金谷武洋の『日本語に主語はいらない』

英文法の安易な移植により生まれた日本語文法の「主語」信仰を論破する

第53回 「怖い漢字」

2009-02-23 11:37:38 | 日本語ものがたり
 先日、二年生のクラスで学生から面白い質問を受けた。習い事の「茶道、華道、書道」から伝統スポーツの「柔道、剣道、合気道」まで、なぜ「道」がついているのか、と言うのである。私は北海「道」生まれですけどね、と先ずは駄洒落で受けたが、さて、どう答えようか。 それにしても不思議なタイミングだった。その直前の一年生のクラスで漢字の「道」の怖さを教えたところだったのだから。毎年のことだが「怖い漢字」に出会う . . . 本文を読む

第52回 「福田首相辞任劇」

2008-10-31 04:29:28 | 日本語ものがたり
 今回は、首相を突然辞任した福田康夫首相の記者会見をおける発言を取り上げてみたい。今回の辞任劇については既に各種メディアで広く報道されたから、このブログをお読みの皆さんも既にご承知のことと思う。福田首相が辞任の緊急記者会見を開いたのは去る9月1日のこと。「新しい布陣の下、政策実現を図るためにきょう辞任を決意した」と述べて、首相を辞任する考えを正式に表明したのだが、一年前の2007年9月には安倍晋三 . . . 本文を読む

英語の講演

2008-03-22 04:30:42 | 最近の出来事
2008年2月1日に英語の講演をやりました。「"I love you"を日本語でどう言うか」とフザケた演題です。 東京(早稲田大学)とバンクーバー(UBC)、それからモントリオール大学を結んでの同時ビデオ講演です。ネットからダウンロード出来たんですが、いつの間にか見られなくなって残念です。その翌週。たまたまバレンタインと重 . . . 本文を読む

第51回 「横綱の品格」

2008-03-22 03:01:58 | 日本語ものがたり
 2005年の大ベストセラー「国家の品格」(藤原正彦)以来、「品格」が現代日本社会のキーワードとなった感がある。そこで今回は、これも大きな話題となっている「横綱の品格」について考えてみたい。  先ず四股名が大きなヒントになる。このシリーズ第3回にも書いたが、相撲力士の四股名は俳号に似ていて面白い。江戸時代の三大俳人と言えば「芭蕉・蕪村・一茶」だろうが、この三つの俳号の共通点は一目瞭然で、三人に二 . . . 本文を読む

第50回 「大統領がキレる国」

2008-02-22 19:30:53 | 日本語ものがたり
 前回、日本語が「対話の場」をいかに大切にするかということを「行ってきます・行ってらっしゃい」と「お帰りなさい・ただいま」を例にあげて指摘した。日本語の「対話の場」では<我>と<汝>が一体となって溶け込もうとする、それが日本文化の基本ではないかとさえ私には思えるのだ。  「相身互い・持ちつ持たれつ」などという表現などもそのことを物語っている。さすがは「気くばりのすすめ」(鈴木健二著、1982年) . . . 本文を読む

第49回 「行ってきます」と「お帰りなさい」

2008-02-03 00:18:20 | 日本語ものがたり
 日本語をよく観察すると、日本人がいかに「対話の場」を大切にする民族かということに驚く。話し手である自分がいて、自分の前に聞き手がいる。聞き手は2人以上のこともあるが多くは1人だ。ここで大切なのは、この「対話の場」に<我>と<汝>が一体となって溶け込むということだ。この点が日本文化の基本であるように思えてならない。日本語における<我>は、決して「対話の場」から我が身を引き離して、上空から<我>と< . . . 本文を読む

第48回 「敬語の落とし穴」

2007-12-04 22:28:37 | 日本語ものがたり
 最近発表された文化庁の国語世論調査によると、「自分の敬語に自信がない」と思っている日本人(成人)は何と4割に達するそうである。5人に2人の割合だから、これは大変な数だ。そんな不安を反映しているのだろうか、日本で本屋さんに行くと敬語に関する本が目白押しに並んでいる。どの本にしようかと立ち読みしている人たちも少なくない。若い会社員は会社で上司に言葉遣いを注意されたのだろうか。高校生は受験対策かも知れ . . . 本文を読む

