緊急事態宣言下での警察
4月7日に行われた緊急事態宣言を受け、デパート等が自主休業を始めたことにより、繁華街からは人影がまばらとなり、夜の居酒屋からも、人の姿がほとんど消えてしまった。これは、宣言に伴う外出自粛の結果であると思われる。なぜこんなに素直に知事の要請を受け入れるのだろうか。要請は強制力を伴わない。すべてが、市民の自発的行動の結果であるといわれている。
小池都知事は、宣言前から、都民に外出自粛を要請していたが、それとともに、強い危機感の下で、感染者の爆発的増加を指摘し、早急な管理を主張していた。
宣言前後で異なっているのは、宣言前はその法的根拠がなく、知事の独自のものであったが、宣言後のものは、新型コロナ特措法を根拠にしていることである。しかし、自粛の要請は変わっていない。本部長である首相が緊急事態を宣言したことにより、日本国民の国民性が顔を出し、「お上思想」が前面に出てきたのであろう。
このような変化を利用とした動きは止まらない。
10日、岐阜県が非常事態宣言を、愛知県が緊急事態宣言を行った。これは、法的根拠を持たないものであり、かつての北海道や東京都と同じものである。このような事態において、それぞれの県民は意義の声を上げないのであろうか。なぜ県議会は、議会での審議を求めないのであろうか。県民や市民の日常生活に深くかかわるものであり、議会での議論とともに、県民・市民の意見を聞く場を設けることも必要である。
安倍総理は、緊急事態宣言を行った後での記者会見で、外出自粛要請に関して警察に何らかの協力を要請する可能性に言及した。「取り締まりの対象には、罰則有りませんから、取り締まりの対象ということでは、警察が取り締まることはありません。ただ、ご協力は要請させていただくということはあるかもしれません」と述べた。これは、「外出自粛要請に関連して、職務質問を活発化することなどを警察に要請することはありうるか」という質問に対してだが、何らかの協力を要請する可能性を認めたのである。
これに対して、菅官房長官は6日の定例会見で「緊急事態宣言がなされた場合、警察においては混乱など不測の事態の防止を図るために、警戒活動を実施するなどの対応をとるとしている。同時に、引き続き空港、医療機関などにおけるトラブル防止のために、警戒警備や混乱に乗じた各種犯罪の抑止、取り締まりを徹底する」と言及し、警察活動を容認する姿勢を示していた。
一方、警視庁は7日、政府の緊急事態宣言を受け、斉藤実警視総監を本部長とする「警視庁新型コロナウイルス感染症緊急対策本部」を設置した。同庁によると、今後、外出自粛傾向のさらなる強まりや経済不況に伴い、ドメスティックバイオレンスや詐欺電話といった犯罪が増加する懸念があるといい、警戒を強める(産経新聞4月8日)としている。警視庁や警察庁のホームぺージには、この緊急対策本部についての記述はなく、どのような組織かは不透明である。
警察庁は、「新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態における警察の対応に係る留意事項等について(通達)」を各都道府県に発出した。そこには、次のようなことが求められている。
緊急事態宣言を受けた警察の取組及び留意事項
行動計画においては、警察の取組として、水際対策の支援、医療活動の支援、社会秩序の維持、緊急事態措置に対する支援、重点的感染防止策の支援等が予定されているところであるが、これらについて現時点で留意すべき事項は以下のとおりである。
(1) 警戒警備の実施
検疫強化に伴う空港、指定待機場所等における警戒を引き続き行うとともに、医療施設(臨時の医療施設を含む。)等におけるトラブル等の防止のため、自主警備の強化を要請するなどの管理者対策を行うとともに、必要に応じて警戒警備を行うこと。
また、知事部局が行う外出自粛、施設の利用制限等の要請等に際して、トラブル等が予想される場合には、必要に応じて警戒警備を行うこと。
(2) 社会秩序の維持
感染拡大に伴う混乱等に乗じた各種犯罪を防止するため、犯罪情報の集約、各種媒体を活用した広報啓発活動を進めるとともに、悪質な事犯に対する取締りを徹底すること。
また、国内の感染拡大や外出自粛等の措置に伴い、社会的混乱が発生するおそれがある場合に備えて、相談対応を通じた住民等の不安の軽減に努めるとともに、各種警察活動における機動隊の多角的運用を含め、組織の総合力を発揮して治安の維持確保を推進すること。
