できるだけごまかさないで考えてみる-try to think as accurately as possible

さまざまなことを「流さずに」考えてみよう。"slow-thinking"から"steady-thinking"へ

2007都知事選に思う(4) 浅野氏他が負けた理由

2007-04-10 01:10:35 | Weblog

★ 投票率は前回より9ポイント以上上昇したが…55%弱

 これでは、勝った方も負けた方も煮え切らない。が、外山の言うように「選挙などでは何も変わらないのだ!」と思っている連中は放っておくしかなかろう。ただし、政治について語っているヤツには「で、お前は投票に行ってるのか?」とツッコみ続ける習慣を、一人でも多くの人にぜひ身につけていただきたい。こういう風土を作り続けるしか、投票率の改善は見込めないだろう。罰金制(選挙に行かなかったヤツには罰金)にしても、一票の意味を考える動機づけとしては極めて弱いだろうし。

 私はといえば、東京都民ではないykimata氏みかさんなどの気持ちも背負ったつもりで投票してきた。

 

祭りの「跡」

得票数

得票率

石原 慎太郎

2,811,486

51.1%

作家  無所属
浅野 史郎

1,693,323

30.8%

〈元〉宮城県知事 無所属
吉田 万三

629,549

11.4%

〈元〉足立区長 無所属
黒川 紀章

159,126

2.9%

建築家 諸派
ドクター・中松

85,946

1.6%

発明家 無所属
桜 金造

69,526

1.3%

タレント 無所属
内川 久美子

21,626

0.4%

風水学研究家 無所属
外山 恒一

15,059

0.3%

路上音楽家 無所属
高橋 満

5,558

0.1%

タクシー運転手 無所属
雄上 統

4,020

0.1%

作家 無所属
山口 節生

3,589

0.1%

不動産鑑定士 諸派
高島 龍峰

3,240

0.1%

易学者 無所属
佐々木 崇徳

2,845

0.1%

〈元〉大阪府警察官 無所属
鞠子 公一郎

1,373

0.0%

〈元〉野村証券社員 無所属

表を作り替えた…あーしんど…。 

< 総有権者数(=総票数) 10,238,704 総投票者数 5,565,127 投票率 54.35% >

 

 石原氏の得票率が50%を越えたのが意外であった。この結果は、浅野氏や吉田氏の応援サイドが「反石原勢力を糾合すれば勝てた」という言い訳さえはじき飛ばす「圧勝」と言えよう。

 地区ごとの得票数を新聞でチェックすると、吉田氏が区長をやっていた足立区でさえ、

石原氏 142015票
浅野氏 58817票
吉田氏 47239票
黒川氏 5640票

であり、吉田氏は足立区の過半数どころか、浅野氏の票数さえ超えていない。浅野氏と吉田氏を合わせても11万票に届かず、足立区でさえ、石原氏の得票率は過半数である。自分が区長をやっていた区でさえトップ得票を取れない人が、本気で知事になれると思っていたのだろうか?甚だ疑問に思わざるを得ない。

 

★ 「おいしいとこ取り」を狙ったが単なる「小ずるいだだっ子」に終わった浅野氏

 では、浅野氏はできるだけ反石原票を掘り起こし、取り込めたのかという話になるが…。反石原と言えば朝日さんなので、朝日さんの記事を謹んで引用しよう。

 

浅野戦術カラ回り 草の根貫けず迷走 都知事選(朝日さん 07.04.09)

 前宮城県知事の浅野史郎氏は選挙戦で、石原知事の2期8年を厳しく批判した。しかし結果は、「これだけの差で負けるとは、予想以上」という大差になった。

 午後8時50分、新宿区のホテルに設けられた会見場に現れた浅野氏は「初めて挑戦者として戦って、現職は強いと改めて実感した。 月並みな言い方だが、私の不徳の致すところだ」。サバサバとした表情で語った。

 「現職への批判をしたが、有権者には大きな失政とは受け止められていなかった」 と悔しさをにじませる場面もあった。

 選挙戦では五輪招致や築地市場移転への反対を打ち出したが、 「有権者が最重要課題だと見てくれなかったのだろう」。そして、「知事を代えなきゃいけないとまで感じられていなかった。 石原都政の実害を被っている人は限られており、一般化していなかった」と敗因を分析した。

 この1カ月前。浅野氏は、「実害を被っている人」からの多くの声に押されて立候補を決めた。

 「石原都政はもうたくさん、という多くの悲鳴を聞いた」。3月6日の記者会見では、こう語った。 93年の宮城県知事選の時から浅野氏を支える参謀役の田島良昭氏は「『反石原』 の受け皿として勝算は十分にある」とみた。その分析も浅野氏の背中を押した。

 「悲鳴」をすくい取るように、浅野氏は戦いを始めた。「ブレーンは都民」。寄せられた300通以上のメールのすべてに目を通した。築地市場や病院、福祉施設など現場を歩いた。 告示後の17日間で遊説は156カ所。トップダウンと言われる石原氏を意識するように、握手をしながら都民の意見を聞いて回った。 五輪招致への賛否も、都民の声を聞いて決めるつもりだった。