第47回 「沖縄のことば」

2007-12-04 22:27:36 | 日本語ものがたり
 日本語の母音は「ア・イ・ウ・エ・オ」の5つということになっている。でも果たして大昔からそうだったのだろうか。いや、そうではなくて、奈良時代には「イ・エ・オ」がそれぞれ2種類(甲類と乙類)に分かれており、母音は合計8つあったのだ、というのが国語学界の定説である。その8母音の甲乙の差がなくなって5つになり、そのまま現在に至るとされる。  その端緒となったのは江戸時代の国学者、本居宣長とその門弟石塚 . . . 本文を読む

第46回 「安倍首相の日本語力」

2007-09-16 09:42:23 | 日本語ものがたり
 ある方から、夏の間に質問メールを戴いた。このような内容である。  「最近気になっているのですが、『お知らせください」(お---くださる)という敬語表現を『お知らせをください」と直す方がいるのです。『お届けをください』『ご覧をください』とは言えないと思うのですけれど。『お知らせくださるようお願いいたします』が『お知らせをくださるようにお願いいたします』に、『お知らせ致します』が『お知らせを致しま . . . 本文を読む

第45回 「左と右」

2007-04-01 01:15:25 | 日本語ものがたり
 当地のコミュニティ紙「モントリオール・ブレテン」1月号に東京国立博物館の望月幹生夫氏の「日本古代展を終えて」という記事が掲載されている。「埴輪で見ると、古墳時代は(着物を)左前に着るのが普通だったようです」と書いておられるが、もし横に埴輪の写真も添えられていたら、「あれ?」と思われる人がいたに違いない。なぜなら、「左前」とは、着ている本人から見て、「右の襟(えり)が前に来る(=上になる)」ことを . . . 本文を読む

第44回 「英語と仏語」

2007-03-19 10:48:09 | 日本語ものがたり
 当地ケベック州には言語法というのがあって、両親が英語話者でない移民の子供は(公立学校なら)仏語の学校に行かないとならないとか、商店の看板に使う文字も仏語を英語よりも大きく書かなければいけないとか、色々な規制がなされている。最初に当地に来たころは、「おいおい、この州には表現の自由がないのか」と驚きあきれたものだったが、それはケベック州民の言語的、文化的危機意識のなせるわざであることに次第に気がつく . . . 本文を読む

主語を抹殺した男

2007-01-10 09:54:28 | 管理人のつぶやき
2006年12月8日に講談社より『主語を抹殺した男』が出版されました。 http://www.amazon.co.jp/主語を抹殺した男-評伝三上章-金谷-武洋/dp/4062137801/sr=1-1/qid=1168390411/ref=sr_1_1/250-6215831-6077018?ie=UTF8&s=books 今までに出版されている『日本語に主語はいらない』『日本語文法の謎を解く』 . . . 本文を読む

第43回 「私のこと、好き?」

2006-12-03 07:28:10 | 日本語ものがたり
 第11回「先生、ジュテームは日本語でどう言いますか」にも書いたけれど、日本語と英仏語の発想の違いを表す典型的な文は「好きだよ・好きよ」だと思う。手を握られてこう言われたら、「そう、さっきの映画、そんなに気に入ったの」と答える日本人は先ずいない。  当然、英仏語なら「I love you」「Je t'aime」と、双方「誰かさんと誰かさん」が人称代名詞で登場する場面である。ここで重要なのはこれら . . . 本文を読む

第42回 「奈良時代のホッケー」

2006-10-13 22:54:00 | 日本語ものがたり
日本語ものがたり(第42回)  「奈良時代のホッケー」  今回は、奈良時代の日本にもホッケーがあったというお話を。この話題が、左利きの意味で使われる「ぎっちょ」と結びつくのだから、う~ん、やっぱり言葉は「小説より面白い」と思う。  私は4人兄弟で姉、兄、弟が一人づついるが、この弟が左利きだ。それで、小さい頃から「ぎっちょ」という言葉はよく聞いて育ったが、なぜ「ぎっちょ」と言うのか、つまりその語 . . . 本文を読む

第41回 「切る言葉、繋ぐ言葉」

2006-04-16 07:13:41 | 日本語ものがたり
 先ずは前回の宿題、「英語で、Aが使われる最初の数字は?」の解答を。仏語、イタリア語、スペイン語は4(quAtre/quAttro/cuAtro)、日本語では漢数字が3(sAn)で和数字が7(nAnA)、ドイツ語は8(Acht)など、1桁の数字が多い。「あばば・パパ・ママ」など、幼児の言語獲得でも最も早く現れるとされる母音「A」は、基本語彙である数字にも早々と登場するのだ。ところが一体どうした訳か . . . 本文を読む