事実調べしないで行われた被告人に不利な判決は、最高裁判例に違反している。
9月8日の朝日新聞朝刊は、「窃盗罪の有罪判決、高裁に差し戻し-事実調べせず被告人に不利な判決-」と題した記事を掲載した。そこには、次のように書かれている。
控訴審が被告人に不利な方向に判断を変える際は、事実関係を認定するための「事実調べ」をしなければならない――。こう示した65年前の判例をもとに、最高裁第三小法廷(長嶺安政裁判長)は7日、窃盗事件の控訴審判決を破棄して審理を差し戻した。
都内のスーパーで2019年に万引きしたとして窃盗罪に問われた女性被告人(55)の裁判は、責任能力の有無が争点だった。
一審・東京地裁は精神科医の証言をもとに「重い窃盗症(クレプトマニア)で窃盗の衝動を抑える能力が低下していた疑いがある」として、刑が減軽される心神耗弱状態と認めて懲役4月と判断。だが、二審・東京高裁は検察の控訴を受けて「完全責任能力があった」と一審判決を覆し、懲役10月とした。
第三小法廷はこの日、「被告人に弁解の機会を与えるなど何らかの事実調べをしなければ、一審の無罪を有罪に変えられない」とした1956年の最高裁判例に言及。検察の求めた証人尋問などといった事実調べをせずに一審をひっくり返した高裁の裁判進行は違法だ、と指摘した。裁判官4人の全員一致で「破棄しなければ著しく正義に反する」と述べた。
この記事を読んで、最初に思い付いたのは、2006年1月16日の出来事である。
この日は、いわゆる迎賓館・横田爆取事件の控訴審の第一回公判が開催された日である。
そこでは、通常の法廷のように、第1回の冒頭手続が進められ、その後、検察官の証拠調べ請求が行われた。ところが、裁判所は、すべての証拠調べ請求を却下し、結審してしまった。
同年5月19日、東京高裁は、「一審判決を破棄し、地方裁判所に差し戻す」というとてつもない判決を言渡した。
一審無罪の判決に対し、検察官の証拠調べ請求をことごとく却下し、何らの事実調べも行わずに、一審最戻しの判断を行ったのだ。
これは、無罪が認められた被告人に、事実調べをしないでの被告人に不利な方向での判決である。これは、「控訴審が被告人に不利な方向に判断を変える際は、事実関係を認定するための「事実調べ」をしなければならない――。」とした1956年の最高裁判例に違反していたのである。
そこで、第三小法廷が取り上げた1956年の最高裁判決を探してみた。同時期に、最高裁は、大法廷判決を2件存在する。
昭和31年7月18日の最高裁判所大法廷判決(刑集10巻7号1147頁)は、「第一審判決が被告人の犯罪事実の存在を確定せず無罪を言渡した場合に、控訴裁判所が第一審判決を破棄し、訴訟記録並びに第一審裁判所において取り調べた証拠のみによつて、直ちに被告事件について犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をすることは、被告人の前記憲法上の権利を害し、直接審理主義、口頭弁論主義の原則を害することになるから、かゝる場合には刑訴四〇〇条但書の規定によることは許されないものと解さなければならない。」と判示し、昭和31年9月26日の最高裁判所大法廷判決(刑集10巻9号1391頁)は、「第一審判決が犯罪事実の存在を確定せず、犯罪の証明なしとして無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所が右判決を破棄し、何ら事実の取調をすることなく、訴訟記録及び第一審裁判所で取り調べた証拠だけで直ちに被告事件について犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をすることは、刑訴四〇〇条但書の許さないところであることは、昭和二六年(あ)第二四三六号同三一年七月一八日言渡大法廷判決の示すところである。従つて、自ら何ら事実の取調をすることなくして、無罪の第一審判決を破棄して前記の如く直ちに有罪の言渡をした原判決は違法であつて、弁護人の上告趣意に対する判断をまつまでもなく原判決は破棄を免れない。」と判示した。
これら二つの判例からすれば、一審判決で犯罪事実を確定しない場合における控訴審では、一審で用いた証拠のみで事実を確定してはならないことになる。
これらの判例で確定していることを迎賓館・横田爆取事件の控訴審判決に当てはめてみると、一切の証拠調べ請求を却下し、一審で取り上げられた証拠のみに基づいて、新たな事実を確定し、破棄差し戻しを行ったのであり、この判断は、上記判例に明白に違反しているのである。
