとかではなく、「損得勘定」で双方ウィンウィンとなるディールの答があり得ることを双方が正しく認識すれば、真の信頼関係が確立されるまでの間は、「損得勘定」で何とか良い方向への交渉を続けて行くことが可能となる。

 これまでのところ、両者の間の信頼を高めるのに大きな役割を果たしているのが韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領だ。彼の働きによって、今回の交渉がここまで進んだと言っても過言ではないだろう。金正恩委員長のご機嫌を取りながら不安感を弱め、トランプ大統領をおだて上げ、習近平国家主席にも気配りしながら、とにかく和平に向けて邁進している。小国としては、これが真の賢い外交だと言っても良いのではないだろうか。


 韓国には、米朝間で戦争が起きたら最大の被害者になるという危機感がある。これまでの数千年の歴史上、中国の脅威と戦ってきた小国にとって、今は、米中の狭間で北朝鮮とも向き合いながら、どうやって国の安全を守り、発展を継続させるのか、それを真剣に考えれば、何とか和平を実現しようと考えるのはある意味自然なことだ。一方、これまで何度も北朝鮮に煮え湯を飲まされてきたのも事実。時には武力攻撃も受けて、死者まで出している。にわかに北を信じようと言っても、韓国国民はそう簡単には受け入れない。

 それでも文大統領が和平に向けて突き進むのは、前述した「環境変化」を敏感に感じ取り、「損得勘定」を武器に米朝をうまく説得するという戦略を頭に持っているからではないだろうか。単に、「お互いを信じましょう」と言うだけでは、ここまでの事態打開はできなかったはずだ。

 一方の安倍総理は、完全にアメリカにはしごを外されて、慌てて、日朝首脳会談を模索し始めてはいるが、この段階になっても、二言目には、完全な非核化と拉致問題解決までは「制裁」は解除しないと言い続けている。裏では、トランプ大統領に対して、「北は嘘つきですから要注意ですよ」と言って、不信感を煽っているのではないかとさえ疑われる。しかし、そんなことをして、何の意味があるのだろう。おそらく安倍総理は、北朝鮮が核・ミサイルを開発したという重大な環境変化を、「あってはならないこと」だから「認めない」という愚かな心理状態に陥っているのではないか。一日も早くその周回遅れの頭の中をリセットしてもらいたい。

■平和の配当を享受するべきだ

 米朝会談の前に行われたG7サミットは大失敗に終わり、G7は終わったという声もある。アメリカは、中国と貿易戦争の一歩手前だし、G7諸国とも鉄鋼・アルミの関税問題に加え、自動車への関税大幅引き上げという劇薬にも手を付ける姿勢だ。このままアメリカと各国の通商戦争が激化すれば、世界貿易が縮小する事態もあり得る。

 そうなれば、中身のないアベノミクスの頼みの綱である外需が頭打ちとなり、アベノミクスはたちどころに変調を来すだろう。

 こんな時だからこそ、日本経済の底上げに繋がるかもしれないプラス材料を真剣に探さなければならない。

 米朝交渉が成功し、もし最終的に、核廃棄の合意が実現すれば、その後は経済制裁の解除、米朝国交正常化、そして北朝鮮への経済支援というシナリオが進む。

 北朝鮮のGDPは日本円で1.8兆円(2016年)ほどに過ぎないが、国民の教育水準は決して低くなく、12万平方キロの国土に約2500万人の人口を抱えている。周辺に日本、韓国、中国東北地方、ロシア極東地域が広がることを考えれば、米朝和解で地政学上のリスクがなくなった後は、この国は“北東アジアの新しい経済フロンティア”となり、国際的な対北朝鮮投資ブームが起きるはずだ。現に、韓国では、ロッテグループ、通信大手KT、観光業の現代峨山などが北朝鮮への投資を検討する特別な組織を設けたと報じられる。

 日本もこのチャンスを見逃すべきではない。北朝鮮への経済協力を協議する国際的な枠組みをリードするくらいの勢いで、これまでの圧力一辺倒の政策とは一線を画した、独自の経済協力の絵図を描くべきだ。

 2002年の日朝平壌宣言で、日本は北朝鮮に経済協力を約束している。その宣言を活用し、たとえば日本の新幹線を北朝鮮に供与・導入するというアイデアはどうだろう。4月27日の南北会談で署名された「板門店宣言」では、ロシア国境から朝鮮半島東部沿岸を縦断する「東海線」についての鉄道と道路の高度化を目指すと書いてある。その東海線をシベリア鉄道、さらには日韓海底トンネルで九州と連結すれば、日本から朝鮮半島を経由してヨーロッパにつながる壮大なユーラシア横断鉄道が完成することになる。中国の一帯一路構想と並ぶプロジェクトにもなるだろう。

 北朝鮮の電力インフラの整備に乗り出し、モンゴルで太陽光発電した電力を日本に送る巨大な送電網=アジアスーパーグリッドの建設の主役になってもいい。ソフトバンクがこの構想に深くかかわっているのもチャンスの芽になるはずだ。

 こう考えると北朝鮮和平が実現すれば、日本経済を元気にするビジネスチャンスは無限にあると言っても良い。早い段階から北朝鮮と経済協力の構想を話し合うなかで相互間に信頼が生まれれば、決して簡単ではないが、拉致問題の早期全面解決も視野に入る。

 不安なのは安倍政権が今後も北朝鮮敵視政策を続け、圧力路線に頑なにこだわることで、国際的な陣取り合戦で取り残される、という点だ。今からでも遅くはない。安倍総理は一番苦手なことかもしれないが、自らの不明を恥じて、これまでの態度を変更しますと宣言し、文大統領とトランプ大統領の努力を側面からサポートする役を担ったらどうだろうか。

 トランプ大統領は「対北経済協力資金、非核化のコストは日韓が拠出する」と公言している。このままでは日本は米韓に後れを取り、なおかつ、南北双方に恨みを買うことになる。その結果、トランプ大統領の言いなりになって、サイフ役としてその資金供与はさせられるが、経済プロジェクトの果実の配分には与れないということになりかねない。

 一方の韓国は、資金も出すが、その果実も最大限享受することになりそうだ。

 安倍総理は、メンツにこだわるのを止めて、平和の果実を日本にももたらすような戦略を早急に考える時だ。
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