昔の人は早死するのが多かったこともあり、年老いてからの勉強には同情がなく、六十の手習いとかからかったり、晩学なり難し、とけなしたりした。
老いては、せいぜい養老、静かにフィナーレを待つ隠居、余生の考え方が支配的であった。そういう観念に囚われて、やればできることをしないで人生を終えた方が多かったかも知れない。
そういう古い時代にも、積極的な老年ということが全くなかったわけではないみたいだ。佐藤一斎は江戸時代の儒者である。彼は今でいう生涯学習ということを考えていた。
少(わか)くしてまなべば、則ち壮にして為す有り
壮にして学べば、則ち老いて衰えず
老いて学べば、則ち死して朽ちず
この言葉を真っ先に実践した巨人がすぐ現れた。伊能忠敬である。日本全国を16年余り歩いて測量し日本地図を始めて世に出した人として有名である。
彼は50歳にして江戸に上京して、30代の若き高橋至時(よしとき)に師事し、西洋暦法、測量技術をゼロから学んだ。55歳にして始めて江戸の住居地深川を出発して東日本(東北)へと測量に旅立った。
それからというもの16年間、北は蝦夷地(北海道)、南は奄美大島まで海岸線を全て歩き回り測量して日本全土地図を完成させた。身体が動く71歳まで精力的に新たな学問を学び歩き続けた。
日本全土の旅の夜には、学んだ天文学を夜空の星で実証しようと様々なスケッチや研究成果が残されている。
現代では高齢化社会といわれ、生涯学習が注目されるようになった。身体の健康が保たれれば老後はけっこう長い。
それをあらかじめどうせ、老い先短いものとして決めてしまって努力することをあきらめてしまうのは、人生の浪費、もったいない限りである。
そのつもりになれば、老後は充分に長く、そして学ぶ事が面白いものでありうると思う。結果がどうであれ、伊能忠敬のように新たなことにチャレンジする精神を見習いたい。