ここで注目すべきことは、「知事部局が行う外出自粛、施設の利用制限等の要請等に際して、トラブル等が予想される場合には、必要に応じて警戒警備を行うこと。」という警戒警備活動の実施であり、「社会的混乱が発生するおそれがある場合に備えて、各種警察活動における機動隊の多角的運用を含め、組織の総合力を発揮して治安の維持確保を推進すること。」として、緊急宣言後における社会秩序の維持を目的とした警察活動を容認したのである。
3月23日の記者会見で、小池都知事が述べた「今後の推移によりましては、都市の封鎖、いわゆるロックダウンなど、強力な措置をとらざるを得ない状況が出てくる可能性があります」ということは、社会的秩序の維持を目的とした警察活動を容認する姿勢が裏に表れている。
都道府県対策本部長の権限
新型コロナ特措法23条2項は、都道府県対策本部の構成員を「副知事、都道府県教育委員会の教育長、警視総監又は道府県警察本部長、特別区の消防長、前各号に掲げる者のほか、都道府県知事が当該都道府県の職員のうちから任命する者」規定し、警視総監が含まれている。
また、対策本部長の権限の中に、「都道府県対策本部長は、当該都道府県警察及び当該都道府県の教育委員会に対し、当該都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等対策を実施するため必要な限度において、必要な措置を講ずるよう求めることができる。」ことを定めている(24条7項)。
これらのことを総合して考えれば、「必要な限度」「必要な措置」という判断を加えることを前提とした警察活動を容認しているように読める。
しかし、警察活動の基本は、警察官職務執行法に定められており、警察活動はそれを限度として行うことができるものだから、いくら「緊急事態宣言」下であろうが、この警職法の範囲を超えての警察活動は絶対に容認されない。
これは、法治国家の基本であり、たとえ首相であろうが、都知事であろうが、その原則を無視することはできない。
私たちは、この緊急事態下において、警察はどのような動きをするのかを注意深く監視する必要があるだろう。
4月7日に行われた緊急事態宣言を受け、デパート等が自主休業を始めたことにより、繁華街からは人影がまばらとなり、夜の居酒屋からも、人の姿がほとんど消えてしまった。これは、宣言に伴う外出自粛の結果であると思われる。なぜこんなに素直に知事の要請を受け入れるのだろうか。要請は強制力を伴わない。すべてが、市民の自発的行動の結果であるといわれている。
小池都知事は、宣言前から、都民に外出自粛を要請していたが、それとともに、強い危機感の下で、感染者の爆発的増加を指摘し、早急な管理を主張していた。
宣言前後で異なっているのは、宣言前はその法的根拠がなく、知事の独自のものであったが、宣言後のものは、新型コロナ特措法を根拠にしていることである。しかし、自粛の要請は変わっていない。本部長である首相が緊急事態を宣言したことにより、日本国民の国民性が顔を出し、「お上思想」が前面に出てきたのであろう。
このような変化を利用とした動きは止まらない。
10日、岐阜県が非常事態宣言を、愛知県が緊急事態宣言を行った。これは、法的根拠を持たないものであり、かつての北海道や東京都と同じものである。このような事態において、それぞれの県民は意義の声を上げないのであろうか。なぜ県議会は、議会での審議を求めないのであろうか。県民や市民の日常生活に深くかかわるものであり、議会での議論とともに、県民・市民の意見を聞く場を設けることも必要である。
安倍総理は、緊急事態宣言を行った後での記者会見で、外出自粛要請に関して警察に何らかの協力を要請する可能性に言及した。「取り締まりの対象には、罰則有りませんから、取り締まりの対象ということでは、警察が取り締まることはありません。ただ、ご協力は要請させていただくということはあるかもしれません」と述べた。これは、「外出自粛要請に関連して、職務質問を活発化することなどを警察に要請することはありうるか」という質問に対してだが、何らかの協力を要請する可能性を認めたのである。
これに対して、菅官房長官は6日の定例会見で「緊急事態宣言がなされた場合、警察においては混乱など不測の事態の防止を図るために、警戒活動を実施するなどの対応をとるとしている。同時に、引き続き空港、医療機関などにおけるトラブル防止のために、警戒警備や混乱に乗じた各種犯罪の抑止、取り締まりを徹底する」と言及し、警察活動を容認する姿勢を示していた。
