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睡蓮の千夜一夜

馬はモンゴルの誇り、
馬は草原の風の生まれ変わり。
坂口安吾の言葉「生きよ・堕ちよ」を拝す。

何もしない日は耳を澄ませて・BGM JAZZ SAX

2019-11-07 20:00:00 | 唄は世につれ風まかせ
 
 
9階の非常階段は西南の角にある。
日の沈む処を知りたくて日没30分前から
スタンバイしたが、太陽はいない。
厚い雲の中にいて、雲の中に沈んだ。
 
 
富士山は白い雲の中
 
 
いろんな音がきこえる。
JR3線の電車が走る音、新幹線のゴォーーの音、
ピーポの救急車、船の汽笛、大きなサイレン。
雑多な音のひとつひとつに耳を澄ました。

ボオォォーとあと引く長い汽笛に蘇るのは
吟遊詩人を夢みて、やさぐれた横浜。


ぼくが横浜西口の地下街で遊んでいたとき、
無断で家を出たから金もネグラもなくて、
路地裏にある熱帯魚屋の2階に転がり込んだ。

2階は水槽やら荷物が乱雑に置かれていた。
こぼれたガラスウールにちくちくする布団は
あの時のぼくには極楽に思える寝床だった。

昼間は水槽の水を替えたり温度管理をしたり
エサやり、たまには爬虫類の世話もした。
生き物を扱う商売は大変だと身に沁みて感じた。

生後3ヶ月のバーミーズパイソンのアルビノは
白と黄色の幾何学模様がたまらなく美しい、
保温ライトの下で輝いていた。
 
(ネットより拝借)

ここには2ヶ月くらいお世話になった。
遊び友達のツテで見ず知らずのぼくを居候させて
くれた高齢のご夫婦には本当によくしてもらった。

ネグラを去る時に荷物を整理整頓し布団を干し、
床を雑巾がけして小窓のカギも直しておいた。
10畳くらいの物置は人が住める部屋になった。

ひっくり返したミカン箱に風呂敷をかぶせた
机の上にぼくの唯一の詩集を置いた。
金がないぼくのこころからの気持ち。

ぎしぎし軋む階段を下りて行った。
皺だらけの主が顔をゆがめながら差し出す
茶封筒の表に鉛筆でアルバイト代と書いてあった。

こんなのとても貰えないよ。
いいよ、と突き返したら主は両手で押し返してきた。
その顔を見たら、不覚にもぽろぽろ落ちた。

迎えに来た遊び友達が神妙な顔をして待っている。
「おい、有り難く貰っとけよ」ひとりが言った。
ぼくは主に頭を下げながら不愛想に「どうも」と
言って茶封筒を受け取った。

それから10年が経ち、
お世話になりながら、まともなお礼ひとつ云えずに
立ち去ったことがずっと気になっていた。

主が好きな剣菱を下げて熱帯魚屋を訪れた某日、
その一角には高級マンションが2棟と公園ができ、
昔の面影はなく、まるで雰囲気が違っていた。

近くにあった八百屋と食パンの耳をタダでくれた
パン屋もなくなっていた。
開発の波に押されてみんな移転したのだろうか。

あれからもう幾星霜の年月が過ぎたけど、
ぼくの中ではまだ鮮やかな記憶として残っている。
船の汽笛とバーミーズパイソンアルビノも一緒に。

 
 
 
こんな夜は耳に心地よいJazz🎷を。
BGM JAZZ   SAXメドレー
 
 
 
 

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2 コメント

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Unknown (necesito)
2019-11-07 22:34:52
こんばんは〜😊
すいません
涙腺開きっぱなしになってます
世知辛世の中に埋もれていますが
私も
そんな人間でありたいです
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Unknown (suiren2009)
2019-11-07 22:47:09
知らない人にはつまんない話だろうと思いながら、
今日は書かずにいられなかった。
福富町の運河沿いのベンチで泣いたこともある。

多感な青春期を自分から彷徨って運河のほとりに
たどり着いたり、たくさんの悔いや罪や想い出を
背負っている。

それらが愛おしく懐かしい齢になったということだね。
そのうちまた書くよ、呆れずに読んでくれたら嬉しい。
素敵なコメントをありがとう。
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