法案の矛盾追及に及び腰な、朝日新聞特集「能動的サイバー防御」(上)(中)(下)
1 記事の内容
朝日新聞は、「来週中にも衆院で審議入りするACD法案。ACDをめぐる課題を多角的に検証します」として、3月4日から6日にかけ、3日連続で、「能動的サイバー防御」を特集した。(上)は、「狙われた名古屋港 機能停止」と「房総か志摩に『情報施設』検討」、(中)では「『同盟の弱点』対応迫る米」、(下)では「足りぬ人材 連携も未知数」を取り上げている。
「狙われた名古屋港 機能停止」では、名古屋港でのサイバー攻撃と機能停止の実態を、次のように述べている。
年間貿易額が国内最大級の22兆円にのぼる名古屋港(愛知県)。2023年7月4日、コンテナの搬出入を制御する中核システムが突如、機能停止に陥った。国際的なサイバー犯罪集団による身代金要求型ウイルス(ランサムウェア)のサイバー攻撃だった。システムが復旧し、港全体が再稼働するまで約3日間を要した。
政府が2月に閣議決定したACD法案は、国がネット上の通信情報を収集・分析し、攻撃元のサーバーを無害化する措置を取れるようにする。政府はネット上の住所にあたるIPアドレスなどを分析して攻撃元を割り出し、その通信を監視。
ただ、「通信の秘密」の侵害につながる強い権限を国に与える新たな制度はプライバシー侵害など多くの懸念をはらんでいる。
「房総か志摩に『情報施設』検討」では、太平洋を横断する海底ケーブルの陸揚げ局が房総半島と志摩半島にあることを紹介し、そこに建設予定の施設で情報収集を行なうとし、収集は自動選別で行われるという。
千葉県・房総半島の南端と三重県・志摩半島は、太平洋を横断する海底ケーブルの陸揚げ局が集中し、米国とアジアを結ぶ国際通信のハブ(結節点)だ。海外から発信される膨大な情報は光信号に変換されてケーブルを通り、刻々と日本に届く。日本からの情報もまた、ケーブルを通って海外に向かう。
政府関係者によると、政府はネット空間の通信情報を収集するための大規模な施設を作ることを検討。有力候補地は房総半島と志摩半島だ。
施設では、光の性質を利用した特殊な装置を使い、ケーブルを流れる光信号を半透明の鏡に反射させるように分岐させて別の機械へと送り、必要な情報を自動的に選別し収集する。
必要以上の情報を集めないことを担保する方法が、この機械による自動選別だ。
ネット空間における通信情報の収集は、憲法21条に規定される「通信の秘密」に抵触する恐れがある。
近藤内閣法制局長官は「『公共の福祉』の観点から、必要やむを得ない限度において一定の制約に服すべき場合があると考えている」と答弁した。
「『同盟の弱点』対応迫る米」では、アメリカの圧力で政府は能動的サイバー防御の検討を始めたと次のように述べている。
日本政府が「能動的サイバー防御(ACD)」導入の本格検討を始めた背景には、日本のサイバー能力強化を強く働きかける、米国の存在があった。
米は、サイバー対処をめぐる日本の脆弱性を懸念。
米国が日本に能動的サイバー能力強化を求める狙いは主に三つある。
一つは、日本側のサイバー対処の脆弱性から米国が提供した機密情報が漏洩することを防ぐことだ。有事の際など、日米で海外のサーバーの無害化措置を講じることができるよう共同対処の体制整備が必要となる。
二つ目は、日本が収集したデータの共有への期待感がある。・・・・・日本政府が第三者委員会の承認を得て収集した処理済みのデータを、外国政府にも提供できると規定した。
三つ目は、日本国内での米国によるサイバー活動の自由度が高まることへの期待感だ。
結論として、サイバー分野での日米協力が進む一方で、日本の通信網に他国がどれほど介在するのか、日本の「データ主権」をどう守るかが課題となる。
「足りぬ人材 連携も未知数」では、ハイブリッド戦を想定した取り組みとしての能動的サイバー防御を取り上げ、人材不足を指摘し、次のように述べている。
ハイブリッド戦とは、サイバーや情報戦など多様な手段を組み合わせて敵を攻撃することを指す。現実の日本を取り巻く安保環境についても、ある政府関係者は「サイバー空間では、もはや有事に近い状況がはじまっている」と指摘する。能動的サイバー防御の導入は、台湾有事におけるハイブリッド戦も念頭に置いた動きだ。
日本のサイバー防御能力をめぐっては課題が山積している。一つは、人材不足だ。
二つ目が、自衛隊と警察との連携だ。
様々な課題を抱えるACD法案は、来週中にも衆院で審議入りする。政府による情報収集のあり方やプライバシー保護などをめぐり、国会でどのような論議が交わされるのか。重要な局面を迎える。
2 背景説明に明け暮れ、法案の内容には触れるじまい
朝日新聞は、最初に言っているように、「来週中にも衆院で審議入りするACD法案。ACDをめぐる課題を多角的に検証します」としている。この3日にわたる特集記事も、能動的サイバー防御の背景や実態の紹介に充てられ、法案そのものについては、本格的検討はなされていない。
審議入りが迫っている中で、このような背景説明だけで十分な審議を迫ること自体に無理があるのではないか。
紹介されている背景や実態は、逆に言えば、能動的サイバー防御は必要であり、その法案はやむを得ないものだと理解することも可能のように思われる。
このような態度を続けていけば、法案の持つ「戦争推進法」という重大な側面が忘れ去られてしまう。
憲法では、前文や9条で平和主義を徹底している。この平和主義の下で、このような戦争推進法を審議すること自体が憲法に抵触しているのだ。
この法案が戦争推進法だと断定する根拠については、前号の論説で明らかにしている。
ぜひそれを読んでいただき、法案の持つ危険性を理解することを願うのみである。
3 結論
国民を戦争に巻き込まんとする、憲法違反の、こんな戦争推進法は、絶対に存在してはならない。
声を大にして反対しよう。
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