はみ出し行政書士日記

破天荒(?)な行政書士が、遭遇する様々な事件に挑戦する日々の実態+α

仕事でこんなに喜べるのは中々無い!

2004年07月28日 22時47分17秒 | ウレシカッタコト
数日前の話しです。

とあるS市在住の家族からの相談でした。その家庭には、ご主人が日本人で奥様はタイ人のご夫婦に、最近になって生まれた女の赤ちゃんがいました。その赤ちゃんは日本人です。
相談は、その奥様の連れ子についてでした。タイで生まれた16歳のタイ人の男の子です。
タイでは奥様の両親や兄弟の家庭に預けられたまま10年以上生活していましたが、最近になり、あまりに酷いいじめに遭っているため、何とかして日本で一緒に滞在したいと言うのです。
1月ほど前に、自分たちで書類を集めて申請してみたものの、日本での滞在が認められず途方に暮れていたそうです。通常、日本人と結婚した外国人が連れ子を日本に呼び寄せる場合、15歳ぐらいを境目に年齢が上がれば上がるほど難しくなります。それに加えて依頼者の場合は、10年ほどオーバーステイをしていて、3年程前に在留特別許可を得て合法的な在留資格を取得したばかりでした。入国管理局での審査はこの部分を理由に不許可にしたのです。

ところが、依頼者から話を聞いてみると、不許可になった理由は十分に承知しているが、子供のいじめは見捨てるわけにはいかないので、どうしても日本に滞在させてあげたいと言うのです。私も体に残された傷跡などを見させていただきましたが、目を覆いたくなるような酷い状況でした。いじめの域を越えて傷害事件になる可能性も考えられるほど酷い傷跡が体に残されていました。そんな酷い生活環境のところへ追い返すのはあまりにも非人道的過ぎる。私はそう思いました。

そのような状況を初回面談時に聞いてから、私の闘志はむらむらと燃え上がり、どうしても入国管理局に首を縦に振らせてやりたいと思うのでした。しかし、出来るかどうかは全く自信が無いのです。なにしろ、オーバーステイという覆しようが無い理由で不許可にされているのです。思わず、「諦めるべきでは・・・」という言葉が口から出てしまいます。

それでも立ち向かわなければいけないのがプロとしての立場でもあります。野球で言うなら、直球ど真ん中に剛速球を投げ込むことを覚悟したのです。
そこで、現在の状況や、入国管理局へのアピールの仕方、そして、今後の手続へ向けた準備やその方針について依頼者に詳しく説明して、すぐに準備に取り掛かりました。当然、私が提案した方針は全て納得してくれた上でです。

これから出来ること、それは①少年が日本で生活することがどれだけ有意義なことであるか、②少年が日本で生活することが、日本政府にとって何ら悪影響を与えるものでないこと、そして、③何の落ち度も無い子供に母親のオーバーステイの責任を押し付けるのは酷であること、の3点を訴えることです。

一度失敗していることなので、次は無いという気持が焦りを呼び、短期滞在の在留資格で滞在している少年の在留期限が1ヶ月を切っている中で、失敗は許されない状態でした。私は、依頼者の自宅に何度も足を運び、生活環境の調査や近所の状況を確認し、依頼者からの事実の聞き取りを繰り返して、書類をまとめ上げて行きました。
都合5、6回は行きましたでしょうか。何度も訪問して話を聞き、依頼者家族との交流をしているうちに、仕事の域を超えて何とかしてあげたいという気持にもなりました。本来、プロであれば許されないことかもしれません。冷静な判断が出来なくなります。

2週間ほど費やして、ようやく書類をまとめ上げることができ、入国管理局に申請に行きました。しかし、このときは審査官の言葉「受理してもすぐに不許可にするから。」に立腹し、同時にそのような状況で私の一存で申請してよいのか(お金の問題が絡むので)という問題を判断できず、その日の状況を説明しに依頼者宅を訪問しました。私の思ったとおり、依頼者はどんなに不利な状況でも諦めたくないと決意の程を伝えてくれたので、私もその気持ちを受けて、翌日依頼者家族全員と一緒に入国管理局に再度申請に行きました。
そこでの審査官の言葉もまた同様で、「明日にでも結論を出すから」でした。つまり、書類をほとんど審査しないまま不許可処分とすると暗に言っているのです。

しかし、一度受理した書類は、全て審査の上で判断しなければならず、今回提出した100ページ以上にわたる書類に即日目を通し切ることは出来なかったようで、結論が出るまでには1週間を要しました。とはいえ、通常の申請であれば1ヶ月かかることを考えれば、信じられない速さで審査が終わったことになります。おそらく、大見得を切った以上すぐに結論を出さざるを得なかったのでしょう。

そして結論は

許可

信じられません。
このような結論が出ることを誰が予想したでしょう。
私は、パスポートに「在留資格変更許可」と書かれたスタンプを貰うまでは信じられませんでしたが、受け取った瞬間は、本当に嬉しかったです。私は依頼者と固く握手をしました。これほど嬉しい結論はありません。9回裏、3点差からの逆転満塁ホームランを打ったような気持です。
元々ほとんど可能性が無いのを承知の上で、それでもどうしても子供を自分たちの手元に住ませてあげたいと願う親の強い気持が叶ったのです。最後まで諦めないこと、それはとても素晴らしいことだと思いました。

仕事柄、可能性が低いものについては、しばしば「諦めた方がいい」ということを口にしますが、これからは慎むべきだと思いました。少しでも可能性が残されるならそれにかけて挑戦することの大切さを教えてもらった素晴らしい経験でした。