今、ビデオ会議システム業界で再編の動きが加速している。前回の記事で紹介したタンバーグは、シスコシステムズの傘下に収まり、ネットワークソリューションと結び付いた展開を急ピッチで進めている。
今回はタンバーグと同様、今後業界の「台風の目」になりそうなライフサイズ・コミュニケーションズ(以下、ライフサイズ)に焦点を当てる。
●加速する業界再編の中で新たな門出を迎えるライフサイズ
ライフサイズは、設立当初からHD製品に注力、2005年に業界初のHDビデオ会議システムを発売した専業メーカーとして知られる。いわばHD市場を開拓してきたパイオニア的な存在である。これまでも積極的な価格攻勢を仕掛け、競合するポリコムやタンバーグなどとグローバルで激しいシェア争いを繰り広げてきた。実は同社も2009年12月、マウスやキーボードなどの製品で知られるスイスの周辺機器メーカー大手、Logitech International(日本ではロジクールとして展開)に買収されている。現在、Logitech内でライフサイズとして部門が独立・分離して運営され、新しい製品展開を進めている段階だ。
従来Logitechは、WebカメラなどPCカンファレンス向けの製品を提供してきたが、ライフサイズでは専用機を中心に展開。従って、製品カテゴリー上重複する部分が少ないため、両社製品の統合により守備範囲は広がる。将来的には両社の優れた技術を融合し、シナジー効果を発揮した新製品を提供する機会があるかもしれないという。
しかし現時点では、「ライフサイズがLogitechの傘下に収まることで、われわれの戦略がコンシューマー寄りにシフトするわけではなく、これまでと何ら変わらない。今回の買収では、Logitechがエンタープライズ向けの専用ビデオ会議システムソリューションを獲得する一方で、ライフサイズにとっても、安定した資本供給が得られるメリットがある」と、Logitech日本法人に当たるロジクール ライフサイズ事業部 カントリーセールスマネージャーの小幡 修氏は説明する。さらに個々の部品面でも、Logitechの工場から共通するものを調達することで、直接的なコストを下げられるメリットがあるのだという。
以下、ライフサイズの最新製品を中心に紹介していく。
●手のひらサイズでテレプレゼンスを実現するPassport
2009年秋に発売された「LifeSize Passport」(以下、Passport)は、これまで高価な印象が強かったHDビデオ会議システムの低廉化を進める製品として注目を集めている。
Passport最大の特徴は「サイズ、重量、価格を、従来比で3分の1程度にしたこと」(小幡氏)だという。これまでHDビデオ会議システムを導入したくてもコスト面で二の足を踏んでいた、中堅・中小企業ユーザーにも手が届く価格帯を実現している。例えば、組み込み型マイクロホンを備えた固定焦点カメラモデルは39万8000円、パン、チルト、ズーム機能付きカメラと小型マイクを備えたPTZカメラモデルでも49万8000円という価格で手に入る。
さらに外形は、幅200×奥行き120×高さ30ミリと小さく、重量も450グラム(ケーブルと電源アダプター込みでは約1.2キロ)と軽量だ。名前の通り手のひらに載るパスポートサイズで、一見すると家庭用ルータのようだ。これほどコンパクトであれば、本体をカバンに入れて持ち運んで、出先でモニターと接続して使うこともできるだろう。「実際に出張先で、ホテルの部屋が会議室にもなる」と小幡氏。まさにどこでもテレプレゼンスが行える、「モバイルHDビデオ会議システム」とも呼べる新機軸の製品だ。
Passportの画像と音声については、720p(1280×720ピクセル/30fps)のビデオ品質と、CD並みの音声品質を保証しており、1Mbps(最大2Mbps)の低帯域でHDビデオ会議を実現できる。また、PCのデータ共有も受信のみ可能だ。ただし、あくまでターゲット層は中堅・中小企業が中心であるため、利用規模もパーソナルオフィスや小規模会議室向けであり、拠点間接続も1対1の対向が基本となっている。
Passportのもう1つの大きな特徴は、Skypeオーディオを利用できる点。Skypeが擁するグローバルコミュニティーとの無料通話はもとより、携帯電話や一般固定電話との通話もサポートし、通信費や設備費の大幅な削減に寄与するはずだ。コンタクトリストとボタン式発信機能によって2拠点通話をシームレスに行ったり、Skypeのログイン状態によるプレゼンス情報の確認も可能である。現時点では音声のみの利用だが、小幡氏によれば「近々(2010年夏ごろ)発表される新バージョンは、Skypeビデオにも対応する」という。