一方、警視庁は7日、政府の緊急事態宣言を受け、斉藤実警視総監を本部長とする「警視庁新型コロナウイルス感染症緊急対策本部」を設置した。同庁によると、今後、外出自粛傾向のさらなる強まりや経済不況に伴い、ドメスティックバイオレンスや詐欺電話といった犯罪が増加する懸念があるといい、警戒を強める(産経新聞4月8日)としている。警視庁や警察庁のホームぺージには、この緊急対策本部についての記述はなく、どのような組織かは不透明である。
警察庁は、「新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態における警察の対応に係る留意事項等について(通達)」を各都道府県に発出した。そこには、次のようなことが求められている。
緊急事態宣言を受けた警察の取組及び留意事項
行動計画においては、警察の取組として、水際対策の支援、医療活動の支援、社会秩序の維持、緊急事態措置に対する支援、重点的感染防止策の支援等が予定されているところであるが、これらについて現時点で留意すべき事項は以下のとおりである。
(1) 警戒警備の実施
検疫強化に伴う空港、指定待機場所等における警戒を引き続き行うとともに、医療施設(臨時の医療施設を含む。)等におけるトラブル等の防止のため、自主警備の強化を要請するなどの管理者対策を行うとともに、必要に応じて警戒警備を行うこと。
また、知事部局が行う外出自粛、施設の利用制限等の要請等に際して、トラブル等が予想される場合には、必要に応じて警戒警備を行うこと。
(2) 社会秩序の維持
感染拡大に伴う混乱等に乗じた各種犯罪を防止するため、犯罪情報の集約、各種媒体を活用した広報啓発活動を進めるとともに、悪質な事犯に対する取締りを徹底すること。
また、国内の感染拡大や外出自粛等の措置に伴い、社会的混乱が発生するおそれがある場合に備えて、相談対応を通じた住民等の不安の軽減に努めるとともに、各種警察活動における機動隊の多角的運用を含め、組織の総合力を発揮して治安の維持確保を推進すること。
ここで注目すべきことは、「知事部局が行う外出自粛、施設の利用制限等の要請等に際して、トラブル等が予想される場合には、必要に応じて警戒警備を行うこと。」という警戒警備活動の実施であり、「社会的混乱が発生するおそれがある場合に備えて、各種警察活動における機動隊の多角的運用を含め、組織の総合力を発揮して治安の維持確保を推進すること。」として、緊急宣言後における社会秩序の維持を目的とした警察活動を容認したのである。
3月23日の記者会見で、小池都知事が述べた「今後の推移によりましては、都市の封鎖、いわゆるロックダウンなど、強力な措置をとらざるを得ない状況が出てくる可能性があります」ということは、社会的秩序の維持を目的とした警察活動を容認する姿勢が裏に表れている。
都道府県対策本部長の権限
新型コロナ特措法23条2項は、都道府県対策本部の構成員を「副知事、都道府県教育委員会の教育長、警視総監又は道府県警察本部長、特別区の消防長、前各号に掲げる者のほか、都道府県知事が当該都道府県の職員のうちから任命する者」規定し、警視総監が含まれている。
また、対策本部長の権限の中に、「都道府県対策本部長は、当該都道府県警察及び当該都道府県の教育委員会に対し、当該都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等対策を実施するため必要な限度において、必要な措置を講ずるよう求めることができる。」ことを定めている(24条7項)。
これらのことを総合して考えれば、「必要な限度」「必要な措置」という判断を加えることを前提とした警察活動を容認しているように読める。
しかし、警察活動の基本は、警察官職務執行法に定められており、警察活動はそれを限度として行うことができるものだから、いくら「緊急事態宣言」下であろうが、この警職法の範囲を超えての警察活動は絶対に容認されない。
これは、法治国家の基本であり、たとえ首相であろうが、都知事であろうが、その原則を無視することはできない。
私たちは、この緊急事態下において、警察はどのような動きをするのかを注意深く監視する必要があるだろう。