Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

『神様の裏の顔』藤崎翔のミステリ

2016-01-31 11:36:19 | ミステリ小説
                                       


第34回横溝史ミステリ大賞受賞作です。著者は元お笑い芸人だったそうで、そのせいか

何となく話が落語の世界のようでいてどことなくユーモアがあるように感じました。

お通夜の席に集まった人々が故人の思い出話をしているうちに、過去に起きた事件や事故に微妙に個人が係わっていたのじゃないかと思うような事態になっていき

誰もが疑心暗鬼に囚われていくという展開のミステリです。この徐々に明らかになる過去の出来事と個人の行動を語るお通夜の出席者たちの顔ぶれも上手く設定されていて

もしかしたらと云う気分になっていくお通夜の客たちと同様に、読んでいる読者もその方向に向かわせる記述の上手さがあるように思います。

どのエピソードも客観的には状況証拠でしかありませんが、告発には十分な内容です。

生前大勢の人から慕われて神様のような人だと云われた故人の本当の顔はどうだったのか? その真実は・・・。興味を引く物語です。

でもミステリですから読者の予想をひっくり返すオチがなければいけません。

そこのところは「ある手」を使って話を収めています。この手は話の流れや全体の様子から見てもそんなに違和感もなくどちらかと云うと上手くいっていると思います。

大賞受賞作としては品格や個性や完成度からみても納得の作品と云えるのじゃないかと思います。

だいいちミステリ好きならこの展開の話しは読まずにはいられないでしょう。プロットの勝利だと思います。

読みやすくどことなくユーモアを感じる文章で楽しく読み終えました。


                                    

「川は静かに流れ」ジョン・ハートのミステリ

2016-01-11 13:00:14 | ミステリ小説
  


2008年アメリカ探偵作家クラブ賞受賞の本作品は、ミステリとしてそう残酷な事件が立て続けて起こるようなものではなく
どちらかと云うと一つの家族の物語に比重を置いた内容のミステリと云えます。「川は静かに流れ」と云う抒情的なタイトルもそういったところを表しているのでしょう。

「僕という人間を形作った出来事は、すべてその川の近くでおこった。川が見える場所で母を失い、川のほとりで恋に落ちた。父に家から追い出された日の、川のにおいすら覚えている」
殺人の濡れ衣を着せられ故郷を追われたアダム。苦境に陥った親友のために数年ぶりに川辺の町に戻ったが、待ち受けていたのは自分を勘当した父、不機嫌な昔の恋人、そして

新たなる殺人事件だった。これがこの本のキャッチコピーです。登場する人物はうまく自分に向き合えなかったり、現実にもうまく向き合えない人たちでそういった人たちが起こす出来事と、五年前の殺人事件の容疑者と
して逮捕される証言をした継母や勘当した父、そして自分のせいで母が自殺したと思っている主人公アダムなど多様な悩みとやり場のない怒りなどを抱えた人たちが織りなす物語です。

主人公のアダムと昔の恋人で五年もの間アダムが音信不通にしていたことに怒りと不信を抱く刑事のロビン。この二人の動きをメインにアダムが五年ぶりに帰って来た本当の理由とか父や継母、自殺した母のことなどが
少しずつはっきりしていくので500ページを超えるボリュームであってもすっかりその物語世界に浸ってしまい三日ほどで読み終えてしまいました。

多彩な人物が登場しますがとりわけアダムに心のこもった言葉をかけるドルフという父の農場で作業監督として働く男が素敵な人物です。話す言葉も深みがありどちらかと言えば武骨で無口な感じの男として
描かれていますが父の信頼も厚くアダムとの交流も読んでいて気持ちの良いものです。

五年前の事件でのこともあり、そして新たに起きた殺人事件もありアダムには刑事や判事、保安官と町の連中の眼など厳しい環境に置かれます。そんな中で父との軋轢など事件の謎を少しずつ考えながら
自身の新しい生き方を探る様子がしっかりと書かれています。ですからとても共感を呼びます。事件は起きますがアダムには五年ぶりに帰った故郷で過去に折り合いをつけ新たな一歩を踏み出すきっかけを

得るために乗り越える出来事であると言えます。残虐な事件が続くミステリではなく最後のページの余韻も良い感じで再生の物語としてこういった内容のミステリもまた良いものです。





                                          

