椎名純平BLOG
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Weblog / 2008-01-09 02:09:05

 昨日から、にわかに仕事や、仕事っぽいような連絡、問い合わせが
届くようになりました。
正月気分で呆けていられる日々は終わったのですな。
 ま、正月の倦怠にも飽き飽きしていたのでねぇ、いよいよ来たか、
と身も心も気持ち良く引き締まっております。
いよいよ2008年の始まりです。


 最近は、歌詞の深み、味わいについて、ちょくちょく考えさせられて
います。まぁまた歌詞を書き始めたからなんですが。

 いやね、僕らが作っているポップス音楽って、まぁせいぜい3~4分
の世界じゃないですか。文字数にして多くても4~500文字くらい。
原稿用紙一枚こっきりですな。“僕と、君”のことを漫然と作文する
だけで、サクッと埋まってしまうような文字数です。ヘタすると、
“あなたは”なら4文字、“きみは”なら3文字だねぇ…ってな具合に
パズル気分で作れたり。

 でも、素晴らしい曲はそんな短かい時間、文字数の中に夢を見させて
くれます。で、歌詞カードを見てまた唸ったり、或いは何回か聴いている
うちにまた新しい発見があったりしますよね。あぁ、彼(ないしは彼女)
が歌ってるのはこういう事だったのか、なんてね。
 おまけに、そういう曲は往々にして手触りが不思議とさらっとして
いたりして、これは作り手が丁寧に磨きあげたのだろうなぁ、と想像すると、
またため息が出たりします。

 そんな風に、聴き手の感受性の段階や、その時の気分、状況などに
よって感じ方が変わったりするような、深みや奥行きのある、それでいて
すらりとした表現、ってのが出来たらいいな、と最近は改めて思っている
のです。

 これは難しいし、面白い、僕にとっては永遠の課題です。
 深みとは何ぞや?奥行きとは?


 僕が普段、主人公をやっている、一人称手前勝手唯我独尊俺が俺がと、
そのくせ時々妙に卑屈になったりして生きている人生は、平凡の極みに
して奥行きも深みもなく、それでいてごつごつとした虚飾に満ちた、
非常に受け入れがたいものです。
 歌詞のネタなんて、すぐに尽きてしまうような気がしています。

 なので、これからの作詞人生の為には、もっと色々な経験を積まな
ければな、と思っているのですが、それはそれとして、最近になって
気付いたんですよ。

 それは、僕が尊敬する人、作家etc.の多くは“僕が知らない世界や
知見を教えてくれる”だけでなく、“僕が知っている世界の、考えも
しなかった見方を教えてくれている”んだな、ということです。

 例えば、最近ハマっている内田樹さんは、手塚治虫の才気は
「さかさまのストーリーテリング」にある、と書いていて、僕は大いに
ヒザを打ちました。(以下、“街場の現代思想”より引用)

 『鉄腕アトム』の全作を貫くテーマは「人間性とは何か?」という問い
 である。何が人間を人間たらしめているのか?人間性を真に基礎づけて
 いるものは何か?手塚は第二次世界大戦の直後にこの問いを自らに
 向けて、実に真摯にその問いに取り組んだ。凡庸な作家であれば、
 非人間的状況を経巡りながら、しだいに人間的成長を遂げてゆく若者を
 主人公に据えた物語を構想しただろう。しかし手塚はそうはしなかった。
 この困難な問いに答えるために、手塚はなんと「人間ならざるもの」を
 主人公に据えたのである。

 『鉄腕アトム』で「人間性とは何か?」という問いに答えるために「人間
 ならざるもの」を主人公にしたように、「文明とは何か?」を考えるために
 ジャングルの生き物たちを主人公にしたように(『ジャングル大帝』)、
 「セックスとは何か?」に答えるために、性を失った人間を主人公にした
 ように(『人間ども集まれ!』)「生きることの意味は?」という問いに
 答えるために、手塚は「死ぬことを禁じられた人間たち」を連作の主人公
 とするケース・スタディを試みた。それが『火の鳥』である。

 手塚治虫は、アトムをアニメで見ていたり、火の鳥やらアドルフに告ぐ
やらを読んでいたりしたんですが、残念ながらそんな事には全く想像が
及びませんでした。

 だから、僕が平凡だと感じている人生のもろもろにも、捉え方を変えると
面白いことが転がっているんじゃないか、と考えるようになってきたのです。
いや、転がっているはずなんです間違いなく。よぉく見れば。
 少なくとも、自分の視点を洗い直してみる、とか、今まで通り過ぎていた
ものを見つめ直してみる、とか、そういった事をしてみよう、と思っています。
何はともあれ、手塚治虫は読み直してみたいですね。
(しかし、家の近くのマン喫が潰れたんですよ。どうしよう?)

 そう思うと、ちょいと楽しみです歌詞書き2008。

 そんで、40歳過ぎる辺りには、味わい深い歌詞を書くオトコになれて
いたら良いな、なんてね。

 歌詞を書く、という作業は、僕らにとって往々にして“苦痛”“苦難”
“産みの苦しみ”“迫り来る締め切り”辺りの代名詞だったりしますが、
考えようによっては、これはかなり楽しい作業なんだな、と、思いたいな、と。
 そんな願いを込めつつ、再確認しつつ、歌詞書きそっちのけでまた
ダラダラと書いてしまいました…。

あぁ~あ。

…寝るかぁ…




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