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Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

『一応の推定』広川純のミステリ

2014-06-07 14:34:18 | ミステリ小説
                                      

保険業界の問題を背景にした物語です。明確な遺書が無くても充分推察できる状況証拠を複数積み重ねれば、一応の推定として自殺と判断される。
そのような判例があるのだそうです。保険会社と契約している調査会社。そこの調査員で停年間近のベテラン調査員村越。その村越を主人公にした物語です。
JR西日本の姫路行き快速電車が膳所駅に差し掛かったところホームから黒い物体が落ちたのを運転手は見ます。警笛を鳴らしますが動きません。断続的な警笛から継続的な警笛にして減速しますが
間に合わずホームを百九十メートル通過して止まります。線路内に落ちた黒い物体は人間でした。そして遺族から保険金請求があります。その調査が村越の会社にあり担当となったのが停年間近の
村越です。デスクワークしか知らない若い保険会社の社員を相棒に付けられ村越の調査は始まります。保険会社にすれば無責とすれば保険金の支払いは無しとなる。つまり自殺となれば無責となるわけです。
しかし、保険金の請求を急ぐ遺族。その遺族には急ぐ理由がありました。死亡した人物から見れば孫に当たる三歳の幼女。川崎由香は重い心臓病でした。両親の必死の募金活動で半年で一千万円を
集めましたがまだまだ不足です。アメリカでの手術のめどは立ちましたがお金がまだ足りません。死んだ祖父の保険金をどうしても必要としています。時間も有りません。子供の病気はいつどうなるか
予想も付きません。そんななか村越たちは死の原因を確かめるために警察や駅に足を運び関係者を廻り話を聞いていきます。何があったのか死者の足跡を遡って調べていきます。
何の権限もない調査員。必要なのは人に信頼されることだけで、それがなければ何も聞かせてもらえない。そんな立場の村越たちが二転三転の末辿り着いた真相は・・・。
興味深い分野の物語でラストの余韻も良く楽しく読めた本でした。

                               

『虚夢』薬丸岳のミステリ

2014-06-07 13:09:31 | ミステリ小説
                                     

 
刑法39条を扱った物語です。中山七里の「連続殺人鬼カエル男」でもこの刑法39条が扱われていました。しかし、こちらの「虚夢」の方が
より真正面から取り組みストレートに読者に伝わる内容になっています。刑法39条とは犯罪を犯した者がその責任能力を問われ、心神喪失者あるいは心神耗弱者と鑑定されれば
検察側が有罪にできる可能性が低いと判断し不起訴処分とする。そのような精神鑑定結果の被疑者を罰しないあるいはその刑を減軽する処置がとられる条文です。
ある日公園で遊ぶ子供たちの中に突然若い男が現れ手にしたナイフで子供たちに襲い掛かります。三歳の娘を殺された三上夫婦。やがて離婚して別々に暮らしていましたが、突然
三上の携帯に別れた妻から連絡があり娘を殺した犯人藤崎とさきほどすれ違ったと話します。あの藤崎がたった4年でこの社会に?三上は絶句します。12人を殺傷した男がもうこの社会に
戻ってきた。苦悩する三上はとりあえず藤崎のあとを追い行動を監視します。しかし、そう簡単に復讐などは出来るはずもありません。揺れ動く三上の心情などを描きながら
藤崎の行動も描かれます。一人の女性と知り合いその女性と親密になっていく藤崎。さらに別れた妻佐和子も奇行が目立ち藤崎と同じ病状と診断されます。統合失調症です。
登場人物たちがそれぞれに問題を抱えており、そして絡み合っていく様子が上手く書かれていて途中飽きさせません。そしてただの問題提起に終わらず意外な事柄が隠されています。最後の章には
予想外の展開で物語が収束します。通り一遍の問題提起だけでなくミステリとしても上手く書かれています。