9月8日の朝日新聞朝刊は、「窃盗罪の有罪判決、高裁に差し戻し-事実調べせず被告人に不利な判決-」と題した記事を掲載した。そこには、次のように書かれている。
控訴審が被告人に不利な方向に判断を変える際は、事実関係を認定するための「事実調べ」をしなければならない――。こう示した65年前の判例をもとに、最高裁第三小法廷(長嶺安政裁判長)は7日、窃盗事件の控訴審判決を破棄して審理を差し戻した。
都内のスーパーで2019年に万引きしたとして窃盗罪に問われた女性被告人(55)の裁判は、責任能力の有無が争点だった。
一審・東京地裁は精神科医の証言をもとに「重い窃盗症(クレプトマニア)で窃盗の衝動を抑える能力が低下していた疑いがある」として、刑が減軽される心神耗弱状態と認めて懲役4月と判断。だが、二審・東京高裁は検察の控訴を受けて「完全責任能力があった」と一審判決を覆し、懲役10月とした。
第三小法廷はこの日、「被告人に弁解の機会を与えるなど何らかの事実調べをしなければ、一審の無罪を有罪に変えられない」とした1956年の最高裁判例に言及。検察の求めた証人尋問などといった事実調べをせずに一審をひっくり返した高裁の裁判進行は違法だ、と指摘した。裁判官4人の全員一致で「破棄しなければ著しく正義に反する」と述べた。
この記事を読んで、最初に思い付いたのは、2006年1月16日の出来事である。
この日は、いわゆる迎賓館・横田爆取事件の控訴審の第一回公判が開催された日である。
そこでは、通常の法廷のように、第1回の冒頭手続が進められ、その後、検察官の証拠調べ請求が行われた。ところが、裁判所は、すべての証拠調べ請求を却下し、結審してしまった。
同年5月19日、東京高裁は、「一審判決を破棄し、地方裁判所に差し戻す」というとてつもない判決を言渡した。
一審無罪の判決に対し、検察官の証拠調べ請求をことごとく却下し、何らの事実調べも行わずに、一審最戻しの判断を行ったのだ。
これは、無罪が認められた被告人に、事実調べをしないでの被告人に不利な方向での判決である。これは、「控訴審が被告人に不利な方向に判断を変える際は、事実関係を認定するための「事実調べ」をしなければならない――。」とした1956年の最高裁判例に違反していたのである。
そこで、第三小法廷が取り上げた1956年の最高裁判決を探してみた。同時期に、最高裁は、大法廷判決を2件存在する。
昭和31年7月18日の最高裁判所大法廷判決(刑集10巻7号1147頁)は、「第一審判決が被告人の犯罪事実の存在を確定せず無罪を言渡した場合に、控訴裁判所が第一審判決を破棄し、訴訟記録並びに第一審裁判所において取り調べた証拠のみによつて、直ちに被告事件について犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をすることは、被告人の前記憲法上の権利を害し、直接審理主義、口頭弁論主義の原則を害することになるから、かゝる場合には刑訴四〇〇条但書の規定によることは許されないものと解さなければならない。」と判示し、昭和31年9月26日の最高裁判所大法廷判決(刑集10巻9号1391頁)は、「第一審判決が犯罪事実の存在を確定せず、犯罪の証明なしとして無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所が右判決を破棄し、何ら事実の取調をすることなく、訴訟記録及び第一審裁判所で取り調べた証拠だけで直ちに被告事件について犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をすることは、刑訴四〇〇条但書の許さないところであることは、昭和二六年(あ)第二四三六号同三一年七月一八日言渡大法廷判決の示すところである。従つて、自ら何ら事実の取調をすることなくして、無罪の第一審判決を破棄して前記の如く直ちに有罪の言渡をした原判決は違法であつて、弁護人の上告趣意に対する判断をまつまでもなく原判決は破棄を免れない。」と判示した。
これら二つの判例からすれば、一審判決で犯罪事実を確定しない場合における控訴審では、一審で用いた証拠のみで事実を確定してはならないことになる。
これらの判例で確定していることを迎賓館・横田爆取事件の控訴審判決に当てはめてみると、一切の証拠調べ請求を却下し、一審で取り上げられた証拠のみに基づいて、新たな事実を確定し、破棄差し戻しを行ったのであり、この判断は、上記判例に明白に違反しているのである。