そのほか、本体内蔵のリンガーによって、PCユーザーにディスプレーの電源を落とした状態でも着信音で着呼を通知する機能があり、節電への配慮もなされている。
同社は、販社である日立ハイテクなどと協力して、これまでHDビデオ会議システムに手が届かなかったユーザー層を対象に、Passportのコストパフォーマンスの高さを武器に販路を拡大していく方針だ。
さらにPassportの関連商品として、エグゼクティブ向けに開発された「LGExecutive, powered by LifeSize」と呼ばれるデスクトップタイプの新製品のリリースも予定している。この製品は、LGエレクトロニクス製の24インチディスプレーにライフサイズのカメラをセットし、さらにPassportの機能をビルトインしたものだ。通常はPCのセカンドモニターとして使用し、ビデオ会議時には切り替えて、解像度720p/30fpsのHD映像でコミュニケーションができる。国内での発売はこれからだが、価格も低めに抑えられるようだ。
●機能強化されたフルHDモデルも追加
このほか、従来製品のHDビデオ会議システムも強化されている。同社の主力製品は拠点規模に合わせて3つに大別できる。コストパフォーマンスに優れるローコストモデル「LifeSize Expressシリーズ」、豊富なインタフェースを備えたエントリーモデル「同Teamシリーズ」、最高画質を提供するハイエンドモデル「同Roomシリーズ」が用意されている。そして2009年末、各シリーズにおいてフルHD対応モデルである「LifeSize 220シリーズ」が新たに追加された。ここでは、大会議室に対応するハイエンド機「LifeSize Room 220」(以下、Room 220)について紹介する
Room 220は、前述のように1080pの高解像度をサポートするフルHD機。1Mbps以下で720p/30fpsに対応するほか、同等システムの中でも最高のパフォーマンスと帯域幅(8Mbps)を実現している点が特徴として挙げられる。
品質面では、ライフサイズ独自の圧縮技術によって、あらゆる帯域において高画質を実現している。さらに「Adaptive Motion Control(AMC)」と呼ばれる技術を採用し、帯域が変動する状態でも順応して画質を一定レベルに保つ機能を備えている。サポートする解像度も200種類以上に上り、さまざまなビデオ会議端末に最適な状態での接続が可能だ。
Room 220についても、昨今のビデオ会議のニーズを反映して、カメラ映像とPCのデータを別々のディスプレーに同時に映し出して情報共有を行うデュアルディスプレー機能を搭載している。本体にはMCU(多地点接続装置)を内蔵しており、最大で8拠点の接続に対応する。これ以上の拠点数を接続したい場合は、カスケードで接続するか専用MCUを別途用意することになる。
さらに多拠点間でのコミュニケーションの際には、画面分割表示機能(CPモード)によって、最大4拠点までの画面を表示できる。会議や講義など各シーンに応じて画面レイアウトを簡単に変更でき、自分と相手、あるいはプレゼンテーション画面などの位置も自由に入れ替えられる。このほか、ボイスアクティベート機能(VASモード)により、発言者の音声を感知し、発言者の拠点を自動で切り替えて単一画面で表示するといったこともできる。
このようにライフサイズは、他社の追随を許さない低価格路線でHDビデオ会議システム市場に攻勢をかけている。日常生活でビデオ会議が電話のように手軽に利用できるコミュニケーション手段として普及する日も、そう遠くはないかもしれない。
●ライフサイズのユニファイドコミュニケーション戦略
ライフサイズは、マルチベンダー環境下でのビデオ会議ネットワークで活用できる統合管理ソフトウェアとして「LifeSize Control 4.0」を提供している。管理者がビデオ会議システムを一元管理できるツールだ。これによって、「Microsoft Exchange Server」とのシームレスな統合や、スケジュール連携も可能になった。
また2010年5月、ライフサイズを含む主要ベンダー各社が集い、「UCIF(Unified Communications Interoperability Forum)」というフォーラムを結成している。このフォーラムは、UCのハードウェアとソフトウェアについて、主要ベンダー間で相互運用性を保証し、世界中の企業でユニファイドコミュニケーションの障壁を取り除くよう協力体制を組むことを目的としている。
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