 しかし、明確に五輪反対を掲げる他の新顔候補と臨んだテレビ討論で、浅野氏の主張はかすむ。選挙事務所に相次ぐ「はっきりしろ」の声。浅野氏が「中止」を表明したのは、告示後の3月末だった。

 戦略上、一番重要なのが無党派層の取り込みだった。浅野氏は告示前、宮崎県の東国原英夫知事の携帯電話を鳴らした。 告示後には高知県の橋本大二郎知事にも電話した。「改革派知事に並んでもらい、 無党派層に訴えかける」。だが、いずれにも断られ、陣営の思惑は頓挫した。

 結局、駆けつけた応援弁士は民主、社民党関係者が中心。その姿に、 「浅野さんは政党色を嫌っていたのではないのか」と有権者は戸惑った。終盤に応援に立った民主党幹部は 「初めから我々が顔の見える形で支援すれば良かったんだ」といらだった。

 

>石原都政の実害を被っている人は限られており、一般化していなかった

 これが決定打ではないかな。ちなみに、築地のある中央区でも、

石原氏 26938票
浅野氏 14487票
吉田氏 4298票
黒川氏 2103票

であり、この四者に占める石原氏の割合は56.3%である。築地で働いている人の多くが中央区民かどうか分からないが、現実として、築地近辺の住民も、過半数が石原氏に投票したということだ(しつこいが、投票しなかったバカは除く)。ちなみに、中央区周辺の千代田区、墨田区、江東区、港区でもほぼ同様の結果である。浅野氏と吉田氏の得票を合わせても、石原氏の得票に届かない。

 

 選挙戦を通して、多くの反石原陣営が問題にしていたのは

・身内の採用

・オリンピック問題

・築地移転問題

だが、このどれも、従来の石原都政を否定するほどの力を持ちえなかったということだ。というか、「都政」という角度から見れば、3点目しか重要な論点にしかなり得ないと私などは思うのだが、この点でさえ、石原都知事が積極的に推進していることではなく、その意味で明確な対立争点にはならなかった。

 だから、吉田陣営などは、ここぞとばかりに日の丸君が代の強制問題などを徹底的にブチあげれば良かっただろうにと思うのだが、結局「オリンピックのお金を福祉に!」の一点張りだった。少なくとも、メディアを通しての印象としてはそうであった。

 

 浅野氏については、他にもツッコミどころはある。たとえば寄せられたメールがたった300通とは、少なすぎやしないだろうか。有権者は1000万人以上いるのだから…。少なくとも、万単位のメールが浅野氏の元に届いていると、勝手ながら思っていた。これもメディアを通してだが、いわゆる「勝手連」があれだけうじゃうじゃいたにもかかわらず、実際にメールという形で浅野氏に要望を届けた人は、たった300人しかいなかったということである。

 また、民主党などの政党関係者が「初めから我々が支援すれば良かった」と言っていたようだが、それでは、彼が狙っていた「無党派をとりこむ」もくろみが大きく崩れ、無党派票は見込めなかったであろう。NHKなどの出口調査によると、民主党支持者でさえその1/4が石原氏に投票している。以前この記事で考察したように、宮崎県でそのまんま東氏(当時)が知事選に当選したのは、単なる「無党派フィーバー」などではなく、東氏によるずいぶん前からの準備(昨年11月から本格的に準備を始めたのこと、本人談)と、本業だったお笑いで培った話術と、彼が小泉的手法などから学んだ「演説での交換条件の作り方」などによるものが大きい。

 それを、ただ「改革派知事に並んでもらい、無党派層に訴えかける」という手法で、おいしいところだけ持って行こうとしても、うまく行かないのは当然である。断った東国原氏にしても橋本氏にしても、「同じにされてたまるかorおいしい所だけ持って行かれてたまるか」の感であったろうに。

 立候補を遅らせ、ギリギリになって立候補を決めたのも、有権者にとってはかなり悪印象であっただろう。「これだけ立候補を先延ばしにするって、自分で積極的に『都知事になりたい』わけじゃなくて、『勝てそうなら立候補する』ってこと?そりゃ随分と有権者をバカにしてるねえ」と思ったのは私だけではないだろう。この点も、そのまんま東氏とは全然違う。

・なんとしてでも都知事になりたい!その理由は、私にはこういう「理念」があるからだ!

・従来の石原都政とはここが違う!石原時代よりも、こういう点を良くしてみせる!

そのまんま東氏にはあって、浅野氏(あるいは他の候補者)にはなかったこの2点が、越えられない壁として、(無党派かどうかに関係なく)潜在的な石原支持者の前に立ちはだかったということだろう。その結果として、有権者の多くが、石原支持から動かなかったということである。

 こういう点全てを、「現職の壁は厚かった」という表現で総括する浅野氏が、賢いとも志があるとも私は全く思わない。こんなただの日和見主義のオッサンが、なぜ慶応の教授など務まるのか、慶応とはそれほどにもバカ大学なのかと、そちらの方が不思議でならないくらいだ。

 ま、こういうコトバで有権者をケムに負けると思っているくらいにはずる賢いということなのだろうが、甘すぎるよオッサン。

 

★ メディアにも負けたか?というより「メディアも負けた」か?

