もう騙されないぞ(Won't Get Fooled Again)

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97年ジョホールバル観戦記:その2

2004年10月05日 | バックパッカー
試合当日、僕とIさんとオングさんはタクシーで国境を渡り、
マレーシア・ジョホールバルのラルキン・スタジアムに向かった。
国境でパスポートを見せると係員が「今日は日本が勝つよ」と言ってニコッと笑った。
スタジアム到着後、試合開始までまだ時間があった僕たちは、
近くにあるバスタームナル内の食堂で腹ごしらえをした。

試合開始まで1時間ほどになったところでようやくスタジアムに移動。
僕たちが座ったのは、
メインスタンドから向かって左手のゴールの延長線上あたりのバックスタンドだった。
メインスタンドから見て右手のゴール裏では巨大なドラえもんの幕を
サポーターが右に左に太鼓の音に合わせて動かしていた。
僕らの周りには変質的なサポーターは存在せず、みんなで談笑しながら、
ときにはウルトラスの音頭に合わせてニッポンコールをしたりした。

そして試合開始。
試合開始当初はお互いの出方を伺っているように思えた。
イラン選手の鋭いシュートがゴールをわずかに外れる。一瞬ヒヤッとした。
前半40分あたりに、中田英寿のスルーパスに反応した中山雅史が落ち着いてゴールを決める。
日本1-0イラン

1-0のまま前半を終了する。
まわりの日本人やマレーシア人とともにリラックスしてハーフタイムをすごす。
球技場のスピーカーからはマレーシアのポップスのようなものが流れていたが、
ふと日本語の歌が流れているのに気がついた。
中島みゆきが歌っている。
曲名はわからない。だけどやけに郷愁を誘う歌だ。
中島みゆきの歌に耳を傾けているうちに自然と涙がこぼれていた。

そして後半が始まる。
後半開始早々に井原のミスからダエイにボールを奪われアジジのゴールで同点とされる。
球技場を支配する日本人サポーターが落胆のため息をする。まだ同点だ。
しかし、ダエイに痛恨の逆転ゴールを許してしまう。
声が出ない。
後ろでどちらの得点が入るたびに歓喜するマレーシア人が非常にわずらわしく感じた。
怒った一人の日本人が喜んでいるマレーシア人の胸倉を掴むが、周りの日本人に押さえつけられる。
僕も気分が悪い。だけどまだ試合は終わっていないんだ。

ハーフウェーライン付近で2人の日本人選手がピッチに入る準備をしている。
僕は目が良くないのでその2人が誰と誰なのかまだわからなかった。
一人が叫ぶ「城とロペスだ!」
では交代する2人は誰だ?ピッチを小走りで出ようとする2人のうち1人の背番号に目を向けた。
その瞬間、視力の悪い僕でも背中の「11」がはっきりと見えた。
「え、カズが・・・?」
日本の不動のエースが試合途中でピッチを去る瞬間だった。

だが、FW2人をそっくり入れ替えたこの交代が功を奏する。
後半30分すぎ、中田のセンタリングを交代出場の城がドンピシャのヘディングでゴールする。
ゴール後、前宙で喜びをアピールする城の姿が遠目からでもはっきりと見えた。
日本2-2イラン

同点のまま後半を終える。
サドンデスの延長戦。はたしてこれで決着がつくのか・・・
ピッチ上で両チームの選手が座り込み、マッサージを受けている。
一人選手の周りをウロウロしている岡田監督だったが、急に動きを止めて何か指図をしている。
すると、一人の選手が猛然とピッチ上で往復ダッシュをし始めた。岡野だ。
その瞬間、サポーターから大きな歓声があがり、自然と岡野コールが始まった。
観客も岡野が投入されるのを感じていた。

延長前半開始と同時に岡野は北澤に替わって投入された。
なれない湿気でスタミナを奪われていたイランは動きが重く、
日本は攻勢をしかけるも、岡野が再三のチャンスを外してしまい前半終了。
後半も日本の優勢な状態が続くも、まだゴールが割れない。
一瞬のスキをつかれてイランにカウンターを許す。
日本の左サイドを最後の力を振り絞って駆け上がる選手を誰も止められない。
そしてゴール前にセンタリングがあがり、
ボールを待ち構えるイランのFWダエイがシュートの体制に入る。
もう終わった、と思った瞬間、ダエイの軸足がずれ、ボールは大きく宙に飛んでいった。
スタジアムを取り囲む大勢のサポーターから安堵のため息がもれた。
しかし後半の残り時間は5分を切っていた。

このままPK戦になってしまうのか・・・
そう感じたその時、ボールを持った中田が猛然とゴールに向かってドリブルを始め、
左足でシュートを放った。
ボールはキーパーが横っ飛びではじくも、前方にコロコロと転がる。
イランDFにもう瞬時に動く体力は残っていなかったのかもしれない。
誰よりも先にボールに向かって駆け込んだ岡野がスライディングをしながらシュートを放つ。
イランのGKはボールがゴールネットに吸い込まれていくのを見送るしかなかった。
日本3-2イラン

長い長い試合がようやく終わった。
僕はIさんやオングさんと抱き合って喜び、後ろでは城の同点ゴールでも喜びを表さず、
「まだまだ」と言って腕組みをしたままピッチを睨んでいた男性が涙を流しながら叫んでいた。

僕の唯一の、そして最高の日本代表観戦はこうして終わった。
この試合をジョホールバルの地で見た2万を越す日本人サポーターの中に僕はたしかにいた。
もし誰かにいままで生きてて最高だった日はいつか、と聞かれれば
僕は迷わず日本がフランスW杯出場を決めたこの日を選ぶことだろう。
のちに中国の新聞社が「アジアサッカー史上最高の試合」と評したこの試合を僕は一生忘れはしない。

P.S.
ハーフタイムに流れた曲はその後中島みゆきの「ホームにて」であることがわかった。
この曲を聞くたびに照明塔に明るく照らされたスタジアムと夜空を思い出す。

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