金谷武洋の『日本語に主語はいらない』

英文法の安易な移植により生まれた日本語文法の「主語」信仰を論破する

第67回 「◯◯ちゃんみたく可愛くなりたい」

2011-02-16 22:51:25 | 日本語ものがたり
 言葉に関する「よしなしごと」をこのブログで書き続けているわけだが、とりわけ嬉しいのは読んだ人からコメントや質問が寄せられる時である。間違いを正して下さる方、知らなかった新事実を教えて下さる方、どちらも有難く大助かりで、手を合わせてお礼申し上げている。  今回の表題「◯◯ちゃんみたく可愛くなりたい」もそうだった。前回、「馬鹿みたい」のような「みたい」は「見た様」が崩れたものだから、「馬鹿みたいだ . . . 本文を読む

第66回 「和語と親しむ(6): つらい・かたい・にくい」

2011-01-27 22:10:30 | 日本語ものがたり
 今月も和語の話を続けてその6回目としよう。表題は和語の形容詞「つらい・かたい・にくい」とした。漢字で書けば「つらい」は「辛い」、「にくい」は「憎い」だ。「かたい」には様々な漢字があって、「硬い・固い・堅い」などとあれこれ思いつく。  これらの形容詞を取り上げるのは、これらが一つの顕著な特徴を共有しているからだ。それが何か、ご存知だろうか。もしすぐ答えられる人がいたとしたら、きっと日本語を外国語 . . . 本文を読む

第65回 「和語と親しむ(5):消せど燃ゆる魔性の火」

2010-11-21 22:59:07 | 日本語ものがたり
 前回、和語の面白さの一つとして「時を越える働き」を指摘した。英語ならば「to ask」と「to listen」に分かれる行為が、和語では「きく(訊く・聞く)」一語で間に合う、というような例をいつくかあげた。  この「きく」の例では、さらに「効く」を加えていいかもしれない。いたずらをした子供に「そんなことをしては駄目だよ」と、よく言い「聞かせた」とき、叱られた子供が言われたことをその後よく守った . . . 本文を読む

第64回 「和語と親しむ(4): 時の流れに身をまかせ」

2010-10-17 22:04:20 | 日本語ものがたり
日本語ものがたり(第64回) 「和語と親しむ(4):時の流れに身をまかせ」  和語の面白さの一つに「時を越える働き」があると思う。ある状況の様々な局面が、英仏語などで幾つかの語彙にまたがるのに、和語ではたった一つの動詞で表現できる例が多い。かつて一世を風靡した歌姫テレサ・テンではないが、大和言葉も「時の流れに身をまかせ~」と洒落たいところだ。気付いたままに5つほど例を挙げるが、他にもたくさん別の . . . 本文を読む

第63回 「和語と親しむ(3):隠された動詞」

2010-09-17 12:08:50 | 日本語ものがたり
 和語の魅力をさらに追いかけていこう。あるとき、小説を読んでいたのだが「愁子がふらりとやって来たのは、日曜日であった」という文に目が止まって、先に進めなくなった。「日曜日であった」か。ここは「日曜日だった」とも言えるな、と思い始めたら、そこからどんどん和語の面白さが頭の中に広がっていったのである。  そう言えば、明治期の言文一致運動の過程で、例えば「我輩は猫である」のような文の終わりが「猫である . . . 本文を読む

第62回 「和語と親しむ(2):平仮名の向こうに」

2010-05-31 10:19:43 | 日本語ものがたり
 和語の「男と女」を取り上げた前回のつづきである。「おとこ」に対応する語は、本来は「おんな」でなく、「おとめ」だったことが先ずわかった。(旧仮名は「をとこ・をとめ」)そこで、次に、二語の共通部分である「おと」を消去して、残りの「こ」と「め」こそが「男女差」を表す和語の最小単位であることを見た。最後に、他に「こ」vs「め」で男女差が言い表せる例があるかどうかを探したところ、男女の子供をいう「むすこ・ . . . 本文を読む

第61回 「和語に親しむ(1):男と女」

2010-04-21 10:30:08 | 日本語ものがたり
日本語ものがたり(第61回) 「和語に親しむ(1):男と女」 現代日本語の外来語。その大部分は英語から入ったものだ。カタカナで書かれることもあって、とにかく目立つ。近年の歌謡曲、とりわけJ-POPと呼ばれ、若者に人気のあるヒット曲にいたっては、外来語を使っているばかりではない。サビの部分などを何と英語で歌うものが増えている。 とは言え、30年以上も前の大ヒット曲「カナダからの手紙」(1978年 . . . 本文を読む