『首折り男のための協奏曲』伊坂幸太郎のミステリ

2016-01-04 10:14:36 | ミステリ小説
                                    

七つの短編が収められた本です。伊坂ワールドが好きな人には楽しめる内容でしょう。

それぞれ関連のない話が収められているように見えますが、首折り男と云うキーワードで繋がっている話もあります。

いろいろと趣向を凝らした話があって伊坂幸太郎ファンでなくてもミステリ好きな人なら十分楽しめる七つの物語です。

七つの中で個人的には「月曜日から逃げろ」が面白いと思いました。登場人物からチャップリンの映画という言葉が出てきますが

それはネタバレに繋がるのじゃないの?と想像しましたが、そんな読者を最後に爽やかにうっちゃる手の込んだ捻りを加えた話しでした。

読んだあと直ぐにまた読み直しても「ン?」となる内容でそれじゃあ最初から?と気付く上手さです。

よくあるこれまでいろんな雑誌に発表した短編を集めて出す短編集とかよりは、ずっと面白い内容の物語が詰まった一冊と思います。

各雑誌に書く段階で繋がりを意識してストーリーを作り書いていくのでしょうが、それも視点を変えて違う角度からまるで違う内容の話しのようでいて

実は繋がりがあるというテクニシャンぶりが伺われる構成です。

かなり持ち上げた感じですからひとつ苦言を呈すると、個人的には黒澤という人物に馴染めません。この登場人物は探偵仕事もするし空き巣仕事もするという人物に

なっています。簡単に他人の家に侵入出来る腕を持った人物と設定してありますが、これは作者からすれば動かしやすいキャラクターと云え安易だと思います。

イメージとしてはルパン三世的な人物に見えますが、読者にそうイメージしてもらいたいのかどうか分かりませんが、空き巣なんて


チンケな仕事をする人物なんてどうなんだろうと思います。もう少しスマートな人物設定にして欲しかったと思うのは私だけでしょうか。

                     

qokjb7 http://blog.goo.ne.jp/sheriock221b
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『完全恋愛』牧薩次のミステリ

2016-01-01 10:00:01 | ミステリ小説
              

ミステリ作家の辻真先氏の別名義のミステリです。ツジ・マサキの文字を並べ替えればマキ・サツジになるアナグラムです。

物語の舞台背景が昭和二十年から平成の二桁の時代までとなっています。長い時間の流れのなかで進駐軍の大尉の殺人事件と大企業の社長の娘とその大企業の社長の死が描かれます。

そして二千三百キロを飛んだナイフ、鉄壁のアリバイ等々ミステリらしい仕掛けが施されています。仕掛けと云えばこの本の謳い文句に「他者にその存在さえ知られない罪を完全犯罪と呼ぶ、
では他者にその存在さえ知られない恋愛を完全恋愛と呼ばれるべきか?」とあります。これはある意味ネタバレになる言葉です。しかし、作者はあえてこの一文を載せています。

それは一片は読者に推察されてもかまわない、しかし背景に隠された真相は見抜けないという自信たっぷりの態度と云えます。

そのとうり読後は作者にすっかり騙されていたことに気づきます。この、してやられたという爽快感がミステリの醍醐味です。

最初からいろいろな仕掛けが施されています。途中で少し退屈に思う部分もありますが、そこは気を抜かずに注意を怠らずに読み進めなければいけません。
物語の途中途中に世相を表す出来事や社会現象が脚色なくそのまま書かれています。でも油断してはいけません作者は狡猾です。

あらゆる手を使って読者を騙そうとしています。物語の中で語られいるように本格物のルールでは作者は何もかもあからさまににする必要はありません。

隠されている部分を想像し推理するのは読者の責任です。作者はフェアにキチンと手掛かりを示せば良いのです。

どれとどれをどう結び付けるのかそれは読者の責任です。あり得ない、アンフェアだと騒ぐのはこの本に限っては難しいでしょう。

最後に、気づいていたことを隠したまま知らぬふりでいた主人公のポツリと漏らした一言が最後のシーンを引き立てる憎い演出で物語の幕を閉じます。

全体に散りばめられた伏線の見事さと、長い時間のなかで描かれている物語がやるせない気分にさせる一つの恋愛物語で、そこにミステリを嵌め込んだ

作者の手腕が光る一冊と云えます。読後感も悪くなく未読の方にはお勧め出来る一冊です。