不夜菴太祇発句集
春
1 目を開て聞て居る也四方の春
2 鰒喰し我にもあらぬ雑煑哉
3 元日の居こゝろや世にふる畳
4 元朝や鼠顔出すものゝ愛(間?)
5 年玉や利ぬくすりの医三代
6 とし玉や杓子数添ふ草の庵
7 げにも春寝過しぬれど初日影
8 七草や余所の聞へもあまり下手
9 子を抱て御階を上がる御修法哉
10 初寅や慾つらあかき山おろし
11 春駒や男顔なるおゝなの子
12 春駒やよい子育し小屋の者
13 萬歳や舞おさめたるしたり顔
14 万歳やめしのふきたつ竃の前
15 羽つくや用意おかしき立ちまハり
16 はねつくや世こゝろしらぬ大またけ
17 北山やしざりしざりて残る雪
18 家遠き大竹ハらや残る雪
19 梅活て月とも侘んともし影
20 虚無僧のあやしく立り塀の梅
21 春もやゝ遠目に白し六めの花
22 な折そと折てくれけり園の梅
23 紅梅の散るやワらへの帋つゝミ
誓願寺
24 紅梅や大きな弥陀に光さす
25 東風吹とかたりもそ行主と従者
26 春風や薙刀持の目八分
27 糊おける絹に東風行門辺哉
28 投出すやおのれ引得し胴ふくり
29 情なふ蛤乾く余寒かな
30 色々に谷のこたへる雪解かな
31 星の子や髪に結なす春の草
32 丸盆に八幡みやけの弓矢かな
33 元船の水汲うらや蕗の薹
34 花活に二寸短しふきの薹
35 朱を研や蓬莱の野老人間に落
36 こころゆく極彩色や涅槃像
37 ねはん会に来てもめでたし嵯峨の釈迦
38 引寄て折手をぬける柳かな
39 善根に灸居てやる彼岸かな
40 起々に蒟蒻囉ふ彼岸かな
41 川下に畑うつ音やおぼろ月
42 海の鳴南やおぼろおぼろ月
43 月更て朧の底の野風哉
44 島原へ愛宕もどりやおぼろ月
45 欺て引キぬけ寺やおぼろ月
46 連翹や黄母衣の衆の屋敷町
47 実の為に枝たハめしや梨の花
48 皮ひてしが入江や芦の角
49 江をワたる漁村の犬や芦の角
50 野をやくや荒くれ武士の煙草の火
51 畑うつやいつくハあれと京の土
52 耕すやむかし右京の土の艶
53 山葵ありて俗ならしめす辛キ物
54 春雨のふるきなミたや梓神子
55 はる雨や芝居ミる日も旅姿
56 春雨や昼間経よむおもひもの
徳門より春雨の句聞ゆそれに対す
57 春雨やうち身痒かるすまひ取
58 声真似る小者おかしや猫の恋
59 草をはむ胸やすからし猫の恋
60 おもひ寐の耳に動くや猫の恋
61 諫めつゝ繋き居にけり猫の恋
62 遅き日を膝へ待とる番所かな
63 春の日や午時も川掃く人心
64 扨永き日の行方や老の坂
65 遅き日を見るや眼鏡を懸ながら
66 長閑さや早き月日を忘れたる
67 矢橋乗る娵よむすめよ春の風
68 春風にてらすや騎射の綾藺笠
69 燕来てなき人問ん此彼岸
70 ゆたゆたと畝へたて来る雉子かな
71 雉子追ふて呵られて出る畠哉
72 葉隠れの機嫌伺ふ桑子哉
73 髪結ふて花には行ず蚕時
74 華稀に老て木高きつゝじ哉
75 蚕飼ふ女やふるき身たしなミ
76 小一月つゝじ売来る女かな
77 御影供や向よる守敏塚
78 蘭の花やよし野下来る向ふ山
79 猪垣に余寒はけしや旅の空
80 川の香のほのかに東風の渡りけり
81 東風吹くや道行人の面にも
82 下萌や土の裂目の物の色
83 やふ入や琴かき鳴らす親の前
84 出替や朝飯すハる胸ふくれ
85 親に逢に行出代や老の坂
86 出替の畳へおとすなミたかな
春江華月夜
87 花守のあつかり船や岸の月
きさらきの比嵯峨の雅因かいとなめる家見にまかりける
にそこらいまた半ばなり木の工ミともきそひはけミける其
かたハらにむしろ設酒うち吞居たるに句を乞れて
88 大工先あそんでむで見せつ春日影