第60回 「めがね」

2010-03-26 09:40:44 | 日本語ものがたり
  友人が貸してくれた日本映画がすこぶる面白かった。  「めがね」という変わったタイトルである。2007年の公開作品で、監督・脚本の荻上直子は、千葉県出身の1972年生まれ。弱冠29歳の時にベルリン国際映画祭児童映画部門特別賞を受賞した「バーバー吉野」(2001)、フィンランドのヘルシンキで撮影された「かもめ食堂」(2006)などでよく知られている。「かもめ食堂」も同じベルリン国際映画祭で賞を取 . . . 本文を読む

第59回 「朝青龍、角界を去る」

2010-02-17 11:58:06 | 日本語ものがたり
日本語ものがたり(第59回) 「朝青龍、角界を去る」  2年前、この連載51回目「横綱の品格」(2008年3月)に以下のような文章を書いた。ちょっと長いが2段落引用する。 「横綱朝青龍の「品格」が様々な出来事を通じて疑問視されているのはご周知の通りだ。朝青龍に横綱の品格が疑われる最大の理由は、「伝統的相撲精神」からの逸脱である。相手を睨みつけて威嚇したり、ガッツポーズと思える仕草をしたり、自分 . . . 本文を読む

第58回 「恐るべき麻生読み」

2010-01-29 12:01:34 | 日本語ものがたり
 以前、この欄に「安倍首相の日本語力」(第46回)と「福田首相辞任劇」(第52回)を書き、辞任の際の記者会見で、この二人の日本国首相がどんな日本語を使ったかを紹介した。「あっだけ物議ば醸(かも)したったい。『麻生読み』のこつも書かにゃ」 とメールをくれたのは熊本の友人である。それに応えて、今回は、昨年8月末の衆議院総選挙に大敗して首相の座を降りた麻生太郎氏のことをお話しすることにしよう。ちなみに、 . . . 本文を読む

第57回 「漢民族は羊好き」

2009-11-11 08:21:37 | 日本語ものがたり
 今回は「羊」にまつわる漢字の話である。漢民族は「羊」が昔から大変好きだったと見えて、この部首を含む漢字にはいい意味のものが勢揃いする。ただし、前もってお断りしたいのは、多くの字に関してその字源には諸説があるということだ。ここでご紹介するのも、いくつかの説から最も説得力があり、教室で説明しやすいと判断した字源である。こういう事情だから、「いや、こちらの字典には別の説明があった。これが正しい」と反論 . . . 本文を読む

第56回 「あめあめふれふれかあさんが」

2009-10-12 10:38:10 | 日本語ものがたり
 外国語としての日本語を教えていて、ときどきふと立ち止まる。それは、いままで気付かなかったことが急に意外性を帯びて立ち現れた時だ。あれ、どうしてこうなんだろう、と自問していろいろ調べ、答えが見つかることもあるし、疑問が疑問のまま、何年たっても分からないこともある。いずれの場合にしても、ああでもない、こうでもないと考えを巡らせること自体が刺激的で、とても楽しい。答えが分かった場合の多くをこれまでこの . . . 本文を読む

第55回 「幸せになりたいですか?」

2009-09-08 09:51:02 | 日本語ものがたり
 遠い昔の思い出話である。受験した大学が二つとも不合格だった私は北海道から上京し、予備校の寮に入ることになった。ぽっと出の田舎者にとって、首都圏での新生活は人生の大転機である。戦場のごとき予備校での一年間の詰め込み授業。翌年の春、何とか二浪を免れて新入生になった時は、心身ともに疲れ切っていた。  正門の近くに陣取って、キャンパスに入ろうとする学生に笑顔で近づき、話しかけてくる人たちがいた。若い女 . . . 本文を読む

東京と広島で講演!

2009-07-10 10:43:50 | 最近の出来事
 たきさんファンの皆様、こんにちは。管理人チエ蔵です。  なんと! たきさんが日本(東京と広島)で講演をなさいます。入場はいずれも無料。日本語文法についてご関心のある方ならどなたでも参加できます。    詳細は以下のとおりです。 北米留学のすすめ 東京学芸大学:2009年7月22日(水)15時~17時 日    時:2009年7月22日(水)15時~17時 場    所:東京学芸大学講 . . . 本文を読む

第54回 「敬語の品格」

2009-07-07 12:39:14 | 日本語ものがたり
 日本語の特徴の一つとされる敬語だが、その使われ方は時代とともに大きく変化してきた。国語学者の宮地裕は、古代敬語を「公と私の対立意識による敬語」、それに対して現代敬語を「相互性、場面性による」ものと区別している。確かに、現代の敬語は、場面での話し手・聞き手の相対関係で変化しやすく、そこにいない話題の人物への敬語はかなり失われてしまった。  古代敬語では貴族制度や士農工商など階層的規範性があって、 . . . 本文を読む