 浅野支持派から言えば、「いーや!そんなことはない!彼は明確なマニフェストを公開したじゃないか!」となるだろうが、あのマニフェストからは、従来の都政がどのように問題だったのかという点が完全に欠落している。

浅野氏 マニフェスト 1「誰もが誇りを持てる東京へ」より

>東京都知事選挙が近づいてくると、多くの人たちから「石原都政はもうたくさん」という悲鳴にも似た声が届きはじめました。 これは、私の心を大きく揺さぶりました。社会的弱者に対する差別発言、都政の私物化、 恐怖政治のような教育現場など、石原都政がもたらした数々の問題点を聞くうちに、 この状況を変えられるのは自分しかいないと決意するに至りました。

「社会的弱者に対する差別発言、都政の私物化、恐怖政治のような教育現場」 がどれだけ「事実」であるのか、それが事実として、それが「石原都政を変えなければならないほどの大きさ」なのか、こういう観点からの説明が完全に欠落している(それにしても、「私物化」や「恐怖政治」など、随分と感情的な言葉の使い方である)。言うまでもないことだが、現職都知事にほんの少しのミスや至らない点があれば、それだけで現職都知事を変えるべきだ!という主張にはならないということくらいは、ほとんどの有権者は前提として頭の中にあるわけである。浅野氏は、そういう有権者の頭の底まで見抜いて、そこをえぐるようなマニフェストを作らなければならなかっただろうに。

 この点も、宮崎県知事選挙とは全然違っていた。官製談合発覚により、現職が辞職した宮崎県では、他の候補者より自分が優れていると有権者を説得できれば、票を得られる可能性が高かったのである。この点でも、浅野氏は東京都をなめていたと言わざるをえまい。

 

 …と、ちまちま書いてきたが、メディアの扱いも大きかったと思う。メディアでの浅野氏の扱いは、浅野氏の政策を根掘り葉掘り聞くというものではなく、どこに行っても「ハイハイ」と笑顔で有権者の言うことを聞く、ポリシーのよく分からないオッサンを紹介しますという扱いであった。「私の本籍地は福祉です!」と意味不明の言葉を発し、ただ周りの言うことをただハイハイ聞いているような人に、有権者は、国会議員よりはるかに大きな権力を持つ都知事というポストを任せると、メディアは本気で思っていたのだろうか?だとしたら、浅野氏にとっては、さり気ない追い風となるような、「石原を嫌っている」メディアの扱いも、ただの「逆風」にしか働かなかったのだろうな。

 こう考えれば、日曜の夜に、大勝した石原氏に対してNHKや日テレが悔しさたらたらのインタビューをしたのも、納得だ。自分たちがやったことが裏目に出たことを直感でもしたのだろう(苦笑)。

 

 あ、この点も忘れてはいけない。

浅野氏 マニフェスト 2「都政運営の基本姿勢」より

>2 人と自然に優しい東京を創る
都政の手法として、強制、管理、抑圧といった側面を強調するような手法とは決別します。
社会的に弱い立場にある人たちが、生きやすい環境を創り出します。

 石原知事は、治安回復に積極的な行動を取ってきたが、浅野氏のこの発言により、「私は治安回復には積極的に動かない」という印象を与えたのだろうな。民団(在日大韓民国民団)に支援要請した時点でかなり終わっている。今は元記事は消えてしまったが、統一日報でさえ、日本で韓国人犯罪が激増していることを報じているのだから、民団に協力を要請するとしたら、「東京の治安回復に協力してもらいたい」という方向での要請だったなら、「治安問題にも積極的な浅野氏」という「売り」を作ることができただろう。しかしこれは、少なくとも民団にとっては「強制」や「管理」、「抑圧」と取られかねない要請である。彼自身が、上記のような文言でこういう要請や手法を拒否する限り、浅野氏は、治安回復や治安維持には関心がなく、その結果、少なくとも東京での外国人犯罪は全く減らないだろうなという結論にしか至らないのである。

 要するに、単に「自由」と叫べば、有権者がホイホイ寄ってくると思ったら大間違いなのである。

 

★ 要するに…

 今日も長くなったのでこのくらいにしておくが、要するに、

石原都政に大きな失点もないまま、そのまんま東現象を安易にマネしようとしたら、 きれいにはじき飛ばされた

ということであろう。

 

 あ、東国原知事が、夕方のテレ朝のニュースでこんなことを言っていた。

「東京都民が保守化しているって側面もあると思います。」

「マニフェスト選挙になっていれば絶対に浅野氏が勝ったと思います。」

うーむ。こういう発言を批判されるのが本意でなければ、東国原知事は、宮崎県政に専念し、空いた時間は少しでも休むべきであろう。


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