Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

『雪に閉ざされた村』ビル・プロンジーニのミステリ

2015-09-06 11:17:44 | ミステリ小説
                              

クリスマス気分が盛り上がる山間の村。猛烈な吹雪で雪崩が発生、幹線道路は分断され、
村は外界から孤立した。 折悪しく、村はずれには秘密裏に3人の犯罪者が忍び込んでいた。 その犯罪者のリーダーは村人全員を抹殺する狂気に満ちた計画を
練り始める。

このような荒筋ですが、コテコテのサスペンスドラマのシチュエーションです。よくあるB級映画のような筋立てですが、どうしてどうしてこの作者はこんな有り触れた
素材でもちゃんとした料理を作って見せます。 メリハリの効いた設定と登場人物の多彩さで小さな村もちょっとした小宇宙であるとして、複雑で人間臭いドラマがいろいろと

展開されます。 強盗計画が失敗し逃亡してきた三人組は村はずれの山荘に忍び込み落ち着きます。しかし、完璧だったはずの巨大スーパーを狙った強盗計画が思わぬことで
失敗に終わり、仲間の一人は負傷してスーパーの保安員を一人殺害してしまったことにリーダーの男は苛立っていました。

彼は何かで神経が苛立つと頭痛が始まり衝動という激しいプレッシャーに自制心も分別も消え去って暴力が抑えきれなくなる男でした。
この男が徐々に仲間の男たちにも手を出しかねない異常さを見せ始め、村人から金品を強奪するプランを練り始めます。

スーパーからの強奪計画が失敗に終わったため次の仕事への準備金として村人を襲い金を集めて他のところに逃げる計画でした。

この少しづつ壊れていく男の異常さが細かく書かれていて、閉鎖された村とその村人たちの緊迫した事態がしっかり伝わってきます。
教会に集まる人々を閉じ込めてから今日教会に来ていなかった村人のリストを作らせて片っ端からその家に向かい手加減なしで金品を奪っていきます。



この男の狂気が際立っているために対決する村人の姿がより引き立ちます。 最近村に来た村人とは一切かかわりを持とうとはしない風変わりで無口な男。
元群保安官で定年したことで虚脱状態になり毎日の生き甲斐を探す初老の男。

吹雪の中での対決が始まる後半の部分が読み応え充分です。さまざまな村人たちの生活のエピソードを絡ませて極限状態のなかでの闘いが描かれています。
良くある設定を使いながらもここまで読ませる物語にしているのは作者の非凡さの証明でしょう。


     
   
 

『喪失』カーリン・アルヴテーゲンのミステリ

2015-09-06 09:06:18 | ミステリ小説
                                          

裕福な家庭の一人娘だったシビラ。 彼女が親や家を捨てたのは彼女の世界を否定して
躾けや教育と云う言葉で彼女をコントロールしたり管理したりする母親と、普段は彼女に構わない父親も母親には同調し彼女の話を聞こうともしない態度に

精神的に追いつめられた結果でした。 いま社会から離れ一人で生きる彼女シビラは32歳で
ホームレスのような生活が日常でした。
ある日ホテルに無料で泊まる方法を何時もどうり隣のテーブルで食事する男に仕掛けたシビラ。男の下心を利用して部屋を取ってもらいシャワーを浴びた彼女はつい寝過ごしてしまいます。

大声でドアを叩く男の声で目覚めたシビラは機転を利かせ上手くホテルから抜け出しました。町を歩くうち新聞の広告を見てホテルで殺人があったことを知ります。

殺された男はシビラに部屋を取ってくれた男でした。男の部屋のカードキーにはシビラの指紋がありシビラが居た部屋の指紋と一致したため重要容疑者として手配されてしまいました。
カードキーの件は男がシビラの部屋を取りキーを渡されたとき実は男の部屋のキーで、わざと間違えてシビラを部屋に誘おうとした為でした。

こうして警察の手を逃れて町を彷徨うことになりますが、シビラは元々社会とは係わりを持たずにこれまで生きてきたのでさほど困難な状況というわけではありません。
寝るところは人の目が届かない場所を知っており、駅などでシャワーなど使い髪を短く切って人の目を引かないようにしていました。

こうしてホームレス仲間のような連中と連絡を取り合う合間にシビラの過去が彼女目線で語られます。
家を出るきっかけとなった一人の男性との出会いと別れ。そしてお腹の赤ちゃんとの別れ。その時シビラは18歳でした。

公園、教会、サマーハウス、学校と寝る場所を移っているときにバスの中で見た新聞の広告ビラ。そこには二人目の殺人として猟奇的な事件の容疑者シビラの写真がありました。

このあと第三、第四の殺人が続きます。 社会のシステムから距離をおき一人生きてきたシビラですが、その社会から追いつめられます。
あるきっかけで知り合った協力者の言葉もありシビラはやがて社会と闘う決心をします。 小さな協力者の手を借りて殺人者の追跡を開始するシビラ。

ストックホルムを舞台に一人の女性の運命と人生を描きながら謎の殺人者を追っていくストーリーですが、読みやすい言葉の文章とシビラの心情が良く描かれていて
最後のページまで目が離せないミステリです。