睡蓮の千夜一夜

馬はモンゴルの誇り、
馬は草原の風の生まれ変わり。
坂口安吾の言葉「生きよ・堕ちよ」を拝す。

眠れぬ夏の夜に怪談「牡丹灯篭」の感想など

2010-08-04 00:03:21 | 本棚・思想・禅と仏教

浪人に絡まれた武家娘の「お露(佳那晃子)」を助けた萩原新三郎
(林与一)は亡き妻にうりふたつな武家娘と身分違いな恋に落ちる。

お露は父の決めた縁談を断ったことで父の逆鱗に触れ侍女もろとも
父に切り殺された。旗本の当家はこの不祥事によりお家取り潰し、

当主は切腹に果てた。

牡丹灯篭をかざした侍女を連れ、夜毎に新三郎の元に通う幽霊のお露。
それとは知らずに、夜毎、幽霊のお露と契りを交す新三郎。


毎夜のカラン、コロンのゲタの音と日毎に衰弱していく新三郎に不審を
抱いた長屋の住人が、新三郎にお露の身元を確かめるように勧めた。
新三郎は取り潰された家と、お露の墓を見て茫然とする。

僧侶は新三郎の顔に死相を見てとり、加持祈祷したお札を長屋の
出入り口に張り廻らし、3日間は何があっても外に出てはならぬ、
きつく新三郎に言い渡した。

新三郎は不動明王の真言を一心に唱えながら家に篭る。
夜がきて、カラン、コロンとゲタの音が長屋に響き、
新三郎の家の前でピタと止まった。
 
 なうまくさんまんだ ばざら だんせんだ まかろしゃだ
      そわたや うんたらた かんまん

霊験札が張られた家を見て、怖れおののき、悲嘆にくれるお露は、
「新三郎様、お恨み申し上げまする。どうか、ここをお開けくださいませ」

そして、

末を誓う証の香箱が庭に捨てられてあるのを見つけたお露は、
「あのお言葉は嘘なのですね、新三郎様、お恨み申しあげます」


封印された長屋の中で、新三郎は、あの世とこの世をせめぎあった。
命に代えられぬほど愛しいお露だが、いまや死霊となり果てて、

「いや違うお露、いまでもそなたとは未来永劫に夫婦だと思うておる」

霊験札を張り忘れた小さな入り口を見つけたお露は、
す~と中に入り新三郎をなじった。
ここに至ってお露の姿を見た新三郎は、
お露を抱きしめ契りを重ねるのだった。

朝ぼらけの中を帰るお露を追う新三郎、

「そうです新三郎様、こちらににおいでなさいませ」

気がつけば、お露と侍女が葬られたあの墓の前にたたずむ新三郎、
ま新しい墓標にすがりつき、微笑みを浮かべながら息絶える新三郎。

お露の声が空に響く、
「嬉しい。これで新三郎様は、わたしだけのもの」

ラストシーンは、お露の隣に並ぶ新三郎の墓標の前で、

長屋の住人たちが手を合わせ香を手向けている。
穏やかな墓参の画面でEND。

引かれることに抗いながら、
女の魔性に引きずり込まれた新三郎の
絶望的な諦観、新三郎の死に顔のほほに浮かんだ微笑。
勝ち誇ったようなお露の微笑。

ふたつの微笑に映された、オトコの弱さと優しさ、
対照的なオンナの強さ。
演じた林与一の美しさ、哀しさ、憐れさ。
そのワンカットごとの情念にシビれた。

「牡丹灯篭」は何度も映画化されているし怪談としての
storyも定着している。
目新しいモノはないかもしれない、

だがひとつ普遍的な結論がある。
女は怖い。

 

 



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