又弥生廿日餘行ぬ元の竹林にあらすもとの水にあらす
おかしう造りなして宛在樓あり
89 すみけりな椀洗ふ川もありす川
中風めきて手痿ける春
90 不自由なる手て候よ花のもと
91 付まとふ内義の沙汰や花さかり
92 鞦韆や隣ミこしぬ御身代
93 ふらこゝの会釈こほるゝや高ミより
94 寒食に火くれぬ加茂を行や我
95 介子椎お七かやうになられけむ
96 うくひすの声せて来けり苔の上
97 うくひすや聟に来にける子の一間
98 うくひすや葉の動く水の笹かくれ
99 江戸へやるうくひす鳴くや海の上
100 鶯の目には籠なき高音かな
101 人をとにこけ込亀や春の水
102 行舟岸根をうつや春の水
103 堀川や家の下行春の水
104 穂は枯て接木の台の芽立けり
105 接詫ぬ世になき一穂得てしより
106 奉る花に手ならぬわらひかな
107 紫の塵やつもりて問屋もの
108 つミ草や背に負ふ子も手まさぐり
109 摘草やよ所にも見ゆる母娘
110 来るとはや往来数ある燕かな
111 あなかまと鳥の巣ミせぬ菴主哉
112 落て啼く子に声かハす雀かな
113 あながちに木ふりハ言ず桃の花
114 大船の岩におそるゝ霞かな
115 ふりむけは灯とほす関や夕霞
116 つぎねふの山睦しきかすミかな
117 田螺ミへて風腥し水のうへ
118 山独活に木賃の飯の忘られぬ
119 崖路行寺の背や松の藤
120 朝風呂はけふの桜の機嫌哉
121 したたかなさくらかたけて夜道かな
122 塵はミなさくら也けり寺の暮
123 咲出すといなや都はさくら哉
124 京中の未見ぬ寺や遅桜
125 身をやつし御庭みる日や遅桜
126 あるしする乳母よ御針よ庭の花
127 児つれて花見にまかり帽子かな
128 ちる花の雪の草鞋や二王門
歯をたゝく事三十六我白楽天にならふ
129 歯を鳴し句成先立り花の陰
宗屋ハ杖引ことまめなる叟ミちのく西の海辺より近所ハ
さら也花に涼に我わたり灯籠の夜まてもらさす此春身ま
かりけるを猶幻に有心地す
130 死なれたを留守と思ふや花盛
131 蛙ゐて啼やうき藻の上と下
132 出代や厩は馬にいとまこひ
133 出代やきらふからいふいとまこひ
134 養父入の㒵けはけはし草の宿
135 やふ入の寐るやひとりの親の側
136 商人や干鱈かさねるはたりはたり
137 長閑さに無沙汰の神社回りけり
138 からくりの首尾のワるさよ鳳巾
139 落かゝる夕べの鐘やいかのぼり
140 屋根低き声の籠りや茶摘歌
141 世を宇治の門にも寐るや茶摘共
142 桃ありてますます白し雛の顔
143 華の色や頭の雪もたとえもの
144 御僧のその手嗅たや御見拭
百歳賀
145 口馴し百や孫子の手鞠うた
太宰府の神池に鳧雁群をなす
146 飛ビ六めにもどらぬ雁を拜ミけり
147 陽炎や景清入れし洞の口
148 墨染のうしろすがたや壬生念仏
149 炉ふさきや花の機嫌の俄事
150 春の夜や女を怖す作りこと
151 節になる古き訛や傀儡師
152 山吹や葉に花に葉に花に葉に
153 腹立て水吞蜂や手水鉢
154 人とふて蜂もとりけり花の上
155 声立て居代る蜂や花の蝶
156 見初ると日々に蝶ミる旅路かな
157 苗代や灯らて又も通る路
158 御供してあるかせ申潮干かな
159 女見る春も名残やワたし守
160 春ふかし伊勢を戻りし一在所
161 夜歩く春の余波や芝居者
162 行春や旅へ出て居る友の数
春の部終わり
※ 以後夏・秋・冬とつづけます。そしてこれまでに出されている句解なども併載
する予定です。乞うご期待。
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